緋弾のアリア 黒の武偵   作:エイト☆5

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第32弾 事件は解決する物ではなく増えていく物

「そう、そうだったの」

 

 夾竹桃は技の構えを向けられているというのに、目を細め、歓喜しているかのような表情を浮かべる。

 

「あなたも私と同じ、()()使()()だったのね。灯台もと暗しだったわ。その手に、塗っていたのね」

 

 あかりちゃんの話によると、夾竹桃は『鷹捲(たかまくり)』を毒だと思ているそうだ。

 だが、数多の技を観て、己の物に昇華させ続けてきた俺にはわかる。

 あれは毒じゃない。物理的な効果を伴った殺傷技だ。

 

 それ故に心配なのは、この距離を被弾せずに駆け抜けその一撃を加えられるのかだ。

 近代ではゲームやアニメと言ったエンターテインメントの影響で、技という物を1度使えば確実に決まり、敵に大ダメージ、もしくは致命傷を与えられるイメージが付いているが、現実はそんなに都合よくはいかない。

 実際に技と言うのはただの肉体の動かし方であり、その動かし方から生まれる通常の動きでは為し得ない効果が最大の意味であり、その意味を成していないものは技ではない。逆に言えばその意味を成していれば、体の動かし方の形から外れていても技と言える。

 しかし、たったそれだけの物であり、それがあれば勝てるという物でもなく、決まらない事もあれば効かない事もある。

 避けられれば技の効果なんて発揮される事もなく、技の使っている途中、もしくは使う直前で攻撃を食らえば当然意味を成さなくなる。

 技とは実際にこの程度の物であり、決して万能な物ではない。

鷹捲(たかまくり)』という技は雨の様に乱射される弾丸を避け、攻撃を加えられるものなのだろうか。

 

「千本の矢をスリ抜け、一触れで死を打ち込む、死体に傷が残らない技──鷹捲(たかまくり) ・・・!」 

 

 なるほどな・・・

 夾竹桃の言葉に合点がいった。

 鷹捲(たかまくり)という技は、形こそ似ているが俺の持っている技とは全く違う物だろう。

 むしろ、父方の家である『相良』の性質に近い技だ。

 

「・・・中距離で使える毒手・・・あなたのその手に塗っているのね・・・」

 

 夾竹桃は先ほどまでの冷めた態度とは違い、興奮し昂ったように感情がハッキリと見える。

 それは待ち焦がれた瞬間が訪れた時の様に、ずっと会いたかった人にようやく会えた少女の様に。

 そんな様子の夾竹桃を前に、あかりちゃんは無言を貫く。

 精神統一、あるいは技を放つ為のタイミングを計っているのだろうか、その集中力が窺える。

 

「『約束練習』みたいだけど──」

 

 夾竹桃がガトリングガンの引き金を引く指に力を入れたと同時に、あかりちゃんは夾竹桃がガトリングガンを構える方へ、強く床をけり前へと走り出す。

 俺も左手で佐々木さんを隠すように盾を構え、首だけあかりちゃん達の決着を見届けるために固定し、体は佐々木さんの体に被せる様に移動させる。

 そして、スピンアップした銃身の束が──

 

「『千本の矢』は私がやってあげるわ!」

 

 夾竹桃の歓喜の叫びと共に火を噴いた。

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリッ!! 

 

 ガトリングガンは猛スピードで回転し弾丸をばらまくが、あかりちゃんは怯む事無く進み続ける。

 弾丸の方へ全力疾走を続けてたが、ある地点でギュルン! と全身を回転させ、頭からまっすぐ地面と平行に飛ぶ。

 伸ばした全身をネジの様に回転させ、両腕の捻じれも解く様にさらに回転を加え、回転運動を強めていく。

 右手を前に突き出し回転しながら地面と平行に飛ぶことによって、弾幕に対する面積が最小となった。

 その姿はまるで、戦場を飛び交う銃弾を交わし、目標に向かって放たれたライフル弾の様だ。

 

 ガトリングガンから放たれる銃弾の隙間をあかりちゃんはすり抜けていく。

 それは『鷹捲(たかまくり)』と言う名の通り、獲物に襲い掛かる鷹の様に。

 

