ライカから拝借してきたヘッドセットからの麒麟ちゃんの情報では、夾竹桃はレインボーブリッジに居るらしく、現在あかりちゃんと佐々木さんも夾竹桃を追いかけレインボーブリッジに移動しているそうだ。
俺はフックショットを使い、アメリカのスーパーヒーローの様に振子の原理を利用した移動法で青海の電柱や街頭の少し上あたりを移動していた。
「クソッたれッ! もっと早くッ!!」
基本的に振子の原理は落下速度と軸移動であり、そこにジャンプや肉体稼働で移動速度をブーストしているが、移動している場所はそこまで高くない。
何故なら、電線を巻き込み被害が出る可能性が高いからだ。
それにより落下高低は精々3メートル程で、速度も精々30km出ていればいい方だろう。
『・・・夾竹桃!』
ヘッドセットからあかりちゃんの声が聞こえてくる。
あかりちゃんの声からすると、彼女達はもう夾竹桃と接触してしまったのだろう。
そう、また間に合わなかった・・・
「クソッたれがッ!!」
間に合わなかった
だが、それでも俺がここで止まる理由にはならない。
スイングの途中で体を反らすと、最高到達点の少し前でフックの返しを収納しワイヤーを巻き取り、体の反動を利用してさらに加速前進し再びフックを建物に飛ばす。
『ふざけないで!』
更にあかりちゃんの叫び声がヘッドセットから聞こえてくる。
夾竹桃の声が拾えないので、何の話がされているのかわからない。
『ここは、あたしの思い出の場所なの。犯罪者にいてほしくない!』
アリアに聞いた話では、あかりちゃんの
おそらくあかりちゃんは、夾竹桃があかりちゃんとの決戦の場所にレインボーブリッジを舞台にしたことを怒っているのだろう。
「見えた! レインボーブリッジ!!」
俺は一際大きなスイングをすると、吊橋ワイヤーにフックを飛ばした。
30秒前
~side 間宮あかり~
「ここは、あたしの思い出の場所なの。犯罪者にいてほしくない!」
夾竹桃の『お礼を頂戴。こんな所に、決戦の舞台を作ってあげたんだから』という言葉に怒りが沸き、あたしは叫んでいた。
許さない! ののかを、みんなを傷付け、思い出すらも汚そうとする夾竹桃が許せない!
あたしの叫びに夾竹桃は静かに笑う。
そして、こちらを向き、見えないワイングラスでも持っているかのように開かれた左手の毒爪を見せつけてくる。
「私は猛毒──あなたごときじゃ消毒できないわよ?」
「・・・・・・」
夾竹桃の言葉にあたしは手に持ったマイクロUZIを向けながら生唾を飲む。
確かに夾竹桃の言うとおりあたしだけでは夾竹桃には敵わない。
けど、志乃ちゃんと2人ならきっと仕留められる。
志乃ちゃんは今
あたし達は今レインボーブリッジ中間地点、通常は作業員たちが歩く鋼材の格子状の床の通路に立っており、たとえ床が格子状でも暗闇にまみれた今なら夾竹桃からは志乃ちゃんは見えないだろう。
夾竹桃を倒す作戦は、あたしの少し前方に下から押し開けられる床があり、そことつながっている階段を使い志乃ちゃんが飛び出し、数mの距離を一瞬で詰めて攻撃する居合切り『飛燕返し』で倒す。
その為には、志乃ちゃんの存在を悟らせないように夾竹の桃意識をこちらを引き付ける必要がある。
「そのトランク・・・どこか高跳びするつもり?」
夾竹桃の腰掛けている幅1m程のトランクを話題に問い掛ける。
「これ?」
夾竹桃は煙管でトランクを指した。
風魔やライカは、夾竹桃は手ぶらだと言っていた事を考えると、恐らく夾竹桃の逃走用の車両に隠していたのだろう。
「イ・ウーでココに押し売りされたのよ」
少しアンニュイに語る夾竹桃は志乃ちゃんに気づいてない様子だ。
もう何時でも志乃ちゃんは飛び出せるだろう。
絶好のチャンス。
「私は非力だからいらないって言ったのに・・・ 「無反動だから」って・・・でも、持ってきて良かったかもね」
と、夾竹桃はトランクの2つの留め金を同時に外した。
するとトランクが開き、がしゃがしゃがしゃ! と強力なスプリング音を上げ、中に折りたたまれていた黒い機械が自動的にものの3秒ほどで組みあがる。
は6本の銃身を蜂の巣の様に束ねた、マットブラックの武骨で凶悪な──
(
どこかの悪魔の様な技術を持つ天才によって1名携行用に作り替えられたのだろう
夾竹桃は
もちろん
本体からだらりと垂れた剥き出しの銃弾ベルトには拳銃の弾丸の数倍ほどの大きさの弾丸がずらりと並んでいる。
全身の血が引いていき、2年前の恐怖が蘇る。
「あからさまに距離を置くなんて、失敬よ」
毒手を警戒するにしても不自然なほどの間合いに違和感を覚えたのだろうか、夾竹桃は淡々とそう告げ、ガトリングガンの銃口をこちらに向け、あっさりとトリガーを引いた。
キュイイイイン!!
