「ッ、・・・痛ってぇ・・・」
俺は目を覚ますと
腹に開けた穴はご丁寧に糸で縫われており、何とも厨二心を擽る。
こりゃしばらくは絶対安静だな・・・
「気付いたんですか吉野先輩!」
俺が起きた時の音で気付いたのか部屋の奥から火野が出てきた。
昨日
「よう火野! お前がここまで運んでくれたのか?」
「はい、吉野先輩がアリア先輩に勝った直後に吉野先輩が倒れたんでギャラリーの数人で運んだんです」
「そうか・・・ありがとな火野」
優しいな火野は・・・
俺はお礼を言うとベットから降りる。
「吉野先輩! まだ動いちゃダメですよ!」
「本当にサンキュな火野。ただ、今動くべきなんだよ多分、だからさ・・・」
俺は火野の方に振り返ると、できるだけ笑顔で火野に――
「さらしか包帯貰っていいか? 傷を固定したい」
火野はため息をつき、さらしを取り出した。
~side 火野ライカ~
アタシは吉野先輩のお腹にさらしを巻き付ける。
この人はなぜお腹にナイフが刺さったのに平然と立っていられるのだろう・・・
吉野先輩の出血は500mlを越えているはずなのだけど・・・
「悪いな火野、こんな事やらせて・・・」
「いえ、こんな状態の人を放置できませんから」
「俺みたいな奴の世話なんて焼きたく無いんじゃないのか? 昨日戦姉妹を断った張本人だぞ?」
アタシは少し考える。
この人は確かにアタシの
と、この人は思っているのだろう。
「吉野先輩は確かにアタシの
吉野先輩の顔を見ると意外そうな顔でアタシの顔を見ていた。
一体吉野先輩はどう言う答えを予想していたのだろう
「サンキュな火野」
「ライカで良いですよ! 苗字で呼ばれるのは慣れてないんで」
「そっか、俺も遙で良いぜライカ!」
「はい!」
アタシがさらしを巻き終わると遙先輩は制服を着る。
その際遙先輩は「空撃ちを3発も入れたのに起き上がってきたよな・・・改良点を挙げるなら、一撃における威力か連射性か・・・」などと呟いていた。
「なぁライカ。神崎の奴今何所にいるか分かるか?」
「隣の病室で寝かされているらしいですよ。気絶しているだけなんで起きたら即退院らしいです」
「そいつは良かった。俺のせいで入院したなんて目覚めが悪いからな」
遙先輩は笑いながら病室を出たのだった。
~side 神崎・H・アリア~
あたしは目を覚ますと強烈な吐き気襲われた。
それを無理矢理飲み込みやり過ごす。
そしてジワジワと不快な感覚が戻ってくる。
肉にナイフが刺さる感覚や、鼻を突く血の匂い、ナイフから伝わってくる脈や鼓動。その1つ1つがリアル過ぎて忘れる事ができる気になれない。
思い出しただけで体が震え、吐き気がしてくる。
そんな時に気を逸らすようにコンコンと言うノック音が聞こえてくる。
気を紛らわすには丁度いいか・・・
「どうぞ・・・」
扉が開けられ入ってきた人物にアタシは驚愕した。
「ぎゃあああぁあぁぁーーー!!」
「おいおい、女が出して良い声じゃないだろ、本当に病み上がりかお前」
吉野遙その人がこの病室に入ってきた。
「あ、ああ、あんた! し、死んだんじゃ・・・」
「勝手に殺すな! ナイフや銃弾が当たった程度で人が簡単に死ぬわけねーだろ」
「普通は死ぬわよ! 何で死なないのよ! 死んでないあんたの方がおかしいわよ!」
「そいつはどうも、俺が普通じゃないから死なねーんだろ? 普通の事じゃねーか」
遙と話していると普通が何か分からなくなって来る。
普通じゃない事が普通とはどう言う事だ?
