『キィィィィィィッ!』
響き渡るのは蛇の音色
蛇が咆哮するというのは本来可笑しいのだが、そんなものは気にしても無駄だろう
刀を振るい、というか構えて突貫
されども、白いその鱗に阻まれてロクに通らずに刃は逸れる
「まだだ!」
諦めずに滑る刀身を握り直して次のスキルへ
行かず、そのまま刀を手放す。同時、転生者の力による勇者武器の捕獲を解除、刀を本当の意味で手離すや、女神乃剣と呼ばれるあの対転生者剣を引き抜き、溢れ出す対神の光を纏って……叩き斬る!
『キュィィッ!?』
白蛇に走る動揺。今度こそ鱗の一枚を下ろす事に成功した俺に、いや、その剣に対してだろうか
関係ない!
「っ!らぁぁぁぁっ!
トォォル!ハンマァァァッ!」
そのまま別の拾い物であるハンマーを巨大化、ぶん殴る!
分かったことがあるが、何一つ知らないというかスキルが使えるだけのほぼ初期な刀なんぞより、普通の武器の方が基礎火力が高いのだ。前回は……ひとつになりかけている世界の勇者武器を別に俺がついさっきまで持ってた関係からか変な共鳴でも起きていたのだろうか
『クァァァッ!?』
動揺と……恐らくは痛みと共に口を開く大蛇
だが神獣たるソレは流石に止まることはなく……俺を呑み込もうとその巨大な口を迫らせ
「ファスト・レイスフォーム!」
その牙の間を雷鳴としてすり抜け……
「っ!?」
その体はだが、牙の間に閉じ込められる
ちっ!こういう霊体化に近いものへの対策もあるか!無いとは限らなかったが、迂闊!
……だが!
口内に飛び込み、叫ぶ
「……分かってんだろ!来い!刀!
お前が……俺に、こいつを倒せと叫んだならば!応えてみせろ!」
ついさっき引き剥がした鱗の方向を当たりつけて、手を伸ばす
同時、穴を空けて飛び込んでくる光。それは俺の手に来るや否やさっき手離したばかりの勇者武器の姿を取り……
「はぁぁっ!」
空けた穴が塞がる前に刀を突き立て、落とした鱗を勝手に取り込んでいたのだろう解放された武器の姿へと変化させる
巨獣刀・白。その名に違わぬ、この白蛇に合わせたサイズ感のバカデカい刀。下顎にひとつある鱗の無い隙間から、周囲の鱗すら歪ませる巨刀が顕現し
「らぁぁぁっ!」
当然その柄は俺よりも大きい。無理やり抱えるようにして両の手を広げて何とか抱え、数本の牙ごとその顎を切り落とす!
「っ!完全省略!ファスト・ブリッツクリーク!」
血と恐らくは毒によるカーテンを抜け、空けた傷口から飛び出し……
「どうせそっちも基礎性能は同じだろ!持ってけグラス!」
切り落とした歯茎を切断、二本ある牙を二つに分け、そのうち片方を自分が飛んできた……そして、今も炎の蛇に群がられているこの世界の勇者の方へと蹴り飛ばす
当然、もう片割れには刀を押し付け……即座に変化
神奉の太刀・白と名を付けられた全体的に白くシンプルな刀へと変化したそれを握り込む
『キィィッ!』
白蛇の神獣の叫びと共に、鱗の隙間から漏れる炎
それらが蛇の姿となって襲いかかるも
「……抜けば恵みぞ降る水神の理」
同時、俺はその手に現れていた鞘に刀を仕舞い
「巫・水天」
刀を抜き放ちつつ、スキルを放つ
瞬時、空が曇り、雨を降らす。本来、彼は……いや彼女かもしれないが、眼前の神獣は焔吐くものではなく、水神の類いであったのだろう。故に、その本来の姿をしたスキルが、刀に存在する
突然の豪雨が俺の視界を埋め、焔の蛇を消していく
刹那、不可思議な視線に射抜かれた気がして……
その雨が晴れた時、白き神獣の姿は空には無かった
「……逃げられたか」
ふう、と息を吐き、手の力を緩める
「お前はあいつを止めに来たんだろう?とっとと本来の持ち主の所に帰れ、帰らないとネズミの奴隷にしてこき使うぞ」
刀を手放し、そう語りかける
だが、しかし……
「まだ終わってない?絆を助けろ?
