緋弾のアリア 黒の武偵   作:エイト☆5

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第43弾 矯正の初めはまず指導者から

 ~side 間宮あかり~

 

 吉野先輩との待ち合わせの時間が迫って来ていたので、急ぎ気味で駅まで行くと何故か吉野先輩と志乃ちゃんが仲良さげに話していた。

 吉野先輩は兎も角、志乃ちゃんはどことなく当たりが強いイメージを持っていたが、意外と仲の良さそうに話をしているのであたしの心配は杞憂だったみたいだ。

 

「よっす! おはよう。あかりちゃん!」

「おはようごいございます。あかりさん!」

 

 こちらに気付いた2人が呼びかけてくれるので、こちらも呼びかけに返す。

 

「おはようございます! 吉野先輩! 志乃ちゃん!」

 

 朝の挨拶を終わらせると、改めて2人を見て新鮮さを覚える。

 

「・・・・・・」

「ん? どうかした?」

「いや、なんか2人の私服を見るのって新鮮だなーって・・・」

「それを言うなら君達の私服なんて初めて見たぜ? 2人とも良く似合ってるよ!」

 

 吉野先輩に褒められ改めて今日のファッションを確認する。ベージュ柄のショートパンツに白いシャツ、上から水色のパーカーを羽織り、背中には水筒や運動着を入れたリュックサックを背負っており、志乃ちゃんの格好と比べるとラフ過ぎる格好だ。

 正直これで似合うと言われても微妙なとこだが、褒められているのだから良しとしよう。

 

「さて行こうか! 時間はいくらあっても足りないからな!」

 

 歩き出す吉野先輩を追いかけるように駅へと向かっていった。

 

 

 


 

 

 モノレールから電車に乗り換え十数分。江戸川駅から歩いて数分の某所をあたし達は歩いていた。

 

「吉野先輩。あたし達どこに向かってるんですか?」

「ん? 去年俺が依頼(クエスト)で知り合った人のとこ。去年まで危ない人達のたまり場になってたビルのオーナーで、俺が危ない人達を駆除をした時に、武術を嗜む人達を対象にしたレンタルスペースにすればって提案をしてさ。それでそのレンタルペースは武偵に割引が付くし、知り合いの所だからある程度の好きにやれるからな」

「その人って、危ない人じゃないんですよね?」

「もちろん! オーナー本人はいたって善良で優しい人だよ。寧ろそれが祟って付け込まれたって感じかな? だからこそ用心棒的意味合いを込めて武術経験者を対象にしたり武偵の割引を提案したんだけどな・・・」

 

 確かに、武偵は拝金主義な一面もあるが基本的に警察に近い組織でもある。基本的に自分に関係なければ動く事もあまりないが、公の場で露骨な事をすれば犯罪対策に設立された武偵と言う職種は黙っていない。それに、武術を嗜む人達は全てとは言わないが正義感の強い人達もいるだろう。そう考えると吉野先輩の提案は悪くない。武偵が出入りしやすい環境を作り、更に武術を嗜む人間を対象にする事で被害を最小限にし止められる人間を1人でも増やす合理的な案だ。

 

「さて、着いたぞここだ!」

 

 吉野先輩があるビルの前で足を止めるのであたし達も立ち止まる。

 

『レンタルスペース平岡』

 

 ビルの正面口に大きな看板が掛けられており、大きく名詞らしきものが書かれて居るのでおそらくそれがこのビルの名前なのだろう。

 吉野先輩がビルの中に入って行くのをあたし達も追いかける。ビルの中は意外にきれいで、フロントには観葉植物や自動販売機、休憩室の様なベンチや机が設置され、入り口の近くにはカウンターがあり、見るからに優しそうな50代前後の初老の男性が受付をしていた。

 

「お久しぶりです平岡さん」

「やぁ、お久しぶり吉野くん。そちらのお2人は吉野くんの彼女さんかな?」

「「なっ!?」」

 

 平岡さんと呼ばれた男性の発言にあたし達は驚きの声を上げる。志乃ちゃんの方を見ると驚きの表情で顔を赤くして固まっている。多分あたしの方も似たような表情をしているのだろう。

 

「俺にこんな可愛い女の子達は勿体ないですよ。こっちの2人は俺の後輩です。期待のルーキーなんで良かったら覚えておいてあげてください!」

「ほう、吉野くんが期待する程の武偵なのかい? それは忘れる訳にはいかないねぇ」

「はい。彼女たちは確実にいい武偵になりますよ。良かったら何かあった時に使ってやってください」

「何もない方が良いけどねぇ。何かあったよろしくお願いするね?」

「「はい!」」

 

