あれから俺は気絶した火野を保健室に運び軽い用事を済ませると帰路に着いた。
ついでに帰り道のスーパーで買い物を済ましてだが・・・
「ただいま」
「おかえりー」
キンジは先に帰ってきてた様でソファーに座って窓の外を眺めていた。
こちらもやる事をやるか・・・
俺は買って来た物をキッチンに持ち込む。
手を洗い買い物袋をから大根を取り出しまな板の上に置く。
そして包丁で大根を輪切りにし、皮を剥き両面に十字の切込みを入れる。
「そういえば遙、お前今日帰り遅かったけど何かあったのか?」
「可愛い後輩に戦姉妹試験勝負挑まれてな、意外と強くて本気出しちまった」
「1年の頃の技術と能力に合わせてか?」
「いや、中2の頃の技術と能力に合わせてだ、流石に後輩相手に現在の俺の全力の本気を見せる訳には行かないからな」
そう、武偵として本気で挑むのならば中二の頃の実力が丁度よかった。
俺としても火野相手に加減なんて侮辱はしたくなかったので中学の頃の実力に調節した。
それで俺と火野の実力を均衡した勝負になっただろう。
それは間違いなく俺の本気だったのだから。
「何でも良いがその子を連れて来るなんて事はするなよ」
「大丈夫だろ落としたんだから・・・少なくともしばらくは女子を連れ込もうなんて状況にはならねーよ俺は」
俺は買い物袋から鳥の手羽先を取り出し、少し切込みを入れる。
そして切った大根と手羽先を鍋に入れ、水と薄口醤油で味付けし落し蓋をして弱火で炊く。
これで今日のメインは良いだろう。
次に薄口醤油とみりん、酢、砂糖、塩を混ぜ合わせ味付けを先に作って置く。
そしてキュウリを小口切りにし塩をまぶし暫く置いておく。
更に買い物袋から茹でた刺身用のたこを取り出しそぎ切りにする。
キュウリがしんなりして来たので水気を切って、たこと味付けのたれを和えて2~3分馴染ませる。
これで副菜の1つは良いだろう。
もう1つは食べる直前で良いだろう。
米櫃から4合ほど取り出し、米を軽く研いで炊飯器にセットする。
炊き上がって余ったら、冷凍しておけば、しばらく持つだろう。
俺もいない時もあるからキンジの分作り置きしておこうか・・・
まぁこれで炊き終わるまで休憩してて良いだろう。
俺はリビングのテーブルのイスに腰掛け様とした時――
ピンポーン。
この慎ましやかではないインターホンの押し方。確実に星伽ではない。
そして星伽以外でこんな所に来る奴は俺は武藤位しか知らない。
ならばコレはフラグだ。俺は絶対に出ない。
ピンポンピンポーン。
キンジの方を見てみると――
あっ、目を逸らした・・・
キンジも居留守で乗り切る気らしい。
ピポピポピポピポピピピピピピピンポーン! ピポピポピンポーン!
キンジは立ち上がって玄関の方に向って歩いていく。
やっぱり耐え切れなかったか・・・
キンジは自らフラグを回収しにいく。
取り合えず武装しておこう・・・
左太腿のカランビットナイフを右手で抜き、右手首の方に刀身が来るように持ち掌にナイフを隠す。
更に左手で腰のソードブレイカー形のサバイバルナイフを逆手で抜く。
そして――
「遅い! あたしがチャイムを押したら5秒以内に出る事!」
もう直接見なくても『びしっ!』と言う効果音が聞こえそうな張り上げた声。
俺は咄嗟にテーブルの下に隠れる。
Sランク武偵にこの程度の潜伏じゃどうにもならんが、戦闘的立ち位置ならここが俺個人のベストの立ち位置だ。
俺は何時でも飛び出す、もしくはテーブルを引っ繰り返しぶつける体制を整える。
「お、おい!」
どうやらキンジの静止も虚しく入って来たようだ。
コレはいよいよガバメントの乱射タイムか・・・
(ガバメントの銃口からナイフを突っ込んで銃身を破壊し近接戦に持ち込めば・・・)
軽く戦闘法を組み上げ凶暴に凶器を持たせた様なロリツインテガールを待つが・・・
「待て、勝手に入るなっ!」
「トランクを中に運んどきなさい! ねぇ、トイレどこ?」
訂正、凶暴に凶器を持たせ我侭に服を着せたようなロリツインテチャイルドだった。
その凶暴に凶器を持たせ我侭に服を着せたようなロリツインテチャイルドは勝手に部屋を見て、勝手にトイレを見つけて小走りに入っていったようだ。
取り合えずガバメントの行き成り乱射と言う地獄は回避された様なのでサバイバルナイフを直しテーブルの下から出る。
玄関を見るとキンジがやたらと重そうな女物のトランクを引きずり入れており、トイレから出て手を洗った先程の声の主である神崎はそんな事には目もくれず部屋を見渡している。
「あんた達ここ、2人部屋なの?」
この手の相手は落ち着いたと思っても実際急に暴れ出すから警戒は解けない。
俺は何時でも神崎に飛びかかり制圧出来るように準備している。
その神崎はリビングの一番奥の窓あたりまで移動していた
「まあいいわ」
何が良いんだ?
