ふたつのホテル   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 後編(第3話)です。

 選択肢があります。リンクタグを使いました。携帯版など、環境によっては筆者の意図通りに表示されない場合があります。ページが長く字数が多いのは、選択肢があるためです。



ふたつのホテル 後編

 

 PPPライブ当日の午後。ヘリポートを改修したライブ会場。

 

 観客は満員だった。その中には、以前多数のフレンズ型セルリアンと戦ったメンバーもいた。

 

オオミミ 「直接、聞きたかったわ……」

 オオミミギツネのヘッドホンから、ケーブルがのびていた。

 客席の最前列、客席から見て左側、スピーカーのそばに、オオミミギツネとハブとブタがいた。

ハ ブ  「いーじゃねーか。特別待遇だぜ!」

 

 

 夕方近く。PPPが登場し、歓声と共にライブが始まった。

 

 光り輝くステージで、歌い踊るPPP。*1

 最高の盛り上がりを見せる観客。

 オオミミギツネが、片手を上げ、笑顔でジャンプした。

 

 

 ライブは中盤を過ぎ、日が沈み、周囲は暗くなっていった。暗い分、照明が輝いて見えた。

 ライトと水しぶきを使った演出が始まった。観客から歓声があがった。曲とシンクロして、光の線、光のカーテンが複雑な動きを見せた。観客は、興奮で倒れてしまいそうなほど盛り上がった。

 

 曲が終わってMCへ。

プリンセス「……この最高のライブを企画してくれた方がそこにいるわ!」*2

コウテイ 「このホテルの支配人、オオミミギツネさんだ」

 PPPのメンバーが、客席の最前列、ステージから見て右側を見た。

 

オオミミ 「え?」

 

ジェーン 「ホテル、残念なことになっちゃいましたけど……」

イワビー 「新しいホテル作ってるらしいぜ!」

 

マーゲイ 「オオミミギツネさん! 舞台へ! ほんとうの特別待遇ですよ!」

 ステージのわきからマーゲイが現れた。

オオミミ 「え? え?」

 オオミミギツネは、状況が理解できていない様子だった。

 

フルル  「またホテルでディナーショーやりたいよねー」

イワビー 「やったことないだろ!」*3

 

ハ ブ  「ほら! 飛び込め!」

オオミミ 「そ、そんな……あなたたちは?」

 オオミミギツネが、ハブとブタを見た。

ハ ブ  「あんたが主役だぜ!」

ブ タ  「夢を掴まえてください!」

オオミミ 「……起きちゃうものなのね、こんなこと……」

 オオミミギツネがステージへ上がった。そしてゆっくりとステージの中央へ歩いて行った。

 彼女はみんなの視線を集め、観客から歓声があがった。

 

プリンセス「あなた、歌も踊りも完璧なんですって?」

 プリンセスが、オオミミギツネにマイクを向けた。

オオミミ 「ええ!? だれがそんなことを!」

 

 オオミミギツネは、客席の最前列、ステージから見て右側を見た。そこにはハブとブタいた。

 オオミミギツネとハブの目が合った。

ハ ブ  「へっへー」

 ハブが、オオミミギツネを見て笑った。

 

オオミミ 「ぁぃっぅ……」

フルル  「いっしょに踊ってみなーい?」

プリンセス「ええ! なに言いだすのこの子!」

ジェーン 「ステキですね! でも……」

コウテイ 「そんなことして大丈夫なのか?」

 

マーゲイ 「だめです! MCだけですよ!」

 マーゲイがステージのわきから、両腕で×を作りながら声をかけた。

 

イワビー 「いーじゃねーか! 楽しまなきゃ損だせ!」

フルル  「つぎは、わたしたちのストーリーだっけー」

ジェーン 「ちがいますよフルルさん」

コウテイ 「それは次の次だぞ」

プリンセス「セットリストばらさないで!」

 

 

 プリンセスが、オオミミギツネの手を引き、アイコンタクトで、一緒に踊るように促した。

 イントロが始まった。アラウンドラウンドだった。

 オオミミギツネが駆け足で、PPPの後方の“ポジション”についた。*4

 

 踊り出そうとした次の瞬間、糸が切れたように、ぷっつりと音が消えた。

 世界の色が鮮やかさを失い、視野が狭くなった。

 

