神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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ついに、ついに来たよ、この場面に


終わったけど終わらない第47話

デュノア夫人の事の顛末を聞いた翌日。

急遽入った休みは終わり、元の学業へと戻る日。

 

俺、如月鋼夜は朝一でラビアンローズから学園へ戻った。

自室へ戻って制服へ着替え、眠ったままののほほんさんを起こした後に食堂へ向かった。

 

 

「……爽やかな朝だなぁ」

 

俺の表情はいつもより明るい。

それは間違いなく、輝さんのおかげだろう。

 

輝さん直伝の『マル秘脳量子波制御方法』なるものによって俺の心と脳は大分安らいだ。

 

ニュータイプが持つ特殊な脳量子波を制御して普通の人間レベルまで落とそうぜ、という事らしい。

これを極めた輝さんは今や任意でニュータイプ能力のオン、オフの切り替えが出来るらしい。

 

 

この方法を教えてもらって、早速変化があった。

以前はそこらへんの人間のどうでもいい雑念まで感じとっていたが、今は強い思い以外はシャットアウト出来るようになった。

強い思いといってもだいたいは「お腹減った」とか「眠い」とかのものなのでさほど気にならない。

 

 

「お、鋼夜じゃないか」

 

「一夏か」

 

入り口で一夏と遭遇する。

前の俺だとこれだけで不機嫌になったが、今は気分がいい。許してやるよォ!

 

 

「おはよう。シャルルは一緒じゃないのか?」

 

「遅れて来るだろ、多分」

 

 

一夏に言われた通り、シャルルと俺は一緒に帰って来ていない。

輝さんと少し話をしてから行くと言っていた。

十中八九、今日の朝にでも彼女は正体を明かすだろう。

 

まぁ、彼女が今このタイミングで「実は女でしたー」と言っても被害は無い。

 

デュノア社やフランス政府は既に恩のあるラビアンローズに逆らえない。

学園側は味方なので適当に合わせてくれる。

問題は委員会だが、デュノア社とフランス政府と学園と俺達が口裏を合わせれば問題は無い。どうとでも誤魔化せる。

 

 

「あの夜のこと、教えてくれよ。俺、心配でさ」

 

 

気付けば日替わり定食を持った一夏が目の前に居た。

両手に日替わり定食を持っている事から、片方は自分のものだと推測する。

 

 

「あ、俺と一緒のやつで良かったか?」

 

「別にいい。……そうだな、話せる範囲で話そう」

 

周りに聞かれないように警戒しながら、あの大捕物に経緯や経過を一夏に話して朝食は終わった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その後、一夏と共に教室へ向かったのだが皆の視線というか驚いたような顔が半端なかった。

 

まぁ、喧嘩していた(ように見えた)二人が仲良くやって来たのだ。

そりゃ驚く。

 

それを察した一夏が「俺達はもう大丈夫だ」と言ってくれたのでとりあえず俺へ集中する視線は減った。

 

その察しの良さをもうちょっと生かしてくれないかな。

そしたら言うこと無いんだけど。割とマジで。

 

 

「一夜で仲直り……」

 

「仲直り(意味深)」

 

「いったいナニをしたんですかねぇ」

 

 

こうして貴腐人が沸く辺り、何時もの一組だと安心してしまう。

いや、安心しちゃいけないんだけどね。

 

 

「鋼夜」

 

「箒か」

 

 

席へ荷物を置くと箒が話し掛けてきた。

一夏の方にはセシリアが行っている。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「ああ。心配かけた」

 

一見、箒は心配してくれているように見えるが彼女はさりげなく言葉を濁している。

俺は箒が何が言いたいのかを理解した。

 

「一夏が言った通り、一応決着みたいなのは付いた。それよりごめんな、一夏を殴って」

 

「いや……二人が納得しているならいい。それと、一夏を止めたのは正しい判断だと思う」

 

いきなり笑い出すのはどうかと思うがな、と彼女は付け加えた。

 

ははは、人の黒歴史を掘り返すくらいたくましくなったね箒ちゃん。お父さん嬉しい。

 

 

「そろそろ先生来るぞ。席へ戻れ」

 

「では、そうさせてもらおう」

 

