「……という事ですよ、錬さん
それがネズミさんです」
追い出されたのでちょいと見てくるとリファナ達と別れ、一人行動を始める
と、何か必要なら買っとけよと金を渡しておいたレンと、杖をついた樹が立ち話しているところに出くわした。車椅子は側に無く、リーシアも居ない。食われた片足は無いままに、両手の杖で体を支えている形。手放せない弓は、短銃の姿で腰からぶら下がっている。ってことは、たぶんリーシアの奴、車椅子を直して貰いにどこかへ行ったんだな、と推測が出来るが……レンと話している理由は良く分からないな
「よっ、何だよ二人して」
ネズミと聞こえたので、合間にひょいと割り込む
「ね、ネズミさん!?」
「よう樹、何だ、秘密の逢瀬でも見られたような顔して」
因みに、単純に驚いてる顔だ。そんなアホ面はしてない
「い、いや違いますよ!?リーシアさんに聞かれたらどうするんですか」
「いや、冗談だから聞かれても問題ないだろ?本当にそうだと思ってたなら、直接言いに行く」
「で、ですよね」
「それで?結局二人して何を話してたんだ?」
軽くジャブを挟んで本題へ
「いえ、これから錬さん達とも人員交換で共に行動する時が出てくるのでしょう?」
「出てくるな」
「ネズミさんのパーティの中で、唯一しっかりと会話が成り立つのは錬さんだと思いまして、最初に相談していたのです」
「相談されていたんだ。別に僕はリーダーでも副リーダーでも無いが」
「……ゼファー……」
あいつ、まともに話が出来る認定から外されてるのか……
と、ちょっと哀れに思いつつ、話は続ける
「で、ネズミさんと聞こえたがそれは?」
レン、のイントネーションが少し俺と違うのはまあ良いや、個人差だ
「そういえばですねネズミさん。実はネズミさんがあの転生者?と戦った場所でおかしなものを見つけていたのですよ」
露骨に誤魔化したなおい
まあ良いや、少しそれも気になるから後で問い詰めようか
「ん?どっちのだ?」
「どっち、とは?」
首を傾げるふわふわ髪の勇者
……さてはこれは、本当に知らないのか
「いや、タクト・アルサホルン・フォブレイ
俺がぶっ殺した三勇教の新たなる御神体にして鞭の勇者、あいつも転生者だ」
「そしてネズミさんも、ですね」
……まあ、薄々勘づいてはいたんだ。この川澄樹は、俺が元々御門讃だってことを確信している、とな
それをレンの前でわざわざ宣言するのは予想外だったが……
「て、転生者?」
きゅっと自分の体を庇うように、レンの体が強張る。ドラゴンだけでなく転生者にもトラウマとか何が過去にあったんだろうな
「……樹?」
「そうですよね、ネズミさん
いえ、御門讃」
「…………何のことかな
俺は単なるハツカ種のネズミさんだよ」
「……いえ、分かっていますよ
皆の太陽である為に、ですよね」
「瑠奈の太陽だ。皆のじゃない」
「ええ。そうですね
では、何でそれを知っているのですかネズミさん?」
……何だろう
どうせ知ってるんだろ?と思うと警戒が薄くなるというか……
「で、それは後で良いだろ
何を見つけたんだ?」
「これです」
と、樹が広げて見せたのは……ん、なんだこれ
「布切れか?」
「ええ、服の切れ端です。あの三人とネズミさんの戦ったあの場所で見付けました
そのときはちょっと不思議なものだなとしか思わなかったのですが……」
見れば見るほど不思議だ。何となく、特別な……それこそ、今背負ってる剣にも近い空気がある
「……これは、勇者の武器の力か」
「そうなんですか?」
「知らなかったのか?」
「ええ。ネズミさんのその背の剣は……」
「槌の勇者が作ったものだ。だから、勇者の力を感じるんだろうな」
いやでも、勇者武器のなかに布切れを作れるような武器あったかな……
と、疑問が湧いてくる。少なくともこの世界の勇者武器には無い。波で融合しようとしているもうひとつの世界を考えても、あまり思い浮かばないんだが……
「でも、この布を作るとなると裁縫具か何かか
そんな勇者武器あったかな……」
「いや、無いでしょう……とも言いきれません、か」
「そりゃな。あいつらが持ってた扇だって、別の世界の勇者の武器な訳で
どっかの世界になら裁縫具とかあっても可笑しくないっちゃ可笑しくないんだ。だとしても、そんなイロモノ勇者武器が都合良くあの転生者等の側にあるのかというと……正直疑わしいな」
樹の手から受け取り布切れを見渡してみながら呟く
こういうときこそソウルテスタメントの出番だろ記憶を覗かせろよ居ないとかホント使えねーなクソナイフ
「これは!」
「何か分かったのか?」
と、横から覗きつつレンが呟く
「いや、刺繍がある。ブランドマークか?」
「……重要な事じゃないのか」
いや、がっかりするなよレン。手掛かりになるかもしれないだろ?
