気がついたらアキレウスだった男の話   作:とある下級の野菜人

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運営を称えよ(グルグルおめめ)


予定調和

アキレウスが前線を離れてから数ヶ月。

戦況は、膠着状態に陥っていた。

 

 

「やはり、手強いな……。」

 

 

智将、オデュッセウスは一人ごちる。

トロイア側の守備の堅牢さに、彼は手こずっていた。

 

 

「兜輝くヘクトール。やはり噂に違わぬか。」

 

 

武器を取れば一流の戦士。

盤面を見れば一流の軍師。

治世をすれば一流の為政者。

 

ヘクトールという男は、まさしく万能の男である。

あらゆる部門をこなし、全てにおいて秀でている、トロイア最強の英雄。

 

さしものオデュッセウスも、彼を相手には攻めきれずにいた。

 

 

(アキレウスの抜けた穴は、やはり大きい。

一点突破して、一部でも防備を突き崩せれば勝算はあるが…今のトロイア軍に対してそれを行えるであろう彼は、今は出られない。

 

ヘクトール……たった一人で、戦局をこうも大きく左右するとは…まるで、こちらにとってのアキレウスだな。)

 

 

無論、ギリシャ軍に強い兵が居ないわけではない。

 

アイアス。

ディオメデス。

パトロクロス。

 

他にも強き英雄たちが、この戦いに集っている。

しかし、今のトロイア軍を相手するには、足りなかった。

 

 

「ふぅむ──────。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや…こりゃあ厳しいねぇ…」

 

 

トロイア陣営。

報告書の束を眺めながら、男が溜め息を吐いていた。

 

 

「予想していたより、与えた被害が少ない。反対に、こちらの被害は予想より多い………こりゃあ、向こうさんには相当な切れ者がいるな。」

「全く…オジサンあんまし、働きたくないんだがなぁ…」

 

 

この男こそ、ヘクトール。

トロイアの王子にして、最強の英雄。

 

彼もまた、動きが変わったギリシャの兵たち。即ち、オデュッセウスの戦術に、頭を悩ませていた。

 

 

(いくら()()()()()()()()()()()()とはいえ、それでも強敵揃い。オマケに、ここに来て突然動きが変わる兵たち……主力が居なくなったことで、むしろやる気になった奴でもいるのかねぇ?)

 

 

────神様方も余計な事をして下さったもんだ。

 

そう言って、また一つ溜め息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───Side Hector───

 

 

 

 

アキレウスという英雄の噂は、前々から耳にしていた。

 

弱きを助け、悪しきを挫く。

古今無双の勇者にして、誰よりも善を体現する英雄。

 

俺は、コイツは敵に回した時点でアウト、って部類だと確信した。

なんでかって?

 

 

まず、噂っていうのには大概、大なり小なり尾ひれが付いてるもんだろうが、噂が立つ時点で只者じゃないっていうのは確定してるからさ。

火のない所に煙は立たず。

 

武力なり、知恵なり、魔術なり。ソイツには何かしら、目を見張るモノがあるからこそ、周囲を惹き付ける。興味を抱かせる。

 

オマケに、聞こえてくる噂は、尽くがアキレウスの勝利。少なくとも力量に関して、警戒し過ぎということは無い、と考えた。

 

 

しかし、何よりも厄介だと思ったのは、奴が“善の体現者”だと言われている点だった。

 

善の体現者。即ち、善であることが約束された者。

 

要は、アキレウスのいる側が正義。トロイアは悪。そう取られても不思議じゃあないって話。

悪に加担したいか、正義の為に戦いたいか、なんて聞かなくても分かること。ぶっちゃけ、オジサンだってそう思う。

 

しかし、何の因果か、俺たちはアキレウスとやらを敵に回しちまってるってことで……

 

 

「はぁ……全くさぁ…何で戦争になるかねぇ…」

 

 

今さら何を言っても仕様がないんだがなぁ……それでも愚痴の一つや二つ、三つ、四つ……そんくらいは出ても良いでしょうよ。

 

 

 

 

 

 

 

そもそもの話、だ。

今回の戦争の原因は、何を隠そう神々の争いに依るものだ。

 

誰が最も美しい女神か、なんて、どうでもいいと思うんですがねぇ…人によって美醜の価値観なんざ違うし、オジサンだったらアンドロマケーが一番だと思うかんね。

 

