「ここです」
グラスによって案内された先、風山絆が居るとされる場所はすぐ近くであった。いや、マジで近いなオイ。大体……時間にして徒歩数時間。何時しか……というよりもレンやタクトと合流して以来時間の減りが体感時間と(絶対的な時間とは違うかもしれないのであくまでも体感と言っておこう。今向こうの世界に帰ったら一ヶ月後とか有り得るからな)同じになった砂時計によれば2時間12分ほど
え?十分遠いように見える?なに言ってんだ刀の精霊。タクトの首根っこ掴んだまま移動してんだぞ。歩みなんて牛歩だ。普通に歩けば一時間かからないくらいなんてご近所だろ。ルロロナ村から割と大人間の交流があった隣村より近いぞ
なんて事を脳内でやりながら、その場所を見上げる
「洞窟だな」
「見事に洞窟だ」
「おい!良いから離せよ!」
なんて暴れるタクトはとりあえず無視。逃げられても困るしな
「で?本当に此処なのか?普通の洞窟に見えるんだが」
いや本気で。四聖勇者を捕えているとか言われたからどんな魔窟かと思ったら天然に出来た洞窟としか思えない。しかも出入り口が狭い。白蛇……あのケツアルカトル野郎が空で暴れていた森から地続きくらいのなだらかな山の中腹って感じだなこれは。特に特別な事は見当たらない。この高さの山だと、実は中がクッソ広くてとか、本当は山頂に火口のように大穴空いてて巨大龍が巣くっているとかそんな感じもない
「そう見えますか?」
おい、呆れた目をすんなグラス
「見える」
「……この洞窟は、キズナを捕えるその時まで無かったものなのです」
「しょっぱいものに見えるのにな」
ぽいっとタクトを空に放り投げ、いつの間にか定位置は此処だぞとばかりに鞘ごと左腰にマウントされるようになった勇者の刀を引き抜く。腰(背面)にはハンマー、背には女神乃剣、そして左腰に勇者の刀。重装備だなオイ。まあ、刀とそれ以外って併用できないこけおどしなんだが
「……何を?」
「ちょっと、おためしの……」
よさげなスキルをツリーから探す。この辺り咄嗟に最適っぽいスキルを撃てる極限状態とは違うな。ああいった場合このスキルを使えとばかりに武器側がスキルを提示してくれるんだが、何も出ない。ま、仕方ないので俺が使える中で良さげなものを適当に見繕って……って良いのあるな、投擲具っぽいものだけど
「抜刀・
鞘から抜き放ってぶん投げるスキルを選択。とりあえずで投げた刀は入り口横の土肌を抉って突貫し直ぐに柄すら見えなくなって……
あ、手元に戻ってきた
「……何がしたかったんだ?」
「レン、軌道を良く見ろ」
首を傾げる少女に一言
「軌道?何か……あれ?」
よし、気がついたようだな
「っておい!説明しろよ」
あ、タクト落ちてきた。邪魔なんで投げたがそんな滞空しないな。と、タクトを捕まえながら言葉を紡ぐ
「入り口の左から、右斜め向けて土肌を抉った。当然本来なら刀はすぐに洞窟になってる部分に到達し切っ先が洞窟の壁を突き破って露出するはずだ。そうでなきゃ可笑しい
なのに、柄が見えなくなる程まで掘り進んでもすぐそこにあるはずの洞窟の壁に到達しなかった。ということは」
「「時空が歪んでいる」」
黒髪二人がハモる。ってか、グラス絶対知ってただろとっとと言えば良いのに
「それしかないな」
頷く。入り口だけショボくて中身は別次元、蜃気楼に閉ざされたプラド城を思い出すヤバいもののすくつっぷりを感じさせるな
「こんなしょっぱい入り口作るくらいなら壁と同化しときゃ良いのに」
「いえ。これは恐らくキズナを助けに来る残りの勇者を捕えるための罠。見つけられなければ困るのでしょう」
静かに呟くグラス
「殺せば……良いんじゃない、のか?」
そうだなレン。普通そう思う
……それをしない辺り、マジで今絆死んでもこっちが滅ぶだけで俺達の世界無事なんだろうな。生存してる勇者の数が違いすぎて片方が押し潰されて波が終わる、グラスが本来尚文等二回目の波でやろうとした現象が起きるんだろう。いや、今それ言っても怪しまれ……手遅れか?