「──!」

 

 その様子に、夾竹桃は目を見開くのが見える。

 M134改は放熱の都合上2~3秒程しか連射できないものだ。それは先ほど佐々木さんを撃った時に分かっていた。

 銃撃が止んだ瞬間、地面と平行に飛翔したあかりちゃんが無傷で夾竹桃へと、無傷で到達する。

 だが、それでは止まらない。

 

「──っ──!」

 

 あかりちゃんの指先、爪の先端がガトリングガンの先端に触れた瞬間。

 

 バチィィイイィィイィィッ!! 

 

 静電気の何万倍もの電気が弾ける様な音が鳴る。

 それが以前入れが予想を立てたパルスの増幅による振動破壊技であることを裏付けた。

 おそらく先ほどの回転でジャイロ効果を生み、パルスを増幅、集約させコマの軸のようなあかりちゃんの正中線に集まった振動が、あかりちゃんが物体に触れた瞬間に指先からμ(マイクロ)秒単位で伝播されたのだろう。

 よって起こる事、それは──

 

 バリッ・・・バリバリバリッ・・・バリッ! 

 

 ガトリングガンの先端から()()していく。

 チタン合金の銃身が、タングステン合金のパーツが、銃弾やガンパウダーの一粒に至るまで、あかりちゃんの内部で集約、増幅され累乗的に強化、微細化された振動が分子レベルで結合を紐解きガトリングガンを破壊していく。

 その破壊は進むにつれ雑になっていくが、ガトリングガンの本体をしっかりと粉々に破壊し、本体を持つ夾竹桃の手元に伝わる。

 

「──!?」

 

 ──バッ──

 

 感電したかのように夾竹桃の腕から全身へと振動が伝わっていく。

 夾竹桃に悲鳴すら上げさせず衣服を四散させる。

 

「えっ? 服?」

 

 正確には黒いセーラー服とスカートが弾け飛び、純白の下着が露わになる。

 一体何を目的にした技なんだと思ったが、粉々になったガトリングガンを見て気づいた。

 

 振動技は本来、肉などの水を含む者には効果が薄く、振動が分散してしまう傾向にある。

 その傾向ゆえに本来は、振動技を人体に使用する場合は十分に威力を出す為に物体越しではなく直接打ち込むのが鉄則であり、物体を挟んだ場合の振動技は物体が緩衝材になり十分な威力が伝わりきらない。

 だからこそ、殺人を犯してはいけない武偵として使う場合には物体を挟むことによって、物体、装備の破壊のみに止まり人体に対する致命的損傷が現れない非殺の技として使った。

 そして、雑になった振動は夾竹桃の体内で相互にぶつかり、跳ね返り下着を通過し、最も肉体の外側にあるセーラ服で逃げ場を失いそこで弾け飛んだ。

 

 鷹捲(たかまくり)の威力は思ったより高く、夾竹桃は仰け反った状態で柵のないレインボーブリッジの

 縁から海へ落ちていく。

 

「やれやれ・・・やっとだな・・・」

 

 佐々木さんの左手を肩に回し担ぐと、右手で盾をつき立ち上がる。

 封鎖されているはずなのに車の音がするので振り返ると、麒麟ちゃんが運転するハマーがこちらに向かってきている。

 ハマーが到着したら佐々木さんを乗せれば俺の役割はすべて終わりだ。

 

 ドボンッ!! 

 

 海に何かが落ちたような音に海の方を見る。

 暗くてよく見えないが、あかりちゃんが夾竹桃の事を海の中で抱きとめていた。

 そして、スカートの中に隠し持っていた手錠を──

 

 ガチャ! 

