『ばちばち
ばちばちは、本当は何に怒ってるの?』
決まっている、自分にだ
意識の落ちた暗い世界。光一つ無い……いや、自分だけが輝いていて、けれども周囲に何もないが故に自分しか分からず、光を信じられないそんな場所
そんな意識の奥底に響く声に、当たり前の答えを返す
俺自身がキールを直接手にかけた訳ではない
それでも、だ。救えたはずだ。救える道はあったのだ。死にかけたリファナを見付けたあの後、キールも心配だと探していれば。ネズミの悪魔の噂を聞いた後、早めに尚文に他にも奴隷にされてる幼馴染が居るんだ、買ってくれと言っていれば。フォウルを買ったあの時、無理矢理にでもキール達を探してくれるように頼み込んでいれば。レーゼ達とやりあった後、きな臭いなと思ったときになりふり構わず探していれば。キールの死からそう時間は経っていなかった。どれか一つでもやっていれば、キールは死ななかった
だというのに!その大切なあいつの死に怒ることすら出来なかった俺が!俺は、許せなかった
『ほんとに?』
本当だ。全ては俺に責任がある。俺が背負わなければならない罪だ
『世界は、憎くないの?』
憎いさ!けれども
何よりも、救えたはずなのに、俺は……
『そんな事ないよ
ばちばちはなんだかんだで、全力で頑張ってたもん』
違う!辛くない範囲で、だ。無理をすればもっと出来た!そんな手抜きで!
俺は、瑠奈の太陽で!もう二度と、瑠奈のように、大切なものを光の届かない場所にいかせないようにって
……そうでなきゃ、いけなかったのに!
『ちょっとおもすぎるって、フィトリアおもうよ?』
それでも、これは俺の背負わなきゃいけないもので
『そんなことないとおもうよ?
それにばちばちが怒れないのは、フィトリアのどくのせいだもん』
……そんなことはない
慰めはいいんだ
『だからね、ばちばちのその怒り、フィトリアの馬車に乗せてくね』
不意に、辺りが明るくなり
その一瞬、暖かく、そして赤い誰かが見えた気がして……
「フィトリア、これがコード:ケラウノスの……」
「そだよー
あ、にげたー」
「瑠奈っ!」
飛び起きる
……何か変な言葉聞こえたけど、何だったんだろう
眼前には、何かよく知らんが勝手に気絶した悪魔と、ピコピコハンマーを構え、口を軽く開けて空を見上げているラフタリア(大人)。そして、俺を覗き込む銀髪の少女の顔が広がっていた
「気が付いた?ばちばち」
「……ここは」
「フィトリアのひざ?」
そういう話じゃない
思考はクリアだ。もう怒りはなく……。カースシリーズ、激怒の■を発現していた際に感じていた不可思議な何かは消えている
……だが、体に違和感があるな。あと、視界の端にアイコンが増えている。これは、車輪か?
「えっとね、馬車がちょっとだけばちばちに手を貸してあげるって」
……ひょっとしてあれだったのだろうか。激怒のとつくアレは、馬車の……
いや、そこら辺はちょっと不明だな
「……」
いや、せめて無言を止めてくれラフタリア(大人)
いや、ラフタリア(原作)か?或いはハンマーってことはラフタリア(勇者)か?ラフタリア(神)か?
大人リア……原作リア……神リア……勇者リア……
いや、そもそもリアつけるのが違うかもしれない。俺の中ではそうだな、こいつが何か俺の読んだ盾の勇者の成り上がりに出てきた方のラフタリアならば……
「とても失礼な事を考えられてる気がします」
「神ラフー?」
「何ですか神ラフーって!?」
「えっとね、ばちばちの考えたラフーのお姉ちゃんの呼び方ー」
フィトリア?それは言わなくて良いからな?というか人の思考を読むな
……良かった、
「ちょーラフーしん?」
「それは没だから止めろフィトリア。あとスーパーラフーゴッドだ」
「す、凄く失礼ですナオフミ様
こんなの本当に信じていいのか不安になってきました……」
と、失礼でもないことをぽつりと呟くラフタリアに良く似た女性。いやもう神ラフーで良いや
うん、見れば見るほどラフタリアが成長したらこんなだろうなーって感じ。横に並べて姉妹若しくは母娘と言ったら信じるレベル
「……で、俺が起きる前に何を話してたんだ?」
「えっとね、けらうのすのいさん?とちょっと」
「ヘリオス・
今どこに」
「飛んでっちゃったよ?」
ちっ!逃がしたか。聞きたいことは色々とあったんだが
って何だよ神ラフー、困ったような笑いを浮かべて
「……えっと、この世界の私とは知り合い……で良かった?」
言いにくそうに聞いてくる神ラフー
「そういうお前は別世界のラフタリアって事で良いのか?」
「はい。私の名前はラフタリアです
此処とは別の時間軸の、と付きますが」
「ん?ラフ種じゃないのか?」
原作では……あれ?読んだっけ
確か原作外伝で勇者の前に現れた神ラフーはこの世界に干渉するのに面倒な手順が必要で、やむなくこの世界に居ないラフ種という尚文原産の魔物の姿で現れたとかだった気がしたんだが
「……今回は歪みが凄すぎたので
早くも最後の波が起こったのかと思いました……」
「そんな歪みが?何で起きたんだそんなの」
「……」
じとっとした目は止めてくれ神ラフー
「それで?」
「えっと……この世界については理解しています……よね?」
「いや全然」
「そこからですか!?この世界が……というか、盾の勇者の成り上がりという作品を読んだことはありますよね?覚えてると言ってください」
「いやそれは知ってるし読んだ
この世界がその作品に出てきた世界と酷似しているってのも理解している。だが、だから何なのかは……」
「槍の勇者のやり直しで説明されてましたよね!?」
「覚えてないわ
可能性の世界だっけ?」
基本的に平行世界への移動というものはない。同じ地球という星の日本という国のある世界であっても、樹や俺の世界と尚文の世界は別物だ。だからこそ、あの作品と酷似しているからこそこの世界が何なのかって良く分からなかったんだよな。元康がですぞで愛の狩人ならばあいつのループしてる世界の一つって言えたんだがループしてなさげだし
「はい。その通りです
世界の裏側、可能性の模索。それがこの世界です」
「だが、それは槍の勇者が起こしたものじゃないんだろう?」
「そだよー。だいいち、槍がループしててもフィトリアわかんないもん」
「今回は分かるから別物だと」
フィトリアの補足は……分かりやすくなったのか、これ?