本当にコイツと話していると疲れる・・・
「まぁそれはそれとして・・・すまなかった」
「えっ・・・?」
「ただ感情にまかせてズケズケと言いたい事を全部ぶちまけた。ムカついたからってやっちゃいけない事をした。だからすまなかった」
遙はあたしに向って頭を下げた。
あたしは思ってもいなかった。だから・・・
「あたしこそ、ごめんなさい」
「――はい?」
「あたしも人に言っちゃいけない事を言った。自分の考えばかり優先して周りの事何も考えて無かった。だからごめんなさい」
「フフフッ・・・」
遙が少し震えている。
何も泣くことも無いのにと思っていたが・・・
「あははははは!!」
「ちょっと! 何で笑うのよ!」
「いや何、意外と似たような事考えてたんだなーと思ってな! あー、アレコレ謝る方法模索してた俺馬鹿みたいだな!」
遙は一頻り笑い、笑い終わるとあたしは遙に聞きたかった事を切り出した。
「あんた、あたしの事が嫌いなんでしょ? なら、何でここに来たの? あたしの事が嫌いなら放って置けば良かったでしょ」
「そうさな・・・」
遙は自分の顔全体を右手で一撫でし、顎に手を当て考え出す。
5秒ほど考えた後、考えが纏まったのか顎から手を放し指を鳴らす。
「まずは、俺が悪い事をしたと思ったからだな。俺は自分がした事から逃げる卑怯者に成りたくなかったからだ。それから――」
遙はそこで言葉を区切るとあたしから少し視線を外す。
一体何なのだろう・・・
「確かにお前の事は嫌いだ。けどそんな事を知る前から俺は、人が経験や考え方で変われるって信じているからな。戦う前のお前は大嫌いだったが、それでも今のお前を好きに成れるのならと思ったから来たんだよ」
遙は視線をこちらに向ける事は無くそう言う。
だが、遙の顔は少し赤くなっている。
そうか、遙は正直だけど素直じゃないだけなんだ。
自分の感情を正直言い放ち、けど誰かに自分を知られたくないから突き放す言い方をする。
あたしにだけきつかったのは、似通った部分があるから衝突したのと、自分を知られたくない防衛本能のような物だろう。
そう分かると、途端に少し遙が可愛く見えてきた。
「フフッ・・・」
「笑うなよバカ・・・」
「良いじゃない別に!」
「ハッ、かったるい・・・」
遙はそう呟いてソッポを向いてしまう。
多分遙は、相手にもよるが対等な関係性で付き合おうとすればこんな物なのだろう。
なんとなくだが遙と言う人間の性質が分かって来た気がする。
「取り合えずあたしは、あんた達を下に見ないわ。あたしと対等、同じ武偵よ。これで良いかしら?」
「ああ、まずはそれで良い。そこから先の人間関係はまた次考えれば良いしな!」
遙はあたしの方に右手を差し出す。
笑みを浮かべる遙の右手を、あたしも右手で握る。
「まっ、よろしくな神崎!」
「アリアで良いわよ遙!」
~side 吉野遙~
アレから俺は、退院した神崎・・・アリアと分かれ荷物を持って屋上に来ていた。
アリアはこれからキンジにくっついて依頼に出かけると行っていたが・・・
取り合えずフェンスに凭れ床に座る。
鞄の中からノートパソコンを取り出し、膝の上に乗せて起動する。
学校のイントラネットに接続し『武偵殺し』の情報を探す。
武偵殺しは爆弾を乗り物に仕掛けて相手の自由を奪い、短機関銃付きのラジコンへリで追い掛けまわし海に突き落とすやり口らしい。
ジェ○ソン・・・?
毎回同じ電波を使い起爆しているらしいので、武偵殺しを特定できるそうだ。
過去2件被害があったそうで、1件目はバイクジャック。2件目はカージャックらしい。
バイクに車に自転車?
規模にバラつきが有り過ぎるな・・・無差別に襲っているのか・・・? それとも何か規則性の見落しが有るのか・・・?
いや、事件の見落としが有ると考えた方が良いか・・・
陽菜に後で2件目後から昨日までに起きた、乗り物が爆破された国内の事件を調べさせよう。
こじつけ的に考えるなら、武偵、キンジ、乗り物と連想ゲームのように考えると出てくるのはキンジの兄である金一さんだろう。
浦賀沖海難事故。
去年のクリスマスイブに起きた豪華客船の沈没事故だ。
もしこれが武偵殺しの事件だったとしたら・・・
いや、これは考えすぎだ。
可能性として残すのは良いがこれに拘るな!
