緋弾のアリア 黒の武偵   作:エイト☆5

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第23弾 4対4(カルテット)も終ったし後はのんびりと・・・、ってのは許されないわけね・・・

「終ったな・・・」

 

 4対4(カルテット)が終わり、俺達は解散ムードになっていた。

 工事現場にいる、集合して来たライカ達とあかりちゃん達も、負けた事に動揺し鉄製のバケツにお尻から嵌ってしまった高千穂以外は、どことなく解散の雰囲気だ。

 

「さてと、帰りに晩飯の材料でも・・・」

 

 俺は振り返り帰ろうとしたその時――

 空気が変わった。

 

 直感的に、この数秒で僅かに、けど確かに何かが変わった。

 

「レキ」

「はい」

 

 俺の呼びかけにレキはノータイムで応える。

 どうやらレキもこの変化に気付いているようだ。

 

(殺気や闘気なんかじゃない。もっと曖昧で粘着質で、それでいて純粋なこの感覚・・・)

 

 俺達には向けられていないこの感覚。

 俺はこの感覚に当てはまる名前を1つだけ知っている。

 

 悪意

 

 それがこの感情の名前だ。

 

(ただこの悪意はどこに向いてる? この島じゃ悪意を向けられる奴なんてありふれすぎて特定できねー!)

 

 この島は生徒が武偵である事が一般的な場所だ。

 つまり、悪意や恨みを買う事なんて日常茶飯事であり、そんな人間がうようよ居るような場所だから個人に向けられる感情を察知するのは難しい。

 どうすれば良いか考えてると更に空気が悪くなっていく。

 

 ゴゴゴゴッ!!! 

 

 まるで地響きの様な音が響いてくる。

 それも、どこかに地響きが向かっているようで・・・

 地響き・・・振動・・・

 

(まさか・・・!)

 

 あかりちゃん達が居る工事現場は、無数の足場が設置されており、この規模の振動では何時倒れてもおかしくない。

 かと言って、俺がこの振動を止めれる訳でもなければ、今からあの子達に非難を促せるわけでもない。

 落ちてくる足場を、銃弾撃ち(ビリヤード)の要領で弾くにしても、俺のS&Wや、アリアのガバメントじゃ届きすらしないだろう。

 

「レキ、全部とは言わない。あの子達を守れる範囲だけで良い。頼めるか?」

 

 俺の問い掛けに、レキは無言でコクンと頷き応える。

 そして、右膝を付きドラグノフ狙撃銃を構えるレキを見ると、これであの子達は助かったと言う絶対的安心感が訪れるが・・・

 

(安心ばかりもして居られねー!)

 

 俺は再び単眼鏡を覗きこみ、韋駄天を発動させ動きが遅くなった世界を見る。

 見る場所は、ビルの屋上。数は工事現場から半径500メートル圏内。

 

(こんな仕掛けを作るなら、成功の確認をするため近くで監視しているはず。ただし、自身が巻き込まれない様に距離も少し開けると考え、その上で既存の双眼鏡で倍率は良くて10倍。狙撃手(スナイパー)のように飛び抜けて視力が良いならともかく、普通の人間の視力なら良くてこの位の距離のはず)

 

 もちろん、監視カメラで見ている場合はその限りではないし、狙撃手(スナイパー)の様に視力が発達している人間の場合は捜索範囲を最低でも倍に増やす必要性もあるだろう。

 そして建物に阻まれないように上から見下ろす必要性があるから屋上辺りを見るだけで良い。

 

 まずは向って右のビル群を見るが――

 居ない

 

「――私は一発の銃弾――」

 

 精神加速の弊害で、何倍にも引き伸ばされた間延びのしたレキの声が聞こえてくる。

 その何かを歌うような声は、おそらく何かのルーティンか、自己暗示の一種なのだろう。

 こちらからは見えないが、確実に足場を撃ち抜き軌道を逸らしているのが分かる。

 

 次に真正面のビルを見るが――

 居ない

 

「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない――」

 

 更に唱え続けるレキと共に、俺もこの状況を作り出した張本人を探す。

 更に向って左側を見る――

 

「――ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

 レキのその言葉と同時に見つけた。

 黒いセーラー服に身を包み、まるで日本人形のような黒髪を靡かせ、その右手には煙管を持っている少女のような影。

 

(アイツか!)

