緋弾のアリア 黒の武偵   作:エイト☆5

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第42弾 最近佐々木さんが面白い事になってるみたいだが何かあった?

 ~side 佐々木志乃~

 

 ANA600便の不時着から2週間程が経過した。

 あれ程に重体な状態だった吉野先輩は驚異的な回復力を見せ、完治とはいかないがたった2週間で退院すると言った離れ業をやってのけた。先輩には本当に人間なのか問い質したい所だ。

 私達は夾竹桃の逮捕からこれと言った出来事もなく、割といつも通りの毎日だった。

 ある一部を除いて・・・

 

「・・・・・・」

 

 あの日私は、私達は吉野先輩に助けられた。吉野先輩は「俺が居なくても結果は変わらなかった」と言っていたが、それでも私達が先輩に頭が上がらなくなった事には変わりない。

 それと同時に、吉野先輩に被さられる様に庇われたあの時の、朦朧とした意識の中で見た吉野先輩の顔をふとした時に思い出すようになってしまった。

 あのいつものおどけた態度や表情とは違う、真剣その物な表情を思い出すたびに顔が熱くなり、気恥ずかしさを覚える。

 

「──ッ!」

 

 それがどうしようもなく腹立たしい。私はあかりちゃんの事だけを考えていたいのに、あかりちゃんの事を考えるとどうしてもあの時の吉野先輩の顔がチラついて考える事が出来なくなってしまう。

 そんな苛立ちを発散を兼ねておしゃべりでもしようとあかりちゃんを探していると──

 

「吉野先輩! これののかが作ったお弁当です!」

「おっ! サンキュあかりちゃん! 楽しみにしてたぜ!」

 

 私の苛立ちの原因が私の癒しと一緒にいるところに遭遇し、反射的に廊下の角に身を隠す。

 一体何の話をしているのか聞き耳を立ててみる。

 

「次の土曜日予定空いてる? この間アリアと相談して決めたんだが、俺があかりちゃんの技の矯正を担当する事になったんだ」

「吉野先輩がですか? 良いんですか? あたしの技の矯正に付き合って貰って・・・」

「良いんです。正直去年までで武偵になった目的も達成できたし、自主練も限界見えてたしな。伸びしろのない人間を鍛え続けるより、君みたいな将来有望で伸びしろのある人間を鍛えた方が建設的だしな・・・」

「でも、危ないですし・・・」

「君の技を形までなら完全にトレースできる俺が食らうとでも? それに自分との向き合いとサンドバックの相手が基本だからその辺は心配する事ないよ」

「・・・土曜日ですよね? 特に予定は無いですよ」

「よし! じゃあ土曜日に学園島の駅前に9時集合で良いかな?」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 吉野先輩とあかりちゃんは一通り話を終えると離れていく。

 

 この状況は非常にまずい。

 吉野先輩とあかりちゃんが()()()()で特訓なんてしたら良くない事が起きるかもしれない。吉野先輩本人が直接あかりちゃんに何かするとは思えないし、そのような度胸があるとも思わない。

 だが

 偶然そういう状況にならないとも言い切れないし、有り得ないと思いたいがあかりちゃんの方から迫った場合に吉野先輩が断り切れると断言できない。

 もしあかりちゃんと吉野先輩が男女の仲になんてなってしまえば・・・

 

() () () () () () () () () () () () () () () () ()

 

 それだけは避けないといけない。

 その思考が頭に過ったと同時に私は吉野先輩の後を走って追いかける。いつもの様に呑気に鼻歌を歌いながら屋上への階段を上がっていく吉野先輩を、階段の最上階の踊り場で捕まえる。

 

「吉野先輩!」

「ん? あぁ佐々木さ・・・ン!?」

 

 吉野先輩がこちらに振り向くと同時に、先輩の本来の性格からなのか、少し怯えにも似た驚きの声を上げる。今の私はそれ程までに恐ろしい顔をしているのか少し問い詰めたくもあるが今は放置しておく。

 私は吉野先輩を壁際に追いやるとあかりちゃんとの先ほどの話を問い詰める。

 

「先程、土曜日にあかりちゃんと()()()お出掛けすると言う話していたようですね?」

「え? いや、えっと、あー・・・」

()()()お出掛けするって言ってましたよね?」

「おっしゃる通りでございます」

 

 少し強めに迫るとあっさりと肯定した。この程度の迫り方に口を割る辺りを見ると、本当に武偵として活動できているのか気になるところではあるがそれは置いておく。

 