オオミミ 「……え……」

 

 

 オオミミギツネは、目をぎゅっと閉じて、悔しさをにじませた。

 

 音の無い世界で、歌が始まった。

 

 

 ―――――― 運なんて待てないわ ―――――― 

 

 

 オオミミギツネが目を開けて、ヘッドホンを外した。ばさっと髪が揺れた。

 

 客席のハブとブタが驚いた。

ブ タ  「ええ!」

ハ ブ  「なんで取った!?」

 

 オオミミギツネが、軽やかに踊り出した。

 ヘッドホンが床に落ちた。

 

 

 オオミミギツネは、たどたどしいながらも、まわりに合わせて歌い踊った。少し遅れて、少し間違った振り付けだった。だが歌詞は完璧だった。

 

 ハブとブタは、目を見開いて、オオミミギツネを見ていた。

ハ ブ  「すげぇ……」

ブ タ  「聞こえないはずなのに……」

 

 マーゲイが、ヘッドホンのケーブルを引っ張って、ステージからヘッドホンを回収した。*5

 

 

 音が無かった。自分と一緒に歌い踊るPPPの映像を、オオミミギツネは見ていた。音が無い分、映像が色あせて見え、左右や後方から来る情報が無い分、視野も狭く感じられた。

 

 

 もうすぐ、歌は2番のサビのはずだった。

 

 

 ―――――――― 聞きたい ―――――――― 

 

 

 オオミミギツネが、目を閉じて、息を深く吸い込んだ。

 

 そして、パッと顔を上げた。髪からサンドスターが飛び散り、キラキラと輝いた。

 

 オオミミギツネの頭に、大きなけもの耳が戻った。

 

 オオミミギツネが目を開けた。

 

 一気に視野が広がり、世界に色が戻った。

 

 

 オオミミギツネの脳に、四つの耳から膨大な音の情報が流れ込んできた。

 音圧、周波数、波形、方向、距離、反響、残響……。音の洪水だった。

 オオミミギツネの脳は、大量の音の情報を飲み込んだ。

 そして、誰にも届かぬ速さで、音を、分解、解析、合成、認識、記憶していった。

 

 リズム、メロディ、ハーモニー、歌詞……。

 ドッドッドッドッ……と、速くて大きい、自分の心臓の音が聞こえた。

 観客のざわつきや、PPPのメンバーの足音や、息づかい、彼女たちの心臓の音まで聞こえた。

 音の形、音の色、音の感触、音のにおい、音の味まで感じられた。

 

 オオミミギツネの脳では処理しきれない音が、あふれた。

 

オオミミ 「……う……うああっ……」

 オオミミギツネが、目を見開いて、一瞬苦しげな顔になり、ふらついた。

 

 音は音量を増し、立体感を増し、空気の振動や、はじける音の粒が、キラキラ、チカチカと、七色に輝いて見えるようだった。

 

 オオミミギツネは、音で、自分のまわりの全てが見えた。

 

 やがて音は“見える”を超えた。

 

 オオミミギツネは、誰も未体験の景色を、聞いた。

 

 

 オオミミギツネは、ふらつきながらも歌い踊り続けた。先ほどより大きな声で、まぶしい太陽みたいな笑顔で歌った。そして、息つく暇もなく押し寄せるしあわせに身を任せて、踊った。

 やがて、ふらつきもなくなり、振り付けも歌も、完コピ以上の出来になった。

 

 

 ――――― ここは願いが叶う場所 ――――― 

 

 

 ハブとブタは、放心したように、オオミミギツネを見ていた。

 

 

 曲が終わった。

 

 オオミミギツネが、ふらりと倒れた。

 

 それを、コウテイが抱きとめた。

コウテイ 「大丈夫か!」

 

ブ タ  「しはいにん!!」

ハ ブ  「どうした!!」

 

 観客からどよめきが起きた。

 

イワビー 「なんだっ!」

プリンセス「救護を! 早く!」

イワビー 「ここは照明があつい!」

フルル  「あっちへ運んであげて」

マーゲイ 「貧血ですか!? 舞台わきへ!」

ジェーン 「手伝います! 顔色が……震えてますよ!」

 

 マーゲイが観客にアナウンスした。

マーゲイ 「申し訳ございません。ライブは中断させていただきます。しばらくお待ちください」

 ステージの照明が落ちた。観客はざわついていた。

 