時計を見ると時間がいい感じだったので箒を追い出す。

しかし箒はああ、と思い出したように呟くと再び振り向く。

 

「我が道場の、篠ノ之流の誇りを守ってくれて感謝する」

 

 

そう言い残して彼女は席へ戻っていった。

 

道場の誇りか。

彼女も怒っていたのだろう、自分の家の剣術が使われたことに。

確かにあれは一種の侮辱にも見えるからな。

 

 

そう納得していると教室の扉が開いて山田先生が入ってきた。

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

挨拶も元気が無く、どこかふらふらとしている山田先生。

教室を見回すとシャルルが居ない。

あとおまけでボーデヴィッヒも居ない。

 

これは確定ですね。

 

俺は調整を受けたばかりの『四天』の待機状態である眼鏡をくいっと上げる。

 

 

「ええとですね……今日は皆さんに転校生を紹介します。転校生というか既に紹介は済んでたり……えっと……」

 

山田先生の訳の分からない説明にクラスが騒然とする。

俺は眼鏡をそっと外した。

 

「見てもらった方が早いですね……入って下さい」

 

「失礼します」

 

聞こえてきたのは予想通り、シャルルの声。

そして教室に女子の制服を着たシャルルが入ってくる。

 

「理由があって男として過ごしていましたが、それが解決したので改めて自己紹介します。シャルロット・デュノアです、皆さんよろしくお願いします」

 

そしてぺこりと一礼。

クラスメイトの全員がぽかんとしたまま固まっている。

 

世界の時が止まったようだ。

 

「デュノア君はデュノアさんでした、ということです。はあぁ……また寮の部屋割りを組み立て直さなきゃ……」

 

山田先生、お疲れ様です。

とりあえず男子は本当に俺と一夏だけになったんで俺達を一緒にすれば解決ですね。

 

 

「え?デュノア君って女……?」

 

「この真夏のサマーデビルの目を持ってしても見抜けなんだ……」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったのね!」

 

「平坦なバストから繰り出される豊満なバスト!意味不明!アイエエエエエ!」

 

「あぁっ、岸里が倒れた!衛生兵!岸里の遺言の翻訳と治療を頼む!」

 

「男の時と女の時で胸の大きさが違い過ぎるよ!まるで意味が分からんぞ!、とのことです!」

 

 

教室内が一気にカオスになった。

やっぱり気付いたり疑問に思ってる人は居たのね。

 

胸については同意。サラシってレベルじゃねーぞ。

命をかけてツッコんでくれた岸里さんに合掌。

 

デュノア社のその技術はラビアンローズの衣類開発部辺りがありがたく頂戴するだろう。

 

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

「織斑くん同室だし、気付かなかったってことは無いわよね!?」

 

 

誰かが発した一言により再び教室内の時が止まる。

 

 

「……あっ。えっと、僕は二人の護衛だから二人とも最初から理解してーーーー」

 

 

俺達の護衛というのはシャルル……いや、シャルロットが男装していたのを正当化するための嘘だ。

このことはラビアンローズもデュノア社も学園側も了承しており口裏を合わせてくれる。

 

突如、隣のクラスから殺気を感じた。それは徐々に近付いてくる。

シャルロットが全部言い終わる前に教室のドアが勢いよくスライドして開き、その殺気の正体が現れた。

 

 

「い~ちぃ~かぁ~!!!」

 

 

その正体は案の定、鈴だった。

ISの『甲龍』を纏い、双天牙月を構えて息を荒くしながら一夏を睨みつけている。

 

「最後に何か言い残すことはあるかしら?」

 

衝撃砲の装甲をスライドさせながら鈴は告げる。

 

 

「待て、鈴!話せば分かる!」

 

「そ、そうだよ!落ち着いてよ!」

 

どこぞの首相の様な事を言う一夏とそれを庇うシャルロット。

 

 

「どきなさいシャルル!そいつ殺せない!」

 

「だから話を聞いてよぉ!僕は二人の護衛として入学したんだから二人は最初から知ってたんだよ!」

 

 

怒り心頭の鈴にシャルロットは中断された話の内容をすべて言い切る。

よくやったシャルロット、これで鈴も納得するだろう。

 

