緋弾のアリア 黒の武偵   作:エイト☆5

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第29弾 今日の作戦は『いのちだいじに』ってことで

 ののかちゃんと契約した翌日。

 俺は再び病院に訪れ、咄嗟の状況に対してある程度動けるようにと言う名目で、足をできるだけ硬めに補強し多少は動ける程度にメンテナンスに来ていた。

 

 取り合えず足のメンテが終わり、作戦決行まで少し時間ができたので、アリアが好きだというももまんと言う桃の形をしたあんまんを買えるだけ買い込みお見舞いも訪れていた。

 

「おい! 暇つぶしに来たぞ!! お茶出せお茶!!」

 

 松葉杖で体を支えつつ、病室の扉を少し乱暴に開けると部屋の主にお茶を入れるように要求する。

 アリアは明らかに面倒くさそうな顔でこちらを見る。

 

「あんたも来たの?」

「あんたも? キンジでも来てたのか?」

「ええ。使えない調査資料を置いて帰ったわ」

 

 アリアは近くのごみ箱に捨てられている資料ファイルに視線を移す。

 調査資料は探偵科(インケスタ)鑑識科(レピア)の双方が協力し、基本徹夜で血の滲むような苦労を重ね作られるものだ。

 断じてこのような扱いを受けて良い物ではない。

 俺は仲間の努力を馬鹿にされているように感じ怒りを覚えるも、取り敢えずは怒りを飲み込む。

 近くの机にももまんを置くと、アリアが座るベットの傍らに置かれたごみ箱から資料を回収する。

 

「ヒデェ扱いしやがる・・・」

 

 軽くファイルを払うと適当なページをパラパラと捲る。

 軽く読んでみると、拠点にしてたであろうホテルの一室は外部から情報を改竄されており、俺達を襲ったUZIやスポーツカー、セグウェイ達は全て盗品であり犯人に繋がるものは見つからなかった。

 

 と言うのが資料の建前だ。

 

「どこが使えないんだよ・・・重要な事書いてんじゃねーか・・・」

「えっ? どこに書いているのよ!?」

「どこっていうか全体的におかしいだろこれ・・・」

 

 そうこのファイルは全体的に手掛かりなしと書かれている。

 

「おかしいだろ。学生とはいえ探偵科(インケスタ)鑑識科(レピア)の精鋭が寄って集って徹夜で調査して何も出ない訳が無い。たとえプロの犯罪者だとしてもあり得ないだろ」

「確かにそうね、情報が役に立つ立たないは別にして、犯人に繋がりそうな情報が一切ないって言うのは変ね・・・」

「考えられる可能性はこういう調査に精通した職業の犯人だってことだ」

 

 そう、学生とはいえ武偵校の人間は実力主義の世界に身を置く立場であるが故に、皆が皆プロの社会人顔負けの実力を持つ者も間違いなくいるし、今回は武偵校の生徒が標的だったため彼らも全力だっただろう。

 それでも見つからないとなれば、考えられる答えは鑑識か探偵的な調査に精通した人間であり、範囲として現在そういった事を学び使える職業の人間だと断定できる。

 

「更にこの犯人は武偵の動きを熟知しすぎだ。セグウェイの動かし方然り、スポーツカーに取り付けたカメラ然り、武偵の動きの阻害の仕方然り。多分この犯人は武偵だ」

 

 そう、一番初めのセグウェイはキンジを限界まで走らせる為に何時どこで爆発するかわからない状況を作り出し不特定多数の人質を取り、追い打ちの様に爆発後に数台のセグウェイを送り込んだ。

 武偵という人種は普段から危険な目にあうことが多く、自身の身を守るすべにたけたものが大半なので追い打ちは正しい判断と言えるだろう。

 スポーツカーも武偵の攻撃的な思考を理解できていれば、俺は可能性があると思っていただけだったが、画質補正のラグのないカメラを使用し、攻撃をしようとした生徒たちを銃撃した理由に納得がいく。

 そして常に人質を取り自由な行動を阻害し、こちらが取れる行動を限定してきていた。

 明らかに素人や、ただの犯罪者にできる行動じゃない。

 

「ハッ、武偵なら自分の痕跡を消す事くらい簡単だわな。普段学んでいる事生かせばいいだけだし、調査書も簡単に改竄できるだろうしな」

 

 一番くだらなく詰まらない展開だ。

 刑事ドラマなら間違いなくチャンネルを変えるレベルの謎でもなんでもない話だ。

 

「仮定ではあるがこれでかなり犯人像を絞れた。基盤とは言わないが捜査をするときに思考の端に置いておいて損はないだろ」

 

 軽い考察をしてファイルを閉じ、ももまんを置いた机に置く。

 

「さてさて、小難しい話はこの辺にして甘い物でも頂こうか・・・」

 

 ももまんと一緒に買い、袋に入れていた団子を取り出し椅子に座る。

 団子を1つ咥えるとそのまま串から引き抜く。

 やはり三色団子が1番だ・・・

 

「ねぇ遙、あんたキンジがなんで武偵を辞めるか理由知ってる?」

「一応はな。なんでだよ?」

 

