18時55分
ギリギリの時間に羽田空港に到着したが、ハーレーを止めていたら飛行機に乗れなくなる。
「仕方ねぇ! これで動かなかったらぶっ殺すからな武偵殺しッ!!」
覚悟を決めてハーレーで空港の玄関を正面突破する。
観光客たちが驚き騒いでいるなか俺は、他人事のように考えてしまう。
(反省文で済んだらいいな・・・)
そんなことを考えていると視界の端に第2ターミナルのエレベーターを捉える。このタイミングでエレベーターはこの階にいる様で、今エレベーターに乗れたら時間短縮になるだろう。
韋駄天を発動しスローになる視界の中、左手で右胸のホルスターから1発の銃弾を取り出すと、親指でコイントスの様な形で銃弾を構える。
(タイミングとパワーを間違えるな! 今は1秒でも惜しい!!)
人が俺の前に居ない状況になっているのは好都合だ。少し斜めの角度からエレベーターとの距離5m程の地点で左手全体を勢い良く突き出し、弾丸をエレベーターのボタンに向かって指で弾く。
弾丸は真っ直ぐにボタンに飛びぶつかるが、ちゃんとボタンが押せたかを確認する余裕はない。ハーレーを傾けブレーキを引きドリフト走行の要領で前後を反転させるが、推進力は消えずエレベーターの方に進んでいく。
(どうだ!?)
韋駄天を解き結果を祈るように待つ。
ハーレーはエレベーターに勢いよく──
乗り込んだ。
歓声を上げたいところだが、それを飲み込み3階のボタンを押す。エレベーターのドアが閉まり動き出したのと同じタイミングでクラッチレバーを引きアクセルを捻る。エレベーターのモニターに1,2と階が変っていくき、そして3階。
エレベーターのドアが開いた瞬間クラッチレバーを放す。
第2ターミナルを猛スピードで突っ切り、空港のチェックインを武偵手帳についた徽章でスルーし金属探知機なども無視しする。すると前に見知った後姿が見える。
「キンジ!!」
「遙!?」
俺の声にキンジが振り向くと、目を見開き驚いている様子だ。
公共施設をバイクで走ってりゃそんな顔になるか・・・
左手をハンドルから離し、左側のサドルバックから半ヘルを取り出しキンジの方に投げる。そしてハーレーを少し減速させ叫ぶ。
「乗れキンジ!!」
「ッ!!」
キンジとすれ違う瞬間。キンジは俺の左肩に右手を置き、軸回転の要領で後ろに飛び乗るのを確認し、ハーレーの速度を先ほどと同じ速度に戻す。
「遙! お前何でここにいるんだよ!?」
「武偵殺しの目的と法則を考えて、そこから考えられる次の行動を絞って行くとここに行き着いた」
「遙は武偵殺しの目的が分かったのか!?」
「多分だけどな。武偵殺しはかなえさんに罪を被せる事でアリアをこのゲームに引きずり込んだ。チャリジャック以前に電波を傍受させ自分だっていう目印をつけアリアを誘導し、本来パートナーを必要とする性質を持ったアリアをキンジと言うパートナー候補に引き合わせた。だが、そんなことをするまでもなくアリアを殺す方法はいくらでもある。わざわざ強くなってしまうのにパートナー候補と引き合わせた理由はおそらく
「──ッ!!」
キンジが息を呑む中、ボーディングブリッジに差し掛かりブリッジの先にハッチが閉じつつあるボーイング737-350、ロンドン・ヒースロー空港行きが見える。このままではハッチが閉まるのに間に合いそうにない。
「キンジ!! しっかり捕まってろよッ!!」
キンジの返事を待たずにギアを上げ、アクセルをさらに捻り加速する。
ブリッジの左側に車体を寄せ残り少ない集中力を手繰り寄せ、感覚を研ぎ澄ます。
遅かったら飛行機に乗れず、早過ぎれば機内の壁に激突し負傷する可能性が高い。
「ッ!!」
息を吸い込み止めると、ハーレーを傾けブレーキを引きドリフト走行の要領で機内に滑り込む。ハーレーは機内の壁の角にタイヤをぶつかり床に倒れる形で止まり、それと同時にハッチが閉まる。
バクバクとなる不愉快な心臓の鼓動を無視して、半ヘルを脱いで投げ捨てる。
「もう二度とやんねーぞコレ!!」
転倒したハーレーから這い出て、閉じたハッチに凭れ掛かりやけくそ気味に叫ぶ。
て言うかなんで俺こんな事やってんだチクショー!!