 コウテイがオオミミギツネのわきを、ジェーンが足をつかんで、舞台わきへ運んで行った。

 

 

 観客からは見えない舞台わき。

 

マーゲイ 「わたし、はかせたちを呼んできます!」

 マーゲイが走り去って行った。

 

オオミミ 「ごめんなさい……ライブ、止めちゃって……」

 あおむけに倒れたオオミミギツネは、涙を流しながら力なく言った。目は焦点が合っておらず、泳いでいた。かすかに体が震えていた。そのまわりに、ハブとブタ、そしてPPPのメンバーがいた。

ハ ブ  「その耳、自分で作り出したのか……後先考えないで……」

 ハブは、憐れむような表情になった。

 

オオミミ 「きこえた……聞こえたわ……まぶしい音……あたま、こわれちゃう、くらい……」

 オオミミギツネは、涙を流しながら、ほんの少し笑ったように見えた。

 

オオミミ 「あれ? あれ? こえぇ、でない……」

ハ ブ  「聞こえてるぞ! 声は出てるだろ!」

オオミミ 「音のシャワー……受け止めきれなかった……こわれちゃった……」

ハ ブ  「おい! なにを言って!」

オオミミ 「まだ……夢の途中……けど……ペパプの歌で……死ねるなら……」

ブ タ  「ええ!?」

オオミミ 「なにも、いらない……」

ハ ブ  「ダメだっ!! 死ぬな!! ホテルはどうなる!!」

ブ タ  「いやです!! こんなの!!」

オオミミ 「たのしかったわ……」

 オオミミギツネが、目を閉じて、無理やり微笑んだ。涙があふれた。

ハ ブ  「聞こえるか!! 聞こえてるのか!!」

 

 オオミミギツネが、薄く目を開けた。

オオミミ 「もう……だらしないわね……しっかり、しなさい……」

 オオミミギツネが目を閉じた。全身の力が抜け、震えが止まった。

ブ タ  「しはいにん!」

ハ ブ  「おい!! おきろ!! 悪い冗談だろ!」

 

 

 

 

 

 待ってるのはどんな未来?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ また会いにいくよ ]

 

 

 ライブから2年ほどが経った、ある日の午後。完成した新ホテルの最上階。その一室。

 

 ハブが、ベランダの柵にもたれかかって、海に半分沈んだ旧ホテル跡を見ていた。部屋はきれいに掃除されており、きれいに整えられたベッドが客を待っていた。

ハ ブ  「何十回、否定しても、何百回、肯定するよ……」

 ハブが、つぶやくように歌っていた。

ブ タ  「いい歌ですよねぇ」

ハ ブ  「うおっ!」

 ブタが、ハブの後ろから現れた。

ハ ブ  「掃除終わったのか?」

ブ タ  「全室完了です!」

 ブタは、明るい感じで言った。

ブ タ  「それより、ハブさんの持ち場はここじゃないですよ!」

 ブタは、ちょっと叱るような口調になった。

ハ ブ  「あのひとのマネか?」

ブ タ  「そんなつもりじゃないんですけど……」

 ブタが苦笑いした。

ハ ブ  「いっつも、突然現れたんだよなー」

 

ブ タ  「これも……突然現れたんですよ!」

 ブタが、後ろ手に隠していたものを、ハブの前に笑顔で掲げた。

 

 ハブの顔が、驚愕に変わった。

ハ ブ  「……うそだろ……」

 それは、アナログレコード*6だった。その盤面には、「Japari Park」と書かれており、ディスクの3分の1ほどが大きく折れ曲がっていた。*7

ハ ブ  「音が出るやつだ!*8どこにあった!?」

ブ タ  「それが……」

 

 

 回想。新ホテルのエントランス。

 

ブ タ  「下で、掃除をしていたら……」

 

 ブタが、カウンター前の木の床をモップがけしていた。

 ブタが何かの気配を感じて、ちらりと、出入り口のドアの窓*9を見ると、ビュン! という音とともに、オレンジ色のなにかが去って行った。それは他の窓からもちらりと見えた。*10

 

ブ タ  「なにかが玄関の前にいたんです。でもものすごい速さでいなくなってしまって」

 

