緋弾のアリア 黒の武偵   作:エイト☆5

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第36弾 バーでの戦闘は男の憧れの一つだと思う

 理子を取り逃し、閃光と大音響で目と耳を潰された俺は、その場で膝を付き回復するのを待っていた。

 迂闊にも忘れていた。目潰しが複数存在する可能性は考えていたが、理子と組み手をした時にハンデはあったが、それでも攻め切るのにかなりかかったのを失念していた。

 あれほどの実力があれば空間把握能力を喪失した人間の攻撃を避ける事は簡単だろう。

 

「クソッたれが・・・」

 

 かなりゆっくりとだが、視界と聴力が戻りだして来たその時、誰かに左肩を掴まれる。

 

「お・・・か! 大・・・ぶ・・・か!?」

 

 何を言っているのかわからないが、声的に今触れているのはキンジだろう。触れられている手に右手を乗せ和文モールスを簡単に打つ。

 

『スタン メトミミ ヤラレタ イドウスル カタカセ カイワ モールスデ』

 

 スタンで目と耳をやられた。移動するから肩を貸せ。会話はモールスで

 

 その文章はうまく通じたのか、左手を担がれ運ばれているのが分かる。移動しながら左手首に和文モールスを打たれているのが伝わってくる。

 

『ブテイゴロシ イッカイノバー イル モールス サソワレタ』

 

 武偵殺しは1階のバーにいる。モールスで誘われた

 

 誘われたと言う事は、やはり俺が可能性として予想した考えが当たっていたようだ。だが、そうなると気になるのはなぜアリアを、H家を超えたいかだ。

 キンジが『武偵殺し』の狙いに気付いたという事はおそらくヒステリアモードになったと言う事だろう。つまり理子は自分の情報を悟らせない程度に流し、そのうえで自身の女という武器を使い誘惑して見せたという事だ。そして、策を弄してまで超えようとするという事は真正面からでは勝てない、もしくは真正面から挑み1度負けたという事だろう。

 という事は理子はH家の誰かに捕まった者、もしくは捕まった者の子孫という事になる。

 

(H家に因縁を持つ者。それもイギリスやフランス圏内と仮定し、変装技術に男を手玉に取る手腕を持っている者?)

 

 あいにく歴史上の事件や偉人にはそこまで詳しくないし興味もあまりないジャンルであり、それも海外の話となればさらに知識は薄くなるのは目に見えている。

 だが、理子の条件に当て嵌りそうな人物は1人だけ心当たりがある。

 もしそうなら俺と理子はアリアに対し、かなり似た人間関係と言えるだろう。

 

「こいつはかったるいな・・・」

 

 共感性を覚える相手と対立しなけらばならない現実に深いため息をついた。

 

 

 


 

 

 1階のバーに到着する頃には、目は中心点が黒く塗りつぶされ、耳鳴りがするが最低限の行動くらいはできるほどに回復していた。

 バーは豪華に飾り付けられており、シャンデリアの下のカウンターに足を組んで座る彼女が居た。

 

「!?」

 

 拳銃を向けながら彼女を見てキンジとアリアは驚いてるようだが、俺はたいして驚きもしない。彼女が武偵校のフリルタップリのヒラヒラ改造制服を着ているなんてあまりにも普通過ぎるのだから。

 

「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねえ」

「素敵な空のデートをどうも。センスのいいデートは2人きりの時に願いたいぜ」

「くふ」

 

 俺の言葉に彼女は笑いをこぼし、ベリベリッと薄いマスクのような特殊メイクを剥がしていく。

 中から見慣れているいつもの彼女の素顔が現れる。

 

「──理子!?」

Bon soir(こんばんは)

Ce soir est aussi beau(今宵もお美しい事で)・・・」

 

 くいっ、と手にした青いカクテルを飲み、ぱちり、とウインクしてきた理子の言葉に、俺もフランス語に合わせて軽口を返す。

 

「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ。けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前達見たいな遺伝系の天才がけっこういる。でも・・・お前の一族は特別だよ、()()()()

「──!」

 

 決まりだ。

 理子はH家の事を英語読みではなく、フランス語読みをした。つまり他のは可能性止まりだがフランス圏の一族なのは確定だ。

 

「あんた・・・一体・・・何者・・・!」

 

 アリアの問いに理子はニヤリと笑みを浮かべる。

 その顔が窓から入る雷光によりはっきりと見える。

 