ていうかなんでコイツはこんなに自由に振舞えるんだ?
そんな事を思っていると夕陽に照らされ淡い光を纏った神崎は、くるっ、とこちらに振り向く。
俺はそれが不覚にも美しいと思ってしまった。
そして――
「――キンジ、遙。あんた達、あたしのドレイになりなさい」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・What?
えっ? 何言ってんのコイツ? コイツ常識無いのか?
あぁ、駄目だこりゃ・・・コイツとは合わない、コイツだけは何が会っても合わない。
俺は神崎は何が会っても反りが合わないと確信した。
その瞬間、俺の身体が動かなくなった。
「落ち着け遙!! 頼むから落ち着いてくれ!!」
俺は気付けばキンジに羽交い絞めにされていた。
そして、左手には直していた筈のサバイバルナイフが握られており、右手に隠していた筈のカランビットナイフは逆手に握られ神崎の方を向いている。
あっ、コレ半殺しにするつもりだったな・・・
「サンキュキンジ、もうチョットで半殺しぐらいしてたわ」
「頼むから落ち着いてくれ! 本気のお前を止めれる自信ないぞ・・・」
おれはサバイバルナイフを腰の裏側の鞘に直し、カランビットナイフをズボンの尻ポケットに直す。
ああ、落ち着け落ち着け、この手の人間に本気になったら負けだ。
平常心平常心・・・
「ほら! さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ! 無礼なヤツね!」
ぽふ!
盛大にスカートを翻し少し前までキンジが座っていたソファーに座る。
ちゃき、と組んだ足のふとももが少し見えて、そこに提げてる二丁拳銃が覗いた。
俺にはそれが俺達を脅迫してるように思え――
ブチッ!!
あぁ、決定的な何かが切れたような音が聞こえた。
~side 遠山キンジ~
やばい、遙がキレた。
正直このキレてるのに頭が冷静になって、無表情に少し笑みの入っている状態の遙が1番怖い。
遙の怖い所は、淡々と論破して来るとこではない。
むしろそんなタイプじゃない。
遙の怖い所は、相手を延々と焚き付け相手が手を出そうと襲い掛かって来た瞬間、正当防衛を武器に相手に殴らせる事無く自分が一方的に殴る所だ。
遙は無言でキッチンの方に歩いて行く。
ああ、コイツら相性悪すぎだ・・・
「コーヒー! エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ! 砂糖はカンナ! 1分以内!」
無礼者はそっちだ。
てか、なんだその魔法の呪文みたいなコーヒーは。
簡単にはご退出願えなさそうな事は直感的に分かるが・・・。
「ほらよ・・・」
遙は恐ろしい行動に出た。
「ちょっと・・・なによコレ・・・!」
遙は確かに飲み物を出した。
そう、昨日買ったばかりの
「悪いな、今それしか無いんだよ、まぁ良いんじゃないか?
「あんた、あたしに喧嘩売ってるの?」
「まさか! 俺はどこかの貴族と違って平和主義ですから! 喧嘩を売るだなんてまさかまさか・・・」
遙はワザとらしく肩を竦めるも、その顔には今までに無い微笑が浮かんでいた。
そして恐ろしいのが、ここまでのやり取りで一度としてアリア本人を特定できる発言をしていない事だ。
煽りとしてはギリギリだが、侮辱的意図の含む発言は確かに含まれていない。
更に恐ろしいのは、アリアが赤くなるにつれ、遙の浮かべる微笑はより濃くなって行くと言う事だ。
ああ、今なら遙の考えが手に取るように読める・・・。
(コレで殴り掛かって来たら僥倖! 理性が勝っても常にこんな状態じゃ直ぐに嫌気が差して出て行くだろう、コレでどちらに転んでも俺の完全勝利!)
