パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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命を奪わせるということ

……そうして、翌朝

 

 結局ラフタリアは半狂乱から戻らなかった。リファナが寝る前に言った事には、最近夜ずっとらしい。麻痺解けた後疲れて眠っては叫んで飛び起きる、それを繰り返していた

 ……何もしてやれることはない。本気で何をしろというのだ、狸の親父を守れなかったクソネズミに

 リファナがずっとついていて、横で手を握って眠っていた。それだけが救いか。親友が居れば安心するだろう、少しは

 特に煩いとか言わずその度に毛布をかけ直してやる、それだけを繰り返しつつ、目深にフードを被って眠った

 アラームダガーなる時計っぽい短剣に変えておいたので変なものが近付いてきたら分かるし、フードを被っておいたので顔は見えない、リファナが此方を見ても眠っている幻影の解けた俺を見ることは出来ないという訳だ

 リファナを見付けられた、遅くはあったが遅すぎなかった。キールはきっと大丈夫だ、それらの安堵から、今日はアヴェンジブーストによる眼の充血で30分の仮眠という形にはならなかった

 

 「食うもの食ったな、二人とも」

 朝食は果物と冷えた男飯。そんなに豪勢なものは作れやしない。馬車……というか鳥車とかあれば別だがそんなものはない

 

 そうして、クソナイフから適当にナイフを取り出す。フロートダガーだとかで俺がよくやってる伝説武器の一時的な増殖ではなく、リファナ探しの間にすれ違い様に斬ってた奴等のドロップ品をストーレジから出しただけだ

 そうして、それを投げ渡す……のは危険なのでリファナへと手渡し

 「今日は最低限の事を教える、良いなリファナ」

 「リファナ、ちゃん?」

 半狂乱だったからかきっと昨日の会話を聞いてなかったのだろう、ラフタリアが怪訝そうに俺を見る

 「リファナちゃんに危険なことさせないで」

 「じゃあ俺がずっと一人で危険な目に遭えと?」

 その通りだよクソネズミ、と自問自答は完結するがそれでは何時かリファナが死ぬのでグッと我慢

 「この娘はお前を守るために、生きていく為に、自ら戦うことを選んだ」

 まあ戦わないと言いにくいようにお前の話題を出して誘導したんだがなラフタリア何時か俺にキレて良いぞラフタリア

 「その覚悟を無駄にするなラフタリア」

 「で、でも怪我したり、し、死んじゃったり……」

 「巻き込まれても同じだ」

 「でも!」

 「波はもう始まった。この先各地で起こるだろう」

 本編で起こってたしまず間違いない

 「あの、災害が……」

 「否応なしに戦いに巻き込まれる可能性はあるんだよ、この世界に絶対に安全な場所なんてもう無いんだ

 それが波だ。勇者はそれと戦う。いや、この世界の誰しもが、それと戦わなくちゃいけないんだよ、本当は」

 「少しでも安全な場所で波に二度と巻き込まれない事を祈って慎ましく生きて万一波に巻き込まれたときに何も出来ずに苦しんで死ぬか、それとも万一の時に戦えるように今苦しむか

 リファナは後者をお前の為に選んだんだ、ラフタリア」

 

 ……悪いな、リファナ

 ラフタリアにも戦ってもらわなければいけない。盾の勇者(岩谷尚文)の横で盾を守る剣として彼女が居る、それが本来の世界であるのだから

 だから、お前の覚悟を踏みにじり、お前の決意を出汁にして戦禍の泥沼に引きずり込む

 「それでも不安だと言うならば、お前も戦うか?

 一人より二人の方が強い。安全に戦える。守られてばかりではなく、二人で守りあえる

 どうだ?やるか?それとも一人親友に守られるか?」

 卑怯だ

 親友の無事を人質にこんなことを言えば、きっとラフタリアは親友の為にやりたくもない戦いに身を投じる

 

 『称号解放、外道クソネズミ』

 その通りだよクソナイフ

 『システムメッセージ、外道クソネズミはカルマ値超過によりオーバーカスタム費用が倍となります』

 だからって調子乗んなクソナイフってかカルマ値って何だよクソナイフ

 

 「や、やります!」

 「言ったな?ラフタリア

 後で嫌だと言ってもやらせるぞ、分かってるな?」

 「り、リファナちゃんの、為なら」

 そんな震えながら言うなよラフタリア、罪悪感があるだろうが。元から感じてて然るべき外道行為なのは否定しない

 

 というか、リファナ何も言わないな。てっきりラフタリアちゃんを巻き込まないでとか言うと思ったんだが

 

 「良いのか、リファナ?」

 なのでつい聞いてみる。ダメだと言ってもやらせる気の俺が何聞いてるのかという話だが

 「うん。勇者さまが、戦って欲しいって言うなら」

 「お前の親友を巻き込むんだぞ?」

 「ラフタリアちゃんだって、強くなりたいと思う」

 「そんなものか?」

 「うん、怖い人達に、もう負けたくないと思うし

 それに、さっきの言葉は勇者さまも同じ」

 「一人で戦うよりも、か?

