パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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盾の勇者の成り上がり第三法則
うぉぉぉぉぉっ!と叫ぶ奴は誰であれロクな目に逢わない


怒りの咆哮

「うぎぃっ!がっ!ぉぉおおおおおぉぉぉぉおおおぉっ!」

 魂を込めた咆哮

 

 カースシリーズ?可笑しい、そもそも半透明の勇者武器は俺を所有者と認めていない。勇者としては、俺は存在していない。あくまでも、他に持ち主は居るのだ。その上で、何らかの聖武器が手を貸す事で、一時的にその力を分割し、片鱗のみを本来の所有者から離し他人が振るう事が出来るというもの。タクトに投擲具本体を奪われた時に、スキル一発分俺に残せとやったのと原理はほぼ変わらない

 呪いに掛かっている気はしない。そもそも、激怒?ラースに類するカースシリーズは何故か俺には使えなかったはずであるし、名称は激怒ではなく憤怒のはずだ。第一、俺は投擲具のラースを見たことがある。憤怒の投槍、グロウアップ先はラースジャベリンだ。決して激怒のなんとやらではない

 

 だが、そんなもの知るか!関係ない!

 「うぉおぉぉおぉぉぉっ!」

 魂から絞り出すような叫び

 心の奥底に消え果てようとする光を、掌に走った雷光を、この世界に顕そうとするかのように、息と血と共に吐き出す

 

 「や、やっと追い付きましたぁ」

 「……早すぎ」

 ……置いてきたリーシア達が漸くやって来たようだ

 滲む視界、それを捉え……メルロマルク!

 「っ!」

 「えっ!?」

 今、俺は何をしようとした?メルロマルクの貴族だ、とリーシアを認識して……

 ……消し飛ばそうとしたのか、俺は?

 

 何をやっているのか、自分でも良く分からない。でも、良いじゃないか。どうせ、メルロマルクの貴族(キールの仇)

 「ぎっ!違う!」

 奥歯を噛みしめ、怒りの矛先をずらす

 どういうことだろう。リーシアは弓の勇者の大事な仲間(恋人?)で、キールの死とは欠片も関係ない。寧ろ俺の方がキールを殺した。直接的に殺したのはメルロマルクのカスどもだが、俺がそこまで追い詰めた。そんなこと、分かっている、分かっているのに!

 

 「ぎっ、がぁぁぁっ!」

 迸る雷。いや、迸るという程ではない。漏れ出すといったレベルか

 「ど、どうしたんですか!?」

 「リー、シア

 ……一旦、逃げろ……」

 目線を合わせかけ、逸らす

 目線を合わせるな、合わせたら……きっと、俺はリーシアを殺すだろう

 リーシアは何も悪くない。理解していて、尚それをやらかすだろう。俺は冷静だ

 ただ、その冷静さを発揮する前の一瞬に、俺の理不尽な怒りがリーシアを殺すのだろう。理解していて、それても抑えきれぬ怒りが天を貫く

 「ね、ネズミさん!?髪が変ですよ!?」

 「逃げろと、言ってるだろうが!」

 リーシア右横の死骸の小山が、雷撃の元に灰と変わる。人に当たればそう、塵しか残らないだろう

 「ひっ!ふぇぇっ!?」

 バキッと音を立てて、大地がひび割れる。軽く風が渦巻き、灰となったそれを巻き上げる

 

 「ばちばちー!」

 「よ、酔うでち……」

 空から降ってくる大きな鳥と咥えられた少女

 ……フィト、リア

 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 全身を貫き続ける痛みと共に、その腕を振り上げる

 何故だ!何故見捨てた!お前だって、助けられたはずだ!俺と同じように

 そして、俺と同じように、キール達を見殺しにした!

 だから!

 「ぎぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 フィトリアが悪い訳はない。冷静な部分でその腕を何とかゆっくり下ろす。肩口が焼けるように痛いが、それを無視して

 

 「世界の境界が突然歪んだから来てみたら

 これどういう事ですかー!」

 「ラフタリアァァァァァァァッ!」

 突然姿を現した茶髪の綺麗な女性に向けて吠え

 あれ?なにもしないな

 いや、それもそうか。俺の怒り、ラフタリアに対して向ける理由が何もないからな

 ってラフタリア?

 「ら、ラフタリアちゃん!?

 お、おおきくなったわねー」

 ……可笑しい

 絶対に可笑しい。ラフタリアは少女だ。原作では尚文の剣である為に成長したようだが、この世界では尚文の剣である事よりも、リファナと共にという面がメンタルの中で大きな位置を占めているらしく、外見はリファナ合わせでそう大きくなっていない。だからこんな、原作でのラフタリアみたいな女性であるはずもない。なのに、何で俺は突然来たこいつをラフタリアと呼んだんだ?

 「あ、ラフのお姉ちゃん」

 「フィトリア?どうなってるんですかこれ!?

 というか、この世界のナオフミ様は大丈夫なんでしょうね!」

 「槍以外はだいじょーぶだよー?」

 ……何だろう。変な会話をしているなそこの二人

 混ざりたい。だが、駄目だ。抑えきれない怒りと、何とか表出出来ている雷鳴は一体だ。消えようとする雷光を維持し続けようとすると、八つ当たりだなんて分かりきってるのに、リーシアとフィトリアを無意識に攻撃しようとしてしまう

 

 「それで、彼が」

 ちらりと此方を見るラクーン種に似た女性

 「そだよー、ばちばちー」

 「では、この歪みは彼が……」

 すちゃっと構えられる槌

 「ラフタリア……」

 「はい、ラフタリアです」

 「お前も、俺を……」

 駄目だ。構えられると、それが俺への敵対の意思かは関係なく……

 「ぐっ!ぎがぁぁぁぁっ!」

 雷撃は荒れ狂う!

 「ちょっと!?問答無用ですか!?」

 「うる、せぇ!」

 抑えきれない。心は冷静で。されど魂が怒り狂っている

 乖離していて、それでも一つの俺として

 

 これが、カースシリーズ、激怒

 「がぁぁぁぁぁぁっ!」

 「ちょっ!こんなの本当に役に立つんですか!」

 持っている槌を振るい、落ちてくる雷を弾きながら、ラフタリアっぽい女性は聞く

 俺にそんなもの分かるか

 「うん、ばちばちはすごいんだよー!」

 「超暴走してるじゃないですか!?」

 「……ぐえーでち」

 ……いきなり自分で頭打って気絶しだしたぞゼファーの奴。何やってんだあいつ

 

 「世界がばちばちにひどいことしたから」

 「それでこんなになるって、本当に信頼出来るんですかこの人?

 というか、私が入れるってこの世界の私はどうなってるんですか!?」

 ……てめぇ、クソナイフ!逃げんな!

 と、何かを言いたそうなクソナイフをぶん殴って止める

 

 「キールくんが、死んでる?」

 すっと女性の目が細くなる

 クソナイフ、告げ口か?

 「じゃあ、私やリファナちゃんも……」

 「勝手に、殺すな!」

 周囲の死骸が降り注ぐ雷撃によって分解されて消えていく

 「いきてるよー?」

 「そ、そうですか……良かった……」

 

 抑え、こむな!

 怒りを……解き放て!応えろ、応えろよ!復讐の雷霆(アヴェンジブースト)

 「ぐるぅぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 そのままに、俺は……

 「仕方ありませんね、ていっ!」

 振り下ろされたピコピコハンマーによって、意識を失ったのだった




そろそろこの世界が何なのかを話さなければならないだろう
ということでラフタリア(原作web版)さん、宜しくお願いします
だがネズ公、てめーは駄目だ

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