「はい。今回可能性を模索しているのは、このループを……といってもこれが最初で最後の一回ですが、これを起こしているのは勇者ではありません
私達がどのような状況で、どんな相手と戦っていたかは……理解していますか?」
「女神メディア・ピデス・マーキナー、世界を融合させて乗り込もうとしてきた女神と戦うために同じ土俵に上がった」
「正解です」
「フィトリアも、近いステージ?にはいるよー」
そこの補足は良い
いや、寧ろ重要なのかこれ
「なあフィトリア、あの毒のせいで俺も同じステージとか言わないよな」
「フィトリアとはちょっと違うよ?」
「似たようなステージじゃねぇか!」
思ってたが、本気で不老不死化してんじゃん俺!
フィトリアァァァァァァァッ!何やってんだ真面目に!
「こほん。話を戻しますね」
「すまなかった神ラフー」
「それじゃ謝られてる気がしませんよ!?
ま、まあ良いです。私が此処に居るという事は、貴方の知っている話は本当に起きたことだ……という事は理解できます?」
「そりゃそうだろ?だが、女神メディアを倒したってエンディング部分は嘘だ」
「いえ、嘘ではありません。確かに倒しましたし、世界は平和になりました
本来の世界では」
「……なるほど。そういうことか」
漸く納得が行った。これだけこの世界で転生者が読んだあの原作より多い理由
「そこで死ぬはずの女神が、最後の力を振り絞って始めたお前たちに勝つ世界の模索、それがこの世界だと?」
「それだけではありません
やっていることは龍刻の長針と同じ……
やりようによっては、女神に勝った最初の世界を上塗りして女神が復活しこの世界も本来の世界も終わります」
……ま、勝てたかもしれないって分かってもそれで満足して死ねないわな
「世界の敵がやってるから、フィトリアそのことわかるんだよー」
「そういえば、それが成功した場合お前らはどうなるんだ?」
まあ、俺は残るとして
「既に私はその輪から外れた存在……ナオフミ様も含めて変化はありませんし、その新たな世界で我が物顔で君臨する神を僭称する敵と戦うだけです。私達が必ず倒します
……航空機の勇者辺りなら手を貸してくれるそうですし」
……マジで居たのか、航空機の勇者って
「じゃあ逆にだ
もしもこの世界でもまた原因である女神が倒されたとしたら、この世界はどうなる?」
「消えます。可能性は可能性のまま。起こらなかったこととして完全に消滅するでしょう」
……参ったな
女神を倒すということは、リファナを消すこと、か。本来の世界では、リファナはもう死んでいるのだから
「リファナちゃんとも知り合いなら」
「……いや、違う
俺の覚悟が足りなかっただけだ。言うべき答えは、最初から知っていたのに」
ここは……夢の世界みたいな物なんだから、夢と現実を一緒にしてはダメ。その俺の読んだ原作でのリファナの台詞だ。槍の勇者のループのなか、自分が生きてられる世界で、きっぱりとリファナはそう言った。俺の知っているリファナだって、きっとそう言うだろう
ならば、答えなんて決まっている
リファナを殺す。キールを死なせたように。いや、違う。それが何を意味するか分かった上で……
俺は、女神メディアを倒しに行く。それだけだ。その、罪。背負えと言うんだろう神ラフー?
分かってる。背負ってやるよ
「俺に、メディアを倒す手伝いをしろというんだろう?」
「……断るかと思ってました」
「断りたいよ
でも、リファナならどんな幸せな夢でも、夢のために現実を捨てちゃダメって言うだろう?
俺は、リファナの願いを無視してまでリファナが欲しくはない。その程度の想いのネズミさんだから、さ」