ガトリングガンの銃身が高い機械音を立てて回転を始める。
回転から銃弾の連射まで若干長いようだが、周囲は遮蔽物のない通路だけで安全用の策すらない。
あのような機関銃を細腕の夾竹桃が単身保持射撃できるわけがない。
避けれるチャンスがあるならそこだ!
だがその時に気づく。
ココッ! ココココッ! という音とともに銃身がブレているのに気付く。
その正体は反動を電気的に検知して打ち消す、バランサーブースターだ。
そして──
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!
銃身が暴れ開散気味になった無数の弾丸は、それでもあたしの全身に向かってくまなく飛んでくる。
これは避けられない。
それでも致命傷は避けるためにマイクロUZIを顔の前に掲げる。
そして全身を襲うだろう激痛に覚悟を決め──
「「──あかりちゃんッ!!」」
2人の声にあたしはハッとさせられる。
床の下からあたしの前に飛び出した志乃ちゃんが1m50cmを超える巌流の太刀・物干し竿のわずかな面積を盾にし、更に自らの体を盾にし銃弾を前に立ち塞がる。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!
ガトリングガンの弾が物干し竿を貫通し砕き、志乃ちゃんの体に被弾していく。
腕、胸、腰、足に弾が当たり、掠めていき、こめかみにも弾が掠め、血飛沫が散る。
銃弾に吹き飛ばされ志乃ちゃんこちらにのけぞり倒れ込む。
その時、志乃ちゃんの前に黒い人影が割り込み、銃弾が来なくなったが今は気にしていられなかった。
「志乃ちゃん・・・?」
受け入れたくなかった。
あたし達を助ける為に戦ってくれ、そして・・・
(志乃ちゃんは・・・あたしを庇って・・・)
崩れ落ちるあたしの膝の上に志乃ちゃんの頭部が乗る。
その志乃ちゃんの体からあふれる大量の出血を見てあたしは現実だと悟る。
(いくら防弾装備でも、あんな大口径弾を何発も受けたら・・・)
最悪の事態が頭に巡り涙が溢れてくる。
「ごめん。遅れた・・・」
普段聞かない本当に怒ったような、でもこの状況をどうにかしてくれそうな、そんな声にあたしは頭を上げる。
そこには、透明な盾を右膝をつき構える、長い黒髪を後ろで纏めた小柄な先輩が居た。
「吉野先輩・・・」
その顔は、いつもの余裕を保った表情ではなく、真剣そのものでどこか恐怖さえも抱いてしまいそうな表情だ。
「吉野先輩!! 志乃ちゃんが・・・!!」
あたしは吉野先輩に助けを求める。
吉野先輩はこちらを少し見ると、左手にいつの間にか掴んだ銃弾に視線を移し投げ捨て、前を向く。
「それだけの物を無反動で撃つにはバランス・ブースターだけじゃ無理だ。そいつの弾は弱装弾だな。佐々木さんの被弾は見た限り致命傷は無いし、出血も派手だがそこまでの量じゃない。麒麟ちゃん達も今こっちに向かってる。つまり、今夾竹桃を速やかに無力化できれば・・・」
志乃ちゃんが助かるかもしれない!