「私「あかりちゃんに手を出したら、どうなっても知りませんから」って言いましたよね?」

「待て待て待て! 俺はあかりちゃんに手なんか出してないからね!? 俺もあかりちゃんも先輩後輩以上の感情は無いからね!?」

 

 吉野先輩は私の言葉に焦って否定の言葉を出す。やはりこの先輩の様子を見ているとあかりちゃんに限らず女性に手を出せる程の度胸があるとは思えない。

 

「吉野先輩の事はある程度信頼していますが、正直女性関係については全く信用していません」

 

 吉野先輩については基本的に浮ついた話を聞く事は無いが、実際に観察してみると友人関係の大半が女性で構成されており、本人の性格を考えるとあり得ないと思うがそれでも不安がある。

 それに吉野先輩は男性だ。女性である私達と全てとは言わないが考え方が違う部分もあるだろう。私達とは当然感覚も違うだろうからいくら吉野先輩と言えど何かの勢みで間違いが起こらないとも言い切れない。

 

「そんな人とあかりちゃんを2人きりになんて出来ません!」

「なら一緒に来る?」

 

 少し勢いよく言っていると、吉野先輩はふと思いついたかのように切り出してくる。本当に何となく頭に過ったことが気付いたら口から洩れていたような風だった。

 

「あかりちゃんに対しては直接技を観つつアドバイス程度で矯正を調整する積もりだったし、反復練習中は俺はする事が無いからどうしようかと思ってたけど、佐々木さんが来てくれるならその時間も有効活用できるし良いな。佐々木さん! 良かったら佐々木さんも来てくれないか?」

 

 吉野先輩はふと思付いた事を改めて考えたのか、利益が思っていた以上にあったのか少しテンションが上がった様子で、こちらから無理にでも同行しようとしてたのに、むしろ先輩の方から私を頼んでくる状況に驚かされた。

 

「い、良いんですか?」

「もちろん! むしろ来てくれないとちょっと困るくらいだし・・・」

 

 吉野先輩が不慮の事故であかりちゃんとその様な状況になったとしても、私がその場にいるのだから止める事もできるだろうし、なによりあかりちゃんと一緒にいる時間が増える。

 私には吉野先輩の誘いを断る理由は無かった。

 

 

 


 

 土曜日

 

 吉野先輩達との約束の時間である10時よりも1時間も早く、待ち合わせ場所である学園島のモノレールの駅に来ていた。

 今日は私服で白色のロングスカートと灰色のニットのセーターに、上から茶色のジャケットを羽織り、少し気合を入れると共に、念の為に運動着や水筒を入れたカバンを持ってきていた。

 確かに楽しみにしていたがよく考えると、なぜ1時間も前から出たのか分からない。あかりちゃんとの待ち合わせの時でもこんなに早く出た事は無いのに、それだけあの2人が心配だったのか、それとも何か別の理由があったのか、私自身にもよくわからない。

 

「・・・・・・」

 

 私にとって吉野先輩はどういう存在なのだろう。あかりちゃんはもちろん、ライカさんや麒麟さんも私にとって大切なお友達だ。なら吉野先輩は何なのだろう。

 最初はライカさんの憧れの先輩であり、あかりちゃんからも信頼されている傲慢で気に入らない先輩だった。

 その次に感じたのは駄目な点を実際に見せる事によって、意識的に駄目な点を改善させる為に敢えてきつい言い方たや、人に嫌われそうな言い方をする損な人間性ながらも指導者に向いた人だと思った。

 その次の印象は、決して正義の味方と呼べる人間ではないが、気に入った人間の為なら名声や立場を捨て、国だろうが何だろうが敵に回す事も厭わない、誰かにとっての味方だと感じた。

 その次に会った時にはもう分からなくなっていた。頼りになる先輩なのは確かだ。話し掛けやすく、良い意味で先輩らしくない。Sランクと言う肩書を笠に着ている訳でもなく、心配性で誰かが傷つく可能性を1%でも下げる為に全力を尽くし、私みたいな失礼だと言われても仕方ない態度を取っても怒る事もせず気にかけるお人好しだ。

 だが、それは私だけでなく、あかりちゃんやライカさんも同じような感想を抱いているだろう。吉野先輩に対する私のイメージと言うより、吉野先輩本人のパブリックイメージなのだろう。

 

「吉野先輩って一体・・・」

「ただの男子生徒Aですが何か?」

 

