「……ネズミさん達はどうしているでしょうか
ネズミさんの事ですしあまりリーシアさんに無茶は……」
釣糸を垂らしながら、僕は呟きます
「やってそうですよ、弓の勇者様」
横で釣糸を垂らしていた金に近い髪の少女が、そう突っ込みを入れてきました
「リファナさんはそう思うのですか?」
「うん。マルスくんって、自分が凄いから基準ズレてるなーってこと多いんです
自分なら出来るからって、普通の人の出来ることを上に見すぎてるっていうか……」
「あはは、ステータス魔法もありますし、ステータスを遥かに越えた事は言わないんじゃありませんかね、流石に」
「そうかな
頭1つ……じゃなくて4つ5つ抜けてるくらいなのに、自分は頭1つ抜けてる……くらいの認識でちょっと無理は言いそうなような……」
釣れない糸から眼を離し、その少女ーリファナは遠い目をします
「ハロウィーンのお祭りで仮装じゃない本物のお化けが出たときだって、わたしに大人の人に伝えてくれって言ってたけど、あれも結構な無茶だし……」
「そうなんですか?」
「だってお化けですよお化け、レベルも何も分からない魔物ですよ!?」
「……そう、ですね」
ゾンビや……ちょっと前に波で対峙したソウルイーター等も似たようなものですか。確かに怖くはありますね
「マルスくんはわたしを安全なところに……って思ったんだろうなーってことは分かるんです
けど、一人で暗くてお化けの出るかもしれない道を帰るのってちょっと怖くて……」
身を震わせる少女
それに合わせて釣竿は大きく揺れて
「……魚、逃げられましたね」
「……そうですね」
「今夜の晩御飯どうしましょうかリファナさん」
「もうちょっと頑張ります」
「ええ。そうしましょう」
……此処はカルミラ諸島の島の一つ。夕暮れになったので僕達は晩御飯の確保を。一応日持ちのするものは持ってきましたが、どうせならば新鮮な食材を付けたいのでドロップしていた釣竿をアイテムストレージから取り出して釣りをするという形で行っていました
此処に居るのはリファナさんだけ。ドラゴンであるらしいブランさんやラフタリアさんは薪を集めに行っています。時折勇者の弓の力も使い遠くから危機になっていないか見てはいますが、残念な……いえ喜ばしい事に魔物に襲われてピンチとかそういう事は起きないようです
いえ、分かってはいましたが。今日1日人材交換として彼女等の戦いを見せてもらいましたが、流石はネズミさんの幼馴染というか僕達四聖勇者の中では苦労してきた尚文さんの仲間というか、車椅子の僕が手助けする必要もほぼないほどに上手くやれていましたから。尚文さんという絶対的な盾役が居る前提で戦っていたからか少しだけ危なっかしいところはありましたが、それも僕が一度弓を射って助けたら問題を自覚してすぐに是正してしまいましたし。順風満帆、逆に面白味がない程でした。ですので、リファナさんが此方に居てもこの島の魔物相手では危険はほとんどありません
「あれですね
リーシアさんに不満があるわけではありませんが、やはり仲間が多いとやり易いことも多いです」
特に今の僕は誰かが車椅子を押してくれないとしっかり動けませんからね。いえ、自分で車輪を動かせはしますが、うっかり転倒したりしたら立ち上がれないのでやはり一人では不安が残ります。動かしながらでは弓も射れませんし
「なら、仲間を増やしたらどうですか?」
「ということで、ネズミさんをスカウトしようとしたんですが」
「マルスくん、わたしが言わなかったらなおふみ様のところに留まる気もなかったぐらいなので……」
「ええ、あっさりフラれましたね」
まあ、知っていましたが
彼は……御門讃はそういう人ですからね
「……あ」
なんて話していると、釣竿が僅かに引いている事に気が付きます
けれども、引き上げるのは会話に気を取られ過ぎていた為かあまりにも遅く……
「逃げられましたね」
