振動技を見せてから数分後、粉々にしたサンドバックの後処理をしてから新しいサンドバックを吊るし終わり、少し休憩を挟んでいた。
「サンドバックをあんなにしちゃって良かったんですか?」
あかりちゃんが不安げに聞いてくる。
まぁレンタルスペースの備品を破壊すりゃ不安にもなるか・・・
「このレンタルスペースは基本武偵仕様だからサンドバックの破損も視野に入れた経営形態なんだ。料金の支払の時に破損した備品の分の請求し、破損しそうな備品は多めに仕入れてるから、サンドバックとかの破損にも融通が利くんだよ」
どうせ武偵に扱わせたら色々とぶっ壊されて終わりだと思ったので適当に言ったが本当に採用されるとは思わなかった。
まぁ、そのやり取りでやりたいようにやれる用になったのだから何も言えないんだが・・・
「取り敢えずそろそろ
「はい!」
佐々木さんの近くまで下がると、あかりちゃんにサンドバックの前まで行かせ指示を出す。
「よし! じゃ、成功するまでサンドバックに
「はい!」
あかりちゃんは元気に返事をすると、1度目の
助走をつけ、矢の様にサンドバックへ飛ぶ。全身の捻りを紐解き回転を増幅させ
あかりちゃんの指先がサンドバックに触れるも、サンドバックが破壊される事も無く──
「ハブッ!!」
あかりちゃんはサンドバックに顔面から突っ込み床に落ちる。
これは痛そうだ・・・
立ち上がったあかりちゃんは、健気にも未だ悠然と佇むサンドバックへと2発目の
ただただ、サンドバックに技を打とうとしている後輩を見ているだけなのに、ちょっとした感動を覚え涙が出てきそうになるのを堪える。
そして、2発目の
「きゃう!」
そのまま床に落ちるあかりちゃん。
なんて言うかもう可愛いなこの生物は・・・
未だに大きく揺れる気配のないサンドバックがどことなく可哀そうに思えてくるが、あかりちゃんはそんなサンドバックに3発目の
そして3発目、今までの2発とは違い強い閃光を放ちつつサンドバックに触れ──
バチィィイイィィイィィッ!!
静電気の何倍もの電気が弾ける音が響く。その音と共にサンドバックが触れた個所を中心に崩壊していく。
「取り敢えずフォームのデータは取れたから、後は直接受けて体感して見るか! 百聞は一見に如かずって言うし・・・」
「え!? で、でもそんな事したら吉野先輩が・・・」
「大丈夫大丈夫! 対応策は3通りは考えてるからいざとなったら全部試すよ。技に精通しているって事は技の外し方にも精通しているって事になるし、殺されない方法にも精通しているって事にもなるんだぜ!」
俺は適当なところで両手を大の字にして体を晒す様に立つ。間違いなく今から振動技を受けようとする人間の取る態度ではない様な気がするが、まぁ良しとしよう。
「さて、いつでも良いよ! 打ち込んできな!」
笑みを浮かべ、若干煽る様にあかりちゃんに言い放つ。あかりちゃんは不安そうな表情を残しつつも
さすがに振動技は舐めては掛かれないので、こちらも少し息を吐き本気で集中する。
振動技の対処法はいくつかある。
1つは肉体を自分以外の物体と密着させ振動数を分散させる方法。これは1番振動技の対処法として知られている方法だろう。利点としては確実肉体に入る振動数を減らせる、次の行動へ移りやすい等がある。
欠点としては、物体の硬度、大きさによっては十分に振動数を分散できない、状況によっては物体に接触できずこの方法を実践できない等がある。
1つは振動技で相手の振動を相殺する方法。これは考え方的にはアニメやゲームでの技の相殺と原理的には変わらない。利点としてはどのような状況でも技さえ打てれば対処ができ、こちらの振動数が相手の振動数を上回っていれば、そのまま残りの振動数を攻撃として与えられる等がある。欠点としては技によっては使用回数がある物もあるので、そのような技を使う場合は状況を考えなければならない、技の系統的に相性が悪ければ使えない(例えば俺の肉体駆動による振動技と、あかりちゃんの電磁パルスによる振動技など)等がある。
1つは自分の肉体を相手の振動と同調させることによって振動を逃がす方法。これは言い換えるなら振動を誘導していると言っても良い。利点としては先ほど挙げたように技を使わなくていいので使用回数の制限がない、同調させているので系統的な相性も無視できる等がある。欠点としては理論的にできたとしても、現実的には基本ほぼ不可能である等がある。
技を体感する為なのだから避けるのも、技を崩すのも駄目だ。つまりこの3つの内のどれかを絶対に選択しなければならない。
さて、どのやり方を取った物か・・・
「行きます!」
「よし来い!」
俺の言葉と同時に、あかりちゃんは体の捻りを紐解きこちらに飛んでくる。だが、あかりちゃんの放つ閃光はまた弱々しい物へと戻っていた。
俺は
「とっ、大丈夫?」
「は、はい! すいません・・・」
「良いよ別に。さっ、もう1回やろ!」
あかりちゃんは顔を少し赤くしつつ、俺の腕の中から離れ再び構えを取る。そしてあかりちゃんは再度俺の懐に飛び込んでくる。先程とは違い強い閃光を放ちながら。
成功だな・・・
俺はそう確信すると強く後ろに飛ぶ。だが、これではただ避けてしまうだけになってしまう。故に俺は、あかりちゃんの突き出された右手を合唱するように
全身の皮膚がピリピリと痛みが走り、体の軸を中心に今まで回転技を使い感じてきた速度で体を補強されたの様な感覚を感じる。それも今まで感じた事も無いような強さだ。
成程、これなら
体が落下しだし、体中に駆け回る振動をどこかに逃がさなければならないが、空中で触れられそうな物もない。俺は足を大きく開きジョイントマットに触れる。
その瞬間──
バチィィイイィィイィィッ!!