考えるのは結果に向うまで過程の可能性と、ここから先に起こる事に対する可能性とその対処法だ。
これから考えるのは武偵殺しが次に何をするかだ。
もし小さい順でジャックする物が大きく成っているのなら、バイク、車と来て、その次に何か船や飛行機クラスの物があったのなら、そこで武偵殺し本人がいたとするのなら、その大型の交通機が規則性によりジャックする物を一度リセットしたのなら、昨日のチャリジャックが武偵殺しが始めの事件と同じ法則性なら・・・
「次は四輪自動車か・・・」
四輪自動車、もしくはそれに類する自動車で武偵と言えば、普通車、トラック、バスの3つだろう。
基本的に爆発させるとしたら車両の下だ。ならフックショットだけなら車体の下に潜るのはきついし別のワイヤーも用意しておいた方が良いか・・・
「いや、他にも何か対抗策を講じておかないと不安要素がでかすぎる・・・」
その時屋上の扉が開く。
ドラグノフ狙撃銃を担ぐ影、ショートカットの上から掛けられたヘッドホン。
俺の知る限りこんな風貌の少女を俺は1人しか知らない。
「レキか・・・」
何故か俺の前まで歩いて来て、俺を見下ろす彼女に呼びかける。
まぁ丁度いいか・・・
「遙さん。負傷したと聞きましたが大丈夫ですか?」
「ああ、ちと貧血で倒れただけだ。それよりレキに頼みたい事があるんだが良いか?」
「はい」
「多分近い内にまた武偵殺しが出る。俺の予想では四輪自動車なんだが・・・まぁそこは俺の勝手な予想だから外れるかもしれないが、そんな感じで不安要素が多いからレキにジャック系の事件をできれば受けて欲しいんだ」
「わかりました」
「良いのか?」
「はい」
レキは抑揚の無い声でノータイムで応える。
やっぱり良く分からん。
「サンキュなレキ。時間があるなら良かったら飯でも奢らせてくれないか? 報酬とは言わないが礼くらいさせてくれ」
レキはこくんと首を動かし頷くと、俺はノートパソコンを鞄に仕舞いその場をレキと後にした。
~side 遠山キンジ~
俺は猫探しの依頼に何故か付いて来たアリアと公園の適当なベンチでギガマックセットを食べていた。
「キンジ、遙の事を教えて」
「遙の事?」
「遙と決闘したけどかなり強かった。あの強さは何か武術に近い物を感じたけどあたしはあんな武術を見た事無い。遙の情報を集めたいの」
「と言われてもな・・・俺も一年ほどしか付き合いないから分からないぞ・・・」
「それでも良いから知ってる限り教えて」
「そうだな・・・吉野遙16歳7月20日生まれ、武偵としては中学2年から活動し、2年の夏休みに大きな事件を解決しているしい。武器は確認できてる限りではソードブレイカー状のサバイバルナイフとカランビットナイフ、S&W M19 6インチとオリジナルの手裏剣が6枚だ」
俺が知っている限りこんな物だ。
「それだけ? 親友なのに」
「正直仲良くなったのは入試の後だし、親友と呼び合うように成ったのは去年の末だからな」
「何で親友に成ったの?」
「・・・色々あったんだよ」
俺は色々と思い出す。
兄さんが死んだと連絡が入ったとき、武偵を辞めると言った遙は俺の考えを認めてくれた。
俺が潰れそうな時に何も言わず俺の傍にいてくれた。
俺の八つ当たりの様にぶつけた感情を受け止めてくれた。
だから俺は遙を裏切らない。
遙が困っているなら手伝うし、遙が助けを求めるなら助ける。
遙が1人でいるなら駆け付けるし、遙が俺の力を必要とするなら持てる力を全て貸す。
俺はそれだけの事をして貰ったんだ。受けた恩義は必ず返す。
「俺は絶対遙を裏切らない・・・」
「そう、けど遙の事は調べておいた方が良いわ。遙自身は良い奴だけど、遙には何かあるわ」
「何かって何だよ?」
「分からないわ。けどあたしの
「全力で戦っていない? なら遙が完勝できただろ? 聞いた限り善戦したって聞いたけどどう言う事だ?」
「そこが分からないの。あたしの攻撃はちゃんと入っていたのに遙は余裕を保っていた。なのにあたしが遙を追い詰めるシーンもあった。だから良く分からないの」
「遙は自分の事は話したがらないからな・・・」
アリアはコーラを手に取りストローに口をつけ吸い出す。
「なぁアリア、一言言いたいんだが」
「なによ。けぷ」
「それは俺のコーラだ」
ぶぼぁ!
アリアは食道を通過しようとするコーラを吐き出したのだった。