パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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思い出話

碑文でがやがやは終わり、宿へ

 宿と言っても普通の宿ではない。最上級のものだ。流石は国家がバックアップについた状態の勇者待遇だな

 「凄いですねナオフミ様」

 「お城みたいですねなおふみ様」

 「何時かこんな城を財宝で作りたいわね、(ふみ)

 と、リファナ達プラスアルファが言っている。語彙力が大分無いが、それはもう仕方がない。大理石のような高価な光沢のある石で作られた壁や永遠にも等しい時間水が涌き出る特殊な魔法の込められた石像による噴水、どこからどう見てもルロロナ村の田舎ネズミには縁がなかったものだ。そんなもの、すげぇなオイ以外の気の利いた感想とかやってられないだろう

 いや、実際のところ御門家ってのは旧名家だったりするし、御門讃時代は結構な豪邸に住んではいたんだ。いたんだが……。シスコンな俺は可愛い妹をあんまり知り合いに会わせたくなくて家に同年代の友人とかほぼ呼んだことがない。そのせいか、あのバカデカイ家も自室と瑠奈の部屋と玄関とリビングと……って狭い範囲しかロクに知らなかったのだ。そんなものよりサッカーとかアウトドアばっかだったので探索もあんまりしなかったしな。なので一応お坊っちゃまだった割に高級品への造形は深くないんだ、これが

 

 「では、これからの日程を説明するでごじゃる」

 と、暫く待っているとどっかの王女に変身した影がやってくる

 あ、影ってのは国の諜報機関だ。何度かやりあったな。一言で言えば中世日本の忍者みたいなもんだな。異能力(いやこの世界では魔法だが)を駆使してやるべきときは割と派手に戦う辺りも正に

 ……樹?何だよそんなじとっとした目をして

 「ネズミさん。尚文さんの世界では現実の忍者は人目を忍ぶそうで派手な忍術バトルは漫画の中だけだったそうですよ?」

 ……は?異能力バトルとかしなかったら相手の異能力持ちの殿の暗殺とかどうすんだよ……って、そうか。そもそもそんなことしないのか。夢がないな、その世界の忍者

 「……そんな夢の無いって顔しないで下さいよネズミさん」

 「ん?分かりやすいか?」

 「うん。分かりやすいよ」

 と、リファナにまで言われ、頬を掻く

 少しは腹芸も要練習か。良く口から出任せやってるんだし

 

 「こほん。それでは日程を説明するでごじゃる」

 「そういえばメルティは?」

 「メルティとフォウルは城に残った」

 「誰か残ったアホハクコを呼んでこい」

 思わずずっこけかける

 いや、お前が強くならなくてどうすんだよフォウル。ハクコのお前が一番伸びるんだぞ分かってんのか

 「残らせてあげようよマルスくん」

 「折角妹さんと会えたらしいのに酷いですぅっ!」

 「話の腰を折るなネズミ!」

 散々な言われようである。いや、俺がフォウル買ったのはあいつに尚文側の主戦力となってリファナ達の代わりに危険な前衛やってもらう為だってのに。間違ってるか、俺

 うん。間違ってるな俺。自分が若しも漸く瑠奈と再会できたとして直ぐに良いから来いされたと考えろ

 

 「こほん

 全体で12日。最初の日は下見で明日から4日を人員交換の日とするでごじゃる」

 「はい、質問」

 と、手を挙げる

 「なんでごじゃる?」

 「そもそも、この場に居るのって盾の勇者御一行と弓の勇者カップルだけなのに交換とか要るのか?」

 「「か、カップル……」」

 目をしばたかせる二人は無視して

 「おい、お前

 お前の仲間が居るだろう」

 と、尚文に半眼で突っ込まれる

 

 いや、そういう話なのは知ってるぞ?その上で言ってるだけだ

 人員交換なんかはメルロマルクの女王等のセッティングだ。メルロマルク側から真意を聞きたいというだけ

 「……そちらは別の……投擲具の勇者一行という形でごじゃるよ?」

 「今の俺は投擲具を持ってないし、そもそも俺はリファナの幼馴染なんだからリファナ一行の一員だろ?」

 「沢山一ヶ所に居すぎても迷惑でごじゃるよ

 今のカルミラ島は貸切ではなく多くの人が訪れる人気スポットなのでごじゃるから」

 なるほど、一理ある

 って丸め込まれてどうすんだ

 

 ということで話を聞くと、人員丸ごと交換らしい。俺は樹のところ……というかリーシアと二人、そしてリファナ達尚文一行の順。でちやフィトリアは逆に尚文のところ、樹のところの順らしい

 

 「んじゃ、明日までどこらで狩りをするかとか悩みつつ自由行動か」

 「そうみたいだね」

 ふと思ったんだが、フィトリアが気が付くと姿を消している。どこ行ったんだあいつ

 と、思ったらコールが飛んできた

 えっとね、ばちばちが言うからくさーいメイドを迎えに行ってくるねー

 ……律儀だなオイ

 

 とまあ、そんなこんなは置いておいて

 「……何が売ってるんだ?」

 と、尚文が怪しげな露店を覗きこむ

 此処はカルミラ本島のメインストリート。港から続いており、磯の香りがここまでする島への観光客を迎える場所。一度は城のような宿へ向かうために素通りしたそこへ、俺と尚文一行は戻ってきていた。所謂明日以降の為の買い物だな。因みに資金は4日過ごすには多すぎる額が天井から降ってきた。影が寄越したのだろう

 