けど吉野先輩は足を怪我しているし、盾を持っている状況で単発銃のM19で対抗できるのだろうか。
「今の俺じゃ奴に届かないが30秒くらいは時間を稼げる。その間に決めるんだ。ののかちゃんの命か、佐々木さんの命か、それとも・・・」
吉野先輩はそれだけ言い残すと、立ち上がり夾竹桃に呼びかける。
あたしは今ある情報をできる限り思い浮かべ思考する。
今あたしが、志乃ちゃんを背負ってレインボーブリッジの入り口まで走って逃げると、吉野先輩は夾竹桃の追撃を食い止める為にここに残り戦うだろう。だが、吉野先輩の戦い方はあたしが知る限り、機動力重視の戦法でこんな狭い場所で、しかも足を怪我している夾竹桃に勝てるのだろうか。
この通路を使わずにここまで来た吉野先輩なら志乃ちゃんを連れて逃げ切れるかもしれないが、その場合あたしが残る事になる。あたしだけの力で、ガトリングガンを持った夾竹桃に勝てるのか、先輩達から意識を削ぐ事ができるのか・・・
そこまで考えた時に、ぎゅ、と腕をつかまれる感覚に思考が止まる。
「・・・あかり、ちゃん・・・」
朦朧としつつもギリギリ意識を保っていたのか、志乃ちゃんは血塗れの自分の体を気にすることもせず,
あたしを心配してくれている。
「ぶ、武偵勲章10条・・・諦めるな、武偵は決して、諦めるな・・・」
志乃ちゃんはうわ言の様に、最後の力を振り絞る様に──
「あかりちゃんは、武偵高での、あかりちゃんのまま・・・武偵であることを・・・あきらめないで・・・」
焦りと涙でぐちゃぐちゃの顔をしたあたしを落ち着かせる為か、志乃ちゃんはこのような状況にも関わらず微かな笑顔を浮かべている。
志乃ちゃんはあたしが怒りに任せて、武偵の禁忌である殺人を犯さないようにと告げる。
その言葉の直後に、志乃ちゃんの体から、がくっと一気に力が抜けた。
「志乃ちゃん・・・志乃ちゃん? ・・・志乃ちゃあああん!!」
あたしの叫び声がレインボーブリッジにこだまする。
みんなやられてしまった。
ライカも風魔も、志乃ちゃんも。
もう作戦は崩壊した。
けど、このままじゃ退けない。
このまま退いたら、ののかが死んでしまう。風魔が、ライカが、志乃ちゃんが繋いでくれた希望が潰えてしまう。
もう二度と夾竹桃に勝てなくなってしまう予感がある。
「本当は毒に苦しむ姿を見たかったんだけど」
夾竹桃は
その言葉を聞いたあたしは──
泣き止んだ。
あたしは決意した。
今日ここで、あたしは夾竹桃を倒す。
「いい加減黙れや腐れ年増がッ!!」
吉野先輩が叫ぶと夾竹桃の表情が僅かに怒りに歪む。
同時に吉野先輩は右胸に左手を突っ込み、親指以外の全てで手裏剣を挟んだ状態で引き抜き構える。
一触即発の雰囲気になっているがあたしは気にせず呼びかける。
「吉野先輩。志乃ちゃんをお願いしてもいいですか?」
吉野先輩に頼む。
こちらを少し見つめた後、吉野先輩は盾を夾竹桃に向けたままこちらに歩いてくる。
そして、あたしの右側にまで来ると左足と平行になる様に右膝を付き、志乃ちゃんの首裏に手を添え、先輩の右膝の上に志乃ちゃんの頭を移動させる。
そして、吉野先輩は頼りになる笑顔を浮かべ──
「任せろ!」
力強く答えてくれた。
「ありがとうございます」
あたしは頼りになる先輩に感謝の言葉を告げると立ち上がる。
そして最後に吉野先輩が言ってくれる。
「後の事は全部任せな。あかりちゃんはあかりちゃんの、己の為すべき事を為せ」
「はい!」
吉野先輩の言葉に強く答えると、先ほどまで先輩が立っていた場所まで移動する。
そして、あたしは夾竹桃が欲しがっている『
1分前
~side 吉野遙~
「今の俺じゃ奴に届かないが30秒くらいは時間を稼げる。その間に決めるんだ。ののかちゃんの命か、佐々木さんの命か、それとも・・・」
俺はあかりちゃんにそれだけを告げると、立ち上がり夾竹桃を見据える。
本当に嫌になる。
後輩達の危機に間に合う事ができない自分が、後輩たちを窮地に追いやる敵が、普通の女の子であるこの子達に平穏を与えないこの世界が、本当に嫌いだ。
