「何一つねぇ!」
雷撃が降り注ぐ空の中、叫ぶ
巡った。それはもう全力で巡ったとも。5種類の場所を
この迷宮……いやクソフィールド?には5つのエリアがあった。最初に居た灼熱の大地、次に辿り着いた魂凍の大地、そこから突き進んだ先にあった今の場所、地面の無い雷の空、その真下に広がる大渦と嵐が吹き荒れる海域、そして……謎の神殿。あの辺りは一見安全そうに見えたのだが……いや、ヤバいと勘が呟いていた。あそこは本気で世界が違う、と。いやこんなファッキンフィールドで何をと言いたいが、あそこ冥界とかそういう場所だと思う。居るだけで魂抜けるようなアレ
つまり、何一つ安全地帯が無い。ついでに一応所有はしてるからか刀の在処は大体分かるのだが…どう飛び回ろうが一切近付くことは無かった。乱雑に切り替わる刀のある方向と距離に途中で考えるのをやめかけた。例えば、今は左側にあるはずだが、此処から一歩踏み出すと右側に存在すると認識するようになる。多分存在している世界が違うんだろう。真面目に空間切り裂くくらい出来ないと脱出方法が見当たらないぞどうすんだ
「……どうすんだよこれ!」
「まあ、俺雷には強いからとりあえず此処にいるとして……」
落雷だらけの空があって助かった。一息付ける。いやおかしいようにも聞こえるが、俺にとってはそういうものだ。いや、俺でなければ真面目に安全地帯無いな此処
「どうすんだこれ」
いやどうしろと?覚醒した復讐の雷霆があったとして、それですら……いや、どうだろう。次元すら越えられるかもしれない。ならば距離を飛び越えて絆の居る隔離空間まで行ける可能性はある。だが、今の俺にそんなものはなくて
『グルゥゥギィァァァァ!』
突如響くのは咆哮。雷鳴に掻き消されない圧倒的な音量が耳を叩く
それは……何度か、といっても全部割と最近聞いたもの。そう、あの化け物の……
空間が歪む。空であったはずの空間が、足を踏み出さずとも当初の床だけが輝く灼熱の洞に切り替わる。そして、その巨大空洞に……新たに輝くソレ。白銀の巨体を雄大にくゆらせる白蛇。白星空蛇ケツアルカトル。角持つ巨獣
「……ケツアル、カトル」
呆然と呟く。正直な話、此処で遭遇するとは思わなかった。いやだがしかし、考えてみれば他の神獣によって作られた場所ならば、神獣であるこいつが現れても可笑しくないといえば可笑しくない。だから何だと言われたら……何だろう。現実逃避か
そして、その巨蛇は……
俺たちには目もくれず、体を丸めてマグマの噴出する大地に横たわった。そして、目が閉じられる
「……って寝るだけかよ!?」
警戒して損した
だが、とりあえず此処が本来どういう場所なのかは想像が付いた。どうしてこんなクソ環境のオンパレードなのかも
「神獣どもの寝床なのか、この洞窟の中のフィールド」
そう。そう言うことなのだろう。そうでなければ、あの白蛇がこんな動きをするとは思えない
「ったく!良い趣味してんな!」
神獣の寝床。5種類ほどあったということは、それぞれの区画が別々の神獣の座なのであろう。言われてみれば、一つだけ海と空と別々に存在していたしな。あそこが恐らくは見たことだけはある神獣ケートスが悠然と泳ぐ場所であったのだろう
「……な、何なんだあのバケモノ……」
白蛇を見てぼやくレン。口をつぐむタクト。いやまあ、初見だと真面目にそうなるわなーとしか言いようがない。突然牙すら自分よりデカイ蛇が出てくるとかマジでビビるわ
「……俺達の敵だ」
「……勝てるのか、これ……」
「しらん!」
せめて勇者武器があれば多少は……いやでもロクに攻撃とか通ってた気がしないなあれ
「多少ダメージは与えたはずなんだが……」
ふと見ると、ある程度地上の温度が下がっている。歩け……なくもないな、ということで降り立つ。大半の熱量が白蛇に吸い上げられている感じだろうか。吹き上がるマグマなんかも無くなっていて
そのまま、目を瞑り眠りこけたっぽい白蛇の頭を見上げる。ちょっと前の戦闘で牙は切り落とせたはず。その傷がどれくらい修復されているかでどのくらい殺せば死ぬのかが見当付くだろう。傷がそのままなら治りは遅い、普通の狩りゲーでも有名なヒットアンドアウェイ戦法が有効と言えるだろう。此処で仕掛けるのも良いかもしれない。いや駄目だわ、この洞窟の高さ200mくらいしか無いのにこんなデカブツが暴れたらタクトもレンも死ぬ。かなりの上空でやりあえた外とは勝手が違う
逆にもう治りだしてるようならば、一気に火力を集中して殺しきるしかない。火力が確保できるまで逃げの一手だ。仕掛けても良いことは……
「……ネズミ!死ねぇ!千条鞭!」
っ!このタクトがぁぁぁっ!
