気がついたらアキレウスだった男の話   作:とある下級の野菜人

7 / 9
実質3人目のヒロインなのでは…?


親と子

オデュッセウスとの出会いの夜。

アキレウスは一人、海の側まで来ていた。

 

 

「母上!母上はおられるか!!」

 

 

アキレウスがそう叫ぶと、海からブクブクと泡が浮き上がり、やがて美しい女性が姿を現した。

彼女こそ、女神テティス。内海の女神にして予見の神。神々の救済者とも言われる偉大なる女神。

 

うっすらと、彼女が目を開ける。その様な所作だけでも万人がみほれることは、想像に難くない。

 

そんな彼女は、穏やかな(アクア)を思わせる瞳を潤ませ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキレウスちゃ~~~~~~ん!!!」

 

「ぶふぅぅぅぅぅ!!!??」

 

 

大英雄にタックルをかました。

 

 

「大丈夫?どこか怪我してない?病気に掛かってたりは?他の人にいじめられたりしてない?アキレウスちゃんに何かあったらと思うと、ママはもう心配で、心配で…もちろん、そんなことは万が一にも起こらない様に、お義兄様(ポセイドン)からは神馬を頂いた(奪った)し、ヘパイストスには武具の鋳造を急がせたのだけど…あぁ!私の可愛いアキレウスちゃん…今からでも遅くないわ、戦争なんて止めましょう?アキレウスちゃんは穏やかな生活を送った方が、絶対に幸せになれるんですから。

ね?ね?ね?」

 

「母上……ギブ、ギブ……極ってる……完全に極ってるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───アキレウス、ケイローン塾以来の死の予感である。

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

「あー…母上。まずはお久しぶりです。」

 

「まぁ、アキレウスちゃん。そんなに他人行儀にしないで?親子なんだもの。それに、母上だなんて…ううん、嬉しいの。とっても嬉しいのだけど…どうせなら、ママって呼んでほしいなぁ。」

 

(これだから、この人苦手なんだよなぁ…)

 

 

アキレウスの言った問題とは、これだ。

 

単純な話アキレウスは、ことあるごとに自分を甘やかそうとする母が苦手だった。

いや、親愛は抱いているし、感謝もしている。

 

────しかし、この歳(精神年齢も換算)になって、母親に甘やかされてるってどうなの?絵面ヤバくね?

 

アキレウスにとって女神テティスは、大切な母親であり、感謝すべき恩人でもあり…非常に絡みづらいタイプの女性であった。

 

 

「コホン…母上。実は、折り入って頼みがあります。」

 

 

アキレウスがそう言うと、テティスは少し停止したがすぐに…

 

 

 

「………まぁ、まぁ、まぁ!アキレウスちゃんが、私に頼み?

えぇ、えぇ、もちろんよ。ママに何でも言って頂戴な。

疲れちゃったならマッサージしてあげるし、いじめる子がいるなら天罰でもいいのよ?あ、ただ、あんまり強いのはダメよ。ちゃんと反省させる程度にしてあげないと。あ、それとも祝福かしら?それならもちろん大歓迎よ!アキレウスちゃんの為なら、ママ、頑張っちゃうわ!」

 

「あ、いえ…そう言うのではないので…。」

 

 

中々会わないせいか、一度口を開くと矢継ぎ早に話すテティスに、これ以上話が延びる前に、と、アキレウスは本題を切り出した。

 

 

「俺に、戦争に介入するな、と神託が下ったことは、知っておられますか?」

 

「えぇ、もちろんよ。それがどうかしたの?」

 

「母上に頼みたいことというのは、神々にこの神託を受ける、条件を提示していただきたいのです。」

 

「…………………。」

 

 

アキレウスがそう言うと、先まで柔和に微笑みを浮かべていたテティスの顔は、鋭く引き詰められた。

 

 

「不躾な願いだということは重々承知です。しかし、戦陣に加われながら、戦に出られぬなど、どうにも納得いきません。

俺とて、戦士の端くれ。仲間が、友が。命を掛けて戦っているというのに、自分だけ安全な場所でのうのうとしているなんて…」

 

