パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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時系列としては107話(勇者の布)と108話(弓の勇者の仲間達(後の嫁))の間となります
つまりこの時点でキールが自分のせいで死んでいることをネズ公はまだ知りません。その旨は御理解下さい


番外編 友の記憶:ルロロナネズミのバレンタイン

「ネズミネズミ!ハッピーバレンタインだぞ!」

 朝、家を出るとそこには尻尾をぶんぶん振ってそうな犬が居た

 失礼、ワーヌイ種の少女が、だ

 

 「ああ、そうだなキール」

 軽く声を掛ける。あくまでも軽く

 いや、キールの事だしな。少女とはいえ俺に対してチョコレートとか用意してる筈がないだろう常識的に考えて

 「ハッピーバレンタイン、キール

 で?俺へのチョコは?」

 「そんなものないぞ?」

 知ってた

 「ネズミネズミ、バレンタインってのは女の子が男の子にチョコをくれる日なんだぞ?」

 それも知ってる。いやまあ、友チョコだとか色々な文化が御門讃時代にはあったから女性が気になる男性にあげるばかりでは無くなってはいたんだが……。この世界ではそうでもないらしい。去年知った事だけどな

 俺?俺はあんまり沢山は貰わなかったな。基本的に学校側も放任ぎみでこそあったのだが流石に教師に見付かると没収。その為チョコのどうこうは見て見ぬふりをして貰える放課後にってのが鉄則。クラブ活動もチョコで浮わつくから基本的にはお休み。そんな中、今日は早く帰ろう兄さんと瑠奈に毎回毎回授業が終わるや否や引きずられていったからな……。瑠奈は可愛い外見をしてるから義理で良いからくれって迫られたり、下手に贈ると本命かと質問攻めにあったりであんまり好きじゃなかったらしい。なので、変な噂の立たない実兄である俺の出番という訳だ。その分俺はシスコン兄貴と呼ばれる上に放課後のチョコ大会にはほぼ不参加になってしまっていたのだが……そこはまあ、瑠奈の為だしな。一応そんな中こそっと本当は明日ですがとサッカー部のマネージャーが13日にくれたり、毎年瑠奈がくれたりしてたからゼロではなかったんだが……

 ゼロではないが故にホワイトデーは中々に頭を悩ませたのは良い思い出だ。御門家の家訓だからな、恩も仇も10倍返しってのが。10倍のお返しって何をしろと?と毎年思ったのも懐かしい

 

 「基本はそうらしいな」

 「なら俺は男なんだしネズミにあげる訳ないじゃん」

 ……いやお前女だろ知ってるぞ

 ってのは置いておこう。きっと言っても信じられないはずだ

 「知ってるかキール

 義理チョコっていう好きな子以外に贈るチョコや、友チョコっていう女から女へのチョコなんかもあるらしいぞ?」

 「そ、そうなのか!?」

 嘘である。ごくごく一部では存在する……らしいが、そこはチョコレートそのものが木に実るこの世界、流通量が少なめなのでそう広まっているものでもない

 ってか、チョコレートそのものが木に実るって何だよ……と思うのだが、リファナ達にとっては特に気になるものでも無いらしい。アレか、材料から作るものを知らず最初から出来たものしか知らなければそんなものかと思うのだろうか。でも、チョコレートボンボンの木とかホワイトチョコの木とかオレンジピールチョコの木とかは流石にどうなってんだと言いたい。ミルクだとか酒だとか柑橘だとかすらも混じってるじゃないか

 「困ったぞ……」

 しゅんと耳を垂らし、キールが悩む

 「ラフタリアちゃん達のぶん用意してないぞ……」

 「……なあキール、俺は?」

 「ないぞ!」

 笑顔で言うなそこのワーヌイ種

 

 「ちょっと傷付くぞキール」

 「しってるぞ、ネズミはリファナちゃんから貰えればそれで満足するって」

 「いやそりゃするけどな?それとこれとは別じゃないのか」

 ってか、キールからすらそんな認識かよ!?