 「これは護身用の毒でー」

 「毒物なんて売って良いのか?」

 「許可証が必要でして」

 なんてやってるので尚文は無視で、横の店を覗いてみる

 

 「マルスくん、面白いものでもあった?」

 「どうだろうなー」

 と、見てみた結果、そこはアクセサリーの店だった。あ、ちょいと遠くに去っていく車椅子が見える。その背を押す少女の頭の上に、この露店のリボンアクセサリーの色ちがいらしきものが揺れていて中々に微笑ましいな

 「適当に覗きこんだだけなんだけど、何かアクセサリーの店だな」

 「店だね」

 「ちょうど良い、リファナ、何か要るか?」

 まあ、所詮貰い物の金だし、それで買い込むとして昼の食料くらい。朝晩は宿に戻ればついてるしな。余りに余る額だから無駄遣いしても良いだろうこんなん

 

 「え?」

 「いや、使いきるには多い資金だし、何か思い出に……」

 と、言いかけ、思い直す

 「ってそうか、どうせ買って貰うなら尚文の方が良い、か」

 好きな人から貰った方が、こういうアクセサリーって嬉しいだろうしな。と、ちらりとまた去っていく車椅子を見る

 ちっ、もう居ない、角でも曲がったか

 

 「……うーん、わたしは、なおふみ様からじゃなくても良いかな」

 「良いのかよ」

 「ラフタリアちゃん、ラフタリアちゃんはなおふみ様から買って欲しいよね?」

 「う、うん」

 と、横で聞いてただけの狸耳娘が遠慮がちに頷く

 「だからわたしは良いよ」

 「……何の話だ」

 と、毒瓶片手に尚文がやってくる

 毒は……そのうち盾にでも入れるんだろうか。俺も買って……いや、クソナイフ無いから要らないか

 

 「尚文、アクセサリーでも買おうぜという話」

 「要るのか?」

 「こういうところで、どうせ貰い物だろ?要るか?って二の次で良くないか、とリファナと話してたところ」

 「なんだこれ!」

 と、ちらりと店を見て尚文が叫ぶ

 

 「おい」

 「はいはい」

 「幾らなんでもこれは高すぎないか?」

 あ、尚文が噛みついた

 実際問題、ここのアクセサリーはクソ高い。綺麗な石は使ってるんだが、作りは割と粗悪。その癖に多少それっぽく隠蔽して、隠蔽した結果割と良く見える出来ならこれくらいという相場の倍はある。観光地価格ってのは高いものだが、隠蔽して出来を偽るってのは流石にどうかって話はあるな。騙されるアホにはちょうど良いのかもしれないが

 「何分、ここは大陸から離れた諸島ですからねぇ。少しは高くなります」

 「少し? この隠蔽までして粗悪品を売りつけておきながらか?」

 「尚文

 騙されるアホにはそれなりにお似合いの装備だろ?ってか、確かに高いが魔力も掛かっているし気休めレベルだが効果はある。詐欺と言うには弱いだろう」

 「あ、マルスくんもやっぱり気付いてたんだ」

 と、リファナが呟く

 「知ってて買おうとしてたのかよ」

 「そりゃな、思い出ってのは質じゃないだろ?」

 と、右手を尚文の眼前に晒す

 そこには、俺にとっては大切な……そして他人にとってはガラクタそのものな……形の歪んだ青い指輪がある

 

 「……それは?」

 「昔の村祭で取った射的の景品

 あ、リファナ」

 不完全な指輪じゃ、なと思い、横の幼馴染に声をかける

 「リファナ、お前、まだ持ってるかこいつ?」

 「…………ごめん」

 「……いや、良いよ」

 「メルロマルクの兵士に、波で死んでなきゃって言われたときに、割れちゃった」

 耳も元気なく、少女は呟く

 「悪い、変なこと聞いた

 ラフタリアは……」

 いや、地雷だろ、と言いかけて思い直し

 「キールくんのも割れちゃって

 だから、キールくんが連れていかれる時に」

 「あげちゃったか」

 「いや、だから何の話だ」

 ルロロナ村の亜人話についていけない尚文が話を遮る

 

 「尚文、こいつの適正価格は幾らだ?」

 「安物だな」

 「そりゃな。子供向けに村の大人が作ったものよ。しかも元々青と赤なんだけど青い部分と赤い部分と二つの指輪に分離するって子供心はくすぐるけど良く良く考えるとワケわからん機能つき」

 「言って良いか?」

 「いや、安物だって分かれば良い

 

 こいつ皆で小遣い出しあって射的して、4人分、しかもちょっと皆より多いラフタリアの小遣い泣きの一回で注ぎ込んで、漸く二個取れたんだ

 適正価格からすれば、5倍くらいの額かな。4つ取れなかったんで、謎の分離機能で2つの指輪を4つに分けて、皆で半分……リファナとラフタリアが赤い方で、俺とキールが青い方を持つことにしたから、この青だけだと更に価格は半分、10倍だな

 

 それでも、俺はそれで良いと思ってる。思い出だからな

 ってことで、確かにここで売ってるのは適正価格からすればぼったくりの粗悪品だが、カルミラ島に来た思い出だし別に良いだろ。どうせ、俺の金じゃないしな」

 「いや、それでも隠蔽は詐欺だろ」

 ……あれ、どう言い返そう

 ってか、言い返す意味あるか、これ?

 

 「お客様」

 と、店員に声をかけられる

 「粗悪品だと広めるのは営業妨害です」

 …………

 追い出された


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