歌詞引用個所 前編(第5話)まえがき
これ(第5話~第7話)は“答え合わせ”的なものです。“ネタばらし”版です。普通に読みたい方は、『ふたつのホテル 前編』からお読みください。
歌詞を引用した個所を赤色にしました。単語1~2個のような、引用とは呼べない言葉も赤色にしています。脚注タグを使って引用元の曲名を書きました。複数の曲に共通する言葉もあります。
元々あった脚注は削除しました。
ジャパリホテルが沈んでから数日後。 ホテル跡近くの砂浜。
オオミミギツネとハブとブタが立っており、その向かいにプレーリードッグとアメリカビーバーが立って話をしていた。
オオミミ 「遠くから来ていただいて、ありがとうございます」
プレーリー 「おもしろそうな仕事があると聞いて、野越え山越え*1やってきたであります!」
ビーバー 「さっそくなんッスけど、新しいホテルの模型をいくつか……」
オオミミ 「ええ!? もう!?」
プレーリー 「ビーバーどの、その前にごあいさつであります!」
プレーリーが、オオミミギツネに顔を近づけていった。
ビーバー 「だめッスよ!」
ビーバーがプレーリーの肩をつかんで止めようとした。だがプレーリーの勢いの方が強かった。
ハ ブ 「やめろ!」
ハブがオオミミギツネとプレーリーの顔の間に手を入れて、ふたりの唇がくっつくのを遮った。ハブの手がふたりの唇に挟まれて、オオミミギツネの口をふさぐ形になった。オオミミギツネが目を見開いた。
プレーリーが唇を離して、振り返った。
プレーリー 「なぜとめるでありますか?」
ビーバー 「それは、その……なんども言わせないでほしいッス……」
ビーバーは、プレーリーを見て、少し恥ずかしそうに笑った。
ハブの手が、オオミミギツネの口から離れた。
オオミミ 「ぷはっ、な、なにするのよー!」
オオミミギツネは、顔が赤かった。
ハ ブ 「おう! わりい! 手が勝手に動いたんだ!」
オオミミ 「そんなわけないでしょう?」
ブ タ 「ふふっ、不器用な*2手ですねぇ」
ハ ブ 「へんな勘違いするなよ……」
ビーバーが、木製のキャリーカートを開けて、中から建物の模型を取り出した。模型は四つあり、それらは、たくさんの部屋がある建物で、高さがあるものや平屋のものなど、形は様々だった。
ブ タ 「すごいですね。これが大きくなるんですか?」
ビーバー 「ええ。実物は、これの30倍くらいッスね」
オオミミ 「部屋数はいくつ?」
ビーバー 「これが一部屋で、5部屋くらい作れるッスよ」
ビーバーが、模型の一つを指差した。
ハ ブ 「普通じゃ物足ん*3ねーなー」
オオミミ 「そういうこと言わない!」
ビーバー 「あのホテルほどのものは、ちょっと無理ッスね……」
皆が遠くを見た。海上に、崩壊して半分沈んだホテルがあった。そこのヘリポートや瓦礫の上で数人のフレンズが作業しているのが見えた。
プレーリー 「あちらではなにをしているでありますか?」
ブ タ 「ペパプライブの準備をしてるんですけど、なんかおおごとになっちゃって……」
オオミミ 「あの傾いたヘリポート……たいらな屋根、傾いたままだとライブができないから、その上にステージを作ってるんです。瓦礫をどけるのと、下を固めるのと並行して」
プレーリー 「できることがあれば、手伝わせてほしいであります」
ビーバー 「あれ木を組んでるんスね。オレっちたち、ああいうの得意ッスよ」
オオミミ 「向こうを手伝うなら、確認したいんですけど、あなたたち、逃げ足は速いほうですか?」
ビーバー 「水に潜って逃げることはできるッス」
オオミミ 「しょっぱい水の中はどう?」
ビーバー 「ちょっと苦手かもッスね……」
プレーリー 「穴の中を走るのは得意であります」
オオミミ 「あの瓦礫の中に隠れられるかな?」
ビーバー 「あぶないッスよ! 崩れそうだし、重そうだし、硬そうだし……それに、とがってるものとかあったら怪我しちゃうかも……」
プレーリー 「厳しい環境*4でありますな……」
オオミミ 「もう一つ、変なこと訊きますが……あなたたち、死んだ動物って見たことあります? そういうの平気な方ですか?」
プレーリー 「仲間が死んだところは、何度も見たであります……この姿になる前は平気でありましたが、今は……」
ビーバー 「オレっちも見たことはあるッス。でもあんまり……慣れるものじゃないッスね……」
オオミミ 「……やめたほうがいいわね。むこうには行かないでください」
プレーリー 「なぜだめでありますか?」
オオミミ 「ちょっと厄介なのが、埋もれてるかもしれないから」
オオミミギツネは、崩れたホテルを見つめた。
プレーリー&ビーバー「?」
プレーリーとビーバーは首をかしげた。
ハ ブ 「あんたらは新しいホテル作りに専念してくれよ。作ってる間はジャパリまんいくらでもやるぜ? ペパプのライブも無料だ」
プレーリー 「おおー! 気前いいでありますな!」
オオミミ 「また勝手なことを……」
オオミミギツネがハブをにらみつけた。だが口調はそれほど強くはなかった。
ハ ブ 「んじゃ、オレは向こうを見てくるからー!」
ブ タ 「あ! 待ってくださいー!」
ハブとブタが走り去っていった。そちらには桟橋があり、ボートが係留されていた。
ビーバー 「そんなによくしてもらったら悪いッスよ……」
オオミミ 「いいえ。感謝してもしきれないくらいです」
