緋弾のアリア 黒の武偵   作:エイト☆5

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第45弾 後出しで過去話するなって? 悪いが俺は秘密が多い男なんだぜ?

 ~side 佐々木志乃~

 

 吉野先輩はどこか楽しそうな表情を浮かべ、担ぎ上げた小太刀竹刀で軽く左肩を叩いている。

 以前あかりちゃんが気絶したとは思えない程に吉野先輩からは殺気を感じない。それなのに、もの凄いプレッシャーを感じる。

 Sランクや『技保有者(スキルホルダー) 連射(ブレェィズ)』としての実力は一切出さないという事だったが、それでも強いと言うのが分かってしまう。

 

「良いのか? わざわざ先手を譲ったのにその利点を活かさなくて」

 

 吉野先輩は楽しそうな表情を崩さずに、左手に握った小太刀竹刀を左肩から正面へと移動させ構える。

 構えると言う事は、この距離からいつでも攻撃できるという事だ。それでも攻撃してこないのは、先輩としての配慮なのか、それとも強者としての余裕なのか・・・

 どちらにしても先手の利点を活かさない手は無い。

 私は体を捻り、それと連動させるように竹刀をスライドさせる。体を右前に傾け、右手に握った竹刀を下方左腰より背後で構える。

 

「へぇー・・・」

 

 感心したような声を上げる吉野先輩は笑みを消し、正面に構えた小太刀竹刀を逆手に握り直し左腰裏へ移動させ、右手は顔の前で構える。

 その形はまるで──

 

()()()

 

 形的に本来鞘に添えるはずの手で逆手に小太刀竹刀の柄を握り、右手は意味あり気に顔の前で構えている。一体どういう技なのか、そもそもこれは抜刀術なのか分からない。

 本来なら受けに回って技の正体を見極めたいが、ただ技保有者(スキルホルダー) 連射(ブレェィズ)の実力は使わないとは言っても、他人の技を観て習得し続けそう呼ばれるようになった本人を相手に、攻めでも守りでも技を出し過ぎるのは得策ではない。

 

 そう、私が持ち得る技の中で最速の一撃で勝負を決める! 

 

 佐々木家に伝わる剣術『巌流(がんりゅう)

 祖先である佐々木小次郎が創始した剣術であり、門外不出とされた秘術の大系。現代剣道よりも先進的な技を私たち佐々木家は秘匿している。その数々の技の組み合わせの1つにして、今や伝説にもなっている秘剣・『燕返し(つばめがえし)

 元は敵の襲撃に即応する為、或いは間合いに入った敵を強襲するために編み出された居合斬りの剣速に注目し作られた、文字通り目にも止まらない斬撃技だ。

 これを行うには、まず居合の型を覚え、それを()()()で使う事が欠かせない。

 鞘無しで抜刀術を行う事によって、鞘から抜く際の摩擦係数を0にする事によって剣術における最速の剣を生み出す。

 それが大きな矛盾を孕みつつ、現在日本において確認されている全ての抜刀術を上回る技。それが秘剣・燕返し(つばめがえし)の正体だ。

 

(未だ窮めずの秘儀だけど、吉野先輩に唯一勝てるとしたらこれだけ・・・)

 

 吉野先輩の予想を超えるほどの速度と、初見である可能性に、これが最初で最後であると言う条件を踏まえてを放たなければいけない。

 深く息を吐き、呼吸を整える。そして──

 

「──ッ!!」

 

 瞬間的に重心を前に移動させる。それと同時に吉野先輩は顔が強張る。

 体重移動だけで反応するなんて、私達Aランク未満では気付いたところで反応するかどうかの様な物なのだから流石としか言えない。

 このまま燕返し(つばめがえし)を放ったとしても防がれるだろう。

 だが、ここまでは予想通り! 

 

 体重移動の勢いから、右足を地面とギリギリ設置しないように浮かしスライドさせ、吉野先輩が認識したであろう場所から踏み込み個所をずらす。

 そして──

 

「ッ!!」

 

 燕返し(つばめがえし)ッ!! 

 

 時速200kで飛ぶ燕さえ斬るその技を躊躇う事無く放つ。

 その瞬間、吉野先輩の顔に一瞬笑みが浮かんだ事に私は気付かなかった。

 

 

 


 

 

 ~side 吉野遙~

 

 佐々木さんが放つ竹刀による斬撃は恐るべき物だった。韋駄天を使わず素の状態だったとはいえ、その斬撃は並みのブレた竹刀ではなく、最早幅の短い扇状の板にしか見えない程だった。

 繋げるため、牽制のために小太刀竹刀を振ったところで迎撃できない。

 なら──

 

吉野一統流(よしのいっとうりゅう) 引き(ひき)ッ!!)