「それが出来ない理由がきっとあるのでしょう」
「何でも良い。どうせ俺に武器を献上するだ」
「……」
あ、睨むだけでタクトの言葉が止まった。面白いなこれ
「……ちっ。この場所じゃなにもしないからいい加減離せよ」
「と、言われてるがどうするんだ、こっちの勇者?」
「そちらの世界の問題を投げないで下さい」
うん、冷たい
「……やらかしたらもう一度吊るぞ」
「その前にてめぇを吊るしてやる」
「最速の爪を喪ったお前が追い付けるほど遅くはないつもりだ」
まあ良いか、ずっとタクト捕まえてると誘拐犯に見えるしなコレ。とタクトを離す
「っ、あばよ!」
地面につくや否や即座に駆け出す年齢一桁の金髪少年。いや、元気だなコイツ
「一つだけ言っておこうか」
「誰が聞くかネズミ!」
「俺から離れると恐らく二度とお前のハーレムに会えないぞ」
嘘である。視界端のアイコンは勇者がそんな長く別世界に止まる事が出来ないという証のようなものだろう。つまり、時間が来たら強制的にこっちの世界から弾かれて元の世界に戻るはずだ。いや、確証はないけどな
つまり、あいつは此処から逃げてもそのうち元の世界に帰れる。転生者の勢力がアホほど強いっぽいからタイムアップまでにおっ向こうの勇者武器持ってる雑魚じゃーんおやつ乙と狩られなければ、の話だがな。生きてればまた会える。だが、タクト多分その事に気がついて無いんじゃなかろうかという事に懸ける。そんな事までしてタクトを近くに置いておく意味?
何だろうね、俺にも良く分からん。勘という奴だろう
……何だろう。刀から凄く呆れられたんだが。お前もクソナイフの親戚かよ。いや親戚だわ
「エリーに何かしたら許さないぞネズミ!」
「いや、お前が帰れずに未来永劫魂が滅ぶまで此処に居るだけだ」
「い」
「そうだろう、グラス?」
否定しかけたんで先手打ってグラスへ振る。頼む空気読んでくれという奴だ。普通に本当にそうなのか訪ねてると思われたら終わりだ。タクトはタイムアップまでこっちの世界の正規勇者から武器をパクることを狙いつつ俺から逃げるだろう
「その可能性は高いでしょう。このネズミ勇者を中心として呼ばれたようですし」
人選間違ってんぞ勇者武器どもとしか言いようがないがな
いや、マジで裏切った元康とか呼んでた日には何が起こるか分からないし、そもそも四聖は呼べないとなると
…………メルロマルクの
閑話休題。グラスが援護してくれて助かった
苦々しい顔で、タクトの奴が戻ってくる
「んじゃ、行くか。ところでグラス?お前の言う絆を捕えたのってどんな奴なんだ?」
一応聞いておこう。ある程度対策とか分かるかも知れないからな。どんな奴……って恐らく女神側の何かなんだろうが
「……奴は、タマモと名乗りました」
……タマモ、玉藻……何か聞いたことあるな
そうだ、傾界仙狐タマモ。って普通に神獣じゃねぇか!ネクロケモ野郎側かよ!?面倒くせぇ!ってかかなり早めから干渉されてんじゃねぇかよ神ラフー、もうちょっと戦力連れてきてくれ
因みに小説版原作では転生者によって怠惰のカース発動させられて石にされたりしてましたが、この世界では別の神の干渉もあってこうなったという事でお願いします