一歩、足を踏み入れる
「……オイ、ネズミ!」
「ここ、は」
って熱っ!ファスト・スカイウォーク!
思わず飛び上がり、そのまま足を空中固定。レンの体を引っ張りあげて背負い、尻尾でタクトを吊る。いや、掴んでるの右手なんで絞まらないが
「熱っ!何だここ」
周囲を見回すも、今さっき入ってきたはずの入り口らしきものは何もなく、床だけが明るい。そして吹き付ける風はやけに暖かく、いや熱すぎるほどの熱風。ってかオイ、靴底溶けてんじゃねぇか何だこれ。というか、光が入らず真っ暗なのに何で床だけ明るいんだ
……眼前でマグマが噴出した。いや待て、どこぞの狩りゲーの火山か何かか此処。当たり前のようにマグマが地表に噴出するような場所、人間もネズミさんも居るべき場所じゃねぇぞ本気で
とりあえず移動だ移動。ワケわからんのはまだ良いが此処では直ぐに焼きネズミだ
「ネズミ、あの女の人は……」
レンに言われて気が付くが、そういや居ないなグラス。まさかこんがり焼けてはいないだろうが。何たって今のタクトで耐えられるんだからな。いやでも、魂人ってレベルとか無くて溜め込んだエネルギーによってスペック変わるんだっけ?スリップダメージ特攻で超速で削られて死んだ?いや無いか
「……はぐれた!」
とりあえずマグマには注意して空を蹴って移動。これ空中移動出来なかったら尚文並の堅さ無いと死ぬぞオイ、即死トラップかよ。ずいぶんなお出迎えだな
そうして軽く進むと……寒っ!いきなり空気凍ったぞオイ
何か文句言おうとしたんだろうタクトが口を空けた瞬間に切り替わったせいか喉を抑えて悶絶してる。さては気道辺り凍ったな
……ってマジで凍るわこれ
「………ふざけんじゃねぇ!」
視界の端で車輪が回る。うっすらと見えるプラズマのフィールドが……あ、飛んでると尻尾の先入らない。タクトと尻尾が凍死するわこれ
仕方ないので地面へ。流石に雪崩とかは来ないようだが、滑る。凄く滑る
さては地面完全に凍ってんな?摩擦が無さすぎる。まあ、この俺は当たり前のように摩擦どころか固体がない場所を歩く魔法使ってるんでセーフだが、それなしに普通の靴で着地するとつるっつる滑って何処かへ一直線だ。何か傾いてるし
……マジで何とかしてフィトリアに多少は異能力使えるように戻して貰ってて良かったわ。無かったら即死してる
「……な、何だよ此処……」
息も絶え絶えなタクト。因みに、物がプラズマ化する際には爆発的な熱が……って奴のお陰で俺の回りの極狭い区域だけは普通の温度だ。自分の異能力なんで俺は耐性があるが、周囲は熱で燃えてたりするらしいぞ?ってかそれで空気燃やして攻撃するとかやれるしな、本来の覚醒状態なら。……そんな長くは持たないが、話くらいは出来るだろう。下手に移動したらまた突然環境が激変するだろうし、それに対応できる保証はない。話せる場所で話は終えるべきだ。まあジリ貧になりかねないが
「知らんのか?俺も知らん」
「じゃあ言うなよ!」
もっとも……ではない。分かるか分からないかの共有は……いや全員知らんだろうし意味ないな
「……ゲームみたいだ」
「レン?」
ゲームか。俺みたいな思考するなレン。いや、TVゲーム系は流石に無いけど、ゲーム自体はこの世界にも色々あるので、それが変だとまで言う気は無いが。ってか、何だっけな……
「ああ、あれか。勇者将棋」
思い出した。似たゲームあったわ。将棋と付いてるけど全く将棋じゃないボードゲーム。軍人将棋にはちょっと似てたろうか。勇者側と波の魔物に分かれてフィールドに駒置いて対戦するんだよな確かアレ。3セットやって11ある勇者駒を6つ倒すか拠点を取れば波の勝ち。波の駒はどんだけ倒されても良いし次セットでもう一回規定個数まで使える。勇者駒は倒されたら終わり。基本勇者側が強くて、代わりに波側がセットが進む毎に2セット目から、3セット目から追加の強駒とかあって……。ついでに盤上に火山だの凍土だのデバフ入るクソ地形がランダムピースで置かれてたりするんだっけか。それでも1セット目で勇者駒を減らさなきゃ勝ち目が薄い不平等ゲームだった。何度かリファナやラフタリアと(キールは外で遊ぶ奴なんで見向きもしなかった)やって、基本俺は盾憎しで波選んで盾だけは倒す!と戦力固めたんで良く負けたっけ
よし、無関係だな!いや、何で思い出したんだよ俺
「おれがエリーと作ったボドゲが」
お前製作かよタクト!
