結局あの複雑な超エコロジー精神に飛んだアナログ装置については、
装置の素材の入手元は不明。
足跡による追跡も不可能。
逃走経路までもが不明。
精鋭ぞろいの
そして今日。
射撃の腕が上がらないあかりちゃんに、ついに堪忍袋の緒が切れたアリアが昼休みを挙げて、
そして、レキか理子をナンパして昼飯を食べようと思ってたのに、ご立腹のアリアに拉致られて感想の言い難いあかりちゃんの射撃を見せられていた。
うん、酷いなんてもんじゃないな。素人の方が断然当たるレベルだ・・・
「もー。こんな命中率あり得ないわよ?」
スコア・ペーパーをプリンターから取ってアリアは、俺にあかりちゃんが撃ったスコアを見せてくる。
6/100
それが現在、あかりちゃんがマイクロUZIを正しい姿勢で15mラインから
「すみません・・・」
マイクロUZIを射撃台に置きながら、しょんぼりと肩を落とすあかりちゃん。
この反応はもっともだが、この命中率は異常なレベルだ。
素人だってもう少しにまともに当たるだろう。
「あんた・・・元々撃ち方に悪い癖がついてて、それを抑えてるんじゃない?」
アリアの言葉にあかりちゃんは、ギクリ、と言った顔になる。
そう、射撃命中率が悪い生徒に関して多くに当てはまるのは、入学以前に銃を撃ちその時の感覚が癖になっていて、その癖を押さえようとしていることだ。
だが、そう言う子に関しては何かしらの兆候や、それを匂わせる何かが出るものだ。
そう、
「・・・やっぱりね。どうせ入学前に違法で撃ってたんでしょ。ちょっと見せなさい。元々手が覚えてた撃ち方を」
アリアがロングマガジンを
だが――
「イヤです」
あかりちゃんは俺が知る中で、始めてアリアの命令を拒んだ。
普段の素直なあかりちゃんを知る人間からすれば、考え付かないレベルの事だ。
「矯正するためよ、どこに当ててもいいから」
面食らいながらもアリアは気を取り直してターゲットを示す。
普通の人間なら、これだけ撃てば油断して癖の一端を見せても良いものだ。
それを一切見せなかったという事は、違法で撃っていたと言う生半可な理由で矯正しようとしていた訳じゃないんだろう。
おそらく、その以前の撃ち方を恥じたか、恐れたとか、そんな理由であり、周りと違うからと言う理由で矯正しているわけじゃないだろう。
(ありえるのかそんな事・・・)
「イヤです。矯正なら自分でやります」
あかりちゃんは頑なに拒絶している。
そこまで拒絶するようなものなのか?
そう考えた瞬間2つの出来事が頭をよぎった。
ラクーン台場で見た鳶穿
この2つの技がもし人間に向いた場合、状況として起こりえるものそれは――
暗殺
そんな人間が銃を矯正しようとしていると言う事は――
「おいアリ――」
「撃ちなさい!」
止めようとした瞬間、生来気の短い事が分かるアリアが、キレたように叫ぶ。
その声がトリガーになったように、あかりちゃんはUZIを取ると、目にも見ない速度で右手を振り上げ――
ババババババババババッッ!!
フルオートで10発、一気に射撃した。
ダダダダダダダダダダンッ!!