 

「逮捕!」

 

 夾竹桃の手首にかけ、あかりちゃんは武偵として宿敵に対し勝利宣言を果たしたのだった。

 

 

 


 

 

 勝利宣言から数分後。

 到着したハマーに佐々木さんを乗せると、佐々木さんの処置を麒麟ちゃんに頼み、護送車に乗せられる夾竹桃を見に行く。

 あかりちゃんも思う所があったのか、俺の隣で乗せられていくのを見詰めている。

 

「吉野遙。同期からあなたに伝言があるの思い出したわ」

「伝言? 告白代行とかならお断りだぜ?」

 

 下着姿で尋問科(ダキュラ)の生徒たちに連行される夾竹桃が、不意に話しかけてきたので何時もの調子で答えると夾竹桃は、少し呆れたような表情になった。

 

「ちがうわよ。「近い内に会いに行くから」だそうよ」

「ハッ、それは楽しみですこと。で? そいつの名前は?」

 

 夾竹桃は少し考え、その名を出す。

 

「『神速の蜂』。私たち同期は彼女の事をそう呼んでいるわ」

 

 夾竹桃はそれだけを言い残すと、護送車に促される様に入っていった。

 

「神速の蜂・・・?」

 

 神速という言葉に関しては心当たりはあるが、蜂という言葉に覚えはない。

 蜂とはいったい何なんだ? 

 

「吉野先輩。何か心当たりあるんですか?」

「神速には何人か、蜂には一切なし。ついでに俺に会いたいって言う奴にも心当たりなし」

 

 神速とは吉野の剣術における通過点の1つであり、第2段階にあたるものだ。

 つまり、吉野の剣術を使う者の大半が神速に至るほどの剣速であり、近接戦だけに限って言えばAランク以上の人間ばかりと言う事になる。

 

 今の俺に勝てるだろうか・・・

 それに俺に会いたがる吉野って・・・

 

 吉野家を出た俺に会いたがっている吉野なんているはずがない。

 例外があるなら俺の末妹である『吉野芙雪(ふゆき)』位だろう。

 だがあの子はまだ10歳だ。夾竹桃のような人間に同期と呼ばれるような年齢でも人間性でもない。しかも剣術は一切習っていないので神速と呼ばれる事も無いはずだ。

 

 蜂

 昆虫綱膜翅目の昆虫であり、一般的に産卵管を毒針に変化させた種類が広く知られている。

 社会性を持ち、女王蜂と働き蜂に分類され、その大半が雌であり雄は特定の時期の交尾の為に生まれる。

 一般的な種類は蜜蜂((honey)bee)黄蜂(wasp)スズメバチ(hornet)雄蜂(drone)等が知られている。

 だが、今回の件はおそらく比喩表現だろう。

 と言うか、比喩表現じゃなければ夾竹桃の頭は致命的なバグが存在するのだろう。

 

「情報もない状態で考えたところで答えなんか出るわけねーか・・・」

 

 やはり俺には推理力がないようだ。

 軽く考えたが最終的に匙を投げだす俺には探偵科(インケスタ)の才能はなさそうだ。

 

「あぁ、足が限界だ。座りてー」

 

 ため息をつくと振り返り、麒麟ちゃんの操縦するハマーに向かう。

 少し腰掛けようとバックドアを開けると──

 

「えっ・・・」「あっ・・・」「はっ?」

 

 開けた瞬間、俺は死を覚悟をした。

 麒麟ちゃんが怪我をしている佐々木さんに包帯を巻いている。佐々木さんも意識を取り戻していたようで、同性でも少し恥ずかしいのか顔を少し背けているようだ。

 当然だが、佐々木さんは全身を撃たれており、手当の為には服を脱ぐ。

 そう、ばっちり見てしまった。佐々木さんの下着を・・・

 刺繍とレースがあしらわれた真っ赤なランジェリーと、普段の黒いストッキングを脱いだ素肌の足に巻かれた包帯と。更に所々に飛び散った血が鮮やかで、はっきり言ってエロい。

 

 ってそうじゃなく! 

