疾風に想いを乗せて   作:イベリ

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NEW第16話:許してあげなよ

カツカツとホームを足早に去ろうとする輝夜を追って、リューが声を上げる。

 

「───────輝夜!貴女は普段の冷静さを失っている!」

 

どう見ても冷静では無い輝夜の様子に、リューは当然のように外へ行くのを止めようと前に割って入る。

 

「……リオン、私は冷静だ。」

 

「それは嘘だ!今、自棄になってはいけない!私たちがぶれてはいけない!」

 

リューのその一言で、輝夜の頭は一気に沸騰した。

 

「黙れ青二才ッ!奴の言葉がそれ程心に響いたか?貴様、まさか未だやつを敵だと思えていないのか!?」

 

「っ…わ、私は…!」

 

煮え切らないリューの態度、アーディの失踪も。全て輝夜をイラつかせる起爆剤にしかならなかった。

 

「アーディもアーディだ!!折れてしまったのなら折れたままでいればいいものを、余計な手間をかけて、シャクティの足しか引っ張らん!」

 

アーディの行方不明が判明してから、既に数日が経っていた。

 

現実主義な輝夜のもっともな言葉ではある。しかし、アーディを正義の一翼として立ち直ることを信じるリューに火をつけるには、その一言で充分だった。

 

「輝夜、アーディはまだ折れてはいない。訂正しなさいッ!!」

 

「するものか馬鹿め!私は事実を言っているだけだ!」

 

「輝夜ッ!!」

 

「落ち着きなさい、リオン。輝夜、貴女も言い過ぎよ…らしくないわ。」

 

「っ……団長…」

 

「アリーゼ……」

 

ヒートアップする2人をアリーゼが仲裁する。

 

シンっと静まり返るその場で、頭の冷えた輝夜は冷静になってようやく気がついた。

 

「……滑稽だな………正義を名乗る時点で…批判、中傷、犠牲…全部、覚悟していた……したつもりでいた……本当に…みっともないものだ…なぁ、リオン…」

 

「輝夜……」

 

決定的なあの日から、輝夜は自分の正義を見失っていた。

 

「民衆に責められ…奴が裏切って…最もダメージを受けたのは…お前に最も青いだのとご高説を垂れていた私だったわけだ……」

 

「輝夜……あなた…」

 

「団長……私は、私を信じていいのか……?」

 

「……っ…それ、は……」

 

輝夜の問に、アリーゼは言葉を詰まらせる。答えられるわけが無い。ただ1人、彼女の負い目を感じているアリーゼが、身勝手に彼女にかける言葉など、たかが知れている。

 

1の犠牲の上に成り立つ100の命。犠牲を良しとした輝夜のそれ(正義)は、あの時の神の問答で、ベルの強さと言葉に、いつの日か捨て去ったと思い込んでいた物が顔を出した。

 

輝夜が過去、本当に願った理想(正義)

 

自らの意志を、貫く人間の強さを見てしまった。一瞬でも、少しの時間でも、あの眩しいまでの輝きに憧れてしまった。

 

あの神の言う通り、輝夜()は未練がましく引きずっている。

 

自嘲したように儚く薄笑いを浮かべ、誰に視線をよこすでもなくリューの真横を通り過ぎた。

 

「………少し、出る。」

 

「輝夜…!」

 

「安心しろ…自棄になったわけではない。」

 

「あー……ここにいて正解だったぜ。アタシが行くよ、2人はそのまま警邏頼むわ。」

 

静寂の空気の中、ライラが輝夜を追いかける。アリーゼもリューも、2人が輝夜を追うべきでは無い。追っては行けないと、思ってしまった。

 

彼女が求める答えも、道筋も、2人には示すことは出来なかった。

 

「私、輝夜が求める正義に、答えられなかった……」

 

「………それは……誰だって、正義の答えなど…」

 

「───────ベルだったら…なんて言ったかしら。」

 

そう零したアリーゼの言葉は、今までに無いほどに弱々しく、縋るようだった。

 

「ダメね……いつも通りにしないといけないって分かってるのに…輝夜に、嘘をつきたくなかった。」

 

