パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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合流

「うわぁっ!」

 「きゃぁぁぁっ!イツキ様ぁぁっ!」

 船の上に着地した瞬間……いや船の甲板だから着地ってのも変か。とりあえずフィトリアのポータルで移動し終わった瞬間、船がぐらりと揺れた

 

 「フィトリア、重い」

 「えっへん!」

 「威張るな!」

 「おもいとおっきくてすごい馬車をひけるんだよー!」

 いや、今はそれは関係ない

 重要なのは片足の弓の勇者が船から落ちかけたって事実だ。ってかぐらっぐらしてんなこの船!波にさらわれかけのボートか!人によっては酔うだろこれ

 俺?この程度で酔うならスカイウォークしてたら吐くに決まってる。慣れだな、慣れ

 「ん?フィトリアおよげるよ?」

 「泳いで助けられるからって人を海に落とすのがダメじゃない訳はないからな?」

 「はーい!」

 全くこの勇者は……

 

 で、と辺りを見回すと、荷物の影で一人の少女がグロッキーな顔で踞っていた。まあ、レンなんだが

 酔ったな、さては。女の子として堂々とゲロりたくはないからこんなところで耐えようとしていたのか。刺激しちゃ悪いな

 後は……フィロリアルズは何か泳いでるし……尚文は揺れを気にせず壁にもたれて本読んでるし、それを見てラフタリアは凄い凄いしてて、リファナは……あれ、居ない

 「尚文、リファナは?」

 「ネズミ……いつの間に」

 「ついさっき」

 「どうやってだよ」

 「ん?フィトリアの奴も勇者だからな。ポータルで飛んできた」

 「初耳だ……」

 「そりゃ今初めて言ったからな。んで、リファナは?」

 「お前はもうちょっとそういう重大な事を……

 もう良い。上だ」

 「上?」

 空を見上げると、そこには白いドラゴンの姿。目を凝らすと、その背の上に見覚えのあるイタチの姿が

 「ぶー!」

 ドラゴンの姿が気に入らないのか、フィトリアの奴がフィロリアル姿のまま海に飛び込んでいった

 いや、尚文の仲間だぞあいつ。仲良く……は無理か。フィロリアルとドラゴンだしな

 読書に戻る尚文に更に言葉をかける訳にもいかないか、と思い、ふわふわ髪の勇者の方へ

 

 「よう、樹」

 「ああ、ネズミさんですか。相変わらすですね

 本当に追い付いてくるとは」

 「知り合いの神鳥がちょっと、な」

 「流石ネズミさんです」

 持ち上げるな気持ち悪い

 

 「それで、今向かってるのがカルミラ島か」

 世間話のように、俺がぶっ倒れていた間に……そして武器調達に向かった間にも決まった話を聞こうと話題を振る

 「はい。活性化で勇者の皆様のレベルアップを、という事で

 特に尚文さん達は国王達によりクラスアップを禁止されていたらしいですからね。此処で追い付いて貰わなければいけません

 後は……」

 「ん?何かあるのか?」

 「僕の新しい仲間のスカウトを、と」

 あ、横で片足のイツキ様を支えるんです!と車椅子の取っ手を持ってた少女が愕然とした表情を浮かべている

 

 「リーシアさん一人に任せきりでは大変でしょうからね」

 ほっと息を吐く少女

 いや、捨てられる訳無いだろとツッコミたくはなるがまあ良いや放置で。人の恋路をジャマするネズミは疑似餌のチーズに向かうが如しだ

 「一人でも大丈夫ですイツキ様!」

 「いや何らかの理由で倒れたら誰が樹を助けるんだよ」

 「そ、それは……」

 「ネズミさんです」

 当然でしょう?とばかりに言い放つ弓の勇者

 「樹ぃっ!今そう言う言葉言うシチュエーションじゃないだろ!

 あと、絶対にやりたくない。リファナが言うから尚文の御守りやってるのに、何で好き好んで他に更に男の面倒を見なきゃいけないんだよ」

 って熱いぞ尚文。誰が誰の御守りだってセルフカースバーニングは止めろ

 「つまり、やってくれるんですね」

 「何でそうなった」

 「やりたくない、であってやらない、ではなかったので」

 ……正解だ

 やる気がないならやらないと言ってる。実際にリーシアが過労で倒れたら樹の安全な生活は俺が何とかするしかないだろう

 うん。だからリーシアが倒れないように誰かスカウトしろ樹。任せたぞ樹

 

 「と、話題を戻すぞ」

 「はい。そうしましょうか

 今から僕達が向かっているのはカルミラ島。正確にはカルミラ諸島という島の集まりのようですが。そこが活性化……つまりはゲームでのレベル上げイベントのように魔物が多く出てきてレベルを一気に上げられるチャンスの時期なのですよ」