「理子・峰・リュパン4世──それが理子の本当の名前」

 

 アルセーヌ・リュパン

 一般人でも知っているフランスの大怪盗で、H家の初代と引き分けた存在。

 紳士にして冒険家であり、探偵かつ義賊であり、脱獄、変装の名人であり恋多き人物だと言うのは有名な話だろう。

 

 ただの予想に過ぎなかったはずなのに、ここまで当たってしまうのか・・・ 

 

「でも・・・家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方が、おかしいんだよ」

「おかしい・・・?」

 

 アリアが呟く。

 

「4世。4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人どもまで・・・理子をそう呼んでたんだよ。ひっどいよねぇ」

「なるほど。そりゃグレるわ・・・」

「どういう事よ・・・()()()()()()()()()

 

 同じ4世であるアリアはハッキリとその称号を誇りに言い放つが、理子はその言葉に目を見開く。

 

「──悪いに決まってんだろ!! ()()()()()()()!? あたしはただの、DNAかよ!? ()()()()()()()! ()()()()()()! どいつもこいつもよォ!」

 

 理子の俺達に向けられていない怒声がバーに響き渡る。

 その怒声は俺には悲痛な悲鳴に聞こえてしまう。

 

 やっぱり似ている。俺と理子の境遇は・・・ 

 

「曾お爺様を超えなければ一生あたしじゃない、『リュパンの曾孫』として扱われる。だからイ・ウーに入って、()()()を得た──()()()で、あたしはもぎ取るんだ──あたしをッ!」

 

 つまり彼女こう言いたい訳だ。

 初代が引き分けた相手の曾孫に勝てば、自身は初代を超えたことになり『4世』ではなく『峰理子』という自己を他者に認めさせられる。

 

 なんて哀れで、幼稚で、短略的で、不確かな考えだろう。

 なんて報われない子なのだろうか。

 俺は心底そう思ってしまう。

 

「待て、待ってくれ。お前は何を言っているんだ・・・? オルメスって、イ・ウーって何だ、『武偵殺し』は・・・本当に、お前の仕業だったのかよ!?」

「・・・『武偵殺し』? ・・・ああ、あんなの」

 

 じろっと理子はアリアを見る。

 

「プロローグを兼ねお遊びだよ。本命はオルメス()()──アリア。お前だ」

 

 理子のその目は普段の理子の目とは違う。

 その目は間違いなく獲物を捕らえた狩人の目だ。

 

「100年前、曾お爺さま同士の対決は引き分けだった。つまり、オルメス4世を斃せば、あたしは曾お爺さまを超えたことを証明できる。キンジ・・・お前もちゃんと役割を果たせよ?」

 

 狩人の目がアリアから外れキンジに向けられる。

 

「オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。だから条件を合わせるために、お前をくっつけてやったんだよ」

「俺とアリアを、お前が・・・?」

「そっ」

 

 その瞬間、理子はいつもの軽い調子に戻り、くふ、と笑う。 

 ずっと彼女は被ってきたのか。東京武偵校探偵科(インケスタ)1の馬鹿『峰理子』という仮面を・・・

 

「キンジのチャリに爆弾を仕掛けて、わっかりやすぅーい電波を出してあげたの」

「・・・あたしが『武偵殺し』の電波を追ってることに気づいてたのね・・・!」

「そりゃ気づくよぉー。あんなに堂々と通信科(コネクト)に出入りしてればねえー。でもキンジがあんまり乗り気じゃないみたいだったから・・・バスジャックで協力させてあげたんだぁ」

「バスジャックも!?」

 

「キンジぃー、武偵はどんな理由があっても、人に腕時計を預けちゃダメだよ? 狂った時間を見たら、バスにチコクしちゃうぞー?」

 

 そういえばバスジャックの日、結構ギリギリに寮を出たのに、キンジはなぜかまだ余裕といった態度だった。

 あれはそういう事だったのか・・・

 

「何もかも・・・お前の計画通りってワケかよ・・・!」

「んー。そうでもないよ? 予想外のこともあったもん。チャリジャックで出会わせて、バスジャックでチームも組ませたのに──キンジとアリアがくっつききらなかったのは、計算外だったの。それに──」

 

 理子はその言葉と共にこちらに視線を移動させる。

 その目はどこか忌々しい物を見る様なそんな視線だ。

 

