「ヒートダガー」
適当に枝を集め、火属性を持ったナイフで一閃、それだけで火を点ける
この辺りは便利なんだよなこのクソナイフ
更にはフリスビーのような形状の盾ー盾だが投擲具扱いもされる便利なもの、但し投げられる事を重視したので性能は最低限な失敗作として投げ売られてたブツだーへと投擲具を変化、底は浅いがフライパンのような鍋として活用。そこに水を入れ、干した穀物と粉末状になった肉や茸類の出汁、買い置きの干し肉、そして同じく買い置きの根菜を軽く入れて火の上に置いて煮たたせる。普通のフライパンと違って仮にも勇者の武器、持ち手が水底に沈んでいるものしか無くても浮かせておけるので熱くない
暫くすると完成だ。男飯だがまあ半分スープなので弱った胃でも食べられるだろう
……取り皿ねぇな
「フロートダガー、トマホークスイング」
仕方ないので鉄の投げ斧へと投擲具を変化、近くの木をスキルで伐採する
「……凄い」
「っと、ちょっと待ってろ今皿を作る」
そうして斧では上手く削れないので皿にしようという部分だけ薄く切り落としてから
「チェンジダガー」
姿を大きな彫刻刀へと変えて強引に皿を削り出す。ついでにスプーン擬きも
……随分と粗っぽい出来だな、まあ良いか
「セカンドダガー」
そうして次に用意するのはカプセルボール。中身にガスを込めてぶん投げるとカプセルが弾けるという、所謂煙玉。投げて使うのだから当たり前の投擲具判定である。但し使うとなくなる武器なので普通に伝説武器をこの姿に変化は出来ず一々フロートダガーで呼び出すのが面倒
だが今必要なのは外のカプセルだ。中身の煙は要らない
煙を消し、カプセルを留め具を外して二つに割る。そしてそれをお玉に、作った皿にスープを分けた
『称号解放、雑貨の偽勇者(笑)』
よう七星の日用雑貨、お前も大変だな武器に混じって戦わされて
……あ、黙った。やはり後先考えないクソナイフか
「ありがとう、ユータく……さん」
リファナ、だからくんと言いかけてるのは何なんだ、お前にくん付けされるような年齢じゃないぞ勇者ユータは。俺?お前と一歳違いだよ
「あ、ありが……とう」
ラフタリアは相変わらずの警戒状態だ。助けてやったのに薄情狸な事で、と言いたいんだが寧ろ何で助けたのかも良く分からないし村に来たときはどうだったのかも分からない謎の勇者を全然警戒してないリファナが可笑しいのかこれ。まあ、リファナは盾の勇者への憧れあったしな、勇者ってものを信じやすいんだろうきっと
おのれ尚文、よし趣味と実益を兼ねて尚文には……もう冤罪食らってたなあいつ、じゃあ良いか
「……さて、飯は行き渡ったか」
自分の分は取り皿なんて要らない。掬ったカプセルの半分でそのまま喉に流し込めば良い
「……ということで、改めて聞こう
ラフタリア、そして……リファナだったな
お前らは、これからどうする?」
そう、必要なのはこの先の展望
ずっとリファナ達を連れていく訳にはいかない。そうすれば必然的に波に参加しなければならなくなる。それが勇者のフリをするものの使命だ。勇者の使命を放り出していては怪しすぎるのだから勇者っぽく振る舞うべし
だが、それは諸刃の剣だ。やらかしすぎると前みたいに女神側の呪いが発動する。それでうっかり俺が死んだりしたら戦線は最大戦力を喪って総崩れ、そのままリファナは死ぬ。ラフタリアも死ぬ。駄目だろうそれは。何時発動するか分からない爆弾にリファナを縛り付けられるものか
だとすれば、どうするか。答えはもう出ている
ラフタリアにも幸せになって欲しい訳だし、リファナには可能な限り安全で居て欲しい。ならばこんなもの、
第一、やはりというか世界を
リファナが居るのがそもそもの歪み?知るかそんなもの、リファナが死んでる盾の勇者本編の方が歪んでるんだっての
……だから、だ。この先、尚文がぼっちに限界を感じ、暗い理由で奴隷を購入する頃になったら強引に尚文の買う奴隷枠にリファナとラフタリアを捩じ込む。それ以外の奴隷を買わないように金があれば尚文が買う可能性のある残り二体……確か雑種のリザードマンとラビット種だったかを買い占めても良い。勇者様へのリファナの信頼を裏切るのは衝動的に喉を……そう、こうして
「勇者、さま?」
っと、リファナが驚いた目で此方を見ている
危ない危ない、ついセカンドダガーで自分の首掻き斬るところだった。実際にやらかす時までその事は考えないようにしよう
「大丈夫だ、野生の魔物の気配がしたから構えただけだよ」