 そのうちお前たち二人で生きていかせるぞ?投擲具の勇者ってのはそんなに暇じゃないんだ」

 リファナが死ぬ可能性は少しでも減らす以上、そのうち俺が居てはいけなくなるのだから

 言いつつ、覚悟を決めた目のラフタリアにもナイフを渡す

 何というか、すぐにその目が曇らないと良いんだが

 

 そうして、狩りへと出掛ける

 といっても元が野宿なので直ぐに場所に着くのだが

 「よし、まずは二人でパーティを組むんだ」

 「勇者さまは?」

 「俺は別。お前らとパーティは組まないし、基本手は出さない

 本当に危なくなったら何時でも助けてはやる。けれども、お前たちは二人で強くならなきゃいけない。だから、俺が倒してパワーレベリングするんじゃ駄目だ。レベルとステータスは確かに絶対的な指標だが、どれだけのステータスがあろうとも、それが相手を完全に圧倒する馬鹿げた差で無い限り、力を使いこなせなければ格下にすら勝てやしない」

 因みに偉そうに言ってる俺はクソナイフ使って勇者の圧倒的なステータスとスキルによるごり押しで最初の波をボッコボコにしたクソネズミである。マジでどの口が言ってるんだろうなこの臭い台詞

 因みにこれは建前。本音?そもそもの話、パーティ組んだ場合俺の名前がユータではないとバレる。幻影で誤魔化せるのは起きてる間だけ、寝てる間にパーティメンバー見られたら終わりだ。だからパーティ組めないというだけの保身である

 

 そんなこんなで、初戦闘に良さげな魔物を探す

 あの青熊は……レベル1で相手するような奴じゃないな

 「エアストスロー」

 なのでさくっと片付けておく。レベル20代までは戻ったのだ、今ならば普通に一撃で落とせる。戦わせてる時に変に絡まれても困るしな

 「う、うん……ユータさん、強いんだ」

 って引くなリファナにラフタリア

 「当たり前だろ、波鎮めたんだからさ

 

 と、良いのが居たな」

 

 視界に捉えたのはウサピル。兎の魔物だ。そう強くはなく恐ろしそうでもない

 「ぴょ?」

 俺たちを見るや襲い掛かってくる。そこは魔物か、兎なんて基本臆病だろうに好戦的だ

 狙いはラフタリア、一番弱そうだからか?

 「構えろ、リファナ、ラフタリア!」

 叫ぶも二人ともナイフを構えず……

 「フラッシュピアース!」

 ラフタリアの胸を蹴る直前、光速のピックが近くの木にウサピルの茶色い体を縫い止めた。まあ俺がギリギリまで待ってから最速のスキルで投げたんだが

 「ち、血……」

 「怯えるなラフタリア、戦うってことは、無数にこんなことを繰り返すって事だ」

 「血が、出て……」

 「血が出たんだじゃない。出させるんだよ

 そうでなきゃ自分か大切な人が血を流す

 

 それが、戦いってものだ。誰しもを否応なしにそれに巻き込みかねないのが、波というものだ」

 やっぱりあの女神ってクソだわ、何時か尚文達四聖が殺しに行くから首を洗って神妙に待ってろ。そこに俺が居られるかは……無理があるかやっぱり

 

 「さて、残りの家族が敵討ちに来たようだな」

 二匹のウサピルが見える。襲ってくるだろう

 煽るために、だから家族かは知らないがそう告げる

 戦いの苦しさを最初に突きつけて、そうでなければきっとどこかで止まってしまう。いやそんな危険な目に遇わせる時点で可笑しい?ごもっとも俺が本物の勇者ならきっとこんなことはしない

 「今度こそやってみろ、リファナ、ラフタリア」

 「でも、」

 「やらなきゃ、父親のように皆死ぬぞ」

 「い、イヤ」

 ラフタリアの目に浮かぶ恐怖

 半狂乱になりかけている。まあ追い込んだクソネズミが此処に居るわけだが

 

 マキビシ、パラライズポイズン

 こっそりと麻痺マキビシを撒いておく。軽く跳躍したウサピルが落ちてくる場所にピンポイント。まあ、止めではなく動きを止めるだけのアシストだ、最初くらいは助けてやって良いだろう。何時かは尚文に守られながら積極的に倒しにいかなきゃいけない時が来るが今は

 

 「イヤぁっ!」

 半狂乱、まともに狙いもつけずにナイフを振り回す。本来、当たるわけもないぞラフタリア

 だが、二度目の跳躍しようとした瞬間にマキビシで麻痺したウサピルは動きを止めており、偶然ながらナイフがその首筋に食い込んだ

 ことり、とその首が落ちる

 

 「や、やらなきゃ、やらなきゃ!」

 その横で、麻痺ったもう一匹の胸を、リファナのナイフが貫いた

 

 「「あ……」」

 二人して蒼白な顔。マキビシの軽いダメージ(レベル20台パチモノ勇者基準)を受けて死にかけていたのか一撃でウサピルは事切れ、地に転がる

 それを目で追うリファナ達の顔は、やらせたことを後悔したくなるほどに血の気が無かった

 でも、止まるわけにはいかない。尚文に預けても、戦えなければきっと捨てられる。それが荒み尚文だ。だが、まあ、ある程度信じられればここまで安全な場所もあまりない

 

 「……これが、戦いだ

 よくやったな、二人とも」




因みに、この世界の狸はデバフが掛かっています
足長おじさんに気が付いた本家狸ならば化け鼠の正体にも気が付くかもしれませんが、今作では気が付いていません
足長元康ならぬ尾長鼠であのカース覚醒全員黒焦げルート辿りかねませんので

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