 

 「別じゃないぞ?」

 「別じゃないのか、友達枠は」

 「突然言い出したネズミはダメだぞ」

 「そういうものか

 んじゃキール、ほい」

 と、用意してきたものを投げ……たら崩れるので普通に差し出す

 「ん?何か甘い臭いがするぞ」

 「ああ、だから言っただろ、友達にあげるチョコもあるってな

 これがその友チョコって奴だ。まあ、クレープなんだけどな」

 去年残ったチョコを冷蔵しておいたのを溶かして作ったチョコクレープである。ちょっと焦げたのは内緒だ。中に巻き込んであるからきっとバレないだろう

 「クレープ?クレープって何だ?」

 キールってクレープ好きだったよなと思って作ったんだが、あれ、そういえばそう思ったのは何でだ?クレープなんてこの世界ではあまり馴染みがない食べ物だ。いや、俺自身生前だってそんな食べたことはないんだけどさ。部の知り合いが彼女と休日に二人で食べたとか言ってるのを聞いたくらいで

 いや、瑠奈と買い物に行ったときには良くねだられたけど、自分は食べる気しなかったんだよな……

 「食べてみれば分かる

 特別なチョコの食べ方だ」

 「んー、わかったぞ」

 と、その犬耳の少女は少しだけ悩むも、今日の朝俺が家で作ったそれを口へと運ぶ

 「おいしいぞ!ネズミって料理できたんだな!」

 ……料理出来る奴はクレープを焦がさないと思うので無言

 「うん、これなら来年はネズミにもともちょこ?あげるぞ!」

 ……餌付けなのでは、これ

 まあいいや

 

 「それにしても、最近結構キナ臭いよな」

 「そうなのか?」

 「いや、確かラフタリアが頼んでたチョコって結局届かなかったんだろ?」

 そんな話を昨日聞いた。本来はもう届いてるはずなのに、魔物に襲われたんじゃ、と

 「あの後別の人が持ってきてたぞ?」

 「マジか

 ……でも、元の人は……」

 「でも、俺達は安心だぞ」

 「そうか?」

 自信満々なキールに首を傾げる

 「ネズミは強いから大丈夫だぞ」

 ……信頼されてんなおい

 「そうか?」

 「リファナちゃんから聞いたぞ

 あの肝試しの時に幽霊の魔物を一人で倒したって」

 「ああ、そんなこともあったな」

 ……あの事があったから、俺はああ決めたんだ

 キールには言うべきだろうな

 「でもな、あのときの俺は、一人では勝てなかったよ」

 どこかから降り注ぐ雷、それが無ければ普通にリファナを逃がしたは良いものの死んでいた。力の無さを痛感した

 「俺はネズミはすごいと思うぞ」

 「……なあキール

 俺、そろそろ村を出ようと思うんだ

 散々イキってもさ、結局俺一人じゃ勝てなかったものもある。だから、村を出て……強くなる」

 「なんか、いきなりだな」

 「いきなりだろ?ずっと考えたんだ

 

 でもさ、そろそろ決めないとって」

 「リファナちゃん達には?」

 「まだ言ってない。心を決める前に言ったら、やっぱり駄目だって折れる気がしてさ

 でも、キール。お前には言っておかないとと思ったんだ。だって、友達だろ?」

 「そ、それはそうだけど」

 「だから、俺が村を出てから……何かあるかもしれない

 その時は、リファナとラフタリアを頼む。あいつらの友達で、俺の友達で、(おとこ)だろ、キール」

 「確かに、俺は男だぞ」

 男じゃなくて漢だ。男は性別、漢は心の持ちよう

 いや、まあ良いか

 

 

 …………

 ってバレンタインから、もうじき一年は経つのか

 「……ネズミさん?どうしたんですかクレープをじっと見て」

 と、樹の奴が声をかけてくる

 「いや、クレープで少し思い出すことがあっただけだよ」

 と、呟きを返す

 

 結局、旅に出たのはホワイトデー直後。あれだ、お返しせずに出てったりしないよねとリファナに言われたらそりゃ残るしかなかったって話だ

 ……来年はチョコくれると言ったなキール、待ってるぞ。ってまだ年も明けてないから一月以上あるけどな

 原作的に、キールと尚文達が出会うのはあと少し後。カルミラ島でのレベル上げを終えた三勇者は、彼らの知るゲームでは弱かった四霊、霊亀を解き放つ。だが仮にも世界を守る結界を貼る獣の一体、その力は三勇者の知るものより強く……

 それを止めた後だな。この世界では樹は何か勝手に霊亀復活なんてやらなさそうだし、錬は行方不明。原作どおりに霊亀が復活するのかは怪しい所なんだが……そこは元康がやらかすのか?良く分からんがとりあえず余裕が出来た尚文がラフタリア達の村の仲間たちを買おうとしてくれさえすれば良いんだ

 

 「……ってか樹、お前今日からリファナ達との人員交換だろ?」

 「ええ、だから呼びに来たんですよ

 面白いネズミさんが見れて儲けものでしたね」

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