「今回の最大のイレギュラーはお前だ遙。パートナーのセカンドプランとしてアリアと出会わせようとすれば計画以前に勝手に出会うから急ごしらえの襲撃になったし。そうかと思えば予想以上に合わなさ過ぎて勝手に決闘しだして最終的にパートナーにならない方向で和解するし。無理にパートナーになりやすいように情報を流そうとしたら自力で流そうとした以上の情報にたどり着いてるし。ヤバいと思って毒を盛れば次の日もケロッとしてるし。かと思えば積極的にかかわって来る訳でも無くあくまで巻き込まれただけだって状況だし。放っておいたら夾竹桃の方に絡んでいるし。何なんだお前は!?」

 

 毒ってのはたぶんラクーングランドホテルの時のあの吐き気だよな? 

『武偵殺し』の事件に関しては、正直巻き込まれたから情報を集めて警戒しただけで、俺自身に直接的な関係性はほぼ皆無だから関わる気が無かっただけだし・・・

 

「無敵だねーHAHAHA!」

 

 なんとなく出た言葉にエセ外国人風の笑いを乗せ理子の問いに対し提示する。

 微妙な笑みが浮かんでいる理子の顔に青筋が浮かぶ。

 

 ハッハッハッ! オコですオコ!! 

 

 これ以上俺と話していても無駄だと感じたのか、眼輪筋を若干ぴくぴくと痙攣させキンジとアリアの方に視線を戻す。

 

「他にも、理子が()()()お兄さんの話を出すまで動かなかったのは、意外だった」

「・・・兄さんを、お前が・・・お前が・・・!?」

 

 その言葉に、俺の血の気が一瞬で引いた。

 キンジの顔付きが明らかに変わった。そう、キンジは兄である金一さんを傍から見たら崇拝に少し近い勢いで尊敬しており、彼を侮辱されると冷静さを欠いてしまうのがキンジの弱点だ。

 そして、理子は今自身で襲った相手を、金一さんを引き合いにキンジを煽ってきている。

 

「くふ。ほらアリア。パートナーさんが怒ってるよぉー? 一緒に戦ってあげなよー!」

 

 さすがアルセーヌ・リュパンの末裔。言われて嫌な事を良く理解している。

 これはふざけてる場合じゃなさそうだ。

 

「キンジ。いいこと教えてあげる。あのね。あなたのお兄さんは・・・今、理子の恋人なの」

「いいかげんにしろ!」

「キンジ! 理子はあたしたちを挑発してるわ! 落ち着きなさい!」

「これがおちついて──」

 

 パァァンッ!! 

 

 振り切った右手がビリビリと不快な痺れを訴えかけてくる。

 俺の行動に驚いたのかキンジとアリアはこちらを見て目を見開いている。

 

「はる、か・・・?」

「感情に飲まれるな。飲み込め。心理戦は先に自分を見せた方が負けだ。心理戦の負けは戦闘の負けに直結する。だから、心に炎を、頭には氷を忘れるな」

 

 フィクションの世界では基本的に復讐を目的に行動すると負けるイメージがあるのは、実際には怒りやそれに準ずる感情に思考を引っ張られるからであり、その感情をコントロールさえできればフィクションの世界のような絶対的敗北には繋がらない。

 故に、目的はどのような物であっても、思考から感情は引き離すべきだというのが俺の持論だ。

 

 ただ、俺自身がそれを最近は実行できていないが・・・

 

 その時、俺の隣を何かが通過していき、キンジのベレッタが吹き飛ばされ、ガシャン! ガシャッ、と破壊された残骸が床に散らばる。

 

「良いこと言うじゃん遙! 強者の余裕ぅー? けど、そんなの触れられたくない物がない人だから言えるんだよねぇー」

 

 理子のその手には拳銃が、ワルサーP99が握られており、軽く銃口に息を吹きかけると手の中で遊ばせる。

 

「あいにく経験済みだから言ってんだよ。触れられたくない場所を隠してるだけだっての。あと煽りたいならもっと小ばかにしたように言うんだな、そんなんじゃ響かねーぞ。まっ、今回に限って言えばこの2人がいる限りは手を出す気は無いけどな・・・」

「遙ってばおっとな~! それならこれでもまだ言える? 実は・・・」

 

 理子が無駄に溜めて何か言おうとするが、俺自身に参加する積もりがないので意味は無いのだが・・・

 