 

 単眼鏡を目から離して、その少女の影が見えるビルに向おうとしたその時。

 俺の視界の右端にライトブルーの閃光が走った。

 

「なに!?」

 

 アリアの驚く声が聞こえてくる。

 それも当然、何故ならその閃光は、レキがあかりちゃん達を助けるために足場の軌道を変え、絶妙なバランスで作った足場の小屋のような物から発せられていた。

 

(あれは・・・)

 

 その閃光が収まり、足場でできた小屋のような物から逃げるように高千穂とあかりちゃんが出てくる。その時高千穂のお尻にもうバケツが嵌っていないので、おそらく破壊したのだろう。

 足場でできた小屋のような物はそのすぐ後、落ちてきた別の足場によって潰された。

 ライカ達も避難できていたようで、逃げ遅れたあかりちゃんや高千穂も無事なようだ。

 

「こっちは一安心か」

 

 視線を戻し先ほどの少女がいたビルを単眼鏡で再び覗くが・・・

 

「チッ、逃げられたか・・・」

 

 単眼鏡を制服の内ポケットに直すと、軽く溜息をつく。

 正直何が起こっているのか掴めていないし、分からないことが増えた感は否めなが、それなりに収穫もあったからよしとしよう。

 

「何だったのアレ? 遙は何か分かった?」

「まぁ、多少はな・・・これでも伊達に『技保有者(スキルホルダー)』何て呼ばれてねーよ」

 

技保有者(スキルホルダー)』とは俺が持つ中で1番有名な2つ名であり、1番俺だと知られていない物でもある。

 そしてこの2つ名は特殊で俺以外にもこの名を持つ物はおり、通常は技保有者(スキルホルダー)の後にその本人や技を象徴するような言葉がついており、『技保有者(スキルホルダー) ○』といった形になる。

 

「あんた技保有者(スキルホルダー)なの!?」

「調べなかったのか?」

「あんたの1番有名なのしか調べてなかったのよ」

 

 確かに切り裂き魔(スラッシャー)は有名だろうけどな・・・

 

「ハッキリとは言えないけど、さっきの閃光の色からして電気的信号が関係してると見て良いだろう。鉄製のバケツを破壊したと考えると、人間の肉体に存在する量の電気量じゃなく何らかの方法で増幅させてるだろう。そしてあのスペースで考えられる物となれば、電気的要素で肉体出力の向上を狙った物じゃない」

 

 電気的に肉体の出力を上げる方法は、あくまで肉体を強化しているだけであり、攻撃するにしても防御するにしても肉体駆動の原則からは抜けられず、あのような狭いスペースでは禄に威力は出せないだろう。

 

「となると、考えられる物は電気分解か、電磁パルスの増幅による振動破壊技か。電気分解はできない物もあるから技として可能性があるとすれば後者だが・・・」

 

 あかりちゃんは一般中(パンチュー)出身だと言っていたが、一般中(パンチュー)出身の人間が持っていて良いレベルの技じゃない。

 やはりあかりちゃんには何か裏があると見ていいか・・・

 

「だが何よ?」

「・・・いや、直接見れてないから情報量が少なすぎる。俺ももう暫くあの子の事を観察してみるさ。ただ気を付けろよ、俺が今立てた技の予想が当たっていたら触れ方1つで状況全てが傾く事もありえるからな」

「ええ、分かってるわ」

 

 少しため息を付き、ズボンの後ろポケットから財布を取り出す。

 財布の中に入っている1万円札5枚を取り出しアリアに差し出す。

 

「俺は少し調べ物があるからそっちに行けない。これであの子達に何か旨い物でも食わせてやってくれ。余ったら何かあの子達に何かご褒美でも買ってやれ」

「あんたはどうするの?」

 

 俺から金を受け取ったアリアが聞いて来る。

 それに俺は後ろを向いて応える。

 

「言ったろ? ちょっとした調べ物だ。もしキンジに会ったら今日はハンバーグだって伝えてくれ」

 

 俺は軽く手を振ると、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 先ほどの少女がいたビルの屋上に到着した。

 

「といっても、誰もいないんだよな・・・」

 

 実際、俺1人が来てもそこまで意味ないんだよな・・・

 せめて理子とか探偵学部(インケスタ)の連中をつれて来るべきだったか。

 

「まぁ、ここまで来たんだから何かしら調べておくか」

 

 強襲科(アサルト)の俺に何か分かるとも思えないが、取り合えず出来る範囲で調べておく。

 取り合えず辺りを見回し何かないか探す。

 

「見つかりそうに思え無いけど・・・」

 

 と言いつつも、早速見つけてしまった。

 と言うか片付ける気もないようにしか見えない。

 

「なんだこれ?」

 

 屋上の片隅に、傾くように設置された二本の鉄パイプの先に、いかにも転がしたと言わんばかりのフルーツの缶と、更にそれに続くよう設置されているピンポン球を転がせそうな小さな間隔の二本の鉄パイプと、更に続くパッと見ただけでウンザリしそうな仕掛けが並んでいた。

 

「ピタゴラ○イッチ?」

 

 パッと浮かんだ某教育番組の名前が口から出てくる。

 いや、どこかのネタで人殺○イッチってのもあったけ? 

