パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

101 / 149
宝物漁り

「……

 さて、これが良いかな……」

 

 場所は宝物庫

 言った通りに俺は適当に悪魔どもの集めた武器を漁っていた。幾ら持ち出し許可を得たとはいえ、変に大量に持ち出したら怪しまれるだろう。なんたって俺はこのまま騙した馬車の勇者(フィトリア)と共に勇者達のところに戻るんだからな

 向こうでの俺の扱いは投擲具と槍の力によって引き離されている投擲具の勇者、だ。仮にも正規勇者、今は武器がないから特例で他の武器が使えるだけ。そんな奴が大量の武器を持ち帰るとか、勇者強化の狙いを疑われても仕方ない

 まあ、本当に狙いはそれなんだが。なので、それっぽくあいつらに託すべき武器を選ばなきゃいけない

 

 ぱっ、と目についたのは……巨大な塊であった

 「これは……戦車か」

 戦車といっても古代のアレだ。馬に引かせる奴。エンジン駆動で鉄の砲撃をやってくるキャタピラのあいつじゃないぞ流石に

 「伝説の戦車でちね」

 「伝説?ああ、それって疾風どと(トロイa)……」

 って三頭くらいで引くっぽいしマジで似てるなおい。ネタで言ってただけなのに

 「持ってくでちか?」

 「却下。誰が引くんだよこんなバケモノ戦車」

 「馬車の勇者なら一羽で引くのでは?」

 「何で勇者を強化してんだ」

 「正解でちよ。持ってっちゃダメでち」

 「んなこと知ってるわ」

 転がってるコインをでちに向けて指で弾いて捜索に戻る

 

 この盾は……割とよさげなものだが持っていく理由に欠けるな。そもそも俺自身が盾なんてほぼ使わない前のめりスタイルだからな。持っていくと言い出しても尚文にあげる以外のそれらしい理由が見つからない

 攻撃なんて避けるか押し返すかすれば良いんだよ上等だろってスタイル……間違ってたんだろうか。って今更だな。何時かここからパクる事を考えてたなら盾も使うべきだった、と

 「……持ってくんでちか?あの拾った女の為に」

 「あ、レンか」

 そういえば、となるがダメだな、と首を振る

 レンも剣だけスタイルだ。盾を欲しいと言い出さない辺り剣と盾ってスタイルは好まないんだろう。持ち出す理由としては薄い

 更に見つけたのは槍……却下だ却下。何でこんなもの使わなきゃいけないんだ

 

 なんてやっている中で、一つ、良さげなものを見付けた

 短く、ゴツい柄の片手槌。鍛冶屋が持ってるアレくらいの大きさのハンマーだな。本来の武器種としては槌の勇者の区分になるのだろうが……

 軽く手に持ってみる。うん、良く馴染む

 「マスターマスター、手が焼けてるでちよ!」

 あ、確かにちょっと赤熱してるなこれ

 「大丈夫だ。雷槌の時点で俺が使えないはずもない」

 まあ、フカシなんだが

 改めて見てみると、軽く電流が走っており、それで金属製である槌そのものが熱を持っているらしい

 いや、復讐の雷霆による雷撃耐性がどんなものか、で軽く切れた電線の両端を握らされた事もある俺だぞ?熱いなとはなるがそれだけだ

 

 「……ミョルニル

 こんなものまであるのかこの世界……」

 元の世界で伝わってる神話に出てくる武器によーく似た武器が原作でも転がってた事から何となく分かってたが、すげぇなこの世界。神話に出てくるような武器まで波を越えるために完成させてるのかよ。まあ、悪魔によってこんなところに死蔵され、本来の役目は果たせないようになってたんだがな!