「今、イ・ウーに『吉野菜月(よしのなつき)』ちゃんが居るんだよねぇー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白い事言ってくれんじゃねーか理子」

 

 吉野菜月(よしのなつき)

 俺が家を出たと同時に姿を消した俺の妹であり、吉野家の長女であり、俺が家を出ることが決まった際に最も激怒した人間だ。

 

 まぁ、芙雪以外は全員激怒していたんだが・・・

 

 たとえ喧嘩別れみたいな状態だったとしても、どれだけ罵られたとしても、妹が犯罪を犯したような連中がいる組織にいるって聞いて放って置けるわけがない。

 

「よし! 行けキンジ! アリア! 俺の代わりに理子にヤキをぶち込むのだ!!」

「ちょっと! なにアンタがあたしに命令してんのよ!」

「おいキンジ何やってんだ? あいつはお前の兄貴を馬鹿にしたんだぞ!? 冷静な振りして、遠慮せずにぶん殴ってやれ!!」

「言ってる事をアッサリ反転させるな!! 自分でやれよ!!」

「遙ちゃんは有言実行の子なんだよ!! さっさと行け!!」

 

 2人に指示を飛ばしながら、理子を指す。理子本人は漫才の様なやり取りをする俺とキンジの方を見ており、完全にではないが意識が俺とキンジに固定されている。

 このタイミングを逃すようならSランクにまで上り詰められる訳がない。詰まり──

 

「──ッ!!」

 

 アリアが床を蹴り、理子の方に飛び出していく。その手には二丁拳銃、ガバメントクローンが握られている。ワルサーP99の装弾数は16発。それに対しガバメントは7発、予め薬室(チェンバ―)に1発争点していたとして8発、その2倍の16発。弾数なら互角だが、理子が1発撃つのに対しアリアはそれぞれ違う場所から1発ずつ撃てる。弾数の総合計は一緒だが手数で言うならアリアの方が優位だ。

 だが──

 

「アリア、二丁拳銃が自分だけだと思っちゃダメだよ?」

 

 理子はカクテルグラスを投げ捨てると、その手でもう一丁ワルサーP99をスカートから取り出す。

 

「!」

「チッ・・・」

 

 俺は軽く舌打ちをする。

 ワルサーP99の二丁。16発の2倍の32発で、手数も2つとアリアと同じ。違いは弾数だけになった。武偵の戦闘は基本的に防弾制服を着ている性質上、銃は()()()()となり、一撃必殺とはなりえない。故に銃戦闘では総弾数がモノをいう。

 アリアが不利。だが、ここで止まる事はできない。動いた事を理子は理解している。つまり、攻撃に対する警戒態勢ができているので、止まるのは理子が有利だと認めることになる。その状況になってしまえばもう攻勢に出ることはできない。故に止まれない。

 

 バリバリバリッ! 

 

 アリアは理子を至近距離から銃撃戦に持ち込む。

 

「くッ・・・このっ!」

「あはっ、あははははははっ!!」

 

 アリアと理子は至近距離から銃撃戦による攻防を繰り広げる。

 時に射撃戦を避け、躱し、相手の手を逸らし、腕を弾きせめぎ合う。

 

 武偵法9条 

 武偵はいかなる場合でもその武偵活動中に人を殺害してはならない。

 それ故に、アリアは理子の頭部を狙えない。

 そして理子もそれに合わせてか、アリアの頭部を狙わない。

 その動きはまるで格闘技の様に荒々しく、その状況に慢心も傲りも存在しない、全力であるが故の美しさがあった。

 

 放たれる銃弾は互いの体を捉えず、壁や床、天井に着弾していく。

 

「──はっ!」

 

 次の瞬間、弾切れをおこしたアリアは両脇で理子の両腕を抱える。

 2人は抱き合うような姿勢になり銃声が止む。

 俺が懸念していたのは、理子の中国拳法(クンフー)における実力だったが、近接格闘に置いて強襲科(アサルト)のSランクであるアリアの方が実戦というキャリアが大きく上回っている。このまま押し切れるだろう。

 

「キンジ!」

 

 俺は戦う気がないのを理解しているからなのか、アリアはキンジの名前だけを呼ぶ。

 ジャキッ、とキンジは金一さんの形見であるバタフライ・ナイフを手の中で回転させて開く。ナイフの刀身は非常等の光が反射し赤く輝く。

 

「そこまでだ理子」

 