 

「……一夏、それ本当?」

 

「えっ、俺も初み……いや、知っていたぞ!シャルロットのことは!」

 

 

ぎぎぎ、と首を動かし機械のモノアイのような眼差しの鈴が一夏に確認を取る。

一夏は正直に答えそうになるがギリギリで意味を理解して話に乗った。

 

「……ふーん」

 

半信半疑の様子の鈴は次のターゲットをシャルロットへ移した。

 

「シャルル……じゃなかったシャルロット。二人に間違いは無かったのね?」

 

「ま、間違いって?」

 

「こいつのラッキースケベやセクハラに巻き込まれたかどうかってことよ」

 

鈴はシャルロットにぶっきらぼうに答える。

ラッキースケベはともかくセクハラって……そういえば一夏って鈴に貧乳って言ってたな。

シャルル状態の時もストーカーみたいに一緒に着替えに誘ってたし。

そもそも男バレしたのも一夏がラッキースケベでシャルロットの裸を見たからなんだよな。

 

普通に有罪ですね。

 

 

「…………」

 

鈴の質問にシャルロットは顔を赤くしながら沈黙した。

多分、俺と同じことを思っているのだろう。

そしてしばらく考えたのちに彼女は一夏の方へ向いた。

 

「……一夏のえっち」

 

「なんで無言になるんだよぉ!なんで今それを言うんだよぉ!」

 

まさかの裏切りに一夏は叫ぶ。

そして追い討ちをかけるかのように『四天』がセシリアの『ブルー・ティアーズ』の展開を知らせる。

哀れ織斑一夏。

 

 

「よし殺す」

 

一夏絶対殺すマンと化した鈴が双天牙月を構えてゆっくりと近付く。

シャルロットは諦めたような表情で鈴に道を譲った。

 

 

そろそろ危なくなって来たので他のクラスメイトが一斉に教室の後ろへ退避しだした。

ちなみに俺も退避する人間の一人だ。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

一夏は教室から逃げようと走り出すが、その進行方向に青い何かが立ち塞がった。

 

「あら、一夏さん。どこへ行かれるのですか?私、少し一夏さんにお聞きしたいことがありますの」

 

 

進行方向を塞いだのはセシリアが飛ばしたビットだった。

そのセシリアも冷たい笑顔を浮かべながらゆっくりと一夏へ近付いている。

 

 

「鋼夜ぁ!箒ぃ!助けてくれぇ!」

 

前門のブルー・ティアーズと後門の甲龍に挟まれた一夏は俺と箒の名を叫ぶ。

 

 

「無理」

 

「……すまない」

 

「即答かよ!」

 

俺は今『天岩戸』を展開してクラスメイトの盾になっている。

箒はISが無い。よって無理。

 

しかしこのまま彼女達の蛮行を見逃す訳には行かない。

山田先生はさっきからオロオロしているばかりで頼りにならない。

ならば、あの人に頼るしかあるまい。

 

 

「伝令!織斑先生を呼んでこい!」

 

「了解!」

 

打ち合わせをした訳では無いが、俺が一声掛けると谷本さんが飛んでいった。

 

 

「というわけだ一夏。耐えろ」

 

「無茶言うなよ!」

 

「織斑先生ですか……」

 

先生の名前を出せば止まると思ったが、それは正解だった。

セシリアは踏みとどまった。

 

「千冬さん……厄介ね、さっさとしなきゃ」

 

しかし鈴だけは違った。

 

「せめてもの情けよ、苦しまずに逝けるよう1発で仕留めてあげる」

 

一夏絶対殺すマンと化した鈴には聞かなかった。

彼女は双天牙月を振りかぶり、勢いよく振り下ろした。

 

 

ーーーー瞬間、黒い影が両者の間に割り込んだ。

 

 

「……あれ?」

 

「へ?」

 

一夏と鈴の間の抜けた声が聞こえた。

鈴の振り下ろした双天牙月は間に割り込んだ第三者、黒いISによって止められていた。

 

 

「ら、ラウラか。すまん、助かった」

 