 吉野先輩はあたし達を少し過剰なくらいに売り込む。

 先輩の言葉がどこまで本気なのか分からないが、少なからずそう思ってくれている事が嬉しかった。ここまで言ってくれる吉野先輩の期待にこたえたいと強く思う。

 吉野先輩によるあたし達の売り込みが終わり、本題の方へと話題が移る。

 

「お願いしていた物ってありますか?」

「あぁ、君達の部屋に運んであるよ」

「ありがとうございます! 部屋番号は・・・」

「5階の1番手前の右の部屋だよ。ここのシステム覚えているよね?」

「もちろん。何かあったらよろしくお願いします。じゃ行こうか」

 

 吉野先輩は軽くお辞儀してエレベーターの方に歩いていく。あたし達も先輩の後を追いエレベーターに向かう。エレベーターの中に入り数秒後5階で降り、指定された部屋へと入る。

 その部屋は16畳以上ありそうで、扉の近くには靴箱が設置され床にはジョイントマットが敷かれ天井からサンドバックが繋がれており、部屋の隅には竹刀やプロテクターなどが置かれていた。

 確かに特訓には丁度いい環境だ。

 

「さてさて、その様子じゃ運動着は持ってきてるんだろ? 俺は外で待ってるから着替えたら声を掛けてくれ」

 

 吉野先輩はそれだけを言い残すと部屋を出て行ってしまう。

 あたし達は持って来ていた運動着に着替える。パーカーを脱ぎシャツを脱ごうとしつつ、先ほどから気になっていた事をジャケットを脱ごうとする志乃ちゃんに問い掛ける。

 

「志乃ちゃんは吉野先輩が、あたし達の事をあんな風に思ってたなんて知ってた?」

「いえ、私も少なからず期待されているとは思っていましたが、あんなに期待されてるなんて思っていませんでした」

「吉野先輩の期待に応えられるくらい、強くなりたいね・・・」

「そう、ですね・・・」

 

 あたし達は自身の気持ちを確認し合うと、手早く運動着に着替えた。

 

 

 


 

 5分後

 ~side 吉野遙~

 

 部屋を出て暫く経った。俺はあの子達と違い運動着を持って来ていないので、ジャケットを脱いで腰に巻く程度でとどめておく。十全とは言わないが十分動く事ができる。普段から制服で戦闘をしているのだから、運動性能のそこまで高くない服でも一定水準の動きはできる。

 

「取り敢えずはこれで良いか・・・」

 

 軽く溜息を付くと、思考をクリアにしていく。思考を研磨し、余分を削り、雑念を払い、思考速度を催促にまで引き上げる。スポーツマンで言う所のゾーンに入った状態に近いだろう。

 

「吉野先輩! 着替えました!」

「はいはい、今すぐ行くよ!」

 

 あかりちゃんに呼ばれ部屋へ入ると、絶句させられた。

 

「えっ? なんで2人ともブルマ?」

 

 基本的に武偵校の体操着は定められておらず、中学の頃の体操着を持ち越しする事になる。2人が同じ中学だって話は聞いた事ないし、今日日ブルマを推奨するような学校なんてそうそうないだろう。それなのに2人ともブルマとはどういう事なのだろうか。

 俺そんなに凝った趣味だとでも思われているのだろうか? 

 ちなみに俺はブルマよりスパッツの方が好みだ。

 

「まぁ良いや・・・早速始めるか!」

 

 取り敢えず目の前に現れた疑問を全力で無視し、サンドバックの前まで移動すると軽く息を吐きあかりちゃん達の方に向き直る。

 

「今から実際に見てもらうのは、今日からあかりちゃんの目標である技の矯正を、俺の技で目に見える形で分かりやすくした技だ。よく観察して理解してほしい」

 

 それだけ言うと、サンドバックに向き直り左手を当てる。左足を大きく踏み込み、左腕の押し出しと同時に回転を威力として打ち出す。

 

 ドンッ!! 

 

 サンドバックは鈍い音をたて跳ね上がり、天井にぶつかって落ちてくる。かなりの勢いが付いていたのでぶつかるとこっちが吹っ飛ばされると判断し軽く避ける。

 

「これが矯正前の技である『全撃ち』。腸腰筋による筋肉の稼働によって体重分の威力と、踏み込みで実際に移動させる体重分を加えた、肉体の駆動で生まれる全ての威力を打ち込む技。そして──」

 

 サンドバックの揺れが収まったと同時に、もう1度左手をサンドバックに当て、腸腰筋を稼働させ回転を左手に伝え打ち出す。

 

 ドスッ!! 