 

 「良い武器だ、貰っていこう」

 「マスター……絶対にボクに投げないで欲しいでちよ

 それは数人の悪魔が持ち運ぶだけで焼け死んだ曰く付きのハンマーでちから」

 「まあ、ネズミさんには関係無いがな」

 「それでこそマスターでち。でもハンマーなんて使えるんでちか?」

 「ああ、これ投擲具でもあるから」

 ミョルニル。或いはトールハンマー。北欧の雷神の武器として俺のところでは神話になってたかな

 

 あとは……と、探していると風情の欠片もないものを見かけた

 「台座ごとかよ」

 「台座ごとでち」

 岩に突き刺さった細身の両刃剣。周囲の岩がしっかり切り揃えられているところを見るに、神殿か何かに突き刺され祀られていたものを石の祭壇ごと切り取って持ってきたんだろうな

 神秘的で、竜の翼のようなものが閉じた意匠のある紫みがかった青い鍔が中々に綺麗だ

 「場所取りすぎだろ」

 「森の中の神殿に安置されてたのでちゅが、悪魔には抜けない剣を死蔵するにはこれしか」

 「それもそうか」

 なんて言いつつ、かるーい気持ちで石の上に飛び乗り、しっかりと固定されているはずの柄を小突く

 カラン、と軽い音と共に剣が地面に転がる

 案外固定浅かったんだなー、剣先だけが刺さってた感じ?もっとしっかり差し込めよ前の持ち主

 って、そうじゃなくて

 「抜けたわ」

 「マジでちか……何やったら抜けるんでちかそれ……」

 「ちょっと、な」

 手に持つと凄く軽い。が、ぶんぶんと振り回しても風は発生しないな。風を纏う剣……神話ってか伝説でカリバーンとかエクスカリバーとか言われてたアレかと思ったんだがそうではなかったようだ。って、王の剣なら俺に抜けるはずもないわな。原作錬でも確か抜けなかったはずだし

 あ、もう一本、今度は自然の岩に突き刺さった剣がある。アレか、カリバーンっぽいものの方は

 うん。こっちは抜けない。当然か、俺には勇者の資格も王の資格もないのだから

 

 ふと背中の重みを感じて触れてみると、鞘だった。なんだこの剣、鞘プレゼントかよ

 いや、要らねぇからと外してぶん投げ……って気が付くとまた鞘湧いてるし、リポップすんのかよ呪いの装備か何かか

 と、これは……と、漸く見付けた小型の銃をしげしげと眺める

 これを探すのがまず一つの目的だったんだよな、うん。色々と持ってけないものに目移りしてたんだが

 「エクスペリエンス!」

 「何用カ」

 呼ぶと近くの悪魔が反応して声を返してくる。こんな監視も居るし、やっぱり持ってく武器は選ぶべきなのだ

 「お前の本体の下にももう一個宝物庫あるだろ?そこにこの銃に良く似たモンが転がってると思うんだ、それを持ってきてくれ」

 「構わヌが、何故」

 「確かこいつ一対の武器なんだ

 片割れだけじゃ俺が使うにはちょっと弱くてさ。いざという時に本気を出せるように対で持っておきたい。特に俺、基本が近接だから遠距離武器の扱いは弱いのよ

 だからこそ、いざ勇者達と戦うとき、苦手分野こそ武器の性能でカバーしたいんだ。普段は片割れだけ使ってれば、油断も誘えるしな」

 出任せである。俺は自分でこの武器を使う気なんぞさらさら無い。銃は苦手だ

 第一、油断も何もこの武器が対ってのは原作では樹が語ってたこと。この世界でも樹がその事を知らないとは思えない以上片割れちらつかせた時点で万が一対があればってのはバレる。油断も隙もあるはずがない。敵対した後にこいつを取り出した時点でやっぱり対で持ってて隠してたんだと思われるだろう

 「良かろウ

 だが一つ問おウカ。それほどの力、真に必要カ?」

 ずっこける

 「いや、ついさっきあるだけの力が必要だって話したばっかだろ?

 ヘリオス・バシレウスの野郎が何時何処から襲ってくるか分からないんだから、さ」

 「それも、道理……カ

 持ってユケ」

 

 と、届けてもらう間に更に暫く武器を漁るも良いものは……

 あ、有ったわ。ってかこれは……

 「かつての波の残骸か……」

 フィトリアの記憶で見た機械の残骸。つまりはあの時の波で勇者に撃破された波から出てきたロボットだな。壊れてるけど割としっかり形が残っている

 「無人機……」

 「昔別の神が残した遺産でちね」

 「有人に改造して乗り回せないかな……」

 「考えてオク」

 「行けるのかよオイ!」

 至れり尽くせりである。何というか、本当に良いのかよ悪魔ども

 「乗り手が居るならば、面白イ」

 「ああ、悪魔ってわざわざそういうの乗らなさそうだものな

 でもロマンだろ?」

 「然リ」

 と、そこへ別の悪魔が短銃を持ってきて……

 固まった

 