 ブタが、ドアを開けて外へ出た。そして足元に落ちているものに気づき、拾い上げた。

 

ブ タ  「それで、外を見たら、これが落ちていたんです」

 

 ブタが拾い上げたものは、折れ曲がったレコードだった。

 

 回想おわり。

 

 

 ハブが、レコードを受け取った。

ハ ブ  「わけわかんねーな。これがあったのは下の階だ。深すぎて掘りだせねえだろ? それに、玄関にいたのはなんだ? フレンズか?」

ブ タ  「たぶん、フレンズです」

ハ ブ  「親切なやつがいたもんだ……ふんふん……」

 ハブが、レコードのにおいをかいだ。

ハ ブ  「……わかんねぇ。あんた鼻がきくだろ? においしなかったか?」

ブ タ  「外ににおいは残ってたんですけど、かいだことがあるような、ないような……」

ハ ブ  「なんだよそれ……」

ブ タ  「たぶん、ネコ科の子だと思うんです。でもそれ以上はわかりません」

 ハブが、レコードを見つめて、少し考え込んだあと、つぶやいた。

ハ ブ  「…………遅すぎだぜ……」

 ハブがレコードの盤面を指でなでた。かすかに、キュッと音がした。

ブ タ  「あの箱がないのが残念ですねぇ……音が出ればいいのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忍び寄ってくる、ちいさな影。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「聞こえてるわよ」

 

 

 

 ふたりが振り返った。

 少し開いたドアから入ってきたのは、大きな耳がある、茶色がかった灰色の、やや小柄なキツネだった。

 

ブ タ  「きつね?」

ハ ブ  「どうやって登ったんだ?」

ブ タ  「まさか!」

 

 キツネは、トテトテ……と歩き、タタタッと速足になって、ふたりに近づいてきた。

 そしてふたりを見上げ、ハッハッ、と荒い息をした。

 ハブとブタがしゃがんだ。

ハ ブ  「……これが、ほしいのか?」

 ハブが、床にレコードを置いた。

 キツネは、レコードのにおいをかいだ。だが、すぐにかぐのをやめて、今度はハブの膝に鼻先をくっつけるようにしてにおいを嗅いだ。

ブ タ  「ハブさんの方が好きみたいですね」

 キツネが、においをかぐのをやめて、ブタの方を見上げた。

 ブタが、キツネの頭をなでた。

ブ タ  「なつかしい、においですぅ……」

ハ ブ  「このぬいぐるみはしゃべらねーのかー?」

 ハブがキツネのあごをくすぐった。その声はやさしかった。

 ガブっ! と突然、キツネがハブの手にかみつこうとした。

ハ ブ  「ひっ!」  ブ タ  「わっ!」

 ハブはすぐに手を引いて逃れ、しりもちをついた。

ハ ブ  「何がダメなんだよっ!」

 

 キツネは、タタタッとハブから数歩離れ、振り返った。

ハ ブ  「はっ……」

 一瞬、ハブとキツネが止まった。

 

 そして、キツネは前を向き、ドアの方へ、トテトテと歩いて行った。

ブ タ  「ハブさん! 行っちゃいますよ!」

ハ ブ  「まてっ!」

 キツネが速足になり、少し開いたドアから部屋の外へ出て行った。

 ハブが立ち上がり、ドアに駆け寄った。そして部屋のドアを開けた。

 

ハ ブ  「…………う……」

 ハブの表情が崩れた。

 

ブ タ  「ハブさんどうしたんですか!?」

 ハブは、ふらりと廊下へ出た。

ハ ブ  「……どうした、って……」

 ハブは声を詰まらせた。

 ブタも廊下へ出た。

ブ タ  「え……」

 

 廊下に、キツネの姿は無かった。

 

ブ タ  「きえちゃった……」

 ハブが、肩を震わせた。

ハ ブ  「やめようぜ……こんな、いたずら……うう……ぐす……」

 ハブは、立ったままうなだれて、涙をぬぐった。

ブ タ  「追いかけましょう! まだ近くに……」

ハ ブ  「いや、いいんだ。……ぐす……ここは、帰る場所じゃねえんだよ……」

ブ タ  「そんなことないです! ……これ、音が鳴らせれば、また来てくれますよ」

 ブタが、折れ曲がったレコードを掲げた。

ハ ブ  「……無理だ! 鳴らす箱がないし、こんなに曲がってたら……」

 