人型のターゲットに・ボードに穴があき、その奥の盛り砂に9mmパラベラム弾が撃ちこまれる。
UZIは基本的に反動を押さえつけ、無理矢理狙いを付けて発砲する銃だ。
だがあかりちゃんはUZIと言う暴れ馬を押さえつける事なく、反動を使って次弾の狙いを付けて自分の力を添えるだけで誘導して見せた。
それも、俯いてターゲットを見ないどころか、レーンの方すら見ずに撃っている。
それも額・右目・左目・ノド・心臓に2発ずつ、計10発。全弾命中していた。
全て致命傷となる急所だ。
「・・・
技名のようなものを呟くあかりちゃんの声に、ハッとしたアリアはターゲットを見る
「・・・!」
(間に合わなかったか・・・)
アリアが愕然とした表情になっている横で、俺は少し後悔する。
俺がもう少し深く考えれば回避できたかもしれない。
それなのに実際にこの状況に成ってしまった。
これは俺の責任だ。
「あかり、あんた・・・」
武偵法9条――武偵はいかなる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。
これはダメだ。武偵としても、一般人としても。
「――こうすれば満足ですか」
あかりちゃんは普段見せる事のないような睨み目で、自分に発砲を命令したアリアを見ていた。
その瞳には涙が滲んでおり、彼女を見れば見るほど自責の念は強くなっていく。
「こんなの、武偵の技じゃない!」
あかりちゃんはUZIを手に呻くように叫び涙を拭う。
その姿が俺には痛々しく見えて、なにも言えなくなってしまった。
「アリア先輩、吉野先輩、すみません。見なかった事にしてください」
あかりちゃんはその言葉を残して射撃訓練場から逃げ出してしまった。
眉を寄せて考え込むアリアの方を見て1つため息をつく。
「何か隠しているとは思ったけど・・・9条破りの手癖とはね」
9条破り。つまりは殺人技の癖。
武偵法は各国で違い中国やアメリカでは、殺人は禁止されておらず、稀に殺人術に精通した人間が居る。
だが、日本と言う禁止されたうえで技その物も衰退して来ているこの国で、殺しの手癖を持つ人間は例外中の例外だ。
『鳶穿』とは本来『敵の眼球や内臓を、敵や自分の突進力を利用して毟り取る技』だったはずだ。
電流色を放っていたあの技も、振動破壊技である事は推測できていた。
そんな技を人間に向けると起こりえる現象といえば、肉体内部からの破壊によるパッと見謎の死である。
そんな2つの技を持っているなら、彼女の特異性に気付けたはずなのに・・・
「あんたは分かってたの? あかりの事」
「あかりちゃんが拒否しだした辺りでな」
考えるのが遅すぎた。
人の為だと思い、考えようとするも無意識に自分には関係ない事だと思っているから、こう言う事になったのだろう。
本当に自分が嫌いになってくる。
「で? これからどうするつもりだ?」
「まだ分からないわ。
「言ったろ? 触れ方1つで全てが傾くって、お前が触れたのはその一端だ。こっちはこっちでフォローするからそっちは今後の事をしっかり考えるんだな。今はちょっと触れて重心がすこし傾いてる状態だ。それを元に戻すか、一回崩すかはお前の判断とあの子の意思しだい。俺ができるのはその判断までの時間稼ぎだけだからな」
俺は言うだけの事を言うと踵を返す。
「遙はどうするのよ?」
「言ったろ? フォローに行くんだよ。かったるいがあの子を傷付けたのはかわりないんだし行くのが筋ってもんだ」
俺は軽く手を振ると地下射撃レーンを出た。
放課後。
俺は校門の近くの桜の木に凭れ掛かりあかりちゃんを待っていた。
少し面倒ではあるが、今回の件は俺の責任もあるのだからそんな事言ってられない。
ただこれだけは口から出さずにはいられない。
「かったるい・・・」
今回の件についてもっと早くに止めれていれば、アリアにもっと強く警告できていれば、こんな事にはならなかったのかと思うと、自然と口から漏れてくる。
「まったく・・・」
アリアの激情型の性格もどうにかしないとな・・・
少し痛い頭を軽く振っていると、目的の人物が校内から出てくる。
もっとも、出てきたのは彼女だけではないが・・・
「本当に大丈夫ですかあかりさん? 体調がわるいなら
「ううん。大丈夫だよ志乃ちゃん・・・」
少し思い詰めたような表情のあかりちゃんと、心配そうにあかりちゃんに付き添っている佐々木さんが歩いてくる。
あかりちゃんは俺の顔を見た瞬間顔を背けてしまい、それに気付いたのか佐々木さんに少し睨まれる。
