「あ、あの時はお世話になりました」
と、横のリーシアがぺこりと頭を下げる
律儀だな。まあ良いんだが
「……それが、仕事」
と言いつつも、船長をやっている少女は少しだけ頬を緩めていて
「フォーブレイのお偉い人が来る」
と、静かに告げた
「フォーブレイ……
嫌だなマジで」
「……そう?」
「メルロマルクの次に嫌いだ、フォーブレイって国は」
ああ嫌だ嫌だとばかりに、ちょっとばかし大袈裟に肩を竦めてみせる。本気は5割ほどだな
なんたってタクトの国だからなフォーブレイ。原作ではドン引きされまくってた豚王とか呼ばれる現国王の男だが、まあ彼は嫌いじゃない。好きにすれば良いと思う。だが、タクトが居る時点でフォーブレイ、てめぇそのものはアウトだ
「んで、フォーブレイのお偉いさんを接待する為に普通の便は欠航と」
「これ以上、カルミラ島に来る人を増やさないって事ですか?」
お、リーシア鋭い
このカルミラ島を人でごったがえさせない為の措置だろうな。そのお偉いさんが来るってことはレベル上げのための狩り目的だろうし、人が多いと面倒ではある。実際、今居る港からメインストリートを見れば人の波だ。休日の人気テーマパークかって量の人。狩りにもルールとか制限とか掛けられていて、張り紙が諸島の別の島への船便の船室には必ず貼ってあるレベルだ。お偉いさん的にはそれが嫌で人払いしたいんだろうな
「多分なリーシア
つまり、来るのは他国にすら影響を及ぼせる地位の実に高いクソ野郎確定だ」
「……クソ野郎?」
おい、首を傾げるなそこの船長
「そりゃそうだろ?活性化地はレベル上げのメッ……聖地だ」
ヤバい。メッカと言いかけた。この世界にメッカは無い。いや、実はメッキャーとかいうパチモノシティなら勇者が作った街としてあるにはある。だがそれはフォーブレイの街のひとつに過ぎないし、聖地って意味はない。だからこの世界だと通じないんだよな○○のメッカ
「つまり、偉い自分達がそこを独占したいってのはクソ野郎の発想だろ」
「……勇者、達は?」
「誰が帰るか
多分王族だろうが何様のつもりだと居座るくらいやるべきだろう」
「ふぇっ!?良いんですかそれ?」
「寧ろ活性化中に他人を追い出す方が悪い。メルロマルクの女王はその辺りは弁えてたようだがな」
あまり迷惑をかけぬように、と言われてるらしいからな。俺は直接会ってないから又聞きだが
「……粗雑」
「粗雑もなにもな
この世界は勇者にしか護れない。だからこそ、関係ない異世界人を勇者として召喚して命懸けで戦わせるしかない。この世界の人間は、四聖にはなり得ないからな
だけど、それと同時に勇者に護れるのは世界までだ。そこに生きる人間を、どれだけ護れるってんだ」
「勇者がそれ言っちゃうんですか!?」
驚愕するリーシア
いやお前が驚くなよ
「まあ、別次元から自分の世界を放り出して純粋にこの世界を守りに来てくれる別次元の勇者でも大量に居れば話は別だぞ?
そんな見返りの無いボランティア基本居ないし次元を渡るのもそう軽々しく出来ないだろうから机上の空論だがな。だからこそ、勇者は最大で12人しか居ない」
「……勇者?」
「そっちかよ!?」
ぽつりと呟く船長にずっこける
そういえばそんな感じの挨拶してなかったな。途中から乗ったし
「俺はマルス。盾の勇者の仲間?って扱いではある
四聖の盾と弓等の認識では、投擲具の勇者ってところだ。まあ、諸事情で投擲具を今持ってないがな」
嘘ではない。持ってた時期はあり、今は無い。正規所持ではなかったがそれを言わないだけだ
「……投擲具。なら、異世界人?」
「いや、俺はセーアエット領の出だ。亜人の召喚勇者とかも居るのかもしれないが、少なくとも俺はそうじゃない」
勇者武器が俺達や尚文の世界に干渉して勇者としてそこの人間を呼べたということは、この世界と日本とかがあるあれらの世界は平行して存在する世界であると言えるだろう。当然、今波によって融合しようとしている世界やこの世界と似た日本風に言えばファンタジーな世界だって他に幾つも存在する。ならば、だ。今回の四聖勇者は全員現代日本とでも括れる世界群からの召喚であったが、必ずしもそんな場所から召喚する必要はないのだ。それこそ、この世界に近いファンタジーな世界から人間の姿になれる古代龍を勇者として召喚する……って事すら理論上は可能なはずなんだからな。ステータス魔法という同じようなルールを敷いた世界の古代龍とかならば最初からレベルもスペックも高く即戦力として申し分がないだろうし
ま、あれか。そんな優秀な戦力なら貸し出してやるのは勿体ないとかそんなんか。その例に挙げた古代龍の世界にだって当然勇者武器はあるだろうし、眷属器の勇者にならば出来るはずだからな。自前の世界の勇者として置いておきたいわな
閑話休題。今回の波ではそんなもの呼ばれてないから関係無いな。あるとしたら、勇者無しで沈黙している爪が突然亜人勇者なんかを召喚する場合だけだが……台座に帰ってきてないらしい、と悪魔の噂で聞いた。システムエクスペリエンス的には帰ってきたら転生者をけしかけて手にしようと思っていたらしいが……
因みにだが、彼等的には複数の勇者武器を保持しているタクトはクソ、らしいな。一応転生者側なことは間違いないから呪いで殺すに殺せないんだが、勇者武器を幾つ奪おうが使えるのは一つだから死蔵し過ぎ勝手すぎという認識だとか。って、俺は良いのか俺も複数持てるが
いや、そう長い間複数持ってないからか
って、今はそれも無関係か
「んで、だ
だからこそ、自分の身は自分達で守るしかない
勇者にしか波の元凶は倒せない。だから、勇者にしかこの世界を護れない」
ま、正確には波を起こしてる神と同じく神の域に行った奴等なら勇者でなくても勝てるんだがな。来てくれてたら原作で尚文等があんな苦労する事も無かったし多分基本使えねーと無視して良いだろう
「だが、最大で12人しか居ない勇者では世界を護れても其処に生きる人々を護りきれない。波を起こし無数の怪異を送り込む敵の手数に対して致命的に数が足りない
だからこそ、だからこそだ!