餌の無くなった針を引き上げ、呟きます
「……こういうとき、絆の異能力が羨ましくなりますね」
釣り……で思い出した友人の事を、ぽつりと僕は口にしました
「きずな?」
「ええ。僕の……元々の世界での友達です。凄そうで何にも凄くない、もっと凄い異能の影に隠れる日陰者……同士でした」
「あ、あはは……」
「いえ、大丈夫です。自虐するほどではありませんから
彼……風山絆は妙に釣りが好きで、それでふと思い出したんですよ」
「えっと……異能力っていうのは?」
「彼の異能力は未来予知系の……」
「み、未来予知!?凄いですねそれは」
「まあ、何時相手が針にかかるか、が少し前に直感的に分かる、ただそれだけの異能だったんですが、本人は喜んでいました」
……確実に釣るに近い異能なんかもあり、その下位互換って感じの扱いではありましたが。そう、僕の命中が必中の下位互換であるように。けれども……彼は気にしてませんでしたね。釣りは魚との真剣勝負だから面白い。真剣勝負のタイミングが分かるだけの方が楽しくて良いって
「……へぇー。勇者様の世界ってそんなものがあるんですね」
「ええ。他にもありますよ。例えば僕の異能は命中と言って、狙えば基本当たります」
「狙えば普通当たるんじゃ無いんですか?」
「いえ。例えばですが、風が吹いたら?或いは……相手が横に歩き続けていたら?そういった要素を計算に入れて的確に命中させるっていうのは難しいと思いませんかリファナさん」
「あ、確かに」
と、獣耳の少女は目を軽く見開いて頷きます
「僕の命中の異能はそういったものを何一つ考えなくとも勝手に最適化してくれるというものです」
「凄いです!」
「……けれど」
「けど?」
「意識して避けられたら当たらないんですよね。上位の異能である必中ならば、避けられても追いかけるのですけれど。あとは……超S級異能力、
「あぶそるぅ、あぶ、あ……えーっと、なんですかそれ?超S?」
「
まあ、そもそもそのうち一人がネズミさんなので、じゃないか、ではなく実際に戦えている訳なんですが、それを言っても多分混乱するだけなので言わないでおきましょう
「あぶそなんとかとあべなんとか……分かりにくい名前ですね」
「まあ、そうかもしれませんね。政府機関が気取った名前付けた結果、上位の異能は結構分かりにくい名前も多かったですし。僕の異能のようにランクの低いものは持ち主も多く簡単な名前なんですけどね」
「まあ、今の僕はネズミさんにも負けない特別な存在に……きっと、なれているでしょうが」
「弓の勇者様だから?」
「ええ、そうですね。もう、低ランクの異能力しか持ってないって思わなくて良いんです」
「元々そんなこと考えなくても良いんじゃって思いますけど……。ちょっと、わたしはマルスくんにはなれないって感じみたいに
……なんて言ったら良いのかなこれ」
「自分は自分でしかない。それでも、やはり規格外を見てしまうと、自分もああなれたらと思わずにはいられないものです。特に、異能力については持って産まれた才能ですから。努力ではどうしようもない、単純に持ってるか持っていないか、それだけで総てが決まってしまう理不尽。だからこそ、あの時の僕は目指すことすら出来ない頂点に、思うところがあったんですよ」
特に、S級異能力について、ですが。超Sの4人はちょっと規格外も規格外で、逆に諦めがついたというか。絆と探し当てて見てみた動画も中々に衝撃的で、あまり羨ましくなかったというか
そういえば、絆は今どうしているのでしょう。少し前に家出?とか聞いたような気はしますが……
なんて考えながら、僕は彼と見たあの時のネズミさん……いえ、御門讃の映像を思い出していました
風山絆(男)
この世界の風山絆は絆ちゃんではありません、絆くんです
また、彼のプレイしていたゲームはヒーリングMMOとかいう良くわからないディメンションウェーブではなく、樹と同じものです