「そこそこ楽しかったが多分今は無関係だ」
「じゃあ話題に出すなよ」
今回はもっともである
「……いや、マップチップを跨ぐと激変する辺り、現実味が無い」
「だからといって……」
いや、此処がゲームならば確実にクリアは出来る。いや確実は言い過ぎたな、バグでクリア不能ゲーとかあるわ。とはいえ、開発の想定としてはクリア出来るように作られてるはずだ。例えば、こんなクソ地形のマップでも休息出来る
だがこれは現実だ。あるとは思えない
ん?だが、待てよ?
「全部こんな場所じゃ、囚われてる?きずなって人もとっくに……」
言われてみればそうだ。どんな姿か状態か知らんが、この環境下では勇者風山絆が生き抜くのは無理だ。原作によるとあいつの武器何だっけ?釣竿?いや狩猟具だったか。サバイバルには向いてそうだが、流石にゲームチックなものもある程度まで対応してたとしても流石に生き物が住めないだろう環境に適応する道具は狩猟具ではないだろう
例えば宇宙空間で作業する為の服なら此処の寒さに耐えられるだろうが、宇宙服は狩猟具とは呼べない。そんな感じで、この環境は無理がある
それでもこっちの世界が終ってないということは、絆の辺りは生存できるだけの環境であるだろう。完全に石にされて此処の下に埋められてたりしたら流石に知らんが、それ普通に死んだと判断されるだろうし考えなくて良いだろう
いや、その前に……
「って、刀何処行きやがったてめぇ」
気が付くと刀が無かった。何で逃げてんだお前
いや、違うな
「無くなったのか!?」
「いや、刀を所持してる扱いにはなってるみたいだ」
普通に視界の端に刀アイコン出てるわ。横の歯車がスパークして回転してるせいで見えなかっただけか
「勇者の武器を集める力か!」
「それだタクト!」
そういうことか。グラスとはぐれたと思ったが、多分グラスと刀だけが勇者隔離用の場所に飛ばされ、残ったものを多分死ぬだろって環境に振り落としたんだなこれは。やっぱりクソ迷宮じゃねぇか完全に!刀だけなのは、俺が正規じゃないせいだろうか
これ、振り落とされた俺達側に絆のところに辿り着く道も生き残る安全地帯も無い可能性が高いな?
……知りたくなかった事実過ぎる。どうすんだ
「……終わるのか、ここで……」
あ、タクトが膝付いた。同じ結論に達したっぽいな
「エリィィィィィィッ!」
「戦場で恋人や女房の名前ってのは、瀕死の兵隊が甘ったれて言う言葉だ」
「……リファナリファナ煩かったネズミが!」
……否定が、否定が出来ない……
って漫才してる場合か俺!
「……どうすれば……」
レンが悩んでいるな。いや、あの剣は移動の最中にグラスから返されてたが、剣で何とかなるものでもなし
「タクト、お前のパクった武器今何があった?」
……転生者にすら頼る、マジで終わってんなこの選択
「ってか、鞭については良く分からんが何とかならないか?」
「なるならお前を殺している」
ま、だわなって答えしか帰ってこない。レンとか指先握って必死に暖めてるし、プラズマでバリアも限界が近いな……
ってか、刀さえ呼び戻せれば何とかなる道はまだ……と思うも、正規勇者でない俺にはまず無理。……どうする?
いや真面目に。駆け抜けて推測が間違ってるか探すか?
……そうだな。迷っていても……仕方ない!
レンとタクトをひっつかみ、全力で地を蹴る!