ああ、この目の時の佐々木さんに勝てる気がしない・・・
だが、ここで逃げる訳にはいかないのでこの恐怖心を押さえ込みつつ、あかりちゃんに話しかける。
「やっ、ちょっと良いかなあかりちゃん?」
「吉野先輩・・・」
やはりあかりちゃんの表情に不安や恐れのような色が見える。
よほど見せたくない技だったのか、後悔している事がわかってしまう。
「あかりさんにどう言った御用ですか?」
その言葉は穏かでこそあったが、あきらかに怒気が含まれていた。
いつも向けられる嫉妬や余計な言動をした時に向けられるような怒りではなく、純粋にあかりちゃんの事を心配し、その原因である俺を憎むそんな怒りだ。
あぁ、懐かしいなこの感覚・・・
1度は慣れ親しんだ不愉快極まりない、理解が最もできる感情だ。
「あかりちゃんの指導方針についてアリアと話しあったから、その結果を伝えておこうと思ってね。あかりちゃんの家柄の話しもあるし、余り知られたくない事もあるだろうから1対1で話したいんだ」
「・・・・・・」
佐々木さんは俺を信じるか否かで迷っているようで、黙り込んでしまっている。
俺だって佐々木さんの立場なら似たような反応を返すだろう。
その時――
「大丈夫だよ志乃ちゃん」
あかりちゃんの声が、場を落ち着かせてくれる。
佐々木さんも少し面食らったような表情だが、注目が俺から逸れたようだ。
「吉野先輩は大丈夫だから」
あかりちゃんはその言葉と共にこちらに向ってくる。
その言葉と行動にどれほどの覚悟と勇気が必要かと思うと、胸が締め付けられるように痛む。
「行きましょう吉野先輩」
「ああ・・・」
頭を少し掻くと、後で面倒な事に成りそうなのを我慢して――
「ゴメンな佐々木さん。今度埋め合わせさせてもらうから・・・」
俺は佐々木さんにそう言い残すと、あかりちゃんとその場を後にした。
~side 間宮あかり~
志乃ちゃんと別れた後、吉野先輩と一緒に誰かに話を効かれる心配が無さそうな学園島の中央部辺りのビルの屋上に来ていた。
「おっ、綺麗な夕焼けだな! 麻婆豆腐が食べたくなる色だ」
吉野先輩は手摺を掴んで少し体を乗り出し、鼻歌を歌いながらそんな事を言っている。
呑気な事を言ってるが、この状況でそんな事を言えるこの人がある意味尊敬できる。
と言うか、こんな状況が嫌いだから誤魔化そうとしてるように見える。
「まっ、本題に入ると・・・」
吉野先輩は手摺から飛び降りるとこちらに振り返る。
その顔はいつになく真剣で、こんな時じゃなかったらずっと眺めていたいと思う。
そして――
「ごめん」
「――!?」
吉野先輩は頭を提げてそう言った。
それがあたしには理解できなかった。
あたしは吉野先輩に技の事や家の事を問い詰められることを覚悟してきたが、謝罪される様な事態を想定していなかった。
いつもは、無邪気で遊びたがりの面倒臭がりだが困った時には助けてくれる、ヒーローのような尊敬する先輩があたしに頭を提げて謝罪してくる光景なんて想像すらできなかった。
ましてや、本人の意識が低そうとは言え、年功序列の色がかなり濃い武偵の、それもSランクの先輩が頭を下げる光景なんて想定外だ。
「少し考えれば気付けたのにそんな訳ないと蔑ろにした。可能性として十分気付ける範囲内だったのに勝手にありえないと判断してアリアに対して警告を怠った。少しでも早く止める事ができて居ればこんな事にはなってなかった。だからごめん」
予想外すぎる。
吉野先輩は起きた事に対して謝るのではなく、起きなかった事に対して必要のない、謝る事ではないような物に謝罪して来た。
吉野先輩の言わんとしている事は分かる。
だがそれは、普通の人間なら分かる筈もないような事だったし、基本的に避けようのない事だった。
この話に触れようとしないのはわかるが、そんな事を謝りに来るなんて予想外も良いとこだ。
「あっ、頭を上げてください! 吉野先輩が悪いわけじゃありませんから・・・」
意外すぎる展開をどうにか止めようとするが、吉野先輩は頑なに頭を上げない。
「いや、俺の責任だ。同族としてもっと気を張っていれば気付けたのに、同じような人間が密集する事がないと勝手に解釈して考える事を放棄していた。ちゃんと考えていたら気づけない要素の方が少ないのに気づけなかった俺の責任だ」
「いえ、吉野先輩に責任なんて・・・えっ?」
その時、あたしは吉野先輩の言葉にありえない単語に気付いた。
その単語の意味を理解したとき、あたし達の間に強い風が通り抜けて行った。