 

 物騒な事を軽く考えてみるが、やっぱり性に合わない。

 ブラックジョークは良いが、笑いの無いただのダークはただただ気分が悪くなる。

 

「て言うかなぁ・・・」

 

 見れば分かりそうな物ではあるが、あきらかに労力の無駄な気がする。

 いちいち1つ1つの角度や向き、場合によっては速度や風力も計算に入れなければならないし、その割には少し目立つから妨害や、予期せぬ状況に見舞われそうな気もするが・・・

 

 それに、こんな大掛かりの物を作るのに人手なり時間なり必要そうだが、それに対する結果が伴っているようには余り見えないし・・・

 

「唯一の利点になりそうな物と言えば、特定するのが難しそうってだけだが・・・」

 

 パッと見える範囲での仕掛けは、基本的にどこでも入手できそうな物で構成されており、誰もが作ろうと思えば作れそうな物であり、自分で買わずとも回収して作れば特定しにくく、なおかつ自分の資金をほぼ使わないで作れそうな物であると言う事だけはわかる。

 

「この犯人超エコロジストだな。リサイクル精神があるなら殺人なんて消費活動は控えて貰いたいが・・・」

 

 馬鹿な事を言いつつも、頭の中にある情報を整理する。

 まず、この犯人はかなり頭の良い人間のようで、今回の襲撃は様子見、もしくはただの牽制。

 犯人の狙いは恐らく工事現場にいた一年生組みの誰か。俺の予想と状況からして恐らく犯人の敵はあかりちゃんだろう。

 動機は恐らくあかりちゃんが抱える秘密を知った人間による、その秘密を暴き自分の物にする為の布石と言ったところか。

 それにあの時に感じたあの感覚。あの悪意には執着も混ざっているように感じた。

 あの執着は人に向けられるようなものじゃない。あれはむしろ物や力に対して向けられるもので、誰かと居たいと言ったようなものではなく、何かを手に入れたいという収集欲に近いと感じた。

 そしてこれはなんとなく思っただけで考え過ぎなのかもしれないが、この事件はどこと無く武偵殺しに似ているような気がする。

 手掛かりが少なく、派手に行動を起こし、明確な行動による目的だけが分かり、本命が見えないこの感じ。

 良く有る事であり割りと普通ではあるが、ここまで徹底されたものが2つも同時に発生すると因果関係や関連性を考えてしまう。

 

「クソッ・・・やっぱり俺じゃ推測や予想を立てるくらいでしか考えられないッ! やっぱり理子か誰かを連れて来るべきだったか・・・」

 

 ため息を付き頭を軽く振る。

 今回の事件については俺みたいな半人前の武偵如きの推理能力では少しも見えてこないが、別の場所はなんとなく見えてきた。

 

 以前、ラクーン台場で見たあかりちゃんの技は恐らく鳶穿だろう。そして今回の土壇場で見せたあの電流色の振動技と仮定した技。

 そしてあの子の良過ぎる感覚の冴えと、稀に見るあの子の回避や攻撃の時に出る歩法や動きは日本拳法(にっけん)に近いが、それだけじゃないのが先程の技が物語っている。

 おそらくどこかの武家、もしくは流派に属した実戦を基本とした人間と言う事だろう。

 

「同族・・・? いや、まさかな・・・」

 

 俺と同族の人間がそうぽんぽん居るわけがない。

 それに俺と同族なら、良くも悪くもあんなに真っ直ぐで穢れを知らないわけがない。

 あの程度の殺気に、あんなに過剰に反応するわけがない。

 

「なんにせよ、今は情報が少なすぎる。できる範囲で注意喚起だけして様子を見るしかないか・・・」

 

 本当に最近は問題ばかり増えてきて泣けてくる。

 何が嫌ってほぼ何も解決してないのに増えるって言うところだ。

 気が短い人間ブチギレ案件だぞこれ・・・

 

「まぁ、言っててもしょうがない。現状記録して後は理子かキンジ経由で探偵科(インケスタ)辺りの連中に調べてもらうか・・・」

 

 ポケットから携帯を取り出しカメラ機能を開こうとしたその時、理子から画像添付されたメールが届いた。

 その画像は、1年生組みの祝杯を挙げてる写真で、みんな楽しそうにしていた。

 

「まったく・・・」

 

 微笑ましいその画像を閉じると、理子にメールを返信する。

 

『人の金で食べる飯って旨いか? 返信求む!』

 

 その文章だけを送ると、現状を携帯の写真で記録しその場を後にした。

 後日アリアと理子から、あの文面でみんなのテンションがダダ下がりしたと締められたのは別の話しだ。


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