 「ん?どうした?」

 「ソノ……剣は」

 「ああ、これ?」

 鞘が呪われているので鞘に直しておいた剣を引き抜く

 別に強い剣でも無さそうなんだよなこれ。岩に刺さってるから伝説の剣か何かかと思ったんだが、破壊不能がついてるようだがそれだけだ。恐らく剣の質としてはレンに買ったあっちのが良いレベル

 と、悪魔が距離を取り……

 おい、発砲すんな!危ないだろ!

 その瞬間、ジャキンという音がしそうな感じで、鍔の翼が開き、同時に刀身が輝きを放つ

 ……これは!?

 突然力が増した感覚。淡く光る今ならば、大抵のものはバター感覚でさくさくスライス出来そうな気がしてくる

 「これは……」

 「マスターマスター、絶対にボクに近付けちゃダメでち!?」

 「知っているのかゼファー!」

 「やーめーるーでーちーっ!」

 一歩近付くと、悪魔は立ちくらみを起こしたように倒れ伏した

 あ、何か楽しそうだな

 「マスター、ボクはあの世……があったらそこからマスターを見守ってるでち……」

 「そんなレベルかよ!?」

 なんだこの剣。まあ、悪魔が死蔵してる時点でヤバいブツだってのは確かなはずだったんだが

 

 「女神乃剣」

 「めがみの……けん?」

 「かつて、そう、呼ばれた剣……」

 悪魔達が寄ってくる。俺を囲むように

 ここで攻撃したら敵確定だ。それはあまりやりたくはない

 勇者武器があれば一考の余地はあったが、今の俺持ってないしな、わざわざこいつらを此処で敵に回すのは得策ではない

 「嘗て、最強の剣を神に与えられた転生者が居た」

 「へぇ」

 まあ、居るか。チートスキルならぬチート武器持ち転生者。この世界だとチート武器の頂点に勇者武器があるからそんなもの嬉しいか?と思うんだが、世界は広いしな

 「だが、奴は……

 事もあろうに幼馴染であった槌の勇者に首ったけになり、彼の死を機にあろうことか神に反旗を翻した」

 ああ、俺みたいにか。いや、俺は表立ってはいないけどさ

 

 「そうして、一時的にあやつに力を与えた槌により、神により創られシ力でありながら、神を滅ぼすモノとして鍛え直された……退神の剣

 ソレこそが、その剣」

 「あ、成程

 だから、勇者武器を奪う力を振るえば強引に持てる、と」

 「ナニ?」

 あ、悪魔達が固まった

 

 いや、実はそんなもの使ってないけど抜けたんだがな。それを言ったら敵確定だわこれ。何もしてないけど抜けたとかでちに言わなくて良かった

 あ、光が消えた

 つまりあれか。俺への敵意を持った転生者や悪魔やら神やらが近くに居ると勝手に覚醒すんのかこの剣。でちは近くにずっと居たのに覚醒反応してない辺り、あいつ俺への敵意は本当に欠片も無かったんだな……ってのは置いといて、転生者サーチャーとして便利だなオイ

 

 「……済まヌ」

 さーっと悪魔の波が引いていく

 「いや、そんな武器気が付いたら持ってたら驚くわな

 ってことで、とりあえず連れてきてないけど信頼出来る仲間も居ないし、今回はこいつら貰ってくよ

 必要だったり相談があればまた来る」

 ということで、今回の戦利品は……

 ミョルニル、短銃モイラと短銃ルドガ、そして謎の転生者サーチャーか。割と大漁じゃないか。未知数ながらロボットも出来上がるかもしれないしな

 

 あまりに長居してるとヤバいからな、とそそくさと転生者の根城を出て、フィトリアと合流

 ポータルで飛ぶと、そこは船の上だった

 

 間一髪。カルミラ島に着いてからじゃ遅かったしな。主に、活性化地にはポータル出来ないって制限のせいで即座に合流出来ないという点で


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。