ブ タ  「じゃあ、叫んでください」

 ブタは笑顔で、明るい声だった。

 

ハ ブ  「は?」

 ハブは、気が抜けた様子だった。

 

ブ タ  「気合を入れて、海に向かって『支配人がいなきゃダメだー!』って」

ハ ブ  「なんだよそれ……。そんなんで来るなら、いくらでも、何度だって叫んでやるよ! 声が、枯れても……」

ブ タ  「だいじょうぶですよぅ。支配人は、遠くにいても、近くにいても、ちゃーんと聞いていますから」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ とびきりの私を見てね ]

 

 

 ライブから数日後の夕方。未完成の新ホテルの最上階。

 

 日が傾き、空がオレンジ色に変わり始めていた。

 ハブが、ベランダの柵にもたれかかって、海に半分沈んだ旧ホテル跡を見ていた。最上階には床板が張られていた。天井もあったが、壁は一部が欠けていた。

ハ ブ  「ロッキン、ホッピン、ジャンピン……」

 ハブが、つぶやくように歌っていた。

ブ タ  「みみに残りますよねぇ」

ハ ブ  「おわあっ!」

 ブタが、ハブの後ろから現れた。

ハ ブ  「高いところ怖いんじゃなかったのか?」

ブ タ「床があるからだいじょうぶです。それより、ハブさんの持ち場はここじゃないですよ?」

ハ ブ  「支配人のマネか?」

ブ タ  「そんなつもりじゃないんですけど……」

 ブタが苦笑いした。

ハ ブ  「いっつも、突然現れんだよなー」

ブ タ  「やっぱり、あのひとがいないと、ダメですね……」

 

ハ ブ  「聞こえるかー!! あんたがいないとダメだってさー!!」

 ハブは、海に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近づいてくる、誰かの足音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオミミ 「聞こえてるわよ」

 オオミミギツネが、階段を上ってきた。

 その頭には、けもの耳が無かった。ヘッドホンは付けていなかった。

 

 

 

 回想、ライブの日。

 

プリンセス「……わたしたちのせいで……」

ハ ブ  「あんたらのせいじゃねえ!」

 

ハ ブ  「つづけてくれ!」

プリンセス「え?」

ハ ブ  「お願いだ! ライブを続けてくれ! 支配人ならだいじょうぶだ!」

 

 ハブが、オオミミギツネを両腕で抱き上げた。

ブ タ  「ハブさん、なにを……」

ハ ブ  「ちょっと離れて見てる」

 ハブは、オオミミギツネを抱いて、走り去って行った。

ブ タ  「待ってください! どこへ!」

 

 ハブは、オオミミギツネを抱いて、暗い中、新ホテルの階段を上っていった。

 

 回想おわり。

 

 

 

 新ホテルの最上階のベランダ。

 

 3人はベランダの柵にもたれて、夕焼けを眺めていた。

ブ タ  「あこがれちゃいますぅ。キラキラの絵本みたいで」

オオミミ 「なに? なんのはなし?」

ブ タ  「おひめさまは、おうじさまのキ……」

ハ ブ  「やめろ!」

 ハブが顔をそらした。顔が赤かった。

オオミミ 「だからなんのはなしよ!」

ハ ブ  「あんたの地獄耳がなくなって助かったぜ……」*11

オオミミ 「…………」

 オオミミギツネは、ちょっと驚いた顔をした。

ハ ブ  「わりい! 言い過ぎた!」

オオミミ 「いいのよ。ちゃんと聞こえるから。……あなたの毒舌には助けられたわ」

オオミミ 「はあ!? なんだよ気持ちわりい」

ブ タ  「ふふっ。ふたり、ぴったり相性抜群です」

オオミミ 「……なに勘違いしてるのよ……」

 オオミミギツネがうつむいて、顔をそらした。

ハ ブ  「やっぱかわいくなったな!」

 ハブが、オオミミギツネの頭をくしゃくしゃとなでた。

 オオミミギツネが立ち上がり、近くに置いてあった小さな角材を拾って、木刀のようにハブに向けた。

ハ ブ  「ひいっ!」

オオミミ 「わたしをなぐさめようなんて、200キロ早いわ!」

ハ ブ  「単位がおかしいだろ! なぐさめてねーし!」

 