それはともかく。

ヘラ様、アテナ様、アフロディーテ様の三柱の中から、最も美しい女神を選ぶことになり、白羽の矢が立ったのが、我が愚弟たるパリス。

 

まぁ、なんやかんやとあって、結局あのバカリスは、選べば絶世の美女を与えるというアフロディーテ様を選び、現在に至る、と。

 

 

 

なーんでよりによってアフロディーテ様なのかねぇ…まぁ、誰を選んでも厄介だったろうけどさ。せめてヘラ様を選んでくれてれば、少なくとも戦争とまではならなかったか、なっても勝てる見込みが大分あったんだがなぁ…

 

 

…まぁ、しかし。確かにパリスは馬鹿だったが、間違ったことをしたとは思っちゃいない。

結果的に戦争になっちまっただけで、正しいことをした、と胸を張って言える。だからこそ、このまま黙って滅びるよりはと、戦争に踏み切ったんだ。

 

なにより…

 

 

 

『僕、ヘレネーさんを助けたいんです!』

 

 

 

あの真っ直ぐな目を見ちゃあ、嫌とは言えんわな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、弱音はここまでにして、そろそろ真面目に考えますか。」

 

 

前線に来て数ヶ月。今の状態が続いても…まぁ、負けはしないだろう。

確かに、想定よりも相手側の損害は少ないが、無い訳じゃない。戦力比を考えれば、むしろこっちの方が削ってる。このままチクチクと攻めていけば、いずれこちらに軍配が上がる。

 

しかしその間に、こっちの被害がえらいことになりそうなんだよなぁ…全くもって、厄介な奴がいるもんだ。

 

必然的に早期解決が望ましいわけだが…

 

そうなると────。

 

 

 

 

 

───Side Out───

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままでは、互いの戦力を無駄に消費する泥戦になる。」

 

 

 

「そいつを避ける方法は…まぁ、色々とあるが…」

 

 

 

「和平の交渉による円満な解決。」

 

 

 

「もしくは手っ取り早く────。」

 

 

 

 

 

 

 

─────最高戦力同士の一騎討ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある部屋の前で、パトロクロスは立ち止まっていた。

 

 

「ふぅ…─────よし。」

 

 

意を決した様な表情で、ドアを開ける。

 

 

「やぁ、我が友よ!いるかい?」

 

 

ドアを開けた先には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む………もう少し濃い目がいいか…?」

 

 

 

 

戦闘装束(エプロン)を身に纏い、煮えたぎる大鍋(今晩の夕食)を前に悪戦苦闘する、大英雄の姿があった。

 

 

「いつ見ても違和感がすごいなぁ…」

 

「お、なんだ、パトロクロス。夕飯の心配か?

今日のは自信作なんだぜ。」

 

「あぁ、いや。それは、全く心配してないよ。いつも美味しく頂いてます…」

 

 

アキレウスは、自身が戦いから外されてから、戦いに参加する以外のことを積極的に行っていた。

 

人が多ければ多いほど、それを維持するには相応の苦労がある。ましてや、彼らは戦う者たち。費用はもちろん、食事や衛生管理などが、普通の人より何倍も手間が掛かる。

無論、小間使いはいるが、軍の大規模さ故に、手の回らないことも出てくる。

 

そこでアキレウスは、その神速で以て、あらゆる労働をこなしているのだ。───因みに、森での経験と、前世の記憶からの知識により、彼の作る料理はまるで天上の料理だと評判である。───

 

 

「なんというか…人は見掛けによらないってこういうことなんだね…」

 

「ん?なんか、変なところあるか?」

 

 

別におかしいところなんか無いだろ?と言わんばかりに小首を傾げるアキレウスに、パトロクロスは肩を竦める。

 

 

(むしろ堂に入ってるから困るんだよなぁ…)

 

「?……よく分からんが、夕飯の話じゃないんなら、何か相談事でもあるのか?」

 

「おっと、そうだった。」

 

 

アキレウスの言葉により、ここに来た理由を思い出したパトロクロスは、真剣な面持ちで、話を切り出した。

 

 

 

「不躾で済まないが、実は君に、折り入ってお願いがある。」

 

 

一度、深呼吸。そして、本題を話す。

 

 

「私に、君の武具を貸してほしいんだ。」

 

「おう、別にいいぞ。」

 

「あぁ、どれだけ無茶な願いかは分かってる。あの神ヘファイストスが自らの手で鋳造した神鎧に、君の思い出の品である槍を、一時的にとはいえ貸してほしいだなんて。しかし、これは、とても大きな意義があるもので───へ?」