基本的に今回の事件は俺の行動基準から外れているので、今回は俺が動く必要性は無いはずなのだが、なんで俺はバイクを飛ばして公共施設に乗り込むと言うリスクを背負ったんだっけ?
現実逃避しながらため息をつく。
「武偵だ! 離陸を中止しろ!」
近くにいる目を丸くした小柄のフライトアテンダントに、キンジが武偵徽章を突き付ける
「お、お客様!? 失礼ですが、ど、どういう──」
「説明しているヒマは無い! とにかく、この飛行機を止めるんだ!」
アテンダントは怯えた様子でうなずき2階に駆け上がっていく。
そしてキンジはその場で両膝を落とす。合流するまでずっと走っていたみたいだし
「体力落ちたなキンジ・・・」
「そっちこそ・・・
「怪我人に・・・無茶言いやがんなお前は・・・」
息も絶え絶えで軽口を叩き合う。あとは飛行機の離陸が中止されれば俺の役目は俺の推理をアリアに伝えて丸投げで俺の役目は終わりで良いだろうが・・・
ぐらり。
機体が揺れる。
動いたな・・・
「あ、あの・・・だ、ダメでしたぁ。き、規則で、このフェーズでは管制官からの命令でしか離陸を止めることはできないって、機長が・・・」
2階から先程のアテンダンドが、がくがくと震えながらこちらを見ている。
「ば、バッカヤロウ・・・!」
「ハハッ・・・最高だなコンチクショウ」
「う、撃たないでください! ていうかあなた達、本当に武偵なんですか? 「止めろだなんて、どこからも連絡貰ってないぞ!」って、機長に怒鳴られちゃいましたよぉ」
今拳銃で脅したところで機長はこちらを信用してないから止まらないだろう。それに窓の外を見るともう滑走路に出ている。ここで無理に止めたら他の飛行機と衝突しかねない。
「作戦を変えるぞキンジ」
「ああ・・・」
後手に回ったのなら後手にできる手を考える。
頭に酸素が回りだしたのを実感すると再び思考を回し始めた。
取り敢えず期待が飛び立ちベルト着用のサインが消えたので行動を起こす。
先ほどのアテンダントを落ち着かせ、別のアテンダントにハーレーを押し付けてから、アリアの個室に案内して貰う。
この飛行機のキャビン・デッキは普通の旅客機と違い、1階が広いバーになっており、2階の中央通路の左右には扉が並んでいる。
よくわからないが、何となく雰囲気で全席スィートクラスの豪華旅客機だということは理解できる。
「・・・き、キンジ!? 遙まで!?」
生花で飾り付けられたスィートルームでアリアが紅の目を見開き驚いている。
まず第1段階として合流はできた。
「・・・さすがリアル貴族様だな。これ、チケット、片道20万ぐらいするんだろ?」
こいつ何でこんなちっさいのにダブルベットなんだろう?