皆が力を合わせれば何とか自分達を護れるようにならなきゃいけない。全員が各々せめて己を護れるように強くならなきゃいけないんだ」
だからこそ、辛くて苦しいだろうにリファナとラフタリアを戦いに巻き込んでいるのだから
それをさ、自分達のレベルの為に他人を稼ぎ場から追い出すとかゴミだろ?と軽く笑ってみせる
「……確かに」
「イツキ様、イツキ様の迷惑にならないように強くなります!」
「んで、話は戻るが。尚文に伝えたいのはそれか?」
こくり、と頷く船長
「……変なのが来る」
「確かに、言っておいた方が良いな」
どうせ死んでないしなタクト。下手したら奴って可能性があるしやはり警告すべきだろう。いや、タクトハーレムならタクト乗せて飛べるグリフィンとかドラゴンとか居るだろ別人だと希望的観測したいが……
「で、今暇か?」
「……暇」
「じゃ、投擲具の……
いや、盾の勇者の仲間として一つ頼み事して良いか?」
「……何?」
「俺は実はカルミラ諸島についてそんなに詳しくないんだ。カルミラ諸島航路の船長なら割と良く知ってるだろ?
穴場……ってか、人が基本近寄らない未開の島って無いか?」
「……ある」
「なら、そこに連れてってくれないか?」
「……活性化の恩恵が無い」
「別に良いよ
どうせ、全日狩りをしたらオーバーラン、レベル100になって手持ち無沙汰な時間が出来るから。探索って奴だ」
「……あそこは、臭い」
「なんだそりゃ」
首を傾げる
臭い島?変な島だな
「……ゴミ捨ての島。だから捨てる人しか近付かない」
「そういえばそんな島の話を聞いたことがありますよ」
と、リーシアが補足
「ゴミ捨てか
探索には割と良くないか?」
「良くないですぅっ!」
「……オススメしない」
……女の子は嫌かやっぱり
「ってか、ゴミって何なんだ?」
「……」
おい、黙るな二人とも
「……葬る義理はない」
「肥料にしたりしたら、不買運動が……」
……オブラートに包んだ言い方で分かる
「……行くぞ、リーシア」
「ふぇっ!?ふぇぇぇぇぇぇっ!?」
「乗せてってくれ
無理なら、こいつの首根っこひっつかんで自力で行くから場所を教えてくれるだけで良い」
目を白黒させる期間限定の仲間の意見はガン無視してそう告げる
「……そこまで言うなら」
そうして。数時間で島が見えてくる
この辺りまで嫌な淀んだ空気が漂ってくる辺り只物じゃないな
肥料にすら出来ない異臭を発する腐り物。ちょうど良く海流の流れか近くの海岸から捨てるとその島に流れ着くらしいその生ゴミ扱いされるものの名は、とても簡単だ
亜人の死骸、と言う
当たり前ではある。メルロマルクにおいて、亜人とはゴミだ。人権は基本無い。死体ってのは肥料になりはするが、亜人のそれなんて使ってた日には亜人混じりの野菜なぞ食えるか!運動が起きるくらいには一般的に嫌われている
だから奴隷として買った亜人等を死ぬまで酷使して、死んだら海に捨てる。それが流れ着いたりして、何時しか亜人の死体捨てのメッカとなったのがその島らしい。死骸だらけで基本は誰も近寄らない。魔物すら出なくなったとか
いや、魔物は居るな。腐りかけのゾンビだけが。カルミラ諸島の魔物ではないから活性化の影響を受けないがな
「……既に臭いな」
「だ、だから言ったんですよぅ!」
「……ここまでしやがって」
拳を握りこむ。軽くぬるぬるするが、滑っている気すらする空気よりは掌に今出来た傷から流れる血の方がまだ感触が良い
「っ!」
不意に、光のようなものを、その島で見た気がした
光を発するようなものは死骸の島では基本無いはすだ。つまり……
誰かが、火を点けようとしている
「てめぇぇぇっ!」
ファスト・スカイウォーク!ファスト・レイスフォーム!ファスト・ボルトステップ!ファスト・ブリッツクリーク!
詠唱無視して何とか撃てるようになってきたファスト級の移動に使える魔法を連打して、船を離陸。島までの1kmほどの海を一秒足らずで走破し、光の見えた場所に斬り込む!
「此処で火を点けて!何をして……して……」
そこに居たのは、あまりにも暗い顔をしたとても見覚えのある女性であった
「サディナさん!?」
ネズ公よ、これが
腐って顔が分からなくなったキールの死体の見分け方講座(ラフタリアの指輪)は受けたな?じゃ実践編やろうか
まあ、すぐリバースしますが