 「だからこの機に一気に尚文達を追い付かせようという訳だな」

 「あとは、其々の勇者の仲間と別の勇者が行動を共にしてみることで、新たな発見が……」

 「人員交換?やんの、それ?」

 意味あるのだろうか

 「ですよね!」

 「リーシアについてなら多少知ってる。リファナ達に関しては良く知ってる

 そもそも、俺が投擲具持ってた時に何で強いかって隠さず言ってるから謎も何もないぞ」

 「まあ、気分ですね、気分」

 良いのかそれで

 「後は……フィトリアさん、ですか

 彼女も妙に強いので」

 「あいつ勝手に自分から俺に手を貸してくれてるだけだから制御効かないぞ?」

 「……」

 おい、がっかりすんな

 

 「んで、イツキ

 そっちの足はそのうち治りそうか?」

 この世界でならまあ多少の欠損なら治せる。魔法の世界ってのは伊達じゃない。いやまあ、機械文明世界でも義足だとかナノマシン再生だとかで欠損を補えなくもないんだろうけどさ

 ただまあ、時間がかかるし金も要るのは確かだ。庶民に手が出るものではない

 「ええ。直ぐに……とはいかないようですが

 フォーブレイのような大国であれば……とも言っていましたが」

 「ご存知、俺達を襲ってきたあのタクトって奴はそこの王族だ。飛んで火に入る夏の虫だな」

 「はい、ですから時間はかかるようです

 僕が弓の勇者だから影響はまだ少ないものの、剣の勇者であった場合は大変な事になってましたね」

 「そん時は投げて戦え」

 「む、無茶苦茶ですぅっ!」

 「無茶でもやれ

 それが勇者だ」

 「あはは……」

 と、仮定の話に弓の勇者は乾いた笑いを浮かべ

 

 「そういえばネズミさんは武器を調達しに行ったんでしたよね

 その辺りは……」

 視線が俺の背のサーチャーに移る

 「問題無さげですね」

 「ま、悪くない剣だなこれ。あとは……」

 と、腰に仕込んでおいた銃を取り出し、ほいと投げる

 「樹、受け取れ」

 「ネズミさん?これは……」

 受け取った瞬間、コピーが発動し、そして勇者武器の制限によって手元から弾かれる

 って危ないな、海に落ちるぞ下手したら。と、トリガー部分に尻尾の先を引っ掻けて回収

 「こ、これは……」

 しげしげと少年が銃を眺め……

 「た、たたたたたたたた」

 あ、壊れた 

 「たたた短銃モイラぁぁぁぁぁっ!?」

 愕然として、片足でこっちに身を乗り出した瞬間、ぐらりと船が揺れて少年の体が車イスから投げ出される

 「っと、逃げないから落ち着けよジャスティスハイドマン」

 軽く手で抱え、ほいっとリーシアに投げ渡す

 「……今は川澄樹です」

 「座っとけ樹。逃げやしないからさ」

 「そうですよイツキ様

 そもそも、その銃?ってそんなに凄いものなんですか?」

 「いや?銃自体はフォーブレイでなら流通してるぞ?ステータスってよりレベルで火力が上がるらしくてな。高レベルに連れられてレベルだけ上がったけど戦ったことはロクにないってレベルだけが取り柄の貴族等からすれば他の武器より都合が良くて良く売れてる」

 「そ、そうなんですか?」

 「そうらしいぞ?フォーブレイ自体は行ったこと無いけど組んだ冒険者が銃持ってたんで聞いた事がある」

 「それで、このモイラは何処に……」

 「昔爪の勇者と共に行動してた時期が少しだけあってな。まあ冒険者っぽいことやってた時期の依頼でなんだけどさ

 そこで昔に滅びた国の遺跡調査したのよ。そん時は勇者の前だし盗掘とかさぁと何か武器らしきものが墓の中にあるなと思いつつ無視してたんだが今は緊急事態だ

 ってんで改めて盗掘したらその中にあった。この剣と一緒にな」

 あ、間違えた。この剣と一緒にあったのはルドガの方だ。モイラは別の宝物庫にあった方。いやどうでもいいかそんなこと

 「も、もう一個は……?」

 「?あったのはそいつだけだぞ?」

 嘘である。対だってことは知ってるし、何なら今ルドガも持ってる

 だが、今原作で樹が散々チートだ何だ言ってた対の銃を両方渡してしまうのはあまりにも、だ。露骨すぎるしまだまだ早すぎる

 だから、まだ渡さない。これを解禁しなければ終わるというレベルの、本当に力が必要な時に託す。頼りきられても困るし、どれだけルドガ&モイラが強くても結局のところ単なる武器だ。樹の体自身は強くはならない。だからこそ、今渡してヤベェからあいつから殺せ盾とか全て無視してどんな犠牲を払ってもまず殺せあいつを殺さない限りこっちが全滅だと全力で狙われたら死ぬだろこれって話だ

 片方なら良いのか?片方ならまあそんな強くないしけれども勇者から信頼得られるから良いだろ?揃わさなきゃ問題ないって大義名分がたつしな

 「もう一個?俺は銃だし弓の勇者が喜ぶかなと持ってきただけだが、何か秘密があるのか?」

 「……ネズミさん、ディメンションウェーブというゲームは分かりますか?」

 と、樹がそんなことを聞いてきた


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