と、思ってるんだろうな・・・
アリアも遙の意図に気付いているのか、深呼吸をして落ち着きを戻そうとしている。
「まぁいいわ」
変な所で大人の余裕を見せるアリアは特濃ミルクを1口啜る。
取り合えずこの空気を切り替えよう・・・
「今朝助けてくれた事には感謝してる。それにその・・・お前を怒らすような事を言ってしまったことは謝る。でも、だからって何でここに押しかけてくる」
口をへの字に曲げて言うと、アリアはマグカップを持ったまま、きろ、と紅い目だけ動かしてこっちを見た。
「わかんないの?」
「分かるかよ」
「あんたならとっくに分かってると思ったのに。んー・・・でも、そのうち思い当たるでしょ。まあいいわ」
よくねえよ。
「おなかすいた」
アリアはいきなり話題を変えつつ、ソファーの手すりに体をしなだれかけさせた。
なんだか女っぽいしぐさに、俺はちょっと赤くなって視線を逸らす。
「なんか食べ物ないの」
「悪いけどこの煮物、2人用なんだ」
遙はキッチンに戻り煮物の火を止め、ニヤニヤと笑う。
性格悪いな・・・
「そんなにあるんだから少しは分けなさいよ!」
「俺達の食費は折半なんだよ! どうしても食いたきゃ金払えよ」
「いくら払えって言うきよ!」
「材料費+人件費+消費税で3150円だ」
うわ、1回に使った分の料金じゃなく、平然と全ての材料の小売価格で請求したな。
「なによその法外な値段!」
「あぁ? 材料そろえて税金払って料理するのにどれだけの労力使ってると思ってんだ? 端数を省いてやってんだからありがたく思えよ、文句があるなら自分でなんか買って食うんだな」
言いたい事は全て理解できるのにいちいち地雷に成って行くのは何でだ?
コイツら水と油とか、犬猿の仲どころの話じゃない。
なんと言うか、空腹状態のネズミを二匹同じ空間に放置し、共食いさせている様な感じに見えてしょうがない。
何で初対面でここまで反発し会えるんだ?
俺もアリアの態度には腹が立ったが、ここまでの事ではない。
そもそも俺より温厚な人間である遙が、俺より先にキレるのはどう言う事だ?
俺は遙の近くに移動し遙にだけ聞こえる大きさの声で尋ねた。
「どうしたんだよ遙? 何時ものお前らしくないぞ」
「俺もそう思うんだけどよぉ、コイツとは始めて会ったと思えないくらい気が合わないんだよ」
遙は頭を押さえながらため息を付く。
そこでアリアはそれを見計らったように――
「いいわ! 払うからご飯寄越しなさい!」
タイミングの悪い・・・
遙も再びため息を付き静かに言った。
「気が合わないどころじゃないな、俺の存在がコイツの存在を認めていないと言われても不思議に思わないぞ・・・」
何所まで気が合わないんだコイツ等?
俺こんなに気が合わない奴等始めて見た・・・
遙はため息を付きながらも3人分のだし巻きを作り始める。
フライパンに油を引き、白だしで味付けしたとき卵をフライパンに流し込み、卵を焼き始める。
なんだかんだで作るんだよな遙って・・・
何でここまで気が合わない奴に飯出してやるんだ?
「はぁ~・・・かったるい・・・」
と言いながらもしっかり手抜きする事無く作るんだよな・・・
性格良いんだか悪いんだか・・・
まあそんな所も含めて親友なんだが。
「キンジ皿取ってくれ」
「ああ」
俺は食器棚から茶碗と皿と小鉢と器を3枚ずつ取って渡す。
遙は嫌な顔しながらも皿を受け取り――
「何で迷う事無く3枚ずつ取るんだよ・・・」
と呟きながらも、ちゃんと皿に盛り付けテーブルに並べる。
遙は無言でキッチンに戻り、余ったご飯をタッパーに入れシンクの台に起きご飯を冷ます。
そして平然と遙は、俺と遙の分のお茶をコップに注いでテーブルに持ってくる。
コレに当然、アリアは腹を立てるわけで――
「ちょっと! ちゃんとお茶在るんじゃない! なんでアタシにはミルクなのよ!?」
「悪い、良く見たら在ったんだ、勿体無いからそれで我慢してくれ」
あぁ、笑ってる。
何でこんなに煽っている間だけ笑顔でいられるんだ?
そもそもこんな頻度で人間を煽れる物なんだな・・・
「まず飯を食ってからにしよう! せっかくの飯が冷めるぞ!」
「そうだな、取り合えず食うか」
遙とアリアは同時に椅子に座り――
「「いただきます!」」
同じ台詞なのにここまでテンションが真逆な二人を俺は始めて見たのだった。