パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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弓と狩猟具と見る雷霆の覚醒(後編)

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 『良し良し、大人しく妹の後を追ってくれよな』

 「……妹の後、ですか」

 「妹さんが死んで、それでって感じ……じゃ、ないよね」

 「ええ。普通に自殺しようというなら、それを見付けた彼等がこんなに冷静なはずがありません」

 あまり見たいものではありませんが……揺れる少年の顔に見覚えがある気がして、まじまじと画面を見つめます

 『長かったなー星追(せお)

 『ああ。でも、お前が居なくなってくれればこれで全部が終わる。だからとっととくたばってくれよ讃』

 「……讃、ですか」

 どこかで聞いたことがある名前ですね。確か……

 「あっ」

 「知っているのかイツキ」

 「思い出しました。彼……讃、御門讃(みかどさん)ですよ」

 「御門さん……えっと、誰?」

 首を傾げる絆さん。そういえば、彼は知らないんでしたっけ。僕も絆さんと会う前にビデオで見た事があるだけで、直接会ったことはありませんし知らなくても無理はありません

 「昔のことですが、僕がサッカーやってた時期があるのは話しましたっけ?」

 「あー、聞いたことある。命中の異能力でパスとシュートの精度が高いからって」

 「ええ。中学生以上の大会では異能力込みと禁止で明確にレギュレーション分けがありますし、僕は異能力レギュで活躍できる程では無かったのでついていけないからと止めたのですが……。その頃に、動画で見た事があるんですよ、彼」

 「中学生サッカー選手なの?」

 「ええ。異能力無しレギュレーションで。大きな東日本大会で念願の初優勝を狙う僕達の中学校を……容赦なく叩き潰したとある学校のサッカー部エースの片割れ、最強FWの呼び声高い天笠零路(てんりゅうれいじ)と並ぶあの大会最強のMFともされるフィールドの皇帝(バシレウス)、御門讃です。いや、あの二人同学校って可笑しいのでは?」

 「凄い人なんだ……」

 「前半ベンチにすら居なくて、勝てそうだがエースが片方不在で優勝しても箔つかないよなーと思っていたら身内の葬式を抜けて後半から参戦というバカ丸出しの行為を晒されて2点差から逆転されたって当時1年だったらしい先輩から聞きました」

 「えぇ……?葬式抜けてきたの彼。大丈夫?」

 「当時のインタビューでは、『母は半端で止めることを嫌う人だったから。この大会だけは最後までグラウンドに立って皆と戦わないと。最後の最後に放り出したって、決勝を欠席して葬儀の場に居たらあの人に怒られる気がした』って葬式抜けてきた事について語ってたそうです」

 話を聞いたとき、バカなのかなって思いましたね。それで記憶に残っていたんです。異能力禁止大会なのに素の身体能力と思われる力で普通届かないだろう高さのロングパスをオーバーヘッドで正確にエースFWに繋ぎハットトリックをサポートしたその姿に嫉妬したのもそうですが……

 

 「幾らなんでもお母さんの葬式抜けてサッカーの大会って頭可笑しくない……?」

 「しかも交通事故な上、本人も巻き込まれて怪我してたそうですからね。訳が分かりません

 ……でも、だからこそ言えます。この首吊ってるのが彼なら、自殺は多分しません。母の意志はその筈だって葬儀よりサッカー優先したバカですよ?自殺するようなキャラじゃないでしょう彼」

 「……えっと、動画内でオッサン二人が睡眠薬盛って吊ったって話してるから考察の必要は無いとオレ思うんだけど」

 「……それもそうですね」

 正義と真実を暴く名探偵イツキをやってみたかったのですが、謎としては御粗末に過ぎましたか

 

 『……いやぁ、長かった。本当に長かった』

 画面の中では彼に……あんまり似てませんね、この人。そんな男が、グローブをした手で軽く少年の体を揺らします

 『ああ全くだよセオ。お前あっさり財産得られるって言ってたじゃないかよ』

 『その筈だったんだよ!なのにあのアマ……俺じゃなくてガキどもに遺産分配しやがってよぉ!』

 『親の権利で管理って言えば良かったじゃないか』

 『それがよぉ、あいつ遺産を勝手に使えないようにしてやんの。全くふざけんなよな。何のために世間知らずのお嬢様と結婚してやったのか』

 ぺらっぺらと今回の計画を語る二人組。いや、糞ですね彼等

 「このどちらかが、超S級なのかな」

 「いえ。復讐……。ということは、恐らく」

 「御門讃って人?でも、首吊ってるよ?」

 「そうなんですよね……」

 画面内の少年はぴくりとも動きません。もう死んでいても可笑しくない。幾ら異能力とはいえ、ここからどんな逆転があるというのでしょう

 