介入した第三者、ラウラ・ボーデヴィッヒはAICを発動して一夏を守ったようだ。

彼女のISである『シュヴァルツェア・レーゲン』は大型カノンが無い以外は修復が終わっている。

 

「借りを返しただけだ。それにお前が居なくなると教官が悲しむ」

 

それだけ告げると彼女はISを解除し、スタスタと歩く。

彼女の席は教室の後ろだ。そのまま席に座るのかと思えばそのまま通り過ぎ、こちらへやって来た。

 

彼女が騒動を収めてくれたので俺は天岩戸と共にISを解除し、待機状態の四天を掛け直す。

 

 

「もう動いて大丈夫なのか?」

 

そう声を掛けるが彼女は無視する。

しかし歩調は緩めず、俺の方へ向かって来る。

 

「…………」

 

そしてついに目の前まで来た。

瞬間、目の前のボーデヴィッヒから花畑というかピンク色のイメージが伝わってきた。

 

まさかこれ、アカンやつだ。

 

 

次に起こることを即座に理解した俺は後退ろうとするがそれより早くボーデヴィッヒは動いた。

 

ニュータイプの機能を制限していたのが逆に仇になったらしい。

 

襟を掴まれる。体勢が崩れる。

目の前にボーデヴィッヒの顔が見える。目が合う。それが徐々に近付いてくる。

 

唇に、柔らかい感触が、温かい感触が。

 

そんな感触が、しばらく続いた。

数十秒かもしれない。数分経ってたかもしれない。

 

キスされた、と理解するのに時間はかからなかった。

 

 

唇と唇が離れる。

彼女の朱に染まった頬と恥ずかしそうな表情が真っ先に目に入った。

 

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

 

そして、唐突の告白。

 

へたり込んだままの一夏、ISを展開したままの鈴とセシリア、棒立ち状態の箒とシャルロット、クラスメイトのみんなと山田先生、野次馬として集まった他クラスの女子、遅れて谷本さんと共にやって来た織斑先生。

 

全員の時間が、停止した。

 

「お、お前は私の全てを視たんだろう……?せ、責任を取ってもらうからな……」

 

やはり恥ずかしくなったのか、身体をもじもじさせ、顔を更に赤くしたボーデヴィッヒは小声で続けた。

 

 

女の子から、告白された。

しかも相手は美人だ、普通ならば嬉しい。

 

 

だが、それにも時と場合がある。

 

 

俺は感じるまま(・・・・・)に辺りを見回した。

 

 

俺の後ろにいたのほほんさんは悲しいとも不機嫌とも言える表情でこちらを見ている。

その隣にいた相川さんはショックを受けたような表情をしている。

山田先生は機能停止している。顔を赤くしたまま動かない。

鈴を呼びに来たであろう二組のハミルトンさんは教室の外の扉の前で固まっている。

野次馬で来ていたであろう簪さんはうっすらと泣いているのが分かる。

生徒会室の方から殺気が飛んで来るのを感じる。

 

 

その後、正気に戻った織斑先生の号令により野次馬は散っていき俺達も席に戻った。

鈴やセシリアはそのまま先生に引きずられて行った。

 

 

「……一時限目は教室を移動しますので遅れないようにしてくださいね」

 

山田先生がそう言い残したところでSHRの終了を知らせるチャイムが鳴った。

 

 

しかし時間になっても誰一人として動かない、言葉を発しない。

 

 

「よ、嫁よ。その……一緒に行かないか?」

 

 

ただ一人、ボーデヴィッヒ(彼女)を除いて。

 

 

あらゆる方向から視線が突き刺さる。

 

 

「あぁ、鬱だ……」

 

 

教室の白い天井を仰ぎながら呟いた。

どうやら、俺の苦痛は終わらないらしい。




彼 女 さ え で き れ ば
報 わ れ る と 思 っ て い た の か ?


ほら、みんなの望みを叶えてあげたよ!(暗黒微笑)


(面倒事は)終わったけど(苦痛は)終わらない

ついに来たよ二巻ラスト!一番書きたかったとこ!
ようやくタイトルフラグ回収出来たよ!
鋼夜の苦痛はこれからだ!

いや、むしろこれからが本番と言えよう
次回から三巻の範囲に突入します

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