彼女達の探す正義、暗闇の砂漠で埋もれたダイヤを探すに等しい、答えのない問。

 

普段おちゃらけているアリーゼだが、賢いが故によく悩む。しかし、それを表に出さない。数人の団員とアストレアにはバレているが、彼女は根が真面目なのだ。

 

このまま考え続けても、きっと無駄だ。輝夜への答えなんて出せるはずがない。

 

笑顔の裏に隠れる苦悩、冷静であれたからこそ見えたアリーゼの二面性。

 

そんな彼女に、なにかできることは無いのだろうかと、リューは頭を悩ませた。

 

『───────正義とか思想って、そういうものでしょう?』

 

そして、ハッと思い出す。

 

思考の泥沼にハマりそうなアリーゼに、リューは祈るように彼の言葉を零した。

 

「……『誰がどう理解したかじゃない、貴方がどう理解しているか』」

 

「…リオン……?」

 

「彼が言っていたのです。結局は自分自身の心だと。正義や、思想なんてそんなものだろうと。」

 

確かに、リューは未だベルを完全な敵として見れていない。それもそうだ、彼の行動には不自然な点も多いし、なによりリューに送られたこの言葉は、紛れもない彼の本心だった。彼の、暖かさのひとつだった。

 

「だけど、こうも言っていた。私たちは、支え合うことが出来ると。正義と悪の明確な違いは、そこにあると。」

 

だから、リューは信じたかった。

 

「輝夜は心配しなくてもいい。癪ですが、私よりもずっと聡い輝夜の事だ。彼女は自分で自分の答えに辿り着く……私はそう信じている。」

 

そう強く語ったリュー。

 

ファミリアで最も青く未熟だと、輝夜もアリーゼすらそう思っていた。

 

しかし、どうだ。ファミリア1の末っ子だったリューが最も早く、確立しつつあった。彼の残した言葉は、それ程にリューを奮い立たせるものだった。

 

「リオン、貴女……ううん…そうね、信じましょう。全く…言うだけ言って、ベルったら勝手すぎるわ!」

 

「はい……私もそう思う。」

 

「でも……おかげで、わかった気がするの……さぁ!気を取り直して、警邏いくわよ!」

 

「えぇ、アリーゼ。」

 

そうしていつものように出て行った眷属たちを扉越しに見守っていた天秤の女神は、柔く微笑む。

 

子供の成長とは、こんなにも嬉しいのかと、らしくない程に感傷的になってしまった。

 

大変な時期だ、誰もが希望を、正義を信じられなくなっているこんな時だ。けれど、彼女たちはアストレアが思っていた以上に、完成しつつあった。

 

余計なお世話だったな、と笑ったアストレアは、彼女たちの温もりが残るその空間に、そっと呟く。

 

「─────行きなさい、貴女たちの思うままに。」

 

それに、あなた達の計画通りなんでしょう?と続けたアストレアは、何も返さぬ静寂に、また笑みを浮かべた。

 

 

 

 

強い靴音を響かせ、苛立ちと無力感に支配された彼女は、大きな舌打ちをした。その後ろを、気だるげな小さな足音が追いかける。

 

「………機嫌が悪ぃのは結構だがよ、輝夜……」

 

「自覚はある。だが、こうも自分の未熟さにガッカリする日が来るなどとは思うまい……それだけでは無いがな。」

 

ある程度察しがついたライラは、呆れるように続ける。

 

「はぁ……まぁ確かによ…アルケイデス……ベルにはこれで何度守られたかわかんねぇよなぁ。」

 

「味方をするなら味方をしろと言うんだ。」

 

「それが出来ねぇから向こう方についてんだろ…」

 

そう、輝夜がもっとも頭に来ていたのは、ベルに守られっぱなしである自分自身に対して。

 

色々と聡い輝夜は、既にベルの離反の経緯についてある程度察していた。

 

民衆との軋轢はあれ以上広がることはなく、どこか気まずそうにしている民衆は、冷静になったのか居心地悪そうにしている。

 

エレボスとの問答の際には、心が揺れぬように会話を遮り守られた。

 

彼は、どこにいても彼女たちを守る。

 

みっともない、情けない。

 

