パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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金色の獣

「それでは……」

 「そうだばちばち!」

 と、フィトリアの奴が急に話に割り込んでくる

 「どうした?」

 

 「危険なのがくるよー」

 「知ってる。タクトだろどうせ」

 フォーブレイのお偉いさんと言われたらやはりあいつだ。原作ではやってくるなんて事は無かったのだが、今回は違う

 所詮カルミラ島は活性化しているとはいえ、レベル100を越える手段が失伝しているにも関わらずそれをそう問題視されない程度には低いレベルの者達がこぞってやってくる程度の場所だ。言い方は悪いが低レベルの稼ぎ場であり、レベル350だかのタクトにとっては特に美味しいものでもなかった。故に、原作タクトはカルミラ島に現れる事は無かったのだろう

 ……だが、ここに原作との齟齬が生じる。タクト・アルサホルン・フォブレイは死んだ。正確には俺に殺された。まあ、それは別の肉体だかなんだかで復活したのだろうが……別の肉体による復活という点において、ひとつ問題が生じるのだ

 この世界におけるステータス魔法やレベルという概念は……"魂ではなく肉体に依存する"という点だ。つまりは、俺にレベル350の肉体をぶち殺されて復活したタクトは既にレベル350ではない。その新たな肉体の元々のレベルが幾つか知らないが、あって30くらいだろうそのレベルからの再スタートになるのだ。ならば、だ。活性化によりレベルを一挙に上げられるカルミラ島なんてもの、見逃す手はなくなるに決まっている

 

 『ばちばちー、なんでわかるの?』

 あ、その辺りか

 余談だが、ステータス魔法やレベルが肉体依存だという理由は簡単だ。生まれたばかりや龍刻の砂時計によるリセット直後であれば兎も角、普通に過ごしてきた人間のレベルが1ということは有り得ない。つまりだ、魂にレベルが依存しているならば、肉体はこの世界向けに再構築されているとはいえ魂が完全に連続している転生者や、何より四聖勇者がレベル1スタートになる筈がない。幾らなんでも微妙と本人は言っているがゴミではない異能を持ち、上を見たが故にコンプレックスを持った……逆に言えば上を見れる程度の位置には居た川澄樹の魂がレベル1とかそんな道理はないだろう。真面目に有り得ない

 ならば、レベルは肉体に依存する。まあ、そもそも異世界から来た人間の魂はこの世界にとっては異物にも近い、だからこそ四聖を扱えたりするのだから前提からしてこの世界のルールであるステータス魔法の枠外にあるものじゃないかって身も蓋もない事も言えるが

 

 「タクト……ですか」

 「一度ぶっ殺したんだけどな。やっぱり魂ごと消し飛ばさないとあいつ駄目だわ」

 原作……つまり本来の歴史ではなかなかに苦労させられたらしいしな。思うところがあるのだろう

 「……ちがうよー?」

 「って違うのかよ!?」

 てっきりタクトだと思ったんだが

 「来てるけど、あれはよわいしー」

 神の鳥のおことばに、諸行無常の響きあり。扱い雑だなタクト……

 「危険なのってならば何だよ」

 というかタクトは放置しても良い雑魚じゃないぞ流石に

 「えっとね……」

 

 瞬間、世界が、割れた

 ……いや、違う。そう思うほどに異質なナニカが、この地に現れただけだ

 「……なんだ、こいつは……」

 「ばちばちー、たおせるかな、これ」

 「分からない。けれども」

 眼前に広がる海。リゾートとしても使われているカルミラ諸島の割と穏やかな入り江に、居るはずのない魚影が浮かび上がっている。いや、巨影か

 

 金色の、鯨。全長にして300mは下回っていないだろうバカみたいにデカい巨体は、むしろ眩しいほどに光を反射して輝いている。だが、何よりも特徴的なのはその色でも、そこはかとなく犬っぽい顔でも三対ある目でも無いだろう。普通の鯨のような一般的な大きな一対の前ヒレ。その前後、顔近くから体の半分を過ぎる辺りまでびっしりと横一列にそれよりは小さな前ヒレが生え、昔の手漕ぎの船かのように蠢いている

 「……売ったら金に」

 「ふぇぇぇぇっ!なりませんよぉ!」

 あ、リーシア戻ってきてたのか。でも、今回は流石に役に立ちそうもない

 「空を漕ぐ船鯨……亜人の守護獣……」

 「知っているのかライフゥ!?」

 「ラフタリアです。ライ……なんですかそれ」

 「知っているんだな神ラフー」

 「金色真鯨ケートス……何故、神獣が此処に……」

 「神獣?」

 ちらり、と横を見る

 「フィトリアは神鳥だよ?」

 「無関係です」

 「じゃあリファナと……」

 「どこに関係があるんですか!?」

 「俺の信仰する宗教の御本尊、つまり神」

 「バカですか!?バカですよね!?」

 ……ああ、分かってる。全部冗談だ

 女神の剣が反応している。あれは敵だと。転生者に連なるモノであると

 

 「……それで、だ

 冗談の間にある程度は分かった」

 ……勝てないな、これは

 真面目に無理だ。俺にあいつは倒せない。一人では、決して

 復讐の雷霆があればどうだろうか。いや、それでも厳しいかもしれない。それくらいにヤバイものだ、あれは

 「それで、神獣とは何なんだ?フィトリアとは無関係らしいが」

 「あれは……四霊のようなものです」

 「四霊の?そんなものがこの世界に他に居たとは」

 「居ませんよ、そんなもの」

 「ならば……」

 「ええ、あれは……。既に滅びた世界の守護獣。曾て、己の世界の亜人を守っていた偉大な鯨の……亡骸です」

 『ルォォォォォォ!』

 突如響き渡る音。これは……嘆き?

 「あうっ!来るわねー」

 頭を抑えるサディナさんと

 「えっ?何か聞こえるんですか?」

 リーシアには聞こえていないのか、この音が

 ということは、亜人にしか届かないのか、この想いは

 

 「あの鯨は、嘆いている……のか」

 「ええ、彼女は護るべき世界ごと殺され……そして、操られてる」

 「女神、メディ……」

 「いえ違います」

 ……だんだん、神ラフーの視線が冷たくなって……行ってないな!割と最初から氷点下だ

 「アレの僕なら驚くには値しません

 貴方に分かりやすく言うなら……ケモナーのネクロフィリアな神にです」

 ……最低だなそいつ!


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