まだナイフ首筋に当てる直前で助かった、誤魔化せる
兎に角だ、尚文に託すまでまだ時間はある。尚文が奴隷を買う直前まではこうしてリファナ達の安全を俺が確保する。幾らいずれ奴隷として尚文の前に出さないと大きく世界が歪むとはいえ、奴隷商の管理下なんて魔境にリファナやラフタリアを一日もの間置いておけるものか。奴隷商に話を付けリファナを置いてきたその足で奴隷商に幻影で化けて尚文を誘導してくるくらいで丁度良い。勇者様に裏切られたショックできっと荒んだ尚文好みのハイライト消えた死んだ目をしていてくれるはずだ。よしそんな事する俺殺そ……
危ない危ない、再発しかけた
「どう?」
「そうだ、ラフタリア
お前らの家はもう無い。村は焼け野原だ」
「な、なら建て直し……」
「また、狙われるぞ?メルロマルク的には亜人の村なんて滅んでた方が心地良いんだ」
……確か、本編的にも波の生き残りが村を建て直してる所にメルロマルク軍がやって来て……というのがラフタリアが奴隷になった経緯だ。村が壊れているか、多くの人間が生き残っているかの差こそあれ、実は本来のストーリーラインとあんまり変わらない。その点は尚文が来る前のルートを大きく変えなかった
「村には帰れない。帰りたいってなら殺された奴等の弔いの為に一度帰してはやるが、留まるのは無理だ
生き残りが戻ってきたならば、またメルロマルク軍が来る」
どうせ、声帯潰されたりネズミが逃げたりで怒り心頭だろう実働した貴族共は。絶対にまた来る
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
って、落ち着けラフタリア
「もう一発セカンドダガー!」
『力の根源たるねz勇者ユータがって分かってんだろ天地真理以下省略!』
「落ち着けラフタリア、ファスト・スタンクラウド!」
とりあえず皿を落として汚れないように投擲具を宙に浮かせて皿を確保するや急に叫びだしたラフタリアへと軽く電気ショック。アヴェンジブースト第二段階以降ならば生体スタンガン出来なくもないのだが発動してないし危険なので魔法でバチっと
「ラフタリアちゃん!」
「ちょっと痺れさせただけだ、ダメージはない」
アヴェンジブーストのスタンガンだと出力によっては心臓麻痺で人殺せるがスタンクラウドはそんな危険な魔法ではないので安心だ
「で、ラフタリアは何で急に」
「ラフタリアちゃん、お父さんが刺されてから……」
ああ、言いにくそうだなリファナ。分かるぞリファナ、良く言ってくれた
「……すまない、無神経だったな」
メルロマルク兵士の話をしてはいけなかったか。いやまあ、狸の親父はあいつらに刺し殺された訳で、それを見上げるしかなかったラフタリアからすれば奴等がまた来ると聞けば半狂乱になっても仕方ないか。俺だって奴等が目の前に居たら反射で魔法詠唱しつつピック投げるかもしれない
「でもだ、分かるだろう?帰る場所はもう無い」
そのうち尚文の所が帰る場所になるし、尚文の土地が出来てからは村の再興も出来るが今は、の話だ。俺?そこまでやらかしたらまず間違いなく呪いで死ぬわそんなもの
「だからだ、戦いたいというならば最低限は教えてやる
戦いたくないならば別に良い。とりあえず暮らしていける場所は探してやる
勇者というものも忙しくてそんなに長いことじゃないけどな。さあ、どうする、リファナ
ラフタリアは……まあ、戦いたくなんてないだろうけどな。それでも、生きていくには最低限の力が必要だ
力があれば、村だって守れたかもしれないだろ?」
盾の勇者本編では追い詰められに追い詰められ、剣を取るしか無かったから剣を取ったのだ。本来のラフタリアは戦いになんて向かない。いやまあ、そんなこと言ってそのうち尚文に押し付ける気マンマンの俺が言うのかそれという話だが。どうせそのうち戦わざるを得ない環境に放り込む気の、リファナや狸の親父の村を守れなかったクソネズミがどの口で言うかそんなこと
それでも、尚文のところで役立ち、尚文にも捨てられたりせず生きていって欲しいから最低限の事は教えておこう。まあ、あいつが奴隷捨てるとは思えないが万一だ
そうして、ついでにラフタリアの事を言ってリファナも追い込む。力があれば守れたかもしれないと、優しいリファナを戦いに駆り立てる
「……うん、ラフタリアちゃん
私、頑張ってみる」
『称号解放、アジテートクソネズミ』
その通りだよクソナイフ、良くわかってるじゃないか