 ふと呟いたその時、背後からその呟きに答えが返って来たので驚きつつ振り返る。そこにはいつもの制服ではなく、白いシャツと銀色のボタンやチャックが多めに付いているフード付きのジャケット、黒い綿パンに黒いウエストポーチと言うどこかで見覚えのあるような恰好をしている吉野先輩がいた。

 

「吉野先輩!? どうしてこんな早い時間に・・・」

「佐々木さんの性格を考えて予定よりも早い時間に来るかと思ったから、ちょっと前に来て待機してたんだよ。レディーのエスコートは紳士の基本ですから!」

 

 吉野先輩はいつもと変わらない様子で言って来る。なんでこんなにナチュラルに女子とは言え武偵をここまで女の子扱いできるのか疑問だ。

 まぁ私だけではなくあかりちゃんやライカさんにも似た様な事を言っているので、よっぽどの女好きか天然かのどちらかだろう。

 

「あかりちゃんの技の矯正って何をするつもりなんですか?」

 

 取り敢えず私の独り言を追求されたくないので話を逸らすのも兼ねて、気になっていた事を聞いてみる。

 

「取り敢えずあかりちゃんの技を1つずつ対処し、技を使ってもいい相手だと本能レベルで理解させるのが第1段階かな。その為にあかりちゃんの技に近い技を実際に見せてみようと思ってる」

 

 吉野先輩はなんて事ないといった様に言うが、その発言は私に「自分はあかりちゃんと同じく、殺しの技が使える」と言っているような物だ。

 夾竹桃の時の話や、あかりちゃんの技の矯正の話を聞いた時に、もしかしたらそうかも知れないとは少し思ったが、今の吉野先輩の話はその想像を裏付けるに足るものだった。

 だが、吉野先輩がそんな簡単なミスをするとは思えない。これは吉野先輩に信頼されていると思っていいのか、それとも別の理由があるのだろうか・・・

 

「今日はその第1段階をクリアしたら、後はあかりちゃん本人に矯正のコツだけ教えて丸投げだな。自分で技の矯正や改造ができないと技が通じない相手が現れた時に不安が残るし・・・」

 

 それは尤な判断だ。技は基本的に形がある程度決まっている。その形さえ知っていれば対処法も考えやすくなるだろう。そんな相手が目の前に現れた時、最も重要になるのは応用性だろう。

 技を出すタイミング、技をどこに使うか、技でどのような効果を狙うか、技の形を崩しどのような形に再構成をするか、技を状況に合わせ形を変えた上でその技と同じ効果をどう発揮させるか、その全て学ぶというのなら吉野先輩のやり方は合理的だ。

 

「なら私が呼ばれた理由って・・・」

「そっ、あかりちゃんが自分の技の矯正中に俺が暇になるから、佐々木さんに俺の自主練に付き合って貰いつつ佐々木さんの剣術の上達を図るって感じかな・・・」

 

 まさかここまで考えていたとは思わなかった。基本的にふざけている態度を取っているが、時と場合によっては恐ろしい程に合理的な判断をする事がある。1つの行動やスケジュールに2つ以上の効果を生み出す様な事を平然とやってしまう。

 

「吉野先輩は何で私の上達を選んだんですか?」

「と言いますと?」

「私じゃなくても、ライカさんや麒麟さんの上達を図るって言う考えもあったんじゃないんですか?」

「あぁ、そういう事か・・・」

 

 吉野先輩は軽く溜息を付きつつ「かったるいなぁ・・・」と小声で呟きつつ頭を掻く。

 

「ライカは基本的に教えられる事がほぼ無い。むしろ俺のスタイルを教えるとライカのスタイルが大きく崩れるから教えない方が良い。麒麟ちゃんはまず前線に立つタイプじゃないからライカ以上に教えられる物がない。むしろ俺が教わる事になりそうだけど、それでも俺が教わって扱いきれそうな物が無さそうだったからあの2人には声を掛けなかった」

 

 そこまで言うと目線を逸らして一息付き続ける。

 

「それに比べると、佐々木さんのスタイルは俺と近い物があるし、教えられる事が結構ある。しかもまだ発展途上みたいだし君達の中で1番佐々木さんの伸びしろがあると思った。だから佐々木さん呼んだんだよ」

 

 吉野先輩は終始こちらを見ることなくそう告げる。その行動が恥ずかしさからなのだと思うと今まで先輩に対して抱いた事がなかった『可愛い』と言う感情を抱いてしまった。

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