 2つの団子を串から引き抜き、団子のなくなった串をゴミ箱に投げ入れる。

 アリアがこんな事を聞いてくるなんて少し意外だ。

 

「少しキンジと喧嘩して『あたしに比べれば、あんたが武偵をやめる事情なんて、大したことじゃない!』って勢いで言ったらキンジが凄い怒って・・・」

「──お前、そんなこと言ったのか・・・」

 

 アリアの言葉に俺は一瞬声が詰まり、その次には怒りに任せて椅子を立っていた。

 右足の痛みも忘れ、松葉杖を取る事もせずにアリアの方に歩み寄る。

 俺は怪訝そうな表情のアリアの襟首を左手で掴み掛り、右手を思い切り振り上げていた。

 その右手は大きく指が開かれ、そのすべてが獰猛な猛禽類の爪の様に折れ曲がり、その形は間違いなく俺の持ち得る最も殺傷能力の高い技の形をとっていた。

 

「な、何よ・・・あんたまで何なのよ!」

「お前のそう言う所がムカつくんだよッ!! 自分の事情ばっか優先させて勝手に人巻き込んで人の気持ち考えず傷口抉ってッ!! いい加減にしろッ!!」

 

 叫ぶだけ叫ぶと初めてアリアの目を見る。

 アリアの目には怯えに似た感情が浮かんでおり、その表情に冷静さを取り戻す。

 

「ちっ・・・」

 

 盛大に舌打ちすると右手を下すと、アリアを投げるように襟首から左手を放す。

 正直このままずっとコイツと関わっていると、せっかく好きになりかけていたアリアを本気で嫌いになってしまいそうだ。

 松葉杖を回収すると扉まで移動する。

 

「ももまんと団子はくれてやる。じゃあな」

 

 それだけを言い残すと俺は松葉杖をつきながらアリアの病室を後にした。

 

 

 


 

 

 病院のロビーのベンチに座り、先ほどのアリアの質問で去年の事を思い出していた。

 

 浦賀沖海難事故

 

 去年の12月24日に起きたクルージング船の沈没事故。

 死傷者0名。行方不明者1名。

 謎の爆発事故によりクルージング船・アンベリール号が沈没。

 偶然居合わせた武偵の懸命な避難誘導により全ての乗員、乗客が無事に救助された。

 しかし、避難誘導にあたっていた武偵が沈没に巻き込まれ、行方不明となり遺体も上がらずに捜索は打切りとなった。

 その武偵がキンジの兄『遠山金一』だ。

 

 だが、キンジが武偵を辞めると決意したのはその後の事だ。

 乗客達からの訴訟を恐れたクルージング・イベント会社が、それに焚きつけられた乗客達が事故後に金一さんを激しく「船に乗り合わせていながら事故を未然に防げなかった。無能な武偵」とバッシングしだした。

 俺個人の感情では金一さんは苦手だが、それでもあの人は職務を全うし誇りと信念を持って生きた。

 このような扱いを受けてもいいような人では断じてない。

 そして、民衆の非難という刃はキンジたち家族に向かった。

 それはキンジの心を折るのには十分過ぎた。

 

 武偵なんて戦い抜いた挙げ句死体にまで石を投げられる損な役回り

 

 キンジの心にその事が強く刻み込まれ、武偵を辞める事を決意した。

 

「まったく、かったるい事思い出させてくれるぜ・・・」

 

 軽くため息をつくと左手をポケットにいれ、右手で松葉杖を付き立ち上がる。

 売店で気分直しに甘い物でも買おうと移動しようとしたとき。

 

「遙先輩!」

「ライカ・・・」

 

 ののかちゃんかアリアのお見舞いに来たのだろうライカと目が合う。

 

「よう、お見舞いか?」

「はい。遙先輩は?」

「足のメンテのついでにお見舞いだ。アリアと少しもめて出てきちまったけどな・・・」

 

 軽く笑いながらため息をつく。

 

「それで、作戦の方はどうだ? 上手くやれそうか?」

「どうですかね。作戦は悪くないにしても失敗できないんで少し緊張してるかもしれないです・・・」

「そっか。ちょい目を閉じてみ」

「えっ?」

「いいからいいから!」

 

 ライカは少し驚いたようだが俺の指示に素直に従う。

 その顔は少し赤く居心地が悪そうにも見える。

 俺はライカの両頬を両手で挟むように優しく触れる。

 そして──

 

「うりゃ!」

「へっ?」

 

 ライカの頬を痛くない程度に引っ張ってやる。

 

「ひょ! なんでふかひゅうに!」

「はっはっは! ライカはあかりちゃんと違って張りがあるな! あかりちゃんとは違った意味で癖になりそうだ!」

 

 暫くライカの頬で遊び、右手を松葉杖に、左手をライカの右肩に置く。

 

「どうだ? 緊張解れたか?」

「えっ? あっ・・・」

 

 ライカが少し意外そうな表情をし、どことなく残念そうな顔に変わっていく。

 いったい何を想像したんだか・・・

 