「ネズミさん。ネズミさんからは何に見えますか?」
と、樹に聞かれる
いや、分かりやすくないか?一発だ
「マフラーを巻いたイタチ」
瑠奈の書いてた絵に妙に良く似てるから良く分かる。母を殺した車が走り回る家の外の世界が怖くて、けれども外に想いを馳せていた引きこもりの妹が毎日書いてた単色の動物絵にそっくりなんだ。これは、妹の書いてたイタチ。他にはキツネとかタヌキとかネコとか居たけれども、それらとは違う細長いシルエットの刺繍だから間違いはないだろう
「マフラー、ですか……僕には首を締められた虎?にも見えるのですが……」
「虎か?これ」
「ネズミさん。ピューマってブランドを知りませんか?スポーツグッズのブランドなのですが、そこのロゴは虎です
そしてこれ、その虎が首を締められてるようにも見えるんですよ」
「ああ、そういえばそんなブランドあったな
でもこれ、虎じゃなくて多分イタチだぞ。だから違うだろう。わざわざ首を締めるロゴなんて、元ロゴに恨みでもなければわざわざ作らないし、さ」
まさかピューマブランドの靴とかに深すぎる恨みがあるあの世界の奴が裁縫具の勇者なんてあるかも分からないものに選ばれてわざわざそのロゴを貶めるようなロゴ作らないだろうに
「……そう、なのか?」
あ、レンが置いていかれている
「本当に、いつ、いや弓の勇者と同じ世界の出身なんだな……」
と、少しだけ距離を取るように、黒髪の少女は呟く
バレてるんなら、と言いたいが、あくまでも俺は単なるネズミさんだよというスタイルは崩さない。ってか樹の奴、俺が投擲具を持ってたのは正規だからだとか勘違いしてないだろうか。どんな勘違いから俺が転生者だけど味方だと思っているのか知らないが、それと矛盾する言葉を言ってしまうと不味いだろう。だからこそ掘り下げない。勘違いはそのままに、ふわっとした言葉でごまかしを続ける
「なーんの事かな?俺はちょーっとみかどさんってのに近いらしいからそれっぽいこと言ってるだけの、ルロロナ村の田舎ハツカネズミさんだよ」
「……なら、ひとつだけ聞かせて欲しい」
やけに真剣な顔で、やっぱり離れたまま、不意に少女が呟く
「ん、何だ?この剣の事か?」
「い、いや……
キミが、本当に弓の勇者と同じく異世界から来た人間なら」
「今は
「この世界と関係なかった人間なら
何で、ああも命懸けで戦える?」
そう呟く少女の体は、少し震えていて
「自分は戦えないのに、何で?って話か?」
こくり、と首肯
「あの時、盾の勇者達も、弓の勇者も教皇と命懸けで戦った」
「俺はのんびり現人神と戯れてたけどな」
「僕達だけは、神官と……言いたくはないが、正直な話まず殺されることはない安全な敵とだけ戦っていれば良かった。召喚されただけの他の勇者が命懸けなのに」
いや、何でそんな事で悩んでるんだよレン
と、ため息ひとつ、口を開く
「レン
俺は戦う意味があるから戦ってるだけだ。命を懸けても、守りたいものがある。総てを賭しても、祓わなきゃいけない雲がある
俺は、世界の雲を取り払う!瑠奈の太陽だから。そうでなければいけないんだよ
でもさ?レンは違うだろう?命を懸けなきゃいけない程のものはない。ならさ、死ぬかもしれない戦いに、それでもやらなきゃいけない誰かが立ち向かってるのに自分は安全だなんて、そんなもの悩むな。それで良いんだよ」
「でも!」
「そうですよネズミさん!それに、尚文さんたちは」
「世界は、勇者にしか守れない。そういうものだ
だから俺は勇者であろうとしたし、尚文には強引に戦ってもらう。そうでなければ、俺の守りたいものは守れない
だけどな、これは最低の選択だ。戦いなんて本当は嫌いな奴に、おめぇにしか出来ねぇんだ、おめぇの出番だぞ、尚文!と世界の命運を押し付けているだけ
そんなものに付き合えなかったからって、気に病むなよ。お前の心のままに、自由にすれば良いんだ。俺はお前を、命がけの戦いを強制させる為に拾ったんじゃない」
ねずこうよしっているか
転生者達の服を縫った当人はイタチが大嫌いだ。でち公のイタチ嫌いとかのような半冗談ではなく、純度95%の殺意的な意味で