「ってことで、今日から二日間だけお前の愛しの樹様に変わって同行することになる、一応投擲具の勇者って扱いなネズミさんだ
ぶっちゃけ知ってるだろうが宜しく頼む」
翌朝、軽く部屋の扉を開けて挨拶すると、しっかりと椅子に座って待っている明るい緑髪の少女が軽く会釈した
「って、堅苦しくやってもしょうがないな。樹から何か伝言とかあるか?」
「ありませんよぅ」
「んじゃ、今回は俺の勝手にスケジュール組んで良いって事だな」
「イツキ様……大丈夫でしょうか……」
俺の眼前で他の勇者の心配をするとは随分と
……いや、カップルカップルはやしたててる以上お熱いことで以外言うことないな
「そこは心配ないだろう。樹は尚文の仲間んところ行ったんだから、あそこにはリファナが居る」
「イタチの
「当たり前だろ。お前も樹を信じろ、お前の勇者だろ?」
「わ、私のじゃ……」
「照れんなって
んで、リーシア。お前一人って事は昨日一日でスカウトは出来なかったで良いんだよな?」
頬を赤らめる少女をからかいつつ、話を進める
「は、はい
昨日はイツキ様の車椅子を直す事を優先したので……」
「明日ってか今日から外だからな。それが正しいんだろう。直ってなきゃ杖だからな
で、これから俺達もカルミラ諸島の魔物の楽園みたいなところに行く訳だが……
リーシア、お前のレベルは?因みに俺は現状で85だ」
これは本当。勇者ではないのでレベルは100で止まる。100以上もあるんだが、そこに行くにはステータス魔法というこの世界のルール上特定条件を満たさなければならず、条件を俺は知らないので無理
同じく、リーシアも100で止まるはずだ。尚文達正規勇者はステータス魔法ってのがそもそもこの世界の神とも言える四聖の武器の精霊がこの世界に敷いた理であるという関係上その縛りが解除されるんだが……。因み昔にそれならレベルキャップ解除出来るお前は解除方法知ってるだろクソナイフと聞いたら、勇者武器パワーで勝手に解けるだけだから他の人間は無理と返された。相変わらずのクソナイフである
「81です」
81?割と高いな、と内心で驚く。確か原作ではカルミラ島での話を一通り終えた辺りであまりにも初期からステータスの上がりがしょっぱすぎて樹から解雇され、それを苦にして海に身投げしたタイミングで65だった……い、68だっけ?そこらは記憶が曖昧だが確か60台だったってのは合ってるはずだ。つまり、そこから既に10以上高い。しかも、活性化中のカルミラ島というレベリングに最適な時期の前と後だというのに、だ
「80台もあるのか、中々だな」
「はい、最近はステータスの伸びが良いってイツキ様からも誉めてもらえるんです!」
……そういやこいつのステータスって60後半からバカ上がりするタイプだったな。成長期入ったということか
これで樹に捨てられることもないな。いや、現状仲間がリーシア一人な樹がそんな事するはずもないが、原作通りになることはないという話で
というか、原作樹って随分と尚文に都合の良いタイミングでリーシア捨てたよなーとちょっと思う。60後半、ちょうど上がり出す直前に育てても無駄だと言い出すとかさ。しかも、基本的には自分の正義を信じて付いてきてくれる上に、あの初期値だろ?レベルによるステータスの上昇がどれだけこのステータスがものを言う理の世界において重大か分かっていたならば、逆にリーシア捨てるとか有り得なさすぎる選択だったんだが
60後半までいっても全然ステータス上がらず足手まといになったから捨てた。だがクラスアップもあるこの世界、本当に一人だけレベル1から全然ステータスが上がらなかったのなら40くらいで全身全霊で攻撃されればワンパン余裕だ。120とかまで行くとかすっただけで死ねる。60台の奴等相手に足手まとい扱いされつつも一撃死せずある程度戦えるとか伸びてないのにレベル40近くのステータスはあるって事だぞ。明らかに初期値が狂った高さだ、間違いなく何かあるだろそんなん
因みに俺のステータスだが、初期値については完全に狂った高さしてたりする。リファナの18倍くらいはあったな確か。転生者パワーって奴はやべーわやっぱり。まあ、伸びは普通だったんだけど
って、そこは今は良くてだ
「でだリーシア
カルミラ島は活性化中だ。その気になれば、明日の夜にはレベル100になって愛しの樹のところに戻ることも出来るだろう。即座にもっと役にたてるぞ」
「ふ、ふぇぇぇぇっ!?」
「だが、それだと資質向上でも何とか使えるようにならない限りその先カルミラ島でやるべきことが観光とかしかなくなるって欠点もある。その先がない」
「そ、それも困りますぅっ!」
「だから聞こう
レベルを上げるか、或いは隠されているかもしれないカルミラ島の秘密とかそんなものを探索してついでに軽く狩りをするか
俺はどちらでも構わない、お前に任せる
さあ、どうする?」
「……」
少しだけ、少女は悩む素振りを見せる
だが、すぐに結論は出たようだ
「カルミラ島の秘密を見つけたら、樹様は喜んでくれるでしょうか」
「見つけてみなきゃ分からないな
何があるか知ってたら、そんなもの探索じゃない、検証だ」
「そ、そうですよね?
