墓の前には珊瑚が供え直されていた
……また帰ってきてたのか、サディナさん。村で待っていれば会えたのかもしれないな
いや、止めておこう、待ってたならばどこかで合流することは出来て、でも間に合わずリファナが死んでいたかもしれない。だとすれば今の道は間違っていないはずだ
「……この珊瑚は?」
だが勇者ユータはそんなこと知るはずがない。なのでわざと聞く
「あ、多分サディナさんが御供えしてるのかな」
「サディナさん?保護者とかそんな感じか」
ユータが村に居たときに会ってるのかが判別つかないな。ボロ出す前に会話は切り上げるに限る
「……誰かが弔ってたならばメモがなにか残ってるかもな。手を合わせた後で見てくるか?」
「うん、ラフタリアちゃんも行く?」
……って首を横に振るのかラフタリア
……まあ、村の残骸だしな此処。あまり見て回りたいものでもないよな。故郷はもうない、滅んだ、親も知り合いも大半が死ぬか奴隷として連れ去られた、その事を突き付けられるなんて嫌に決まってる。俺はリファナより一歳お兄さんだし平気だけどな
『称号解放、サバ読み転生者』
サバ読んでないからなクソナイフ。まあ転生前が確か16歳で行ったこともないけど便宜上高校二年生だったからそれを単純に加算すれば27とアラサーだけどこの俺は11だ
『称号解放、イタキチペドケモフィリアアラサー転生アジテートフェイクヒーロークソネズミ』
……そのうち溶岩に向けてエアストスロー打ち込むぞてめぇ。長いからどれかに絞れ全部のせすんなそして転生だけ英訳諦めんな。というか増加装甲バリーゾゴーンを装備したフルアーマークソネズミなりパーフェクトクソネズミなりになれそうな称号の盛られっぷり……
『称号解放、フルアーマークソネズミ』
っていらねぇから
……あ、称号がイタキチロリコンネズミになった。イタキチは重要な扱いなんだなクソナイフにとって。あとロリコンは止めろ、一歳差だ。外見は……うん、アレだな、リファナは13~14くらいにしか成長してないけれども。自殺した転生前の妹と同じくらいだな背丈、中学生ってくらいか。ラフタリアに至っては前と全く変わってない。レベル上げても確実に成長するとは限らないようだ。そういや盾の勇者本編でもそんなこと言われてたような気がするな、成長するかしないか分かれる条件って何なんだろう。俺としてはリファナの為に少しでも強くなれたからこの20歳くらいの姿気に入ってるし良いんだが
……外見20の灰色の薄汚いネズミと13くらいの可愛いイタチ。端から見れば事案決定だな。折角転生して警察というか治安維持組織の御厄介から解放され領主の所は脱走してきたのにまた治安維持組織に捕まってしまう。まあこれは尚文(外見やさぐれ世紀末大学生)でも同じことだし知るか
『称号解放、事案少年院卒ネズミ』
少年院じゃない、人類史発展未来異能解明……忘れたわあそこの名前、無駄に長ったらしかったのは覚えてる。というか院卒してないからなクソナイフ
……あ、戻った
適当に酒を供え、手を合わせる
横でリファナもしっかり手を合わせてるな。……リファナだけかよ、ラフタリアは……目を反らしてる
まあ、親が死んだと正直認めたくないってのは分かる。転生前の俺も母の葬儀はキレて家出して出席すらしなかった。葬儀って言って手を合わせたら本当に死んでしまう気がして、認めたくなくて。だからやらかした
だから分かるぞラフタリア。でも気持ちの整理さえついたら手を合わせるんだぞラフタリア
なんてやってから、この先の為にちょっとステータスを見てみる。明日以降砂漠を目指すとして、突破出来んのかこれという感じでちょいと
『イタキチロリコンネズミ』マルス
職業 日用雑貨の偽勇者 Lv28
装備 どうせ日用雑貨なダマスカスナイフ(伝説武器)
布の服(品質:普通)
バックパック(品質:普通)
スキル クソネズミなら知ってる以下略
魔法 クソネズミなら知ってる以下略
……ダメだこのクソナイフ、前に七星の日用雑貨扱いした事を根にもってやがる。勝手にステータス表記改竄するな。称号なんて付け加えてる時点で改竄してるんだが
……まあ、割と行けるかこのスペックならば、と結論付ける
そうして、夜
結局メモは無く。まあサディナさん的にも誰かがまた戻ってくるとはそうは思えなかったのか。一応サディナさんが戻ってくる前に御供えしたのは俺だし、俺は一応冒険者として自立していたのだからもう戻ってこないと思われたのだろう。俺以外は……まあ基本捕まってるか死んでるかだしな。俺との合流を諦めたならばメモなんて置いてく道理もない
「ラフタリア、今日の薬だ」
ということで、クソナイフが煎じた薬を差し出す。俺に薬のまともな知識なんて無いのでナイフ頼み
「い、イヤ!」
「好き嫌いは禁止だぞラフタリア」
「で、でも……凄く苦い」
「だから今回は糖類と粉末で果物味付けてやった文句言わず大人しく飲め
精神安定して悪夢に魘されなくなるぞ」
……因みに確かに安定するが成分は半分麻薬である。自称薬だが過ぎればマジものの毒だ。一歩間違えば幼馴染を麻薬漬けにするクソネズミだなこれ
……中毒とかなってないよな?
