「そのうち誰か、か
尚文でなくて良いのか?」
ひとつ聞いてみる。それが嘘なのかもしれないと思って
「……構いません」
少しだけ時間を置いて、その女性はそう告げた
本当はそう言いたくないのだろう。原作で読んだことが本当に起こった事であるならば、彼女は盾の勇者の剣であり続ける事をもって神となったような存在であるはずだ。ならば、それとは別世界とはいえ同一人物を見捨てても良いとはとても言えないだろう
だが、言ってのけた。唇を歪めながら、もだ。それは純粋に凄いなと思う。俺にはちょっとキツイ話だ
「もしもの話ではあります。ありますが……ナオフミ様、いえこの世界の彼はナオフミさんとでもお呼びしましょう。ナオフミさんを守らなくても構いません」
「……本当に良いのかよ」
俺にリファナを見殺しにしろと言わせてるようなものだと思うんだが、本当に良いのか?
「構いません
全員を守れないならば、仕方の無い事です。何を置いてもナオフミさんを守れ……とは、流石に強要出来ません。ですが」
「ですが?」
「ナオフミさんが居なくなればこの世界にナオフミ様が入りやすくなるからといって意図的に見捨てたりしたら後で私が殺します」
「おお、怖い話だなそれは」
……まあ、そもそもだ。後でがあるのは、女神に勝った場合だけだ。女神に勝ったならば、殺されずとも俺は消えるだろう。当たり前の話だ。俺はこの世界に追加で呼ばれた転生者。恐らく神ラフーが言ったのとは真逆、自分を負かした者達の物語を告げてそれを妨害しろと呼ばれた女神側。ならば女神が消えこの世界が無かったことになるならば当然俺の存在も消える。ネズミさんは御門讃として、あそこで終わっていたで完結する。神による転生2周目なんて延長はない、その本来の形で終わる。それは良いか。自殺は俺の背負うべきものからの逃げだが、だからといって、生きていたいからといって、世界の人々を俺以上の不幸に叩き落としてまで得るものではない。その時は死人は死人らしく消えるだけだ
……だが、そうか。いざとなれば神尚文を呼び込むためにこの世界の尚文を消すという最後の手段があるのか。この世界は神によるやり直しだというならば、槍の勇者のやり直しのように、四聖が誰か欠けたらループという事も無いはずだ。四聖がどうなろうが可能性の模索は続き、女神の勝利が確定した時点で倒された本来の世界を上書きし女神メディアはこの世界を支配し君臨したとして蘇る。ならば、それを止めるためにどうせ消える世界の尚文には生贄という手も……
「ばちばち?それやったらだめだよー?」
フィトリアにすらダメ出しされた。止められそうだな。真面目に最後の手段か
「……本当にやったら」
腰にマウントしたはずのハンマーをもう一度振り上げ、目が笑ってない感じで神ラフーが脅す
いや、最後の手段だからな。それしかどうしようもなくならなければやらない
……というか、何が嘘なんだろうな
分からない。まあ、良いか
「こほん。私がこの世界に入ってられる時間ももう長くはないです」
「短いな、ヘリオスってのも同じか?」
「ええ。限られた時間しか出てこれないそうですよ、彼も」
つまり、転生者として戦うことになったら持久戦、或いは逃げ回るのが有効か。敵として出会わないことを祈ろう
「なので、ですね」
「ラフー!」
ぽん、と白煙と共に神ラフーの肩に一匹の動物が現れる。どことなくタヌキな一匹の……うん、可愛いなこいつ。基本はタヌキなんだがアライグマっぽさが混じっていて少しだけデフォルメが入っている感じ。うん、見てるだけで可愛い
「ラフー?こいつラフ種か?」
「ら、らふぅ……」
……俺を見ての鳴き声に違和感が残る。何となくぎこちない
ラフ種に何かしたろうか。いや、見たこと無いしな……
「ん?こいつラフちゃんか?」
ふと気が付いてそう問い掛けてみる。ラフちゃんならそりゃ可愛いはずだ
「はい、そうです」
ラフちゃん。原作尚文原産な目指せラフタリアな魔物であるラフ種の完成体とでも言うべき生き物だ。因みに恐らくだが他に完成体は産まれ得ないだろう。ラフ種がその尚文の知るラフタリアを目指していた限り、2体目は無理だ
「成程、ラフちゃんか。ならそりゃ可愛いわな」
……あ、逃げて神ラフーの後ろに隠れた。かなりへこむわこれ
「ということで、私自身は長くは居られません。ですから代わりに連絡用にこの子を置いていきます」
そう言って、背後に居るその魔物を抱えあげて……
うん、こいつはあまり可愛くないな
「チェンジで」
「何でですか!?」
「ばちばちー、きにいらないのー?」
いや、だってチェンジだろうこれは
「いや、それさっきのと別人、いや別ラフだろ?」
「え?ラフちゃん……ですよ?」
「ラフちゃんってリファナの魂混じってるはずだろ?ネズミさんのリファナセンサーに反応がないから別ラフだ」
明言はされてはいなかった。だがまあ間違いはないのだろう。ラフちゃんとリファナは同一の存在ではなくとも似たものではある。だから、ラフちゃんは可愛く見えるし他のラフ種はブサイクに見えると
「な、何なんですかこの人……」
ドン引かれた。心外である。リファナかどうかは勘で分かるからそう言っただけなんだが
「リファナとお前の幼馴染だよ」
この世界の、と付くけどな
「……まあ良いでしょう
この子はラフテル」
ラフ種の
「……こほん。この子の事を任せます」
「ああ、分かったよ」