輝夜は、誰よりも爆発寸前だっただけだ。

 

荒れる輝夜は、流れるようにリューに諭され、売り言葉に買い言葉でいつもの状態に持って行かれ、喧嘩別れのような有り様で無理やり警邏に出てきた。

 

本当に、らしくない。

 

酷く焦っているのは理解している。

 

アーディも行方不明、こっちの士気はボロボロ。正直、絶望的な状況に焦るなという方が難しい。

 

心強いというか、最凶の味方がこちらに付いたとは言え、それすらも大して効いていなそうだった。

 

民衆に石を投げられた時だって、ベルが来ていなければ、早々にアストレア・ファミリア全体の支柱(正義)が瓦解していてもおかしくなかった。なにより、リューは未だに彼の存在と言葉に支えられている部分が多い。

 

まぁ、それは自分自身もか、と自嘲する。

 

「………過去の清算……くだらないと、唾棄するのは早計か。」

 

繰り返された彼の言葉。過去を捨て、今を生きる選択を取ったことが、彼を強くしたのだろう。

 

少し前に話した、彼に言われた言葉を思い出した輝夜は、自分の過去を見つめ直す。

 

 

 

 

 

「───────言ったね、君だけの正義を見つけろって。」

 

「ほう…自分だけの、か。」

 

1週間前の深夜、割と派閥の中では話していた2人は、こうして茶を飲み交わすことも珍しくなかった。

 

いつものように、茶を飲みながらその心情について話し合っていた。

 

というのも、この前日に遭遇した神、エレンと名乗っていたエレボスに、リューが酷く振り回されたという。

 

正義とはなにか?

 

正義を名乗る派閥として、決して無視できないその問答。恐らく、この歳で無類の実力を持つこの少年がどう考えるのか、輝夜は興味があった。

 

「それで、お前はその問答になんと答えた?」

 

「住んでる場所が治安悪かったら対処するでしょ。戦う理由なんて、僕にはそれくらいしか無かった。」

 

「……せめてもっとマシなことを言って欲しかったものだ。」

 

「僕は居候だ。正義なんて、掲げるつもりもない。」

 

「それにしてもだ、戯け。」

 

聞いた私が馬鹿だったと、頭を抱えるくらいには動機もクソもあったものでは無かった。

 

「やろうと思えば、いくらでも賞賛を得られるだろうに……もったいないとは思わんのか?」

 

「僕は誰かの英雄であって、大衆の英雄になるつもりは無い。」

 

「はははっ!自分を英雄と名乗るか、本当に傲慢な奴だ。」

 

「資格があるとは自分でも思うから。」

 

なるほど、と呟いた輝夜は緑茶を啜り、ほうっと熱を持った息を吐き出す。

 

事実、彼に正義という概念がないのも本当なのだろう。エレンの言葉に迷うこと無く言い切った彼は、真の意味で誰にも、何にも縛られない強さがあった。

 

思想も、力も、権力も、羨望も、嫉妬も、賞賛すらも等しく彼には興味のない些末な事であるようだ。

 

ああ、そう考えれば納得だ。彼は正義ではなく正しく英雄なのだろうと、輝夜は納得した。

 

少し間を開けたベルは、いつものようになんでもないように零した。

 

「結局、1番正しいのは自分の心に従った人間だけだ。それが善なる物であれ、たとえ悪と呼ばれるものであれ、自分自身を裏切る人間に、正しさは見つけられない。」

 

どこまでも強いその言葉は、輝夜の心の奥底に眠っていた、本来の彼女の願いをほんの少しの未練を繋ぎ止めるには、十分だった。

 

「……私も、お前のように強ければ…ここまで拗らせずに済んだのかもな。」

 

「あ、自分が拗らせてるのわかってたんだ。気がついてないのかと思ってた。」

 

「……お前は何でもかんでも口に出し過ぎだ。災いの元だぞ。」

 

「その災いすら打ち砕く。」

 

「脳筋め。」

 

「知は力って言うじゃん?」

 

「あの言葉はそういう意味ではないわ戯け!」

 

