S級ヒロイン【金色の闇】   作:カンさん

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第六話・後編『【  】のダークネス』

「……っ」

 

 頭部に感じる痛みにより、金色の闇の意識は覚醒した。どうやら倒れているらしく、体の前面が冷たいアスファルトに接している。しかも、何か重たい物が上から覆い被さっており上手く動くことができない。

 仕方ないので、トランスを使って背中にある物を退かした。するとガラガラと音が響き、陽の光が差し込む。

 己を阻む物が無くなり、膝に力を入れて立ち上がる。そして、目の前には……瓦礫の山。

 

「え」

 

 記憶が混濁している。何故自分はこんな場所に居る? 

 ズキズキと痛む頭を押さえればヌルっとした感触。どうやら血が流れているらしい。両腕で血を拭おうとして、自分が何か持っている事に気がついた。

 

 

 彼女は、子どもの腕を持っていた。

 肘から先の無い、グチャグチャになったたい焼きを持っていた幼き子どもの腕を。

 

「──」

 

 それを見て彼女は全て思い出した。

 街を覆う巨大な影ができた瞬間、閃光が走って衝撃が全身を襲った。

 完全な不意打ちに金色の闇も対処しきれず、瓦礫の下敷きになっていた、というところだろうか。そして、それを為したのは、上空に浮かぶ謎の飛行物体。

 

「……」

 

 持っていた子どもの腕を優しくその場に置き、彼女は空を見上げた。

 ザワザワと金色の頭髪が浮かび上がり、主人の命令に従ってその肉体情報を作り変える。

 そしていつしか金色の繭が出来上がり、その中から金色の闇が、再びあの姿へと変身して出て来た。

 チラリとヒーロー協会本部を見て、次に上を見た彼女は──高速で飛び上がった。

 

 そして、そんな彼女の動きに気づいた者が居た。

 

「空飛ぶ奴が居るな」

「船に近付いている」

「殺してしまおう」

「良いと思うよ」

 

 人型の泥人形に醜悪な顔をいくつも付けた生物が、羽を広げて金色の闇の前へと飛び出る。一個体から複数の声が響き、明らかに通常の生命体ではない。そして、立ち位置的に空に浮かぶ飛行物体を守る存在であるのは明らか。

 そうなると、激突は自然であり。

 

「邪魔です」

「──あ?」

 

 しかし、金色の闇はこれを瞬時に斬り刻んだ。

 両腕、頭髪を複数の剣にトランスさせて、数に物を言わせての斬撃。相手は知覚する前に体が地面へと落ちていく。

 

 それを見届ける時間も惜しいのか、金色の闇はさらにスピードを上げる。景色が後ろへと流れ、目の前に飛行物体の底が近づく。

 

「失礼──」

 

 それと同時に体を反転。足を天に向け、頭を下に。

 そして脚をドリルへとトランスさせる。さらに金色の頭髪をドリルの頂点へと集中させエネルギーを集中。体ごとドリルを高速回転させ、自分自身を一つの弾丸へと変え──。

 

「──しますっ!」

 

 船底を削りながら重力に逆らい、上へ上へと潜っていく。

 ギャリギャリと嫌な音が響くが金色の闇は気にせずに探し続ける。己のターゲットを。

 

(──居た!)

 

 感じる膨大なエネルギーに向かい進行方向を変え、金色の闇は進む。

 道中、この船の戦闘員らしき者と遭遇するが片っ端から巻き込んで削り殺していく。

 悲鳴を、血を、肉を、壁を床を突き進んでいき、そして。

 

 ──ドガァッ!! 

 

 空けた空間に飛び出した。

 トランスさせていた体を元に戻し、床に降り立つ金色の闇。そしてゆっくりと顔を上げ、玉座に座っている一体の生命体に目を向ける。

 

「……」

 

 金色の闇が無理矢理侵入した影響だろう。背後から、アラート音が響き渡る。その音だけがこの空間に広がり、両者は静かにお互いに視線を交わしていた。

 

「よくぞ来た……とは言わんぞ、この星の者」

「こちらもこの星にようこそ……とは絶対に言いませんので構いません」

「ふっ。あの砲撃に耐えただけはある。だが──」

 