 

 普通の迎撃では間に合わない。そう悟ったと同時に動きだす。

 右肘を大きく右腰の方へ引くと、それと連動させる様に左肘を左の方へ肘打ちを入れる要領で押し込む。

 

 バシッ!! 

 

 佐々木さんの斬撃を上へ弾いた事により、佐々木さんの竹刀が俺の頭上を通り過ぎる。だが、俺は止まらず左手を右手まで移動させると、小太刀竹刀を右手で1度握り替え、もう1度左手で今度は普通に小太刀竹刀を握り直す。

 何故なら──

 

「ハッ!!」

 

 俺の予想は的中し佐々木さんの()()()()()()()()()()が来る。この2撃目を避ければ韋駄天を使わない限り間合いに入る事はできないだろう。つまり、これを捌けなければ確実に負ける。だが、これを凌げれば防御から反撃まで繋げられる。

 俺は一瞬の思考の後、次の行動を決めた。

 

 佐々木さんの切り返しによる2撃目の対処に動き出す。

 左肘を大きく後ろに肘打ちの要領で打ち出す様に、握った小太刀竹刀の柄の方を引き、先程と同じ様に佐々木さんの竹刀が頭上を通り過ぎるように打ち上げる。

 

「──ッ!?」

 

 2撃目を対処されるとは思っていなかったのか、佐々木さんは息を呑みつつ後ろに退こうとする。だが、こちらに踏み込んできていた為、ただ退くにしてもそれほど簡単な事ではない。何故なら、半歩踏み込んだ状態の佐々木さんが1歩退いたところで、俺が半歩進むだけで現状の距離感を維持できてしまうからだ。

 そこの利点を俺が逃す訳もない。

 俺は退こうとする佐々木さんを追いかける様に1歩踏み出す。大きく引いた小太刀竹刀は俺の体中の筋肉をバネとして打ち出す。 

 この技の真骨頂である、小回りの速さと次の手の行動とリンクする動きで締めくくれる事を、遺憾なく発揮した『先手必勝』ならぬ『後手必勝』の1撃。

 全身のバネを利用し佐々木季さんの方に突き入れる。

 そんな1撃を持って俺は佐々木さんの胸骨の若干上の方を少しだけ押した。

 

「キャ!?」

 

 佐々木さんは退こうとしていたタイミングで押されたからか、バランスを崩し尻もちを着いてしまう。

 その光景を見て俺は気を緩め、佐々木さんに右手を差し出す。

 

「大丈夫佐々木さん? 立てる?」

「はい。ありがとうございます」

 

 佐々木さんは俺の手を握ったので引き上げ起こすと、軽く目に入る場所で怪我はないか確認する。

 目に見える範囲で怪我はなさそうなので取り敢えず一安心といったところか・・・

 

 佐々木さんはどこか顔が赤いような気もするが、それ以上に腑に落ちないと言った表情だ

 

「どうして分かったんですか? 私の技が2連撃だって・・・」

「どうしてって、単発に見える技こそ連撃にするのは当然だ。それに、鞘無しの2連撃抜刀術は裏では結構有名だよ。九代目佐々木小次郎さん?」

「!?」

 

 佐々木さんは息を呑んで驚いているようだ。やはり知らないと思っていた本人に自分の肩書を言い当てられたのが衝撃だったのだろうか。

 

「『なんで分かった?』って顔してるからネタバラシするけど、佐々木さんと今日戦うまでに佐々木さんの実力を知るチャンスは3回あった。1回目はラクーングランドホテルの時、この時の戦闘で日本剣術を使う事は分かった。2回目は初めて佐々木さんの家に行った時、あの時に初めて戦って君の剣術における熟練度が分かった。正直君のそれは並みの強襲科(アサルト)の人間の能力を超えてるよ。3回目は4対4(カルテット)の時、この時に君の純粋な身体能力が分かった。剣術だけならあるいは才能や師に恵まれたと言えたかもしれないけど、身体能力や慣れはそうはいかない。強襲科(アサルト)以外の学科ならなおさら顕著にその結果は現れる。君の年で君の完成度まで行こうと思ったら普通に剣術やその師匠に出会うだけじゃそうはならない。となると家系的に剣術を収めていると考えた方が自然だ。佐々木性で剣術を収めている家系はそう多くは無い。そこから推察して佐々木小次郎の名前が出た。後は初代佐々木小次郎が生きてた年代から現代までを世代で考えると答えは出てくる」

 

 まぁ、あれだけサーベルや刀を振り回されると名前だけでもバレそうなものだが・・・

 そして彼女の正体が分かったのにはもう1つ理由がある。

 

「それと実は12年ほど前に8代目と、つまり君のお父さんと4歳の頃の佐々木さんに会ったことがあるんだ。それが大きな理由だよ」

「えっ!?」

 

