アルタ前で泣き止んだアリアに「1人にして」と言われた俺とキンジは、大人しくJRの電車に乗って帰宅していた。
人のいない電車で足を庇い俺は座席の端に座り、キンジはドアの前に立っていた。
俺の耳には小型の無線インカムが装着してある。
傍目には俺が独り言を呟いているように見えているだろう。
「ファイル1、2をベースにファイル3~6まで解析。呼吸筋の稼働、瞳孔の開き方、脈拍の速さを元に虚言を判定」
その言葉と共に自分のPCにアップロードし、解析した結果がダウンロードされる。
結果
ファイル3
ファイル4
ファイル6真実 ファイル5虚実
つまり、かなえさんは罪を一切犯さず、犯罪組織にも属さず、だが自身に濡れ衣を被せた奴らには覚えがある。
それ程までの情報を持っているのなら、自身で己の無実を証明できそうな物だがそれが成されていない。
何故・・・
成す事ができない?
成したところで意味を成さない?
どうして・・・
そこまで考えたが、俺にはおそらくたどり着けない事を悟り考えるのをやめる。
右の二重ポケットに入れていた専用のコンタクトケースに、コンタクトを外して収納する。
コンタクトケースの外側に取り付けられた収納スペースに、インカムを外し収納すると右の二重ポケットになおす。
「遙。お前目が良かっただろ? なんでコンタクトなんてしてたんだよ?」
「遙ちゃんの内緒の7つ道具その3、その4。
名前の通り解析と誘導に特化したシステムであり、その解析精度はX線スキャン、サーモスキャン、画像スキャン、動画スキャン、音声スキャン、パターン解析、数式解析、成分解析、と多岐にわたり、そこに加えられる指示に明確なルート算出するAI、通称
視界に入った物をスキャンし、その解析後のデータを視界に出力する為の物で、瞬きの秒数と回数でモードや効果が変わる。
瞬き2秒でカメラモードに成り、瞬き2回で撮影、瞬き3回で暗視。
瞬き3秒で動画撮影モードに成り、瞬き2回で撮影、瞬き3回で暗視。
瞬き4秒以上で視界内即時解析モードに成り、瞬き2回で解析情報の更新、瞬き3回で暗視。
スキャンの内容の結果を音声で伝達し、音声命令により解析したデータを素材に更に解析しコンタクトに出力する。スイッチさえ入れておけば十数m圏内ならどんなに小さな音でも拾い解析するものだ。
これらの全てが、俺が普段使っている7つ道具その1であるフックショットと同じ製作者が1人で作ってしまったのだから異常だ。
「・・・雨止まないな」
後ろの窓を見ながら呟くが、キンジからの返事はない。
俺はため息を付き窓の外を眺め続ける。
「・・・俺は何もしてやれなかった・・・」
「ああ」
「俺は何かしてやるべきだったんだよな?」
「さあな・・・」
俺にはキンジが何を思い何を感じているかわからない。
故に俺には、キンジに対しはっきりとした答えを提示することはできない。
けど──
「もし、キンジに思う事が、何かをしてやりたいという思いがあるのなら、次のその瞬間に本人だろうが別人だろうが関係なくしてやればいいさ。キンジ自身の為に・・・」
キンジがしたい事の後押しくらいはしてやれる。
後悔なんて後にしかしないのだから、今したいことをするのが1番本人には良い事なのだろう。
それが本人だろうが別人だろうが関係なく、自分が感じた事をそのまま行動に移す事が重要なのだから。
「まぁ、収穫があったんだ。武偵殺しには間違いなく近づいてる。俺達は捕まえる準備をしっかりするだけだ」
