パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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幼馴染の見分け方、実践編

「サディナさん!?」

 サディナ。俺やリファナやラフタリアやキール、つまりはルロロナ村の子供達にとっては姉のような存在。サカマタ種……というのだったろうか、割と珍しい水棲系の鯱のような亜人だ。この辺りではほぼ見ないが、クテンロウなんかには居るのだったか。お陰で別の種族に見られがちなのよーと、子供向けにそれぞれ自分の種族について語ってくれた時に言ってたのを覚えている。因みに俺はハツカ種に関してあまり良い話が無かったので聞き流していた。かび臭いとかすばしこく生き汚いとか正直なぁ……。聞きたくない種族特徴というか、さ。霊的な存在に近いリファナのンテ・ジムナ種だとかの特別感ある種に比べたら良く居るクソ鼠亜人種というか。まあ、キールもワーヌイ種ってそこらの犬亜人種なんでそこは止めよう、不毛だ

 

 「……その髪」

 記憶とは全く違うやつれた髪。疲れきった光のほぼ無い目

 覚えている彼女とは正直な話別人だが、それでも恐らくはそうだろうと思わせるだけは似た姿のその女は、少しだけ顔を上げた

 

 「……マルちゃん?」

 「………………その呼び方は止めてくれと言った筈です」

 そう。ちゃん付けするのがサディナさんだ。妙に可愛げのあるような無いような名前にされてしまうので、俺は止めてくれと言っていたのだが、聞き入れて貰ったことはない

 

 「何をしているんですか、サディナさん」

 その手には軽く起こされた火があり……俺が見た光とは、彼女の起こした火であると理解できる

 「みんなを焼いてあげるのよ」

 生気の無い目で、その女性は呟く

 いったいどうしてしまったというのやら。覚えてるサディナさんらしくないし、原作の彼女らしさもない。こんな弱々しさを見せるような人ではなかったはずなのだが……

 

 「……死ぬ気ですか!」

 死体を焼こうというのは解った。腐りかけの死骸がそんなに普通の火で燃えるのかって話はあるのだが、そいつは今は置いておく

 「……マルちゃんは、やっぱり生きてたのね

 お供え物もマルちゃんの?」

 「はい

 それよりも、答えてください」

 口調も、そして目線もちょっと強すぎるだろうか。それでも、キッと睨み付けるようになりつつも、その女性を問い質す

 「マルちゃんは強いから、一人で生きていけるわよ」

 「そんなもの、関係ない!」

 いやそうだろう!?俺は一人で生きていけるさ。だが、ラフタリアやリファナは?まだ原作では会う時じゃないから見付けてないけどキールは?生きているかもしれない皆は?

 「もう疲れたのよお姉さん

 みんなと一緒に眠らせてくれる?」 

 ……誰だ、これは

 「ふざけるな!」

 「ふざけてなんかないわ」

 「一人逃げるのか!」

 思わず敬語が崩れているのを自覚し、修正

 「皆を置いて!一人、狸の親父のところへ逃げるんですか!

 リファナを、ラフタリアを!キールも!みんなを置いて!」

 思わず首を掴みそうになる手を抑え、叫ぶ

 

 「……マルちゃん」

 静かに告げられる声は諭すようで

 「生きてるって信じたいのはお姉さんも分かるわ

 でも」

 ……だからか。だから、こんなに噛み合わない

 「ラフタリアちゃんも、リファナちゃんも、キールちゃんも、誰ももう居ないのよ」

 皆が、此処に捨てられている死体の中に混じっていると勘違いしている

 「……ならば!

 俺の知っているリファナ達は、既に死んだ幽霊達だって言うんですか!?」

 「……え?」

 「今日の朝、俺はリファナと朝の挨拶をしました

 ラフタリアにナオフミ様の為に果物のジャム取ってとも言われました。それらすべてが俺の勘違いか幽霊との対話だったとでも言うんですか」

 「……嘘よ

 マルちゃん、お姉さんに変な希望を持たせなくて良いわ」

 「そんな風に、逃げるんですか」

 そう呟き、今にも殴りかかりそうにも見えるネズミの姿が映りこむ瞳を睨み返し

 

 「……本当に?」

 折れた、と息を吐く

 「本当です。リファナも、ラフタリアも。盾の勇者に保護されて、その仲間として波と戦っています」

 まあ、俺が投擲具の勇者ユータのふりして巻き込んだと知ったら殺されそうなのでそこは言わず

 「……ホン、トに?