 そう、俺が5歳の頃に1度、結婚前まで武偵だった親父の知り合いである佐々木さんのお父さんに会いに行くのに連れて行かれた覚えがある。

 親父の話では親父が緊急性の高い物や重要性の高い事件の犯人を捕まえ、佐々木さんのお父さんがその犯人が本当に事件の犯人なのかの真偽を確かめ起訴をすると言ったコンビの組方をしていたようで、割と揉める事の多い武偵と武装検事の関係性のわりに結構仲が良かったそうだ。

 その日は久しぶりに会って近況報告でもし合おうという事で、お互いの子供を連れ東京都内のとあるおしゃれなホテルのレストランで会った事があった。

 あの頃の佐々木さんは今で言うと美咲に少し似ており、佐々木さんのお父さんの後ろに隠れているイメージが強かったが、結構強引に佐々木さんの手を引いてホテル内を探検した覚えがある。

 

「でも、吉野先輩が初めて家に来た時に自己紹介をして・・・」

「うん。でも俺は一言も『初めまして』なんて言ってないだろ? 初対面みたいに自己紹介したのもお互いほぼ知らない状態に近かったし佐々木さんも俺のこと忘れてるみたいだったからさ、その証拠に俺が初めて佐々木さんの家に行った時に持って行った手土産のお菓子、親父のメモにあった君のお父さんのお気に入りのお菓子を持っていたんだけど・・・」

 

 佐々木さんはそう言われればと言った表情になるが、今まで気づいていなかったようだ。

 結構露骨に機嫌取りしてたつもりだったんだが・・・

 

「まぁ、お互い初めてのつもりの方が良かったんだよ。この年で俺の事を『お兄ちゃん』って呼ぶのも嫌だろうし、俺もこの年で後輩の女子を『志乃ちゃん』って呼ぶのも抵抗あったし・・・」

 

 軽くため息を着き佐々木さんの方を見ると、佐々木さんの顔がいまだかつてないほどに赤くなっている。やはり過去の覚えてすらいない出来事を語られるの恥ずかしかったのだろう。

 

「それにしても、まさか吉野の技を出させられるとは思わなかったよ。俺も修行不足だな・・・」

「あ、そういえさっきの技って・・・吉野先輩鞘無しの抜刀術が使えたんですか!?」

 

 佐々木さんは俺の言葉と先ほどの動きから連想したのがおそらく自分の抜刀術と同一の物だと考えたのだろう。

 だが・・・

 

「今ならともかくさっきまでの俺じゃ使えなかったよ。そもそもあれは技とは言ったけど剣術における抜刀術と同じような術の1種だし、もっと言えばあれは起源を辿れば剣術じゃないしな・・・」

 

 吉野一統流(よしのいっとうりゅう)とは吉野家に伝わる剣術であり、裏社会ですら名前が出る事は稀とされる程に秘匿されている様な物だ。

 特徴として、フィクションでの剣術で見る様な『一式(いちしき)』であったり『一ノ型(いちのかた)』と言うような数字による技の分け方はされず、基本である刀を一振りで抜いた状態で構えている時の技として『攻式(こうしき)』『守式(しゅしき)』と言ったカテゴライズに加え、納刀時からの『抜刀式(ばっとうしき)』や、刀を二刀構えている時の『二刀式(にとうしき)』等があり、ものによっては利用はできるが一切剣術は関係しなさそうな物まである。

『引き』とはその様なカテゴリーにおいて特にマイナーとされる物であり、極めた者は皆無とまで言われた物だ。本来の名称は『引き式(ひきしき)』であり、名前の通り攻撃その物より攻撃後に得物を引く事に趣きを置いた式であり、鍛えた人間なら防御にすら利用する事ができる。

 もちろん他の式と同様に固有の技も存在し、得物を引く動作すら攻撃に変えたり、一つの攻撃を二重当てするなんて事もできる以外に便利な式だ。

 

 ちなみに吉野一統流(よしのいっとうりゅう)の歴史は600年ほど前らしく、その間に色々と裏世界で活動していたそうで、辿れば俺の血縁には遠山や風魔などの血も多少混じるらしい。

 

「取り敢えず分かったのは、佐々木さんの技は未完成だが身体能力や戦闘能力は申し分ない。状況判断も悪くは無いし、剣術と言う面だけ見れば俺よりも才能がある。ただ、君の剣は純粋すぎる。言うなら君は真っ白なキャンバスだ。綺麗ではあるが美しくは無い。故に君が剣術家として目指すべきは、実践的な剣の使い方。実践を想定した動きや戦闘法に加え、効果的なタイミングや動きを察知し技を出す練習を基本にした方がよさそうだな」

 

 指導方針を固めると、日が暮れ出すまでひたすらに佐々木さんと実戦形式で竹刀を打ち合った。

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