自分の足を見詰めながら考える。
この足でどこまでやれるだろう。
夾竹桃の時に俺が動いたのは、防御重視に動くというのを確定させていたからであり、持つ物をナイフではなく盾にしていたからだ。
直接戦闘なんてできるはずの無い状態で、直接戦闘をする気もなく出向いていたのだから何とかなったが、それは直接戦闘はあかりちゃん達が行うのを前提としていたからだ。
だが武偵殺しに関してはそうじゃない。
いつ出会うか不明。どれほどの実力なのか未知数。どのような状況で出会うかも未確定。誰が一緒にいるかも分からない。
不確定要素が多すぎ、自分以外に頼れる人間がいるかもわからない状況がある可能性の存在。
これを無視する程の度胸を俺は持ち合わせていない。
故に俺はその状況の為に全力で対応策を考えなければならない。
それが交戦であっても、それが逃亡であっても。
「かったるい・・・」
駅に着くまで俺とキンジの間、再び重い沈黙に包まれた。
東京が強風に見舞われた週明け、アリアは学校を休んでいた。
俺の方は松葉杖が取れ、ある程度自由に動けるようになったが、まだ少し足が痛み激しい運動も控えろとの事だった。
一般科目の授業が終了し、後の時間はある程度自由になったが俺は席を立たずに考える。
今までの俺の考えた武偵殺しの人物像と今ある情報を組み立て、武偵殺しを、次の標的を絞っていく。
俺の考えた人物像はこうだ。
乗り物を狙い武偵を追い詰め爆破し、乗り物は小型から大型、超大型の順番に変わっている。
同時に同じような事件が起きてなかったり、模倣犯から本人につながるような情報が出ていないことから武偵殺しは単独犯。
更に証拠の出なさ過ぎる事が目立つことから、
そして今ある情報はこのくらいだ。
使う爆弾はプラスチック爆弾で、遠隔操作の際に特定の電波を発する。
武偵殺しは爆弾を設置した乗り物が乗られた際に、遠隔式の乗り物にUZIを取り付けたもので指示をしてくる。
武偵殺しは何らかの組織に所属しており、あかりちゃんの話では夾竹桃は武偵殺しを同期と呼んでいた。
今捕まっている武偵殺し『神崎かなえ』は冤罪であり、彼女は武偵殺しの所属する組織に対して何らかの情報を持っている。
「出揃った物を繋いでも虫食いみたいに情報が欠けてる。他の視点で考えるか・・・」
ノートに情報と考察を書きだし鉛筆を置くと、更に思考を深めていく。
アリアはかなえさんが捕まり武偵殺しを追い、その過程で電波の傍受に至った。つまりアリアはこの事件のほとんどに関係している。
更にキンジはチャリジャックに巻き込まれ、バスジャックに関わっている。
アリアは『パートナー』を『ドレイ』と言い換え探していたところにキンジと出会い、バスジャックの解決に出向いた。
出来過ぎじゃないか?
母親が冤罪で捕まった娘がパートナーを探していて、そのパートナー候補が母親の冤罪と全く同じ手口の事件に巻き込まれ出会い、その真犯人を捕まえる為に起きた事件に出向く?
「有り得ないだろそんな偶然・・・」
狙いはアリアなのか?
ならチャンスはいくらでもあったはずだし、こんな回りくどい方法を使わなくてもアリアを殺す方法はある。
目的はアリアを殺す事じゃない?
ならばアリアの持ち得るものは何だ?
金、称号、ランク、家柄、血筋、戦闘技術、容姿そのくらいだろうか?
そこから関係無さそうな物を省くとして残りそうな物と言えば・・・
家柄、血筋、戦闘技術、だろうか?