 薄暗い室内で、金色の光が煌めく。

 一瞬でこの船の主ボロスの背後に回ると、トランスさせた右手の剣で肩から突き刺した。

 ズブリと肉を侵食する音が響き、感触が彼女の手に伝わる。

 本来なら、心臓に届く一撃。生きてはいない。しかし……。

 

「──お前ではないな」

 

 ボロス相手には致命傷になり得ない。

 己に突き刺さった剣に構わず、無造作に振り返り拳を振り抜く。

 メシッと金色の闇の腹部から音が響き、背後の柱に叩きつけられる。

 

「──かはっ」

「砲撃程度でダメージを喰らう筈が無いのだ」

 

 予備動作なく、察知できない拳撃。単純に速いというのもあるが……。

 

(殺気が無かった……敵として見られていない!)

 

 現状の相手とのレベル差が致命的だった。

 

「だが、貴様は十分に強い。だからこそ分かる。お前は予言にあった者では無い。オレを満足させる存在では無い」

 

 ──だから即刻この船から消えろ。オレの邪魔をするな。

 

「っ!」

 

 ここで初めてボロスから敵意が向けられる。

 気付いた時には目の前に居り、拳を振りかぶっている。それをトランスを用いたワープゲートを使って回避。離れた床から飛び出し、ボロスの背後に回った金色の闇は攻撃を仕掛けようとし。

 

「遅い!」

 

 高速で移動したボロスによって再び吹き飛ばされる。今回はしっかりとガードしたが、それでも衝撃が抑えきれない。

 ボロスが先回りして殴り、それを何度も何度も繰り返す。トランスを使う暇も無く、面白いように跳ね回る。

 

「ぅ……ぁあっ!」

「失せろ」

 

 痛みに顔を歪める金色の闇に、最後にボロスは腕を思いっきり振り下ろす。すると金色の闇は床を……否、船の中を突き抜けて行き地上へと落下した。

 それを見届けたボロスは、体からエネルギー波を放出する。すると、残留していた金色の闇のトランスエネルギーが消え失せ効力を失う。

 

「これで船には入ってこれまい──ゲリュガンシュプ!」

『はっ!』

「グロリバースと共に地上へ降り、先ほどの侵入者を始末せよ」

『まだ生きているので?』

 

 ゲリュガンシュプの問いに、ボロスは先ほど殴り付けた拳に触れる。すると一つの線が走り、傷が開いた。

 しかしすぐに再生させると指示を続ける。

 

「ああ。オレはこれからこの船にやってくる奴と全力で戦闘を行う。他の戦闘員も邪魔だな……即刻全員連れて、ゴミ掃除を続けろ」

『は……はっ! かしこまりました!』

 

 通信を終えたゲリュガンシュプは、グロリバースと共に最低限に人員を残して、戦闘員を連れて地上へと降りた。

 そしてボロスは……。

 

「さぁ、来いこの星の代表。オレに生を実感させてくれ……!」

 

 それからすぐの事だった。先ほど金色の闇が突入した時以上の衝撃が船に轟いたのは。

 

 

 

 

「……っぅ」

 

 瓦礫の中から、金色の闇が這い出てくる。

 ダークネスの力で損傷箇所を修復しながら、彼女は立ち上がる。

 正直に言って初めてだった。勝てない。負けると思った相手は。

 だからこそ──許せない。ここで死ねば後がどうなるかなど分かりきっている。ヒーロー協会本部を見ながらそう考えてしまう。

 金色の闇はボロスを絶対に倒さないといけないターゲットだと改めて認識した。しかし、そのターゲットにもう一度辿り着くには、骨が折れそうだ。

 

「さっきはよくもやってくれたな、雑魚の分際で!」

「……強力な再生能力付きですか。厄介ですね」

 

 感情を露わにしているメルザルガルドに舌打ちする金色の闇。先ほどは相手が油断していたからこそ最速で不意打ちが決まり、無力化できた。

 しかし今は警戒され、しかも再生のメカニズムを理解していない。

 加えて……。

 

「メルザルガルド 手伝うぞ!」

「あぁ!? いらねーよ。てか何でここに居るんだゲリュガンシュプ! それにグロリバースまで」

「ボロスさまの命令だ。三人で一斉にやるぞ」

「ちっ……」

 