「ッ、はっ・・・」
緊張故に止まっていた呼吸を再開させつつ、あかりちゃんを床に着地させ、あかりちゃんの両手を放す。あかりちゃんは初めての経験だったからだろうか、目を白黒させて困惑したような表情だ。
「吉野先輩、今のって・・・」
「君の
俺が選んだ方法は相手の技に同調し受け流すと言う1番難易度の高い方法だった。まず、なぜこの方法がほぼ不可能な程に難易度が高いのは、技の系統とが不明な場合が大半であり対処が出来ないのと、わずかでも振動数にズレが生じた時に同調が失敗するからだ。
なら、なぜ今回その方法を使ったかと言うと、
これは相手の技が
「
「矯正案、ですか?」
「そっ! あくまで矯正するのはあかりちゃんだからね、俺は出題者であって回答者じゃないからな。ヒントは与えても答えを出すのは君の仕事だよ。最低でも2つの案を今日中に出してもらう」
「2つ・・・」
「まっ、鳶穿は効果の割に動作そのものは単純だから応用も効くし、技のメリットも目に見えてるから俺の知っている中でだけどかなり簡単だと思う。実際俺は軽く考えただけで5つ思いついたし、実際にやれば4つ程はすぐに実行できるよ」
「5つもあるんですか!?」
「教えられないけどな。コツは技のメリットを伸ばすか、技のデメリットは削るかだ」
簡単な例として正拳突きで考えれば分かりやすいだろう。正拳突きのメリットは拳を回転させることによってより高威力を打ち出せる事だ。このメリットを伸ばすなら回転速度や回転数を増やして威力を上げればいい。
正拳突きのデメリットは軌道の読みやすさと打ち終わりの隙だ。このデメリットを削るなら打ち込むと同時に予め拳を引く事を意識しておいたり、アッパーやフックと言ったパンチに回転を加える事によって通常のパンチに正拳突きの威力を加え軌道を絞らないなどの方法がある。
「その為にも技の特徴を1から考えて挑戦して!」
「はい!」
俺はあかりちゃん元気な返事を確認すると、辺りを見渡し溜息を付く。
「その前に後始末かな・・・サンドバックにマットまで吹っ飛ばしちまったからな・・・」
前髪を軽く掻き上げ再び部屋を出た。
「さて・・・これでやっと矯正に1歩近づいたな・・・」
あかりちゃんと俺で好き勝手に吹っ飛ばしたマットとサンドバックの後始末を終わらせ、新しいマットとサンドバックに変え、あかりちゃんは矯正案出しに移り、サンドバックの前で俺が持ってきていたノートとペンで技の要素や矯正案を書き出している。
近接戦闘は得意でも筋力は平均の俺は、新しいサンドバックを運ぶだけで体力を使い、休憩していたがいい加減回復もしてきたので、こちらも次の予定に移る。
「あかりちゃんが案を出し切るまでこっちも特訓に移ろうか! 平岡さんに頼んでた通り小太刀竹刀もあるし、前回と同じ先に音を上げさせるか、最後まで立っていた方が勝ちで本気でバトるって事でいいかな?」
「はい。でも大丈夫なんですか? 休憩を入れてるとはいえサンドバックを2つも運んだ後なんですよ?」
「余裕だよ! 佐々木さんは優しいなぁ。これから戦う相手を心配してくれるなんて・・・」
思わず頬が緩んでしまう。やっぱりこの子達は良くも悪くも純粋だ。それはこの子達の長所でもあり、短所でもある。今回はそこも含めて指導してあげよう。
「それとも君にとってSランクは、それ程までに低い壁か?」
少し威圧的に問い掛けると、心配の色が強かった佐々木さんの瞳に闘志が宿る。
そう、それで良い。敵を前にして余計な事を考えなくていい。敵の動きを捕らえ、無駄な思考を省き、合理的に考え行動する。それができて初めて人の心配や手加減ができる。
俺は部屋の隅に纏めて置かれている道具の中なら竹刀を取り、佐々木さんの方へ投げ渡すと小太刀竹刀を拾い上げ肩に担ぐ。
「さてさて、佐々木さんは俺には見せた事のない技とかあるんだろ? それも思い切り使ってきな。さすがにSランクや『
俺は宣言する。それは俺が武偵として身に付けた全ての技を一切使わずに戦うと言う意味に他ならない。俺が武偵として活動し続けた4年間の経験を一切行使しないと言う事だ。実際にそれをするのは難しいがそれをするだけの価値はある。
「来な! 本気の遊びって物を教えてやるぜ!」