なんてやり取りを経て。村の残骸でもちょっと焦げただけで焼け残っていたリファナの家のリファナのベッドで二人が寝静まったのを確認。ヤクのお陰でラフタリアの寝顔も穏やかだが、リファナの眠りは浅い。安らかなとはとても言えない顔で心苦しいが辛抱しろよリファナ、横に親友が居るんだ。因みにサディナさんが残していった墓標によるとリファナの両親は死んでいた、今日から毎日クソビッチの城を焼こ……止めよう、うん
「ポータルジャベリン」
そうして、城下町に戻り
『力の根源たる鼠が命ずる
真理を繙き、我が身に眠る雷閃轟かせ、疾れ、何よりも
「ドライファ・ライトニングオーラ」
それでもって飛び出す。軽々と街の壁を飛び越え外へ、転生者の勘……ってか武器を奪うあの力を導線にして山籠りっぽいことしてる尚文の元へ。アヴェンジブーストも駆使して遠くから良くなった目で寝る前の彼を観察。随分と安くなったなアヴェンジブースト、いや転生前も第一段階は母が故意に轢き殺され妹が自殺して以降は自由に発現出来てたな、第二以降は無理だったが
……良し、やっぱり明日には一人ぼっちに限界を感じそうだ。安心しろぼっちやさぐれ尚文、明日お前にラフーな未来の嫁とその親友を紹介してやる、本来の世界のように大事にしろよ捨てたら殺すぞ
ということで何か差し入れ……してもアレなので眠った尚文に襲い掛かろうとしたバカ犬魔物を狩るだけ狩って帰る。別に襲われててもダメージ無いだろうが今の尚文ではあの犬倒せないからな盾では火力無さすぎて
もう一度ポータル、また城下町に出る
その店は夜こそが稼ぎ時としてカーテンの裏に煌々と明かりを灯していた
そこに無遠慮に入る
「お困りのご様子……ではなさそうですな?」
シルクハットに燕尾服、浮くようなこれ以上無いくらい相応しいような姿の男がそう口にする。奴隷商、本来の世界でラフタリアを使い捨ての奴隷として売り付けた男
「人手が足りない
魔物に勝てない
そんなアナタにお話が」
「……何の事で?」
「明日辺り、お前が盾の勇者にかけるだろう言葉だ」
「……」
「知ってるぞ奴隷商
ここの女王に頼まれて盾の勇者に仲間を奴隷として斡旋する気だろう?」
全く、緊急事態ならばとっとと女王が戻ってくれば良いだろうに。下手にあの王配が杖の勇者としての名声から本来の王配の分を越えた権力持ってるから厳しいのか
「おやおや、そんな話」
「シルトヴェルトの奴等から聞いたぞ」
大嘘である。盾の勇者の成り上がりを読んでた際の知識だ
だが、盾の勇者を神と崇めるシルトヴェルト、掴んでいても可笑しくないのでハッタリとして通用する
「……それで、アナタ様は変なことを仰って何がしたいので?」
「フロートダガー、セカンドダガー、チェンジダガー、起爆」
くるくると姿を変えさせ、ついでにパーティグッズに姿を変えて爆発させる。威力はないけど派手さはある
……パーティグッズにすらなれるってやっぱりこいつ日用雑貨の七星武器なのでは?
「俺は投擲具の勇者ユータ
シルトヴェルトに頼まれて盾の勇者様に奴隷を売り付けるならば彼女等をという話を仲介しに来た」
「つまり、シルトヴェルトからの使者と、ハイ」
「突然の無礼はお詫びする
此方から彼女等を斡旋するように頼む以上、金はお支払いしよう
受けてもらえないだろうか」
「そういうことならば、ハイ
信頼は」
「勇者の名に誓って」
……ヤバイ、俺が言うと信用の欠片もない
「ですがあまりにも良い奴隷であると怪しまれるかもしれませんです、ハイ」
「その点は問題ない。下手に強すぎてもいけないとシルトヴェルトも分かっている
送るのは、今はまだレベルが低く弱いが才能に溢れる者だ。元から強いものよりも成長には良いはずだ」
資質向上はパーティさえ組めばリファナ達にも使える。それでレベルを下げれば見た目はレベル低い雑魚奴隷の完成だ。レベル1にしてはレベル20までの分の資質向上があるので妙に強いことにはなるし最低限教えているので戦いの面でも問題ないが尚文はそこまできっと分からないだろう
更にはわざと勇者の力でレベルを奪ったと眼前で偽悪っておいせば、信頼を築いた後で資質向上についてラフタリアが尚文に教えてやれるので尚文が別の強化方法を知れて万々歳
「……実は良い奴隷が集まらず、ハイ」
「そうか。渡りに船か」
……ラビット種とリザードマンどこ行った。流れてこなかったのか?
「明日朝連れて来る。残りの金もその時に
言ったように口裏を合わせてくれ、尚文は澄んだ眼の奴隷は買ってくれないだろうからな」
前金を渡し、俺はその場を去った