 『んでよ、セオ。取り分けは4:6で良いか?』

 『は?お前何いってんの?理解してる?あれオレの遺産なの。妻を事故で喪い絶望した娘と息子に自殺されひとりぼっちになった可哀想な御門星追に遺されたものなの

 お前に4割もやるわけねーだろ』

 『あ?俺がお前の妻とかをしっかりお前の頼みで捕まらないように轢いてやったから全額転がり込むんだろうが

 半々と言わないだけマシだろ4割くらい寄越せよ』

 『んぁ?ライドブースト使えば誰でも狙った人間轢き殺せんだろうが』

 『っあ?誰でもじゃねぇよ躊躇したらブースト切れて自分がクラッシュしても可笑しくねぇんだぞぶさけてんのかよ

 うっかり操作ミスに見せ掛けて歩道の人間轢き殺すのがどんだけ難しいことか分かってんのか?』

 「……うわぁ……」

 と、横で絆さんがドン引きするのが分かります。いえ、正直僕自身そこに居たら正義感のままに突撃してたでしょう。彼等……人類のゴミですね

 

 と、画面で動きがあります

 とさっ、と絨毯の床に少年の体が落ちます

 「絆さん、ちょっと巻き戻しても?」

 「あのクズ発言はあんまり見たくないかな……」

 「大丈夫、ほんの一瞬前です」

 「じゃ、良いよ」

 と言われ、再生を少しだけ巻き戻します

 また、画面内で少年の体が落ちました

 「……やっぱり」

 「ん?どうかした?」

 「縄が切れる寸前、一瞬だけですが縄が光を放っていたんです」

 「光?ってことは、異能力なのかな」

 「そのようです。遂に異能力が見れそうですよ」

 

 『んだよ、縄腐ってんのか』

 『新品……じゃねぇな。家にあったモンだから腐ってたんだろ』

 『……親、父』

 と、少年が声を発します。その声は首絞められているままなので、かすれ声ですが

 『起きんなよバカ息子、死んでろ』

 ……親の言葉じゃありませんね

 『……なん、でだ』

 『あ、何で?何でって……どれだ?

 お前の母を轢いた事か?瑠奈の奴をレイプした事か?』

 『っ!』

 『ああ、あと……あいつなんつったっけ。お前が強姦したあいつ』

 『てん……誰だっけなー、忘れたわ、ぴーぴー煩くて』

 『天笠(てんりゅう)(はじめ)……』

 『あ?あいつそんな名前だったの?ま、知らなくて良いや』

 『あ、後はそいつの兄の足轢いたよなお前。んで、お前が理由聞きたいのって、どれ?』

 『っ!全部!全部に、決まってんだろ!』

 ……そういえば、どこかの紙面で読んだ気がします。天笠零路が通学の途中で朝帰り酔っぱらい運転に当たり二度と歩けないレベルの怪我を負ったとか何とか

 

 『全部ぅ?っても、理由ふたつあってな』

 『話せ、よ……』

 『え?バカ息子に話して意味あんの?ってかお前が死ななきゃいけないんだからとっとと死ねよ』

 『……答えろ!』

 『ったくしょーがねぇなぁ。じゃあ、聞いたらおとなしく死ねよ?冥土の土産だからなこれ

 

 最初の妻はなぁ、お前らガキが出来たら俺一筋止めてガキ優先になりやがったからだ。何のために俺が的中能力で射止めたと思ってんだよ金蔓のくせに』

 『……かあ、さん……

 瑠奈、もか』

 『ああ、あいつがお前らガキどもに財産多く遺したから死んでもらわなきゃ困りものだったんでな』

 『瑠奈を襲った……暴漢も、お前か、クソ親父』

 『お父様への敬意がなってないぞ親不孝ドラ息子

 妹みたいに自殺孝行しろ』

 『……瑠奈を、追い込んだのも!』

 『小学生の頃からヤりたくなってよ。死んでもらう前にちょいと……だったんだが、それで自分から自殺してくれてホント助かったよ』

 『じゃあ、零路は!祝ちゃんは!関係ないだろう!

 何でだ!』

 『お前だよ、クソ息子』

 その声は、冷たく響いた

 

 『穏便に財産受け取るには、息子も娘も自殺してくれなきゃ困るの、どぅーゆーあんだーすたぁん?』

 ニヤニヤしながら、画面内の男は立つことすら出来ない少年に語りかけます

 『だってのによぉ、お前のせいだ

 お前さぁ、大切な大切なおかーさんの葬式、ふけただろ。んで、サッカーなんぞの試合に出てインタビューまで残しやがった

 そんな奴がそうそう自殺するはずねぇ。何か変だ。そう疑われちゃあ困るんだよ、この俺が』

 『そんな、事!祝ちゃんに……零路に!関係なんて、ない!』

 『は?あんだろ?