そんなどうでもいい疑問を頭の隅に追いやる。
アリアは座席から立ち上がりこちらを睨むのを、目を反らして受け流す。
「──断りもなく部屋に押し掛けてくるなんて、失礼よっ!」
「ごもっともなんだが・・・」
「お前に、その言葉を言う権利はないだろ」
俺たちの寮にいきなり押しかけてきて、ドレイになれって言ってきたのだから、押し掛けられて失礼だのなんだの言うのはアリアには権利がないだろう。
アリアもその考えに至ったのか、うぐ、と怒りながらも黙る。
「・・・なんでついてきたのよ」
「太陽はなんで昇る? 月は何故輝く?」
「うるさい! 答えないと風穴開けるわよ!」
それは以前アリア自身がキンジに向けて言った言葉だ。
その言葉に怒ったのか、ばっ、とスカートの裾に手をやる。その動きは間違いなく太もものホルスターから銃を引き抜こうとする動きだ。
このような方法で確認はできたくなかったが、それでもアリアに自営能力があるのを確認できたのは喜ばしい。
「武偵憲章第2条。依頼人との契約は絶対に守れ」
「・・・?」
「俺はこう約束した。
「なによ・・・何もできない、役立たずのくせに!」
がぅ! と、小さいライオンが吠えるようにアリアは犬歯を向く。
「帰りなさい! あんた達のおかげでよ──くわかったの、あたしはやっぱり『
「もうちょっと早く、そう言ってもらいたかったもんだな」
「本当にな。無駄な努力をさせられたもんだぜ・・・」
俺はそういうと窓の隣に凭れ掛かり、キンジもアリアの向かいの椅子に座る。
「・・・ロンドンに着いたらすぐ引き返しなさい。エコノミーのチケットぐらい、手切れ金がわりに買ってあげるからっ。 あんた達はもう他人! あたしに話しかけないこと!」
「はっ、そんなの俺らの勝手だろ? ロンドンなら懐かしい顔を訪ねるっての」
「それに元から他人だろ?」
「うるさい! しゃべるの禁止!」
「──お客様に、お詫び申し上げます。 当機は台風による乱気流を迂回するため、到着が30分ほど遅れることが予想されます──」
機内放送が流れ、飛行機ANA600便が少し揺れながら飛ぶ。
窓の外を見ると強い風と雨が窓を叩き、外の景色を滲ませ塗り潰していく。時折窓の外に青く滲んだ光が走る。
ガガーン!!
そして──
ガガガ──ン!!
一際大きい雷鳴が轟くと、アリアが目を丸くして、きゅっ、と首を縮める。
「怖いのか?」
「こ、怖いわけない。バッカみたい。ていうか話しかけないで。耳がイライラする」
キンジがアリアの容姿を見て声をかけると、気の弱い奴なら引き籠りになりかねないような返し方をする。
ガガ―ン!!
「きゃ!」
短く悲鳴を上げるアリアを見て、笑いをこらえる。キンジも苦笑しておりアリアの面白さを再確認する。
アリアは雷が苦手なようだ。覚えておけばそのうち弄れそうだ。
「雷が苦手ならベッドにもぐって震えてろよ」
「う、うるさい」
「ちびったりしたら一大事だぞ」
「バ、バ、バカ!」
ガガガ──ン!!
「──うあ!」
激しく響く雷にアリアはとうとう座席から飛び上がって、本当にベッドに潜り込んでいった。
ヤバい! 笑いが我慢できなくなる!!
「アリア―。替えのパンツ持ってるか?」
「ぶっ、ハーハッハハハ!! おしめの方が良いんじゃないか見た目的に!?」
「バカ! 2人ともあ、後で風穴開けてやるんだから!」
ガタガタと震えるアリアを見て面白がったかのように──
ガガ―ン!!
再び雷が鳴り響いたのは機長の操縦が下手なのか、よほど運がないのか判断に困る。
「~き、キンジぃ」
毛布の中から涙声を上げ、アリアは遂に席に座るキンジの袖を掴みだす。
その状況にキンジは若干ドギマギしているようで、取り敢えずキンジにロリコン疑惑を掛けておく。
「ほ、ほら、怯えんなって。テレビつけてやるよ」
キンジがリモコンで適当にテレビのチャンネルを変えていく。最新の映画やアニメが流れる中、キンジはなぜか時代劇のチャンネルで止める。
『この桜吹雪見覚えねえとは言わせねえぜ──!』
遠山金四郎
キンジのご先祖様であり遠山の金さんの愛称で親しまれた名奉行。
多分この人露出趣味があったんだろうな、ヒステリアのDNAを持っているのだとすれば桜の彫り物を見せつけるあの行動にも納得がいく。
「ほら、これでも見て気を紛らわせろよ」
「う、うん」
震えながら袖を掴むアリアに、キンジはどことなくときめいた雰囲気を出しており、その顔は武偵の物ではなく1人の男子高校生の物だ。
親友の青春に水を差すのも気が引けるので、顔を窓の方に逸らし目を閉じる。
「アリア」
「き、キンジ・・・?」
目を開けるとどんなラブコメが繰り広げられているのか気になるが、精神力をフル活動して意識を逸らし続ける。
その時──
パン! パァン!