お巫山戯にもちゃんと反応するし、なんなら冗談で返してくる。感性は少し独特だが、逸脱している訳では無い。

 

戦いの冷酷な1面からはあまり想像ができない程に、彼は普通の少年だった。

 

きっと、理由がなければこんな殺伐とした場所には来なかっただろう。

 

その理由が、気になった。

 

「お前は、どうしてこのオラリオに来た?」

 

輝夜の言葉に少し固まったベルは、少し間を置いてから口を開いた。

 

「……村が、あるエルフの冒険者に襲われたんだ。僕以外、全員皆殺し。」

 

「……っ…なに?」

 

興味本位で聞いていいことではなかったその内容に、地雷を踏んだと思った輝夜だったが想定とは違う爆弾がぶち込まれた。

 

穏やかに語る彼の様子とは裏腹に、想像以上に暗い過去。その冒険者を殺しに来た、と顔色を変えずこれまた穏やかに喋る彼は、遠い場所を見ているようだった。

 

「──────ってかんじ、まぁ……この世界には、よくある不幸だよ。」

 

「よくあってたまるかっ、そんな不幸が!」

 

確かに、と笑った彼に、んっ、と続きを促す。

 

「……それで?貴様は、目的を達成したのか?」

 

「してない。そのエルフも見つけたし、話したけど……殺せなかった。」

 

「なに?意外だな、お前は容赦なく殺すと思っていたぞ。」

 

意趣返しのつもりで言ってやれば、なんのこともないように笑われた。

 

「ははっ、僕も……まだ驚いてるんだ。僕の心にある、塗り尽くせないと思っていた真っ黒い憎しみが、あっという間に違う色になったんだ。」

 

「後悔、していないのか?」

 

「してない。あの時の選択は、確かに僕の心に従った物だ。誰にだって、間違いだったなんて言わせない。」

 

本当に、たったの数ヶ月でこんなにも人は変わるんだと、本人すら驚いていたようだった。

 

それ以上に輝夜が驚いたのが、こんな話をする彼が、どこか愛おしそうに目を細める事だ。

 

(こいつの感性は本当によくわからんな……)

 

この時点で、既に2週間以上共にすごしていたが、彼を真に理解していたのは、アストレアだけだっただろう。

 

ひとつ区切りをつけたベルは、ほんの少しだけ言いにくそうに輝夜を見た。

 

「輝夜はさ、多分大変だったんだと思う。僕なんかより、ずっと劣悪な環境。」

 

「……なに?」

 

突然切り出されたその言葉に、輝夜はピクリと反応する。

 

「なぜ、そう思う?」

 

「だって輝夜、初めて会った時からずっと血の匂いがする。」

 

「…っ!!」

 

「アリーゼとか、リュー、ライラ、ネーゼとか、他の団員からはしない死臭だ。代々そういう仕事だったんだろう、これはそういう死臭(モノ)だ。」

 

「お前…!」

 

「それに『ゴジョウノ』とか言う家名。確か、極東の朝廷の一派だったよね。」

 

まさか、ここまで知られているとは。そう驚いたのも無理は無い。極東の文化や政治体系については、オラリオにですらあまり伝わっていない。あまり勉強が好きでは無いと言っていたこの少年が知っていることが、少し驚きだった。

 

「………そこまで、知っていたのか。なぜ、指摘して来なかった?」

 

「まぁ、少し物知りの家族がいてね。興味もなかったし……なんなら、今思い出したくらいだ。」

 

はぁ、と本気で呆れながら頭を抱える輝夜だが、ベルはなんでもないように続ける。

 

「少し前、僕もそうだったから分かる。憎しみとか、孤独とか……そういう感情は、静かに僕らを蝕む。呑み込まれたら…もう戻れないところにいて……本当に、心に触れてくれる誰かが引っ張り上げてくれないと、元には戻れない。」

 

「……」

 

「僕の場合は仲間と、妻だった。君は、アストレア…かな?とにかく、僕らは運が良かった。」

 

「……あぁ。」

 

「それでも、それを負い目に感じる必要は無い。君は、割り切れてるように見えて、案外引き摺ってるみたいだから。」

 