「さて、なんでアンタがこんなとこでこんな事してるのか、話して貰おうか桃子先生」
「あら、私はあなたには会ったこと無いはずよ?」
俺の呼びかけに、夾竹桃はこの場では使っていないはずの別の名で呼ばれ、少し驚いたようだ。
正直、ずっと遠目だったから分からなかったが、ここまで接近して知っている顔だと言う事に気づきこちらも驚いている。
「同人誌即売会で何度か会ってるんだがな・・・覚えられて無い俺はファンとしてまだまだって事かな」
わざとらしく肩を竦めて首を振る。
そう、夾竹桃は俺がオタク趣味を持って以降、理子に薦められて初めて買った同人誌の作家であり、そのまま気に入り新刊が出るたびに購入することになった人であり、俺が知る中で一番クオリティの高い百合漫画作家である。
「私の作品はあなたの様なタイプには向かないと思うのだけど」
「意外とそうでもないさ。俺は自分に被害がなければ同性愛も基本的には肯定派だし、見るなら嫌なとこが見えてる同姓より異性同士の方が見てられる。自分の知らない世界が見れるからアンタの作品には助けられてるぜ」
何度か同姓に迫られたからこそ言える。
男よりも女の方がよっぽど良い。そして、そんな女が二人も絡み合ってるんだ、苦手意識を持つ方が変だろう。
「そう、それは良かったわ。取り敢えずそこを退いてくれるかしら? 珍しい異性のファンを殺すのは私も気が退けるの」
「そいつはお気遣いどうも。けど、アンタにゃ俺を殺せねーよ」
「面白い冗談ね。その足で私に相対できるとでも?」
「余裕だね!」
夾竹桃の挑発的言葉におどけたように返してやる。
これには少しイラついたのか一瞬夾竹桃の顔に青筋が見える。
実際には余裕ではないが、相対する方法を4通りほど思いついてる。
1つは、フックショットでの立体移動で、橋の外に飛び出してから夾竹桃までの移動の速度を乗せた攻撃で意識を刈り取る方法。
1つは、飛び道具によるガトリングガンを破壊し無力化する方法。
1つは、このまま距離を詰め銃口に盾を押し付け、弾丸を銃身内部に溜めさせ腔発させる方法。
1つは、試作型武偵弾による攻撃で無力化する方法。
俺が戦うなら、この中で1番合理的で安全で各実な物を選ばなければならない。
そうでなければ後ろのあかりちゃん達に被害が向く。
「どうやらあなたは聞いてたより好みじゃなさそうね」
「そりゃ残念。ちなみに聞いたっていう俺の話と、アンタの言う好みってのを聞いていい?」
興味本位半分。時間稼ぎ半分くらいのノリで聞いてみる。
「あなたに会ったら戦闘は行わずに逃げろって言われたわ。あと、あたしの好みはウブな子の顔を羞恥に歪ませることよ」
「よくわかんねーけど過大評価されてるみたいだな。それに、アンタと俺は性癖が微妙にずれてることも分かったみたいだし。ちなみに、俺の好みはアンタみたいな半端なサディストや生意気な奴を屈服させる事だ」
多分意味は無いのだろうが、向こうが性癖を明かしたのでこちらも性癖を明かしておいた。
そして、少なくとも今の夾竹桃とは反りが合わないことが分かった。
この無垢なる物を羞恥に歪ませ自分の支配に置こうという発想は、口出しする気はないが気に入らない。
「作者と読者。こんな出会い方じゃなければ仲良くなれそうと思ったけど、あなたとは反りが合わなそうね」
「ああ。隠す者と晒す者。たとえ根幹が同じだったとしても反対の方向に枝を伸ばしてるんだ、反りが合わ無いのは分かってたぜ。それに、アンタは俺の可愛い後輩を傷付け辱めた。俺の大切な後輩に穴を開けた。例えそれがこの武偵という世界では日常的に起こる事だったとしても、俺はアンタを許さない。このくらいは分かれよ?」
ただの時間稼ぎとペースを崩すための会話だったはずが、気付くと怒りに任せて喋ていた。
最悪だ。ここまで敵に自分を晒すなんて、自分の弱点を敵に教えてるようなものだ。いくら最近動いていなかったとは言え、油断しすぎだ。
もっと余裕を持て。自分の心に常に自身を入れろ!