 タコの出来損ないのようなのと、両腕がウツボのようになっている顔なしの奇妙な生物まで加勢してきた。

 しかも感じるエネルギーは全員高く、災害レベル竜は確実だ。

 それが三体。さらに戦闘員の大群が迫って来ている。

 

 ──万事休す。かと思われたが。

 

「ちょっとちょっと。何でアンタが此処に居るのよ」

 

 瓦礫の山となってしまったが、此処はA市。

 ヒーロー協会本部のある街。そして今日はS級ヒーローが集まっていた。

 

「それにまたハレンチな姿になって……その上ボロボロ。本当に何してんのよ」

 

 戦慄のタツマキが金色の闇の前に降り立つ。

 

「こいつらか。この町をこんなにしたのは……イアイ、やるぞ」

「はい、師匠……!」

 

 アトミック侍とその弟子イアイアンが剣を手にタツマキの横へ並んだ。

 

「お嬢ちゃん、怪我は無いか?」

「後は俺たちに任せておきな」

 

 後ろからは、シルバーファングと金属バットが義憤を全身に漲らせながらやって来た。

 

「ふふっ。ライバルを助けるのも一興かもしれないな」

「タンクトップの力、思う存分見せてやる」

 

 ぷりぷりプリズナーが、タンクトップマスターが拳を握りしめた。

 

 ヒーロー協会が有する最高戦力が集う。

 メルザルガルド達は、雑魚とは明らかに雰囲気の違う彼らに警戒を露わにする。

 

 さらに遠くでは、戦闘員の大群相手に大立ち回りを演じるヒーローたちが居た。

 S級のジェノスやクロビカリ、童帝を筆頭に数人のA級が駆けつけていた。次々と敵を落として行くのを見ていると、タツマキが彼女に声を掛ける。

 

「こいつらをさっさと片付けたら、あの船も落とすから……なんか煙上げているけど」

 

 見上げると、確かに船から煙が上がっている。まるで何かに壊されているかのように。

 タツマキが視線で「アンタなんかした?」と聞いてくるが首を横に振った。

 

「そう。まぁ、関係ないわ」

 

 それだけを言うと、タツマキが超能力を行使し、それに続くようにほかのヒーロー達も戦闘に参加する。

 災害レベル竜の怪人が三体揃っているとはいえ、こうまでS級ヒーローが集まっていると安心もする。

 

 金色の闇は、戦闘に参加する事も考えたが──。

 

(私の戦う相手が居ないようですね)

 

 船の中で二つのナニカが戦っている。ボロスと他のS級ヒーローだろう。もしかしたら噂のブラストなのかもしれない。

 強大になったボロスが圧されているのを感じる。……引導を渡す暇はなかったようだ。そもそもこの穴だらけとなった体では、無理だったのかもしれないが。加えて、片腕を無くしている。

 

(ならば、ダークネスが続いてる間に出来ることをしましょうか)

 

 金色の闇はワープゲートを使った。

 座標は主に瓦礫の下。対象は──この事件に巻き込まれた人達。

 

 激戦の中、金色の闇は姿を消し──それと同時にヒーロー協会本部前に沢山の生存者が。真反対には傷ひとつない死体が綺麗に並べられていた。

 まるで、誰が死んだのか分かるように。

 

 

 

 通信でキングが帰った事を聞いた金色の闇は、ダークネスを解き表面上の傷を治してある場所へと向かっていた。

 帰るには、少々キングにはショッキング過ぎる。

 しかし道中、会いたくない相手と出会う。

 

「……」

「……」

 

 イケメン仮面アマイマスクがそこにいた。

 しかし以前のような笑みを浮かべていない。むしろ冷たい印象を受ける。

 彼は彼女を見下ろし……。

 

「悪に負けたか──醜い」

「……」

「ボクも節穴だったようだ──君の言う通り、君はヒーローになれない」

 

 それだけを言ってアマイマスクはA市に向かう。まるで、金色の闇など存在しないかのように。

 だが、彼女は否定しなかった。

 何故なら──同じ事を考えていたからだ。

 感じる喧騒からA市での戦闘は終わっている事が分かる。船も墜落しているのを見た。

 それを背に彼女は歩き続ける。

 

「──」

 

 己の中にある無力感に心を締め付けられながら。

 





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