勇者殺し
「俺がハーレム作るって言ってるのに邪魔なんだよ!エアストスロー!」
眼前の男が突如として光の玉のようなものを投げ付ける
「力の根源たる我が意に従い、軛を受けよ、眷属器!
お返しだ、ストライクピアース!」
だが、俺はそれを受け止め、投げ返す
光はピックの形を取り、眼前の男の眉間に深々と突き刺さった
「残念だったな。俺はすべての勇者の武器を扱うことが出来る選ばれた存在なんだ」
眼前に転がった既に物言わぬ骸に向けて、小馬鹿にしたように一言。そのまま、脳天のピックを呼び寄せて……
「な、何だ?何が発動した?」
突如光を放ったピックに目が眩む
そうして、俺は全てを思い出した
俺の名はマルス。此処メルロマルクという国に産まれた亜人だ。このメルロマルクという国は亜人に対する当たりが非常に強い国であり、全体的に生活は辛いものがあった。だが、俺はそんな事全くもって気にしていなかった
何故ならば、俺には前世の記憶というものがあったから。前世の俺はニホンという国で高校生というものをやっていた。まあ、便宜上であって実際に高校に行っていた訳ではなかったので、高校なんてネットでしか知らないが。そんな俺は女神様に出会い、この世界に転生してきたのだ。この世界の者達に奪われた神の武器……この世界では勇者武器とされる12個の武器を取り戻し、世界を救って欲しいと。だから辛くなんて無かった。自分は選ばれた存在なんだと、産まれながらにして知っていたんだから。何時か亜人を虐げている奴等も何もかもひれ伏せさせられると分かっていたんだ、多少の雌伏なんて何でもない
そうして、全ての勇者武器を回収する力を得た俺は、亜人相手に何か女を差し出せとか何とかほざいている若い男が勇者の武器を隠し持っている事を与えられた直感で理解、女神の言う泥棒だと認識して使ってきた所を女神の力で取り戻したという訳だ
そう、俺は全ての勇者武器を奪ったこの世界の者たちから取り戻す真の勇者なのだと今の今まで思っていた。だが……
「盾の勇者……」
ぼんやりと、そんな言葉を呟く
「盾の勇者の世界じゃん此処ぉぉぉぉぉっ!」
辺りには誰も居ない。だからこそそう叫ぶ
盾の勇者。正式には盾の勇者の成り上がり。前世の俺が読んでいた竪藍阿寅によるネット連載の小説
「まさかな……」
なんて現実逃避しても、俺の眼前にふよふよと浮いている投げナイフ……投擲具は現実のもので消えたりしない
「い、生きてたり……」
男は完全に死んでいる。手遅れだ。脈も無いし心臓も動いていない。息なんてしてるはずもない
「勇者殺し……
大罪だこれ」
頭を抱えても、ふよふよとした武器も、若い人間の死骸も消えたりするはずもない
盾の勇者の世界において、とりあえず覚えておくべき事がある。それは、勇者武器に関してだ
この世界は、勇者の武器によって守られた世界である。4つの聖なる武器と、8つの聖なる武器に従う武器の存在が世界の外から来ようとする侵略者を止めている、というのが基本だ。だが、勇者の武器は正式な持ち主の所に無ければ本来の力を発揮することはまず出来ない。だからこそ、侵略者は勇者の武器が見逃してしまう小さな力……即ち普通の人間をこの世界に送り込んでいるのだ。勇者の武器の力を削ぎ、この世界を侵略する為に
そうして俺は今、元々勇者の武器の投擲具を持っていた男を自分を転生させた女神の言葉に従って殺し、武器を奪った
間違いない。完全に世界の敵の動きだこれは。正しく勇者武器に選ばれた勇者を殺し、その武器を己の為に使う。文句無しの転生者としての動き。このまま女神がこの世界に侵略をすれば勲章とか貰えるかもしれない
「なんで手遅れになってから全部思い出すかな……」
溜め息を吐き、目障りにふよふよと浮かぶ投擲具に八つ当たり。デコピンかますが特に向こうにダメージなどあるはずもなく単純に指が痛い
この先何をすればいいのか、そんなもの分かるわけがないだろう
世界の敵転生者として他の勇者武器を集める道……は正直辿りたくない。何となく嫌な予感もするし、思い出してしまった以上、今までのように俺は選ばれた者だから当然だろと行動していけない
じゃあ、勇者側に付く?それこそナンセンス過ぎるだろう。勇者殺して武器を奪っておいてどの面下げて勇者のフリをしろというのだ。更にはそもそも、女神がそういった事にたいして何ら対策してないとは思えない。下手な行動を取れば恐らく俺に与えた能力の安全装置か何かが作動して俺は死ぬだろう。監視すら出来ない場所に送り込んだ相手に何ら裏切り対策もしてないような存在では……きっと無い
「面倒臭っ!」
まあ良いや未来の事は未来に記憶を整理してから考えよう。とりあえず今は……久し振りに帰ってきたんだしリファナ達に会いたい
盾の勇者の成り上がりの作者名が違いますが、仕様です
彼の認識においては、盾の勇者の成り上がりはアネコユサギの小説ではなく竪藍阿寅の小説となります
メタ的に言えば、彼は決して作中世界外からのメタ存在ではなく作中世界内での転生者であり、彼の読んでいた盾の勇者の成り上がり自体作中世界で誰かが書いたものである為、著者名が本来と違います