機内に乾いた音が響き渡る。
雷でも、誰かが扉をノックする音でもない。
──銃声──
「ッ!!」
その音にキンジに対する気遣いをやめ目を開くと、部屋の扉を開け放ち通路に飛び出す。通路にはパニックになっていた。
12の個室から出てきた乗客達と、数人のアテンダントが不安げな顔で騒いでいる。
こんな状況で銃を撃たれたら・・・
怪我人だけなら良い。死者が出る可能性もあるし、もし窓でも撃たれたら最悪気圧の変化で墜落の可能性も十分に考えられる。
(ヤバい!!)
機体の前方の銃声がした方を見ると、コクピットの扉が開いている。
「!」
そこには、先ほどの小柄なフライトアテンダントがいた。
彼女は、ずる、ずるっと機長と副操縦士を引きずり出している。機長達は何をされたのか、全く動く気配がない。
どさ、どさ、と通路の床に2人を投げ捨てるアテンダントを見て、キンジはベレッタを抜くが、俺は何もできなかった。
目が放せなかった
認めたくない。信じたくない。
このような事実を受けいれたくはない
「──動くな!」
キンジの声にアテンダントは、にいッ、と特徴のない顔で笑う。
1つのウインクをして操縦室に引き返しながら、
「
彼女はしゃべりながら胸元から取り出した缶を放り投げる。
このしゃべり方は『武偵殺し』の物で間違いない。
認めたくないのに確証がどんどん集まってくる。
やめてくれ・・・!
「キンジッ! 遙!」
「ッ!?」
アリアの声に正気に戻る。
それと同時に、シュウゥゥゥ・・・! と先ほど投げられた缶からガスが放たれる。
咄嗟に息を吸い込みとめるが、ふと脳裏に夾竹桃の顔が浮かぶ。
だが即座にその考えを振り払う。
夾竹桃が使った様な
つまりフェイクだ。
だが・・・
「──みんな部屋に戻れ! ドアを閉めろ!」
キンジはアリアを部屋へ押し込むように戻りながら叫ぶが、俺は逆に前に進む。
(覚悟を決めろ!! なにも殺す訳じゃない。無力化するだけで良い!!)
俺はふと去年武藤が言っていたことを思い出す。
飛行機の換気口は壁の下の方に設置されており、エンジンから外の空気を取り入れ上から通し、下から機外に空気を逃がしているそうだ。それなら対処法はある。
右手を上げて、そこから唐突に振り下ろす。すると──
ガッ!!
右手が途中で
すると、あたりのガスの大半が下の方へ移動し、多少床から壁を伝い上ってくるが大した量じゃない。移動する『武偵殺し』を追いかけ走り出す。
「待て!!」
武偵殺しの背に手を伸ばす。武偵殺しの背まであと十数cmのところで、武偵殺しの足元にまた缶が落ちる。
フェイクか、それとも何か別の物なのか一瞬考えたが、思考を振り払い進む。
例えフェイクだろうと、別物だったとしても、捕まえてしまえば無力化できる。
「
無意識に、俺は『武偵殺し』の名前を呼んでいた。
気付いていた。アテンダントに扮する彼女に初めて会った時から気付いていたが、ただの偶然だと思い込み否定しようとしていた。
だが、彼女が行動を起こしてから確信してしまった。
彼女は峰理子だ。
そして、俺が彼女の名を呼んだと同時に、俺の網膜は焼かれ、耳を潰された。
そんな状態でも残りの十数センチの距離を詰め、捕まえようとするが俺の手は空を切るだけだった。