探索してみます」
そっちか。良し
まあ、俺としてもクソナイフが無い以上資質向上とか出来ないから100まで上げてもなーってところだったんだよな。ひょっとしてタクトとやりあった時にレールディアだけでも殺しとくべきだったか。いや、一人でも殺したらあいつ変なカース覚醒してても可笑しくないしな、どっかのレーゼみたく、突然俺の
「よし、そうと決まれば支度して出発だな
探索ってことで、今日は宿に戻らない。野営するから着替えとか持ってけよ。食料はこっちで買っとくから」
「ふ、ふぇぇぇぇっ!?野宿ですか!?」
「樹と一緒に野宿とか無かったのかよ?」
「お、襲われたり……」
少しだけ、少女は此方を見て
「大丈夫そう?」
なら言わんで良い
「そういえば、昨日頭の上で揺れてたリボンは?」
ふと、そういや今日はリボン無いなと思い聞いてみる
「ふぇっ!?み、見られてたんですか!?」
「ああ、見てた」
軽く頷く。すると、少女は顔を真っ赤にして……
「ふぇぇぇぇっ!?」
あ、椅子から転げ落ちた。何もそんなに反応しなくても
あとで聞いたが、あれは粗悪品ですし練習に使いやすいでしょうと買って貰ったものらしい。アクセサリーへの魔法の付与なんかを今のリーシアはやろうとしていて、その材料だった訳だな。だが勿体なくて仕舞い込んだんだとか
というか、この島に来た勇者のうち2/3に粗悪品だと言われてるとか、大丈夫かあそこのアクセサリー屋。勇者に粗悪品詐欺と呼ばれた店として悪評で潰れないか?
少なくともフィトリアあの場に居たら大声で詐欺広めて終わってたろうな、あいつの人生
『ばちばち、いまからやるー?』
やりません。あと、今何処だフィトリア
『えっとね、あのくさーい悪魔を咥えて泳いでるとこー
あしたにはつくよー』
……早いなオイ。船より早いんじゃないか
『?フィトリアふね出せるよ?』
馬車の中に船を含めるのかよ!?何でもありだな勇者武器……船の勇者が泣くぞオイ
ってか船を出せるなら咥えてじゃなく乗せてやれよ
『やー!』
ゼファー、哀れなり……
『でもね、ばちばちの世界にあるみたいなおっきなのはむりかなー
フィロリアルや海のいきものが引いてうごかせる大きさだったりホントに引いてるものだけならできるよ?』
無理なのは現代戦艦とかか?出せたら本格的にどっかの世界に居るだろう船の勇者が哀れ過ぎるからな
……どっかに居るんだろうか、勇者武器(形態:戦艦大和)とかいう馬鹿勇者
空母なら運用できるぞあくまでもおまけだがとかほざく航空機の勇者なら居そうだ
ということで、用意を終えて出てきたリーシアと二人、港へ
本島はそんな調べるものも無さげだしな。開拓ほぼやりきられてるし
と、そこで俺達を乗せてきた船がまだ停泊しているのを見かけた
珍しいな、本来は定期便だろうに何でまだ出てってないんだろう
「……あ、」
俺を見つけ、船の前に立ってた少し幼げな顔の女が、手を挙げる
誰だ?って船長か、あの船の
「……見つけた」
「ん、何か用か?」
「盾の勇者の、仲間」
「何だ、尚文への用なら尚文に言え」
「……会えなかった」
「さいですか」
すれ違いか、その辺りは
「ま、伝言なら聞くよ
ってか、良いのかよ船を出さなくて」
「……特例。特別便が出るから、おやすみ」
……特別便ねぇ
嫌な予感がするんだが。まあ、良いや、話を聞こうか