そこから求められそうなことと言えば・・・
「まさか・・・」
俺は1つの考えに行き着いた。
この考えが当たっていればかなりまずい状況だ。
だが、そこまで考えて思考が止まる。
これ以上は情報が不足しすぎて考えが至らない。
故に思考を切り替える。
キンジは俺と同室だからアリバイは成立するし、佐々木さんは武偵殺しを同期と呼んでいた夾竹桃に行動不能に近い怪我を負わされているし、何より関連性が薄いように感じるから関係は無いだろう。
それに対し理子は捜査にも加わっているし、アリバイも俺の知る限り確認できない。
俺の周りで1番怪しいのは間違いなく理子だ。
そう仮定すればラクーン・グランドホテルの件も納得がいきそうだ。
だが──
「考えたくはないな・・・」
理子は仲間で親友だ。
そんな人間が誰かから恨みを買い、誰かを傷付ける様な事をしているなんて考えたくない。
もちろん別の人間の可能性の方が高い。けど俺には理子が武偵殺しじゃないと証明できない。
せめて祈ろう。理子が武偵殺しじゃない事を。
「やれやれ・・・どうにかしねーとな・・・理子の方も、アリアの方も・・・」
筆箱に鉛筆をなおし、ノートを閉じて筆箱を学生カバンに入れて席を立つ。
右肩に学生カバンを担ぎ教室を出ようとすると、残っていた女子たちの会話が聞こえてくる。
「ねー聞いた? アリア、イギリスに帰るんだって!」
「えー? アリアが転校してきてまだ1月も経ってなくない?」
「武偵殺しに負けたからじゃない? 逃した相手がいないってプライド高かったのに負けたから居づらくなったりとか?」
「ありそう! 絶対アリアってそういうタイプだよねー!」
女子たちが馬鹿笑いしているのを横目に教室を出て廊下を歩く。
右の二重ポケットに入れていた
「検索。羽田空港発の今日のイギリス行きのチャーター便」
この周辺で飛行機が乗れるのは羽田空港だけだ。
そしてアリアのポケットマネーを軽く考えたうえで、アリアの性格を考えるとおそらくチャーター便を取っているだろう。
『検索終了。今夜7時に羽田からロンドン・ヒースロー空港行きの便があります』
インカム越しに
右ポケットから携帯を取り出し時計を確認すると17時30分を指している。
あと1時間半か・・・
携帯を開くと武藤に電話を掛ける。
コールが5回程鳴り、他の誰かに変えようかと思ったその時──
『もしもし、遙か?』
「ああ武藤今いいか?」
『大丈夫だがどうした?』
武藤の問いに去年の末に話していたことを思い出しながら答える。
「去年の末に使わないハーレーのスポーツタイプがあるって言ってたよな? 買わせてもらえないか?」
『あぁ、あれなら別に構わないが出して最低限のメンテをすると少し時間がかかるぞ?』
「どれ位かかる?」
『割と面倒は見てたから1時間もあれば新品同様になるぜ』
「それでいい、1時間後に
『おう! 差し入れ頼むな!』
「はいよ」
通話を切ると携帯を右ポケットに入れ購買に向かう。
こんな時間じゃネタ系の総菜パンくらいしかないんだろうな・・・
「優しい遙ちゃんは、ちゃんと武藤クンに差し入れを持って行ってあげますよー! ケッケッケッ!」
と言う訳で、俺は武藤の差し入れと言う名目で、パンにバナナと納豆が挟まった『バナ納豆パン』なる物や、ピンクに染まった、串に刺さったちくわ、大根、こんにゃくのおでんが挟まった『イチゴおでんパン』なる物等を購入したのだった。
1時間後
約束の時間になってので
そこには、俺好みの黒いカラーリングのハーレーが止まっており、その傍らには武藤が無駄にいい顔をして立っていた。
「よう! 差し入れ持ってきたぞ! あと今回は手持ちがないからカードで良いか?」
「サンキュー! あと基本はカード払いだからな? 現金払いはそこまで嬉しくはないからな?」
武藤に購買で買ってきたパンの袋を渡し、ハーレーを見る。
形はスポーツタイプだが、サドルシートは二人乗りができそうなほど長く、後輪の方にサドルバックが付いているくらいで、武藤にしては改造が常識の反中のようだ。
「ハーレーXL883Nタンデム仕様だ。左右のサドルバックに好みそうなゴーグル付きの半ヘルを1つずつ入れておいたぜ!」
「サンキュ! 幾らぐらいだこれ?」
「そうだな・・・俺が使い込んだやつだし、愛着が沸いて買い替えようにも手放せなかったのだからな・・・50万でどうだ?」
「乗った!」
武藤が取り出した小型の機械に、武偵手帳に挟んでいた武偵活動用のカードを通す。
ピコン! と言う音で決済が済んだことを確認すると、カードを再び手帳に挟み胸ポケットになおし、右側のサドルバックからヘルメットを取り出し被ると、ハーレーにまたがり指しっぱなしになっていたカギを回す。
「ところで、いきなりバイクが欲しいって言いだしたけど、どこに行くつもりなんだ?」
「お節介な武偵の男を上げにってとこか?」
武藤に笑いかけ、クラッチレバーを引き、アクセルを回し、チェンジペダルを押し下げる。
そして──
「いってくる!」
その言葉と同時にクラッチレバーを放し、羽田空港へと走り出した。