 

「あー、えーとその・・・」

「・・・ッ!」

 

 麒麟ちゃんの顔がどんどん赤くなり怒っているのが目に見える。

 佐々木さんは赤くなりつつ、震える手は自身のサーベルを探しているようだ。

 今日の俺は足を引き摺っているから2対1の状況なら確実に俺が負ける。

 見るも無残に殺される未来しか見えない・・・

 

 この状況で俺が助かる可能性を見出せないので、覚悟を決めて諦めよう。

 

「失礼致しました・・・」

 

 丁寧に謝罪すると、バックドアを閉め──

 

「きゃあぁぁぁぁっ!!」

 

 ドアの隙間から、ビュン! と何かが飛び出してくるのを上体を反らし避ける。

 避けた後、投げたものを見ると──

 

「──サーベルッ!?」

「成敗ですの!!」

 

 ドアがバンッ! と開き胸に衝撃が走る。

 その正体は──

 

「──ジョナサン・・・」

 

 麒麟ちゃんが普段から持っているキリンのぬいぐるみが俺の胸にぶつかっていた。

 そう、鉛が仕込まれているぬいぐるみのジョナサンが・・・

 

「グハッ!!」

 

 俺はジョナサンを胸に抱き意識を手放した。

 その後、意識を取り戻した俺は佐々木さんのビンタを頂戴したのだった。

 

 

 


 

 

 取り敢えず頬に綺麗なモミジの形を作られた俺は佐々木さんに土下座を敢行した。

 切腹か指詰めくらいは要求されるかと思ったが、意外とすんなり許してくれたのは意外だった。

 後は符丁毒の解毒法を夾竹桃から聞き出すだけだが、そこは尋問科(ダキュラ)の生徒たちの仕事で俺やあかりちゃん達ができる事は無くなった。

 そう言う訳で俺たちは、麒麟ちゃんの運転するハマーで東京武偵校まで帰っていた。

 

「そういえば遙先輩はどうしてアタシ達の居場所分かったんですか?」

「うん?」

 

 助手席のライカが不意に訪ねてくる。

 ラゲッジスペースから後部座席のあかりちゃん、佐々木さん、陽菜の3人を見ると、そちらの方も気になっているようだ。

 

「まず戦闘の場合相手の不意を突いての視覚を奪うのは基本。大捕り物の場合は猶更だから閃光手榴弾を使うのは分かるから青海の高い場所で張っていれば、夜に動くのは聞いてたから確実にわかると思ってた。問題は場所によっては駆け付けられないって事だったから陽菜の方は行けなかった。すまなかった。それで次に俺がするべき事を考えたら、次に狙われるのはライカだと思った。だからライカの方に移動するともうやられてたから、ヘッドセットだけ借りてライカを分かりやすい場所に移動させてから情報を聞きながら移動した。結局全部間に合わなかったけどな・・・」

 

 ため息をつくと頭を少し雑に掻く。

 するとあかりちゃんが、少し疑問に思ったのか質問してくる。

 

「あれ? 吉野先輩はどうやってライカの居場所見付けたんですか?」

「ん? あぁ、ライカ。ちょっと良いか?」

「なんですか?」

 

 

 ライカが助手席から振り返りこちらを見る。

 ラゲッジスペースで立ち上がると、佐々木さんの座っている後部座席のヘッドレストに右手をつくと、身を乗り出し、ライカのセーラー服の右側の襟ラインの裏に仕掛けた小型の発信機を回収する。

 

「これがあれば誰だって見付けられるだろうさ」

 

 みんなに見えるように発信器を見せるとみんな納得した顔をする。

 て言うか、これがあって見付けられない奴は現代人ではないだろう。

 

「いつの間に・・・」

「夕方に病院で会ったろ? その時肩に触れるタイミング無かったけ?」

「あ!」

 

 そこまで言ってやっとどのタイミングで発振器を仕掛けられたのか気づいたようだ。

 

「まだまだ注意力足りないなライカ。気付かないまでもいつ仕掛けられたか分かる様にしろよ」

 

 発信器をズボンの左側の二重ポケットになおし、後部座席の裏にもたれかかるように座りなおす。

 

(やっと1つ事件が終わったてのに、めんどくさそうな問題はまた増えたか・・・かったるい・・・)

 

 外の空は少しずつ明るくなってきているのを気にせず、目を閉じ迫って来ていた眠気に徐々に体を委ねていく。

 そうして俺達は麒麟ちゃんが運転するハマーに、武偵校につくまで揺られたのだった。

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