 オオミミギツネの後ろから、ブタが素早く何かをオオミミギツネの頭に付けた。

 

ハ ブ  「ぷっ! ふはは! 似合ってる! 超かわいいぜ!」

 

オオミミ 「え? なにこれ?」

 オオミミギツネが、片手で自分の頭をさわった。そこには大きな耳のようなものがあった。

オオミミ 「みみ?」

 それは、暗いグレーの、大きな蝶結びが付いたヘアバンドで、頭の高い位置で結ばれていた。

 

ブ タ  「これ、ハブさんが……」

ハ ブ  「言うな!」

 オオミミギツネが、持っていた角材を落とし、うつむいた。角材がカランと音を立てた。

オオミミ 「やめなさいよぅ…… またこんなのー……」

ハ ブ  「もう、泣くなよー!」

 ハブが笑った。

オオミミ 「まいったわねえ……」

 オオミミギツネが涙をぬぐった。

ブ タ  「ほら、笑ってください!」

 ブタが、オオミミギツネの前に立った。オオミミギツネが顔を上げ、笑顔を作った。

オオミミ 「……ありがとう。これからも、よろしくね」

 

 3人が眺めていた夕焼けに、スラリ、とあかね雲が伸びた。

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 伴奏や音響機器の操作はどうなっているのか気になります。多分録音したものを流しているんでしょうけど、「新曲」ということは、作曲、編曲、作詞、そして楽器の演奏や打ち込みが必要になります。そういうことができるフレンズがいるのでしょうか。 あるいは、メタ的に、“作品の外にいる作曲者が、作品の中にいるPPPに楽曲を提供している” または、“PPPは作品の中と外をまたいで存在する”ということなのかもしれません。

 このあたりは、アニメ版1期から気になっていたことです。

 ライブ機材(音響機器、照明等)の操作は、マーゲイか、作中には登場していないフレンズがやっているのでしょう。口パクだったら嫌ですね……。

*2
 ライブを企画したのはハブ、とも言えますが、関係者以外のフレンズには、オオミミギツネの企画、として周知されています。

*3
 第11話のフルルのセリフを聞くと、今までにも「ホテルでディナーショー」やったことがあるのではないか、とも思えます。やったことがある場合、そのホテルは、このジャパリホテル以外のホテルである可能性もあります(あれだけ広大なパークですから、パーク内にホテルは何軒もあるでしょう)。

*4
 アラウンドラウンドの振り付けは、5人で踊るものなので、ひとり増えるのはちょっと無理があります。オオミミギツネは、目立たなくてダンスの真似をしやすい後方へ位置取りしました。

*5
 ヘッドホンが落ちているとダンスの邪魔です。あと、有線のヘッドホンを付けたまま踊ると、ケーブルが絡んで危険です。

*6
 あのジュークボックスに入っていたのは、CDかもしれません。考察してみたので、あとがきに書きます。

*7
 レコードってそんなに折れ曲がるものなのでしょうか。PVCなので割れずに曲がる気がしますが……(SP盤は割れますが)。CDはポリカなのでやたら頑丈ですね。折れや割れだけでなく、傷の問題もあります。

*8
 ジュークボックスを知っていても、中で動いている円盤が音の元である、と知っているのかは疑問です。ただ、ジュークボックスの操作はできるようなので、知っている可能性もあります。

*9
 出入口には木製のドアがあり、小さめの窓がついています。

*10
 ドア以外にも数か所窓があります。窓は、外を見るためでもありますが、明かり取りの意味が大きいです。新ホテルの窓には、旧ホテルの瓦礫や、他の遺物から拾ってきたガラスが使われています。

 ガラスがはまっていない窓もあります。これらには木製の雨戸(観音開き)があり、風雨が強い時は雨戸を閉じます。

*11
 「地獄耳」の使い方が間違っています。




 後編あとがき

 あとがきが長いので、あとがきは別の話(第4話)として投稿しました。
 そこに考察なども書きました。引用元の曲の一覧は、その最後に書いてあります。

 

使用楽曲コード:07298021,22493352,23083808,23303778,23304006,23304049,23687789,23687801,23687819,23687827,24318876,24318892,71665714,71772073,72140411,72140968,72142669,N00040679

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