ったく、パチモノ勇者使いが荒いこった。だが、ぶっちゃけた話、今そいつが死んだら終わりだ、今居る此処が潰れて全部ぐちゃぐちゃだ
手伝ってやるよ、世界を守る精霊。その代わり、時折一旦手離すが終わるまで今度こそ逃げんじゃねぇぞ」
使ってみて分かった。女神乃剣の特攻は正直な話火力に限れば、神や転生者にたいしては勇者武器である刀を上回る。だが、あれはあくまでも剣、勇者武器のように魂と合一して存在そのものを書き換えるものではないので、火力しか無い。武器ステータスだけは特攻込みで伝説の武器を上回るものの武器が解放されていく事によるステータス補正とかそういったものは何一つ無いわけだな。素材を吸い込み、その世界の神に近い存在として能力を解放し続ける事であらゆる能力を上げていく勇者武器は総合力ではやはりぶっ飛んでいるというのが良く分かる。まあ、ぶっ壊れてないようでは実質世界の神である精霊として困るんだが
「……終わったぞ、グラス」
「返しましたか」
「まだ言うか。俺はあいつらとは関係ない」
いけしゃあしゃあと嘘を吐く
いや、嘘じゃないか?あくまでも俺は女神メディアによる別口の転生者だからな。神獣だ何だを送り込んできてる神パラストラとは無関係……だろうきっと。徒党を組んでたら?知らんそんなこと
「……そうとは限りません。貴方は、その刀に選ばれたようには見えませんので」
ちっ、鋭い。尚文とかは元々優しい点があるからだまくらかされてくれたんだが。いや、リファナが太鼓判押してくれてたからか?
「俺が転生者だとでも疑ってるのか?
転生者が、こうやってころころ武器変えるかよ」
神奉の太刀であった刀をほいっと初期の刀に変え、そのまま斬馬刀へも変えて……ってわりと重いな斬馬刀。流石刃渡り3m越えの現実的な長さのバカデカブレード。巨獣刀の50mくらいに比べればまだマシだが、現実味がある分普通に持つからなこれ
それでも疑いの目を向けてくる女性に、はあと息をつき
「半分正解だ。俺は向こうのルロロナ村のネズミさんだからな、この世界の勇者の武器に選ばれる道理がない
今俺がこの刀を持っているのも特例、正規の手順で持ってるという話じゃあ無い」
「やはり!」
「勘違いすんな。お前たちがこの世界を護るために俺達の世界を滅ぼそうとしているように、私利私欲からこの世界を滅ぼそうとしている奴等が居る」
「それが、貴方がた向こうの勇者でしょう!」
「ったく、俺は転生者なのか勇者なのかどっちかにしろよ主張」
なおも敵愾心を向けてくる女性に苦笑して、それだけ今危機にある絆という勇者は彼女にとって重要なのだろうと勝手に共感し
「だから、刀が俺を呼んだんだよ
特例として、俺に手を貸せと、な。この世界を、いや、二つの世界両方を、私利私欲により襲い来る者達から護り抜く為に
だから、俺なんだ。かつての波で、自身と扇を捕えていた転生者を滅ぼした、元投擲具の勇者である、一番手を貸してくれそうな縁のある者。それが、刀にとっては俺だったんだろう」
そうだそうだとばかりに、扇と刀が勝手に光を放つ
「……本当に?」
「本当じゃなかったら扇が頷いたりしないだろ。お前の疑いが真実だったとして、扇にまで手出しは出来ない、嘘は貫き通せないよ」
少しだけの間、誰もなにも言わない
「……というか、だ
この世界を滅ぼす気なら、わざわざ神獣なんて要らないんだよ。この世界でまともに動ける勇者って何人だ?」
「私、キョウ、そして……少し前までは、キズナの三人です
鎌を取り戻せれば、や刀が新たな勇者を選べればまだ増えますが」
「こちらの世界は四聖3人、周期的に恐らく残り一人の天木錬も生きている
そして、眷属も投擲具と馬車と杖の3人が残っている」
さらっと自分を加えて大嘘を吐き
「ついでに言えば、馬車の勇者はかつての波から生き残っている古株だ
わざわざこっちを攻める意味なんてものはない。というか、だ。刀と扇がパクられていたのを確認したら、後はそのまんま返されないようにするだけで良い
生き残っている勇者の数があまりにも違いすぎる、ほっとくだけでこの世界終わるだろ」
「それは……そうですが」
「ってことで分かるだろ?
俺は、あの神獣やらを扱って二つの世界をどうこうしようというアホをぶん殴りに刀に呼ばれた者だ。お前の言う仲間も……いや一人別物居るけど一応黒髪の方は俺の仲間だ」
「……分かりました
そこまで言うのならば、キズナを助けるために手を貸してくれますね?」
そこか、と俺は苦笑して
「ああ、良いぜ」
と返したのだった