 てめぇの友人、てめぇが瑠奈の為って色々付き合い悪い今でも来んだろ?そいつらがお前らと同じ目にあってよぉ、こいつの呪いだって怨詛吐いたら、まあ自殺の理由になっても可笑しかぁねぇ。そこまで考えた俺の深謀遠慮を誉めてほしいところだ』

 『…………俺の、せいなのか』

 ……そこの御門讃。全く貴方のせいじゃないと思いますよこれ

 

 『……母さんは、無理だ

 でも、瑠奈は……零路は!祝ちゃんだって……』

 『ああ、全部お前のせいだ。責任とって死ねよ』

 『……気が付けた、はずだ

 何で単身赴任から戻ってきた?分かったはずだ、止められたはずだ。護れたはずだ!』

 『は?何いってんの?お前バカ?』

 動けない少年に近付き、男は彼の顔を蹴飛ばします

 ……ごろごろと横に転がる少年の体。その黒髪が、黒い目が。一瞬だけ変な色になった気もして

 

 『……守らなきゃ、いけなかった

 護れた、はずだ!何が……何がフィールドの皇帝(バシレウス)だ!何が俺凄いから、だ!

 何一つ、護れてないじゃないか!』

 『うっせぇ!大人しく死ねよ!』

 横の男が、ナイフを投げます

 そのナイフは少年の眉間に、しっかりと刺さります。流石に致命傷でしょう

 『おい、ヤベーぞ流石に自殺が無理筋になる』

 『ぐだぐだ言ってきたんだ、お前も自分傷付けて錯乱した息子に殺されかけた正当防衛言えよ星追!』

 『ったくよぉ……』

 

 『……ごめ、はじ……ちゃ……

 ごめ、……れぃ、じ……

 る、な……

 おれ。が……俺が……』

 つかつかと、男は譫言を言う虚ろな目の少年に近付きます

 『お前の妹だが……ヤッてる最中ずっとお前の名前を呼んでてキモくてならなかったんで黙るまで殴ってやった。顔だけは可愛く育って何時かヤりたかったのによ、ガッカリだ

 良かったなぁ、そんなブラコンには寂しくないようにお兄ちゃんも今そっちに送ってやるよ』

 そして、眉間のナイフを抜き、振りかぶって……

 『護れなかった、俺が!』

 

 そのナイフが、光となって消滅した

 『っってぇぇぇぇぇっ!?熱っつ!これ熱っつ!』

 突然ナイフの消えた手をぶんぶんと振る男の掌に、大火傷が見えます。炭になったのでは?と思うほど真っ黒な掌が。グローブは焦げて、その役目を果たせなくなっています

 『許せねぇ……赦さねぇ!

 何があろうと……何だろうと!よくも、よくも!』

 吹き上がる風。僕はそれを画面越しなので感じることはありませんが、それでも、きっとそれは吹き荒れたのでしょうと思えるほどの、威圧感

 目で追えませんでした。何時しか、御門讃は……少年は立ち上がっていて

 

 「ちょっとコマ送りで見てみて良いですか絆さん」

 「今すぐは無粋だと思うよそれ。見終わってからにしようよ」

 

 『セオ!?

 これはもう、正当防衛に決まってる……よなぁ!』

 懐から拳銃(当たり前ですが法律違反です)を抜き出し、もう一人の男が銃弾を放ちますが……

 『……』

 一睨み。それだけで銃弾は……そして、その先の拳銃そのものすらも消し飛びます。光となって

 『うぎゃぁぁぁぁっ!なんだよこれ!何なんだよこれは!?

 星追!お前の息子は無能力だろ!?』

 『その筈だ!こいつ、讃じゃねぇ!

 な、ナニモンだ、てめぇ!』

 ……いえ、知られざる異能力が発現しただけで同一人物なのでは?というか、これが……超S級異能力、復讐の雷霆(アヴェンジブースト)!流石に意味分かりませんねこの能力。見ただけで物質を光に変える……つまりは、恐らくは固体である物体をプラズマ化しているのでしょう。訳が分かりませんこれ本当に現実に存在する異能力なんですよね?特撮のバトルものCGとかじゃなく

 『最初から御存知のはずだろう、クソ親父』

 『知らねぇよこんなキチガイ!』

 『お前の……そして母さんの息子

 護れたはずの大切な人を、瑠奈も、零路も、祝ちゃんも!何一つ護れなかった自称最強の……大大大大大馬鹿者

 されど、二度と……二度と!こんなことを起こさない誓いを!怒りを!』

 瞬時、彼の髪が逆立ち、黄金の……雷の色に変わります

 『此処に抱く!』

 どん、と少年は胸を叩きます。その胸元まで垂れていた首絞めの縄は、少しずつほどけては光と消えていっており……

 『「"雷霆"の勇者」、御門讃だ!』

 虹彩どころか全体が真っ赤な瞳で、スパーク迸らせながら彼はそう叫んだのでした


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