気を引き締め直し夾竹桃を見据える。
その時──
「志乃ちゃん・・・志乃ちゃん? ・・・志乃ちゃあああん!!」
あかりちゃんの絶叫がレインボーブリッジにこだまする。
佐々木さんの意識がぎりぎり残ってたが、今度こそ本当に意識を手放してしまったのだろう
今のあかりちゃんが何を考えるか想像に難しくはない。だからこそ、俺はあかりちゃんが暴走しないか、その一点が怖い。
「本当は毒に苦しむ姿を見たかったんだけど」
俺が懸念していた時、夾竹桃はまるで
その言葉に俺は、ここ最近の立て続けの事件による影響か、それともライカ達後輩を傷付けられた怒りからかここ数年で初めてブチギレた。
「いい加減黙れや腐れ年増がッ!!」
俺は特に意味を成さない罵倒を叫ぶ。
左手で右胸の内ポケットから手裏剣を3本、指に挟んだ状態で引き抜き何時でも投擲できるように構える。
「吉野先輩。志乃ちゃんをお願いしてもいいですか?」
その時、あかりちゃんに呼び止めら後ろに振り向く。
その瞳には確かな覚悟が宿っており、見ているこちらが気圧されそうになる。
後は彼女に任せるべきなのだろう。
直感的にそう悟ると、俺は盾を夾竹桃に向けたまま、あかりちゃんの右側に移動すると左足と平行になる様に右膝を付き右膝の上に佐々木さんの頭を移動させる。
そして、後の事は何も気にしなくていいという意味を込め、俺はあかりちゃんに笑いかけ──
「任せろ!」
あかりちゃんの頼みを力強く引き受ける。
「ありがとうございます」
あかりちゃんは俺に軽く礼を口にすると、立ち上がる。
伝わりきらなかった部分もあるかもしれないという可能性を思い至り、あかりちゃんに最後に語り掛ける。
「後の事は全部任せな。あかりちゃんはあかりちゃんの、己の為すべき事を為せ」
俺は常に自分の行動原理としているものを言葉として伝える。
そう、人間とは結局、自分の意思と感情に基づき行動する。
それが例え善性であっても、悪性であっても。
ただ善悪なんて後から人が判断するものであり、その意志や感情が生まれた時点では善悪は存在しない。
ならば生まれたものは全て正しく、そこから生じる行動に間違いなんて無いのだろう。
迷う必要性は無く、ただ信じること成せばいい。それが己の為すべき事であり、それが己に必要な物なのだろう。
「はい!」
あかりちゃんは俺の言葉に強く返事を返す。
そして、あかりちゃんは俺が先ほどまで立っていた辺りまで移動すると、俺も見た事のない独特の構えを取る。
古流空手のように足を開き腰を落とす、ここまでは良い。
開手の右手を前に突き出し、開いた左手を引き首筋の辺りに置く。
その手首と腕は限界まで捻られており、両掌は空に向けられている。
そして、その指は俺が持ち得る技の中で最も殺傷能力の高い技の形と酷似し、その指は獰猛な猛禽類の爪の様に折り曲げられている。
何なんだあの構えは・・・
「なに、それ」
夾竹桃も同じことを考えたのか、少し目を見開き尋ねる。
ガトリングガンを相手にマイクロUZIを拾わず素手で構えたのだから、夾竹桃の反応も当然と言って良いだろう。
あかりちゃんは夾竹桃の問い掛けに──
「
これから放たれる技の名を囁く様に口にした。