「なになに? ヒロインが主人公の緊張を解す様な事をした方がよかったか?」

「なっ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()とは簡単に言うと、頬や額に対するキスだろう。

 ライカもそのあたりを想像していたのか俺の言葉に図星をつかれたように驚く。

 

「そう言うの麒麟ちゃんに任せるよ。もし俺のが欲しかったら、そうだな、俺を超えるか、俺を救えるような人間になるか、何事もなく武偵校を卒業できたらやるよ」

 

 さすがに少し騒ぎすぎたのか少し注目を集めてきているのでそろそろ移動した方がいいだろう。

 甘い物を食べたかったが、ライカと話していて気分も変えることができたのだから良しとしよう。

 

「じゃあな」

 

 軽く手を振ると、ライカの横を通り過ぎ病院を出た。

 

 

 


 

 

 病院を出た俺は、近くの公園で自販機で買ったココアを飲み時間を潰していた。

 空はいつの間にか暗くなり、ぽつぽつと街の明かりが増え淡い光に包まれていく。

 そんな暖かく人の営みが見えるこの街で、これから戦いが発生するのかと思うと、先ほどのライカとはまた違った緊張を覚える。

 

「かったるい・・・」

 

 緊張は厄介な物のイメージがあるが、ある程度の緊張は集中と目的の統一化などができるので場合によっては頼りにもなる。

 だが、過度な緊張はストレスとなり、現実以上の脅威を感じたり、恐怖によって体を硬直させることもあり、吐き気や頭痛なども引き起こし肉体や精神に異常をきたすこともある。

 なんでも適度が一番というか、行き過ぎなのはいけないということだろう。

 

「この足でどこまでやれるのやら・・・」

 

 右足を少し眺め足首を少し動かしてみるが、昨日よりマシになったとは言え鈍い痛みはまだ残っている。

 この状態でどこまで動けるのか、それ以上にどうすればこれで動けるのか、それを考えると頭が痛くなる。

 

「まっ、何とかするしかないか・・・」

 

 空になったココアの缶を近くのごみ箱に捨てると、深いため息をつき空を眺める。

 そろそろ覚悟を決めないとな・・・

 

「おっ! 遙くん見つけたのだ!!」

 

 名前を呼ばれ振り向くと、そこにはいつもの無邪気な笑顔を浮かべ、大きなリュックを背負った少女がこちらに向かって手を振りながら駆け寄ってくる。

 

「よっす! ごめんな平賀さん。こんなとこまで来てもらって」

「大丈夫なのだ! それより遙くんはその足大丈夫なのだ?」

「平気平気! 最近は動いてなかったけど一応は強襲科(アサルト)の人間ですから!」

 

 取り敢えずはいつもの様に虚勢を張っておく。

 

「で、頼んでたのは持ってきてくれた?」

「もちろんなのだ! でも、遙くん使ったことあるのだ?」

 

 平賀さんは背負っていたリュックを下すとリュックの中から透明のポリカーボネート製のライオットシールドを取り出す。

 

 ライオットシールドとは成人男性の頭から膝程の大きさの物が一般的であり、覗き穴が開いた金属製の物もあり拳銃や散弾銃などの貫通力の低い物を基本に、榴散弾や火炎瓶のような投擲物・危険物から身を守る為の物だ。

 今回の物は台形に近い形の取っ手が付いており、松葉杖変わりにも使え、持ち方を変えればかなりの汎用性を見せるだろう。

 

 俺は平賀さんからライオットシールドを左手で受け取ると、強度を確かめるように軽く地面に盾の下の方を叩きつけてみる。

 地面に盾がぶつかる度に手に少し不快な振動が響いてくるが、盾の方には頼りなさは無くある程度杖代わりに使ってから盾として使っても大丈夫そうだ。

 

「使った事は無いけど何とかなりそうだ。サンキュ平賀さん!」

「どういたしましてなのだ! お支払いよろしくなのだ!」

 

 平賀さんは右手で3本の指を立てる。

 相変わらずのぼったくりの価格にため息をつき、胸の内ポケットから30万の入った封筒を手渡す。

 

「明日ちょっと相談したいことがあるんだけど大丈夫かな?」

「別に平気なのだ! 相談したいことって何なのだ?」

「サバイバルナイフを無くしちゃってな。この機会に装備を新調しようと思ってたから寸法の方を頼みたくてな」

 

 昨日のバスジャックの件で使っていたサバイバルナイフがスポーツカーの中にあると思っていたが、探偵科(インケスタ)の面々が捜索してくれたようだが見つからなかったそうだ。

 結構気に入っていたのだが無くなってしまったものは仕方ない。

 

「了解なのだ! 明日のお昼頃に装備科(アムド)に来てほしいのだ!」

「サンキュ。ついでに松葉杖も預かってもらってもいいか?」

「お安い御用なのだ!」

 

 俺は右手の松葉杖を平賀さんに手渡すと、盾を右手に持ち帰杖の代わりにしてバランスをとる。

 松葉杖に少し慣れだしていたから少し違和感があるが誤差の範囲で動くには問題ないだろう。

 

「さて、行くか!」

「いってらっしゃいなのだ!」

 

 平賀さんに左手で親指を立てると、俺は夜の街へと歩き出した。

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