オオミミギツネは、明るい声と表情だった。
プレーリー 「オオミミギツネどのは、なぜホテルを営みたいでありますか?」
オオミミ 「うーん……。なんでかなー……」
オオミミギツネは、走り去っていくハブとブタを見つめた。
ビーバー 「……あのふたりのためッスか?」
オオミミ 「ええ!? 違います! 趣味みたいなものです!」
二日後。高台の上、新ホテルの工事現場。
新ホテルの基礎部分の工事が行われていた。そこでは、プレーリーとビーバー他、数人のフレンズが作業していた。
ハブとブタが、工事現場へ歩いてきた。ふたりが工事現場を見ると、オオミミギツネが、真剣な表情で工事現場を見回っているのが目に入った。
ハ ブ 「趣味だねえ」
ブ タ 「あんなふうに、一つのことを極めちゃうくらい、夢中になれたら*5いいですね」
オオミミギツネは、見回るのをやめて、工事中のホテルを見つめた。
その背後から、ハブとブタが近づいていった。
ハ ブ 「従業員にやさしく*6してくれるともっといいんだけどなー」
オオミミギツネは、工事中のホテルを見つめたままだった。
ハ ブ 「支配人? おーい……」
ハブが、オオミミギツネの肩を叩いた。
オオミミ 「え!? あ、はいっ!?」
オオミミギツネは、ビクッと驚いた。
ハ ブ 「なんだよ、どうしたんだ?」
オオミミギツネが、ハブとブタの方を向いた。そして、耳に片手をあてた。
オオミミ 「なんか、ピーって音がしてて、気持ち悪いのよ……」
ハブが、耳に片手をかざして、耳をすます仕草をした。
ハ ブ 「そんなの聞こえねーぞ?」
ブ タ 「だいじょうぶですか? 少し休まれたほうが……」
オオミミ 「え……えっと……」
オオミミギツネは、反応が鈍く、ぼんやりした様子だった。
ハ ブ 「ホテルのことばっか考えてないで、たまには遊*7べよ」
オオミミ 「え?」
ハ ブ 「休むか遊べって!」
オオミミ 「……遊びたいけれど、少しお預けね*8
オオミミギツネが、少し寂しそうに微笑んだ。
オオミミ 「今しかできないことが、たくさんあるわ*9」
ハ ブ 「……あんた……」
ハブは、少し険しい目でオオミミギツネを見た。
オオミミ 「なに?」
ハ ブ 「いーや、なんでもねぇ」
さらに二日後。新ホテルの工事現場の前。
ハブとブタが海を見ていた。だがそこは木が多く、木々の隙間から海が見えていた。旧ホテル跡もかろうじて見えた。
ハ ブ 「結局、あいつは見つからなかったってさ」
ブ タ 「どこへ行ったんでしょうねぇ……」
ハ ブ 「さーな。あのあと、だれも見たやつはいないらしい」
ブ タ 「ハブさん、向こうばっかり見てますけど、売店のほうはいいんですか?」
ハ ブ 「売るものがねーんだよ。あんたのほうこそ、ホテルの掃除は?」
ブ タ 「ここは、そうじしてもすぐに汚れちゃうんです……」
ブタが振り返って、工事中の建物を見た。太く大きな柱が数本立っていて、まわりに足場が組まれていた。木造の割には高さがあった。そばでは、数人のフレンズが木材の加工をしていた。
しばしの沈黙。
ハ ブ 「……いつもなら、こういうはなしをしてたら現れるぞ」
ブ タ 「あのときのせい、でしょうか……」
ハ ブ 「しばらくは、ちゃんと聞こえてたんだけどな……」
翌日の朝。砂浜。
泣き出しそうな空模様*10だった。
オオミミ 「なに! どこへ連れて行く気!」
ハブがオオミミギツネの手を引いて歩いて行った。
ハ ブ 「いいから来てくれ!」
オオミミ 「わたしには仕事があるのよ!」
ブ タ 「支配人、ちょっと調子が悪いみたいですから、はかせたちのところへ……」
ブタも付き添って歩いて行った。
ハ ブ 「急がねーと降ってくるぞ!」
ホロリ、と雨粒がこぼれた*11。
午後。かばんの研究所。
冷たい雨*12が降り始めた。
研究所の大きな部屋には、オオミミギツネとかばんだけがいて、隣り合って座り、紅茶を飲んでいた。
オオミミ 「あそこ、木が多くて海がよく見えないんですけど、新しいホテルの上なら、きっと最高の眺めですよ!」
オオミミギツネは、楽しげにしゃべっていた。
かばん 「いいですね! わたしも泊まってみたいです!」
かばんは、オオミミギツネの耳に顔を近づけてしゃべった。
オオミミ 「あたらしい景色がきっと見えるはず*13です! それにライブステージも……」
研究室(ガレージ)では、ハブ、ブタ、はかせ、助手が、深刻な面持ちで会話していた。
はかせ 「……ヒトはそれを、音響外傷と呼んでいたのです」
助手 「ただ、かばんによれば、ヒトの音響外傷とは違うらしいのです」
ハ ブ 「なんだそりゃ」
はかせ 「耳のいいフレンズ特有のもの、なのです」
助手 「おそらく、物理的に損傷したのは、ヒトの耳なのです」
はかせ 「ヒトの耳とけものの耳は、つながっているのです。両方から音が入って、両方に影響が出るのです」
ブ タ 「戻らないんですか?」
助手 「食事療法や薬で、多少、回復するかもしれませんが……」
ハ ブ 「望みはうすいってことだな」
ブ タ 「そんな……」
中編へ続く
歌詞引用個所 前編 あとがき
読んでいただきありがとうございます。
前編は歌詞の引用個所が少なめでした。引用よりもストーリーを優先しているためです。これを書き始めた時は歌詞引用をあまり意識していなかったためでもあります。