「違うの。」

 

「え?」

 

「違うの。違うのよ。私は別に、怒っている訳ではないの…」

 

 

そう言うテティス()の顔は、悲痛に歪んでいた。

 

 

「あぁ、私の可愛いアキレウスちゃん…私は、貴方が傷付くのが堪えられない…。貴方は私の最後の子供…あの人との間に生まれた、大切な子。」

「なのに……この戦争に参加し続けてしてしまえば、貴方は……あぁ、そんなの堪えられない。もう、大切な子を喪うのは嫌ぁ……。」

 

「母上…。」

 

 

 

 

 

女神テティスと英雄ペレウスの間には元々、たくさんの子供たちがいた。しかし今は、アキレウスしかいない。

なぜなら、彼女は()()()()()()

 

 

『あぁ、私の可愛い子供たち。けれど、アナタたちに何かあったら…いいえ!私たちの子供だもの…大丈夫…きっと、大丈夫…』

 

 

彼女は心配で堪らなくなった。もしも、子供たちの身に何かあったら。そう考えると背筋が凍る様だった。

故に、確認しなければならないと思った。

 

それだけだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんな…!嫌、嫌ぁ!!!』

 

 

 

テティスは女神である。

故に、人の子の脆さを知らなかった。

 

気づいた時には、子供たちは皆、息絶えていた。

 

愛しい我が子を、自らの手で殺めてしまった。

その事実は、テティスの心を苛んだ。

 

 

『せめてこの子は……この子だけは……!』

 

 

そうして、後に生まれたアキレウスを、神の火で炙った。

 

決して傷付くことの無いように。何モノにも脅かされないように。どうか、幸せになってほしいと、願いを込めて。

 

しかし結局、アキレウスを完全な不死身にすることは叶わなかった。

また子供を殺されると思ったペレウスにアキレウスを取り上げられ、二人は別れてしまったから。

 

だが、たとえ自分が側にいられなくても、幸せに暮らしてくれるのなら、それで良いと思っていた。

 

しかし…………。

 

 

 

───英雄アキレウスはトロイアの地にて、名誉の死を遂げる。

 

 

女神テティスは、予見の神でもある。

そして彼女が見た未来は、彼女にとって、正しく悪夢であった。

 

なぜ?どうして?

ただ我が子に、平和で穏やかな、普通の生活を送ってほしい。それだけの願いが、どうして聞き入れられないのか。

 

 

本当はアキレウスを引き留めたかった。しかし、海の女神である彼女は、そう簡単には海を離れられない。

 

ならば、アキレウスの死ぬ可能性を無くせば良いのではと、最高の防具を与えようと考えた。

 

ヘパイストスに頼んで、考えうる限り最高の物を仕上げてもらった。ポセイドンに頼んで、何者にも捉えられぬであろう神馬をもらった。

 

 

しかし、それでも予知は変わらず、愛する我が子の死を、指し示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキレウスちゃん、ママと一緒に、どこか遠くへ行きましょう?今ならまだ引き返せるから……だから……」

 

「………………。」

 

 

テティスは、何とかアキレウスに、幸せに過ごして欲しかった。自分が殺してしまった子供たちの分まで、愛を、幸せをあげたかった。

 

 

 

「………ありがとうございます。母上。」

 

「!、アキレウスちゃん!」

 

「しかしそれは、出来ません。」

 

 

アキレウスにも分かっていた。母がどれだけ、自分を想ってくれているか。そして、この提案に乗れば、確かに自分は幸せになれるであろうことも。

しかしそれは、問題の先延ばしに過ぎないことも、分かってしまっていた。

 

 

「俺は、この戦争で死ぬ。そう定められている。

母上も、お分かりなのでしょう?」

 

「そ、れは……」

 

 

そう。既に、運命は定まっていた(アキレウスは決めていた)

 

 

「無論、俺も全力で抗うつもりです。

しかし俺は、このトロイアの地で死ぬ。それは、どうしようもない。避けられぬ運命、というものなのでしょう。」

 

「ならばせめて、俺は俺の生を、全力で駆け抜けたい。」

 