 

 今度はサンドバックが重い打撃音をたて軽く跳ね上がり、小さく揺れながら落ちてくる。

 

「これが矯正後の『空撃ち』。踏み込みの体重移動を削って威力を『全撃ち』から半減させた技。技のコンセプトである攻撃と同時に間合いを取る。それをギリギリまで保たせた上で殺傷能力を省いた技。観察できた?」

「はい。けどこれって衝撃が強すぎて、非殺傷技としての矯正は旨くいってないんじゃ・・・」

「おっ! 良いところに気付いたね! 実はこの点が矯正してから気付いた肝なんだけどさ・・・」

 

 技の矯正中に偶然見付けた物で、寸勁などの技以外にも打撃技に応用できるかと思って突き詰めた技術だ。

 

「通常の打撃技は基本的に予備動作から出る速度と、肉体と対象のスペースで衝撃の強弱が生まれる。『全撃ち』は肉体と対象のスペースはほぼ無いけど、予備動作から生まれる速度を3つ程重ねる事によって衝撃を生んでいる。それに対し『空撃ち』は予備動作から生まれる速度は1つにする事で衝撃を大幅に減らし威力だけを出す技──」

「「?」」

「って言っても威力と衝撃はかなり近い物だからわかりにくいよな・・・」

 

 説明して見るが自分でもわかりづらくなって来たので、実演を交えて説明する方向に切り替える。

 

「『全撃ち』は簡単に言うなら、動きを特殊にした強めの掌底。もっと言うなら強めにぶん殴ってるだけだ」

 

 サンドバックを左手で思い切り殴ると、ドスッ! っと音をたて少し跳ねて小さく揺れる。

 

「それに対し『空撃ち』は踏み込みの体重移動と腕の押し出しによる加速を削るから、衝撃がかなり少なくなって純粋に押し出す力を底上げしているだけだから極端な話、発泡スチロールを叩き折る威力すらない。例えるなら・・・」

 

 今度はサンドバックに左手を当てると、少し強めに押す。サンドバックは、吊るしている鎖を軋ませながら大きく揺れる。

 

「『空撃ち』は押し出す力を早くする事で吹っ飛ばしているから大した衝撃は無いんだ。この技を使って失神する人間は肉体の接触の時の衝撃と、吹っ飛ばされた時の地面や床への接地の際の衝撃による脳震盪が基本だよ。殺傷能力も皆無だから矯正としては成功だよ」

 

 揺れているサンドバックを左手で受け止めると、軽く息を吐きあかりちゃん達の方に向き直る。

 

「取り敢えず、ここでは銃はどうにもならないから素手による近距離、中距離の技を矯正する。今日は君の鷹捲(たかまくり)を分析してから鳶穿の再矯正の案を最低3つ出してもらう。ただその前に・・・」

 

 今度は右手でサンドバックに触れる。

 

鷹捲(たかまくり)と言う振動技に対して、矯正を手伝うのにそれなりの能力がある事を見せておこうと思う」

「見せるって何を?」

「何ってそりゃ、振動技?」

「吉野先輩。振動技を使えるんですか!?」

「もちろん! 伊達に『技保有者(スキルホルダー) 連射(ブレェィズ)』なんて呼ばれてないよ!」

「『連射(ブレェィズ)』?」

「吉野先輩があの『連射(ブレェィズ)』なんですか!?」

 

 予想外な事に佐々木さんが俺の異名に食いつき、あかりちゃんは良く分からないと言った様子で首を傾げている。まぁあかりちゃんに関しては技保有者(スキルホルダー)自体知らないのかもしれないが・・・

 

「あれ? 俺言って無かったけか?」

「志乃ちゃん。『連射(ブレェィズ)』って何なの?」

技保有者(スキルホルダー)は技とその系統の物を極めた者に与えられる異名であり、『連射(ブレェィズ)』はその中でも特に異質な物です」

「『連射(ブレェィズ)』とは、技を何1つとして極める事が出来なかった者がたどり着いた、凡人の行き着く先の1つだ。ありとあらゆる技を己の物へ昇華させ、合成し銃弾の様に連続的に繰り出し使い捨てる。そんなスタイルを突き詰めた者に与えられる異名だ」

 

 本来の技保有者(スキルホルダー)は技とその系統の物を極めた者に与えられる異名であり、その後ろにその技や本人のスタイルにふさわしい名前が付けられる。それに対し俺は何も極めず、他の技保有者(スキルホルダー)に相対する程にそのスタイルを確立し続けた。技の1つではなく、技と言うくくりに理解を深め続けようとしたもの。それが佐々木さんが言う異質な物の正体だ。

 

「そんな異名を持ってるからには当然、振動技もちゃんと使えるよ! こんな風に・・・」

 

 ビシッ!! 

 

 右手で触れたサンドバックからそんな鋭い音が鳴ったと同時に、サンドバックの表面が弾け、ジョイントマットの上に砂がぶちまけられる。

 数年ぶりに振動技を使ったが、精度その物は落ちて無さそうだ。

 

「取り敢えずは片付けと替えのサンドバックだな。ちょっと取って来る」

 

 俺はそれだけ言い残すと部屋を出た。

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