 キンジはアリアの背後に突き出た拳銃に注意しながら、慎重に近づいていく。

 

双剣双銃(カドラ)──奇偶よね、アリア」

 

 理子が不意に語りだす。

 

「理子とアリアは色んなところが似てる。家系、キュートな姿、それと・・・2つ名」

「?」

「あたしも同じ名前を持ってるのよ『双剣双銃(カドラ)の理子』。でもねアリア」

 

 キンジの足は止まり、俺は目を見開く。

 なんだこれは・・・

 

「アリアの双剣双銃(カドラ)は本物じゃない。お前はまだしらない。()()()のことを──!」

 

 しゅる・・・しゅるるるっ

 笑う理子のツーサイドアップのテールの片方が、まるで神話のメデューサのように動く。

 そして──

 

 シャッ! 

 

 っと、背後に隠していたと思われるナイフでアリアの襲いかかる。

 

「!」

 

 1撃目は、驚きながらもなんとかよけたアリアだったが──

 

 ザシュッ! 

 

 反対のテールに握られたもう1本のナイフがアリアの頭に鮮血を飛び散らせた。

 

「うあっ!」

 

 アリアが真後ろにのけぞる。

 側頭部から(あか)い鮮血ほとばしらせ。

 

「あは・・・あはは・・・曾お爺様。108年の歳月は、こうも子孫に差を作っちゃうもんなんだね。勝負にならない。コイツ、パートナーどころか、自分の()すら使えてない! 勝てる! 勝てるよ! 理子は今日、理子になれる! あは、あはは、あははははははは!!」

 

 理子は歓喜の叫びを上げ、アリアをこちらの方に突き飛ばす。理子の髪はかなりの力があるのか、キンジの足元にアリアの体が落下する

 アリアの負傷は幸いそこまで酷い物じゃない。本業じゃなかったとしても武偵の応急処置があれば、即刻動けるなるほどの物だ。

 

「アリア・・・アリア!」

 

 キンジはアリアの体を抱きかかえている。

 不味いな・・・

 

 俺が戦闘に参加しなかった理由は、武偵殺しに巻き込まれただけで興味が然程なかったからだけではない。

 俺の足は怪我が完治した訳ではない。おそらく全力で走れば10歩も持たずにぶっ壊れるだろう。俺の戦闘スタイルではまともに戦闘ができるかすらわからない。

 

「クソッたれ・・・」

 

 俺の状況じゃ仮に戦闘ができたとしても、理子の実力じゃ押し負けるのが目に見えている。

 だが、もしアリアが復活したのなら、キンジが冷静に対処できる状況なのなら、理子にも勝ち目はあるが、今の状況では負けるだけだ。負ければこの飛行機の乗客に未来は無い。

 

 仕方がない・・・

 

「キンジッ!!」

 

 キンジの名を叫ぶと、こちらに振り向く。

 それと同時にズボンの後ろポケットから、灰色のマッチの頭薬(とうやく)程のサイズの機械をコイントスの要領で弾く。

 小型の機械は理子の額にぶつかると、キュイイイイン! と言った音を発しながら一瞬だけ世界を白く染めるカメラのフラッシュの様な閃光を放つ。

 だが、それは俺が先ほど理子に食らった閃光手榴弾(スタングレネード)と比べると規模は小さく、精々爆竹より少し脅かす要素があるかどうかだろう。

 だが至近距離で作動すれば、網膜を焼き耳を潰す程度の働きはしてくれる。

 キンジはこちらを向いているので、なかっただろうが間違えても被害がいくことは無い。

 

「くッ・・・!」

 

 理子は耳を抑えて少し後退する。

 閃光手榴弾(スタングレネード)に比べると持続時間は少ないが隙は作れる。

 

「キンジッ!! 行けッ!!」

 

 俺は後ろの通路の方を指さし叫ぶ。

 キンジは俺の顔と通路の方を見比べると、一瞬迷った表情をするが覚悟を決めたようだ。

 

「悪い。あと頼む!」

「頼まれた!」

 

 キンジはアリアを抱え通路の方に走っていき、完全に姿が見えなくなる。

 そろそろ理子のスタンの効果も切れる頃だ。

 

「さてと・・・」

 

 誰もいなくなった通路を背に、俺はいつもの様に虚勢を張る。

 

「殺さねぇ程度に加減してやらぁ!」

 

 その口角は確実に上がっているのに、俺はしばらく気付く事ができなかった。

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