「俺はアキレウス。英雄ペレウスと、女神テティスの間に生まれし、ギリシャ最強の英雄なのだと。そう、胸を張って死にたいのです。」

 

 

 

 

 

───最初は、後世でカッコ良く伝わればいいなと思っただけだった。英雄らしすぎる英雄ではなく、理想の英雄として。

 

しかし、いつしか彼には、英雄としての自負が生まれていた。自身は、英雄(アキレウス)なのだ、という意思が。

そんな思いが生まれたのは、なんてことはない。

 

 

 

───父と母に、無様な自分は見せられない。

 

そんな、単純なものだったのだ。

 

 

「俺にとって父上と母上は、俺を生んでくれた以上に、俺という存在を、最初に認めてくれた、大切な人たちなんです。」

 

 

泣かず、くずらず、何かを静かに見据えている、不気味な赤子。そんな子供でも、ペレウスとテティスは、大層喜んだ。

生まれてきてくれて、ありがとう。と、ただ祝福した。

 

それが、アキレウスという存在を確立させる、重要な因子となった。

 

 

「きっと、父上と母上との間に生まれなかったら、俺は浮わついたまま、どこかで野垂れ死んでいたと思います。

父上が、俺の誕生を喜んでくれたから。母上が、俺を愛してくれたから。俺はここに立てています。」

 

 

そして、アキレウスは頭を下げた。

 

 

「どうか俺に、最期の親孝行を、させて下さい。」

 

 

 

頭を下げ続けているアキレウスを、テティスはじっと見つめていた。

 

─────そして……

 

 

 

 

「…顔を上げて、アキレウスちゃん。」

 

 

顔を上げたアキレウスの頭に、ふわりと、手が乗せられる。

 

 

「……もう、こんなに大きくなってたのね。」

 

 

丁寧に、頭を撫で付ける

 

 

「…もう、ただの可愛いアキレウスちゃんじゃ、ないのね。」

 

 

そして、ほんの少し、目を閉じる。

 

すぐに開かれた海色の瞳は、揺るぎなく輝いていた。

 

 

「……分かりました。ゼウス様には、私から進言しておきます。今回の件は、適当な理由もない神の気紛れに依るものですから、恐らく受け入れられるでしょう。」

 

「ありがとうございます。母上。」

 

 

テティスは、アキレウスの思いと、覚悟を知った。

故にテティスも女神として、母として、覚悟を決めた。

 

 

「……アキレウスちゃん。頑張ってね?ママはいつまでも、貴方の幸せを願っています。」

 

 

テティスが、帰ろうとした。その時。

 

 

「母上。今までありがとうございました。」

 

「!」

 

「俺を認めてくれて。俺を、愛してくれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴女の息子として生まれて、俺は、幸せでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小波の音が響く海辺で、二人の親子を、月が見守っていた。




もっとハチャメチャなマッマになる予定が、普通に良い母親になっていた…まぁ、いいや(ポイ投げ)
それにしても、今回の話は三人称オンリーで大変でした…何度一人称にしようと思ったことか…唯一の救いは、実質トロイア戦争のダイジェストだから、話数自体は少なくて済むことですね。
え?アポにぐだ?…その話は一旦持ち帰らせてもらおう(返却拒否)

話が進んできて、どんどん矛盾やらにわか知識が露呈してきて悲しみが鬼なる。誰かジュースを奢ってくれ。9本でいい(謙虚)



全然関係ないけど、最近タイタンフォール2というゲームを買ったんですよ。PSstoreでセールをやってまして。驚きの400円以下ですよ。

やってみたらハマっちゃいましたね。スピード感が半端無いし、三次元的な動きするのが楽しいのなんの。
たまに、壁走って攻撃を避けつつ相手に一方的にやられる痛さと怖さを教えてやると脳汁溢れます。ざまぁないぜ!

まぁ、滅多に成功しないし、その前に殺られるんですけど。
フザケルナァッ!フザケルナァッ!!バカヤロォー!!!

ストーリーモードも楽しかったです。BTさんだいしゅきぃ…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。