ある種、このファミリアの全員に感じていた負い目のような何か。それは拭いきったと思っていても、無意識のうちにあった。

 

翡翠の瞳を薄く開いて、ベルは見透かしたように続く。

 

「君は、リュー達とは違ってもう自分のモノを見つけている。けど、君の過去がそれを苛む。君がすべきは、正義の追求ではなく、過去の精算。」

 

「できるものか……っ私は……!!」

 

「それでも、人は前にしか進めない。振り返ったところで、死んだ人は生き返らない。僕らはどうやっても、殺した過去(殺した人)を捨てて生きる以外の選択肢は無いんだ。」

 

強く、白い光。手を伸ばしたくても、負い目から伸ばせなかったその光に、それでも手を伸ばせと、こんなにも強い人間に言われてしまった。

 

黙り込んだ輝夜を見て、ベルはお茶を飲み干してから湯呑みを持って席を立つ。

 

輝夜の横を通り過ぎる時、輝夜の肩に優しく手を置いた。

 

「君が責めるのも、理解出来ないわけじゃない。けどさ、許してやる事も、結構大事なことだよ。」

 

おやすみ、と人好きのする微笑みを見せた彼の言葉が、少しだけ記憶に残っていた。

 

 

 

「………許す、か…今更何を…」

 

「どーしたよ、輝夜。」

 

ジッとこちらをやる気無さそうに見ていたライラに、輝夜は少しだけ毒気が抜かれた。

 

そこで少し冷静になった頭で、ようやく理解した。

 

結局、自分は過去から逃げていただけだった。

 

逃げて逃げて逃げて…そんな日々を繰り返しているうちに

 

許す、思えばそんな事したことがなかったかもしれない。

 

少しだけ、自分を許してやるのも、大事なのかもしれない。

 

口元に僅かに笑みを浮かべた輝夜は、誤魔化すように口を開く。

 

「………なに、あの馬鹿のアホ面を思い出していただけだ。」

 

「どっちのアホ面だ?」

 

「白い方だ」

 

あ〜、と間延びした返事をしてから、ライラはイタズラを思いついた子供のような顔で笑った。

 

「……何を笑う?」

 

「いんや〜?なんだかんだ、リオンの次にアイツと仲良しだったよなお前。ほぼ毎日夜に二人で話してたしなぁ?」

 

そうしてニヤニヤと笑うライラに、心底嫌そうな顔をした輝夜は吐き捨てるように言った。

 

「妻帯者に興味は無い。例え、現時点でその契りが無かったとしてもな。あれはただやつの正体と思想が知りたかっただけだ。」

 

へ〜、ほ〜ん、とまだ無粋に勘ぐってくるライラに、輝夜は女がしてはいけないような顔をしてから前を歩いた。

 

「おい輝夜、悪かったって。つーか、どこ行くんだよ!」

 

「この先の廃教会で、ここ数日不審な出入りがあるらしい。」

 

「へぇ?なんだよ、ちゃんと警邏すんのな。」

 

「そりゃあな。私だけ怠けてもいられん。」

 

ふーん、と空返事をしたライラは、輝夜の些細な違いに気がついた。

 

先程までの輝夜とは、少し違う。どこか、吹っ切れたと言うか、そんな雰囲気だ。

 

「お前とリオンって、案外好み似てんだな。」

 

「どういう意味でございましょうか、桃鼠?」

 

「おー怖、くわばらくわばら。」

 

茶化すように手をヒラヒラとさせたライラを睨んでから、足早に目的地に向かう。

 

件の教会に辿り着けば、扉の前で輝夜がピタリと止まる。

 

その動きに、ライラも体を止めて、腰に納めていた武器に手をかける。

 

「何人だ?」

 

「……2人、男と女。どちらも手練だ。」

 

マジかーと口をついてでたライラは、これで住む場所に困った市民では無いことが分かりガックリと首を落とした。

 

しかし、それもつかの間。

 

『いるんでしょう?入りなよ、輝夜とライラ。』

 

「この声っ!」

 

「ベル……!!」

 

先程まで思い出していた少年の声。思い切り扉を蹴破れば、こちらを見る鈍色の少女が驚いたように口を開けていた。

 


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