いきなり無数に枝分かれした鞭を振るい此方へ向かってくる金髪少年を、引き抜いた女神乃剣の腹でいなし……
眼が、合った
タクトと、ではない。そちらなど向いていない。白蛇とでもない。目はしっかりと閉じられ、良く見ると傷はまだ残っている。歯茎辺りは再生してるが牙が欠けたまま、そこから炎が漏れている
その炎が形作り、此方を見下ろす炎蛇……外でこぜりあった時にも多久さん居たそれの一匹、この中では親玉クラスに大きいソレと、である
「……っ!レン!全力で飛べ!」
音無き咆哮。炎蛇が何かを叫ぶように口を開き……何かが起こる前に地面を蹴る。そのまま同じく地面を蹴ったレンを尻尾で掴み、宙を蹴って空へ。因みにタクトは鞭が剣に絡まっているのでそのまま引きずっていく
ったく!疲れからか注意散漫過ぎる!タクトに大声で襲い掛かられるまで気が付かないとは!
正直な話、タクトに攻撃されてちょっと助かった面があって困るが、そのまま空へ。MPがそろそろ心許ないんだがどうするか……
白蛇の眼が見開かれる
「うっ!」
「おいレン!大丈夫か!」
「き、気分が……」
胸を抑えるレン。あ、ついでにタクトの奴気絶してるわ。睨まれただけでダメージ来るのかよ。まあ俺には効いてないみたいだし弱い奴にしか効かないって感じだろうか。ケートスも亜人限定で吠えただけで鼓膜破りかけててたしな、似たようなものか
「うわっ!」
床からマグマの姿で飛び出してきた炎蛇にレンが当たりかけ、握った剣で何とか切り払う。ってちょっと歪みだして無いかその剣。やっぱり破壊不能じゃない武器は駄目だな、マグマ斬っただけで熱で歪む。って流石に当然だろ文句つけてどうする
「……さて、逃げるか」
「逃げられるのか!?」
「さて、な!」
神獣の寝床だということは、別領域まで行けば多分追ってこないのだろうが……問題はそこではない。例えば海と空の場所に行ったとしよう。ケートスの奴が此処に帰ってきてたらあの300m級の金色鯨と鉢合わせだ。ついでに雷バチバチしている空はヴェルムートだったかのドラゴンの神獣の場所だろうが見たことの無いそいつまで降りてくる可能性がある。そうなれば真面目に終わりだ。勝てるかそんなもん
俺が進退を悩むなか、白蛇はゆっくりと鎌首をもたげ……その鱗の合間から炎らしき赤い光が淡く漏れ始める。戦闘態勢だ
そして……寝起きの咆哮。物理的な圧力を持ったそれに、俺の体はぶち当たり、吹き飛ばされる
「ってぇ……」
そのまま壁に穴空けて五体で着地。いやこれ着地じゃないな
体が衝撃で麻痺し、眼前で宙に浮かび上がり、光と共に治っていく牙を見ていることしか出来ない。だが、そんな俺の前に……治り行く牙と同じ光を共に一振の刀が現れる
神奉の太刀・白(伝説武器)。俺が勇者武器に眼前の神獣の牙を吸わせた結果解禁された多分原作で言えば霊亀甲の盾とかそこらに当たるのだろう刀。同じ神獣の力に惹かれたのであろうか、別次元に飛ばされていたはずの……特例で使えるようになっている刀が戻ってきていた
「レン!埋まったままで居ろ!どんだけ効くのか知らんが反撃開始してくる!」
その鞘を握り、俺は叫んだ