 マルちゃん、お姉さんに嘘言ってない?」

 「俺がサディナさんに嘘をわざとついたことがありましたか?」

 「3回もあったわねー」

 ……ちっ、回数まであってやがる。言い返しようがない

 「盾の勇者様の好意も三度まで。四度目はありませんよ」

 仏の顔じゃないのか言いにくいぞと思ったが、亜人にとって基本的には盾の勇者ってものは神様仏様なのでこんな言葉が広まったのだろう

 「その言葉嫌いじゃなかったかしらー?」

 「……まあ、嫌いですが

 それでも、俺がリファナについて嘘を言うと思いますか?」

 「それもそうね

 マルちゃん、リファナちゃんのことが大好きだもの、そこで本当に死んでたら生きてると嘘ついて放置なんてしないわよね」

 ……そんな認識だったのか俺……

 いやバレバレってかキールにすらたまにからかわれてたんだが

 

 「……だから、行きましょう

 盾の勇者の元へ。ラフタリア達の所へ」

 「そう、ね

 お姉さん、ラフタリアちゃん達が生きているならば……まだ、頑張らないと」

 「ええ」

 記憶を巡り、生きているかもしれない残りを思い出す

 無事を確認したナディアは……そうか。樹が亜人蔑視を知り買い戻した結果逆にレーゼ達に殺されてしまったのか。次に会ったらぶっ殺す

 他は……あれ?ヤバい。生きてるのが後はキールくらいじゃないか?原作ではキール以外に割と見つかってた気がするんだが……ちょっと死亡してなさそうなの少なくない?病弱なあいつは奴隷にすらされずに餓死してたし……あれ?

 「きっと、ラフタリア達も喜びます

 俺の知る限り、村の住人の多くは死んでしまいましたけれども。それでも、生きて波に立ち向かう人々はまだ居る」

 「そうねー」

 「あとは、キールを……」

 

 ぽん、と

 軽く、肩に手を置かれた

 「マルちゃん」

 優しく、諭すような声

 「キールちゃんは、盾の勇者の仲間じゃないのね?」

 「はい

 仲間なのはリファナとラフタリア、あと俺ですね。俺は一応ですが」

 「マルちゃん。これを見て」

 鯱の亜人がズレた先にあったのは、折り重なって捨てられた5~6人の亜人の死骸

 ラクーン種っぽいの、金髪っぽいの、黒猫っぽいのが居る。それらをラフタリア、リファナ、後はナディア辺りと思ったのだろうか

 「……彼女等は違うでしょう」

 「マルちゃんが本当のことを言ってるならこの娘達は違うのかしらねー

 でも、一番上を見て?」

 一番上は……ワーヌイ種だろうか。死後一月くらいは経っているのだろう、腐乱が始まっており顔の判別はもう付かない。耳らしき腐肉からそうなのかなと思うだけだ

 それにしてもひっどい死体だな。腐りはじめて頭蓋が軽く露出しているが、そこに深いひび割れが見える。強く頭を殴られた証だ

 それに、うつ伏せに倒れているのに背の上にはあらぬ方向にねじ曲げられたのだろう右腕だったろうパーツが腐敗によって腕から外れて落ちているし、近くに投げ出された左腕は二の腕半ばから折れた骨が見えている。細かな打撲痕などは最早腐敗によって消えているだろうにここまでの惨状。どれだけの事をされて死んでいったのか想像に難くない

 死因としては、恐らくは斬殺。肋骨に深い斬り傷があるしこれが致命傷なのだろう。骨にまで届き数本斬り落とされてすらいるのだから、この傷が死後につけられたものでなければそのはずだ。とすればだ、頭蓋にヒビを入れられて、右腕は可笑しな方向に曲げられて、左腕は完全に折られて。左足には金属製の鎖が残っているし、まともに歩くことも出来なかったに違いない。どれだけ苦しんで死んでいったのだろう。最近メルロマルクでは対亜人運動が盛んになり亜人奴隷を虐殺するなんて事もあったらしいが、ここまでするかと言いたくもなる

 「見せたかったのは、こんな事ですか」

 「気が付かないのかしらー?」

 「何をですか」

 「その手」

 「……手?」

 確かに、違和感がある。ねじ曲げられて。痛いだろうにその右手はしっかりと閉じられている。自然にしていたら開いているはずなのに、握られている。ということは、何かあるのだ

 サディナの持つ松明に照らされて赤い何かが光ったように見えて。強く握りしめられたその拳を取り上げる

 腐りかけた腕からあっさりと拳は離れ、耐えきれなかったように拳は崩れ落ちる。腐肉は手から滑り落ち、ばらばらになりながら骨だけが手に残る

 そうして、大事そうに最期まで握り締めていたろう何かが、骨の隙間から顔を出した。これは……赤い、指輪?

 

 ……嘘だ

 

 嘘だと言え

 

 ……冗談なんだろう?

 

 いい加減にしろよクソナイフ!

 

 ……だが、投擲具なんて今は居なくて

 幻で冗談をかませるような者はこの場に居るはずもない。純然たる事実として、それは其処にある

 「……はは」

 最早手の形には戻らない骨を握り込みながら、左手で指輪をつまみ上げて太陽光に翳す。あって欲しくはない拙い文字の彫り物が裏に見える

 ああ、間違いない。認めよう。これならば、サディナさんが絶望してもしょうがない

 「……キール」

 これは、ラフタリアの指輪だ。昨日、ラフタリアからキールにあげちゃったと聞いた、俺の手持ちの青いものと合体して一つに出来る、その指輪だ

 ぱきっと軽すぎる音と共に、手の中の骨が握り潰されて粉になる。本来はダメなことなのに、その粉が地面に零れるのを止めることすら忘れて

 

 「何を、やっている」

 「マルちゃん、そんな言い方無いじゃない?

 お姉さんだって必死に」

 「こんの、クソボケドアホドブネズミがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


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