 

「いや、だからいいって。」

 

 

意を決した嘆願は、実にあっさりと承諾された。

 

 

「ほ、本当にいいのかい?」

 

「構わねぇさ。」

 

「いや、しかし…」

 

 

戦士にとって武具とは、己の手足の延長。なにより、自分の命を預ける大切なモノ。当然愛着は湧くし、長く使った物となれば尚更。

 

おまけに、アキレウスの武具は、普通の物とは訳が違う。

あの鍛治神ヘファイストスが手ずから造り上げた鎧。そして、あらゆる智慧を修めたケンタウロスの賢者、ケイローンが作った青銅とトネリコの槍。

どちらも神が造りし神造兵装。

そしてどちらも、大切な人たちから送られた武具なのだ。

 

普通の戦士であれば、自身の愛用の武具を、一時的にとはいえ他人に貸し出すなど、ありえない話だ。

 

 

「俺は生憎と戦いには出られねぇ。腕が鈍らない様に鍛練するときにしたって、大仰すぎて使えねぇし。今のままじゃあ、宝の持ち腐れってやつだ。」

「だったら、友の為に使う方が、よっぽど有意義だろうさ。ヘファイストス様も、母上も、我が師も、きっと許して下さる。」

 

「アキレウス…」

 

 

しかし、アキレウスはあっさりと貸し出す。

 

それは決して、自身の武具に愛着が無いわけでも、母や師を軽んじているわけでもない。(ひとえ)に、友の為だった。

 

 

「それに、お前のことだ。ちゃんと理由もあるんだろ?」

 

「…うん。情けない話なんだけどね。」

 

 

 

そして、パトロクロスは語る。今の戦況を。

 

戦局が膠着状態にあること。トロイア兵の動きが変わり、以前よりもずっと手強くなったこと。アキレウスが出られなくなったことで、ギリシャ軍の士気が落ちていること。

 

 

「このままだと、下手をすればこちら側が敗北しかねない。だから、見た目だけでも君が出陣した様に見せれば、盛り返せると思うんだ。」

「まぁ、一時的なものだろうし、結局は、君に頼ってしまっているんだけど…」

 

 

そう言って、パトロクロスは自嘲気味に笑う。

 

彼は、自分が自分で情けなかった。

心底の友であり、恩人であるアキレウスの役に立ちたくて、子供のころから鍛練を積んできた。

しかし現状は、アキレウスに頼らざるを得ない。

それが、パトロクロスは堪らなく悔しかった。

 

 

「すまない、アキレウス。私、いや、僕たちは…」

 

「それ以上は言うな、パトロクロス。」

「俺は一人で戦ってると思ったことは、一度たりとも無い。お前らが居るから、戦えてるんだ。こう見えて、俺は寂しがりなんだぜ?」

「それによ。お前らは気づいてないだけで、俺は何度もお前らに助けられてる。むしろ、俺の方が礼を言いたいんだ。」

 

「アキレウス…」

 

「俺が助けられた分、俺は何度だってお前らを助ける。

だからお前は、もちっとドーンと構えとけ。」

 

 

そう言ってアキレウスは、爽やかに笑う。

その顔は、幼い頃に見た、あの笑顔そのもので。

 

 

「────全く。変わらないね、君は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。せっかくだし、飯の味見してくか?」

 

「…もちろん!君の料理は最高だからね。役得ってやつさ!」




話がごちゃごちゃしてる気がするけど気にするな!(魔王感)

ということで今回の話は、ちょっと歴史の修正ぢからが動いてるところを書いてみた、という話です。えぇ、決してアキレウスとパトロクロスのイチャイチャ回ではありません(固い意志)

それにしても戦争中の話なのに戦闘シーンまるでないな…次回も、あるにはあるけど雀の涙程度だし…戦争とは?(哲学)



それにしてもFGO、神ってますね。☆5配布とかいうトンデモイベント。実に、最高です!
皆さんは誰を呼ぶか決めました?
私はもちろん、長年居留守決め込んでる大軍師です。何が三顧の礼じゃ!こちとら四年の礼やぞ(血涙)


しかし、新型ウィルスが猛威を奮っていますし、皆さんもどうか、体調には気をつけて下さい。

某ネコ型ロボット漫画のヒロインばりにお風呂に入って、婦長に殺菌(物理)してもらいましょう。
そうすれば、99.9%除菌完了ですΣb( `・ω・´)グッ

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