「あれ、君は……」
そんなふうに呟かれる言葉
ふと見ると、グラスの横には一人の少年が座っていて、まだ腕で抱えられるくらいの大きさの竜をあやしていた
……何で?
いやマジで何でだよ
「……こっちの勇者に頼まれて、助けに来たぞ
お前が風山絆……で、良いんだよな?」
おれの言葉に頷く少年。うん、日本人顔だ。平凡な顔してる。やけに美形でもなく、ちょっぴりのぺっとしたはっきりしない日本的な顔がこいつ多分転移者だろうなと思わせる
「……そっちは?」
「良く分からない向こうの……」
おいグラス、言い澱むな澱むな
「……今だ!」
「今だじゃねぇよタクト、寝てろ」
背後で飛び起きたタクトの足を尻尾でひっかけて転倒を誘う
「うげっ!」
「めんどくさいから黙っとけタクト」
その上に足を置いて抑え込み、改めて向き直る
……で、何て言えば良いんだろうな俺
「俺は……レン、どう言おう?」
「い、いや振られても……元投擲具の勇者とか……」
「いやでもなぁ……半分くらいバレてるし、誤魔化すのもどうかと」
「何をですか」
半眼でグラスに言われる
「まあ良いや、俺はマルス、今はこの刀の所有者やってる」
と、刀を振って答えることにした。因みに此処に嘘は何一つ無い
「ボクはレン。この人の仲間?をやっている」
「そしてこいつはタクト、巻き込まれた転生者」
「て、転生者!?」
「って構えんなよえーっと、風山
こいつが何かしたらぶっ飛ばすから」
「いやいやいやいやいやいやいや!?
転生者ってアレでしょ?色々と武器を奪おうと襲ってくる」
「今持ってんのは二つだな」
「危険すぎじゃん!?何で連れてきたの君!?」
……もっともすぎて言葉に詰まる
「か、考えてなかったのか……」
「なんとなく、今殺してもなと思っただけだぞレン。殺して素直に死ぬなら勇者武器を複数持つ転生者なんてやってない。ってか一回殺したの知ってるだろレン
だから大丈夫だ、こいつはまた生き返るかもしれないが殺せる。最悪の場合殺すさ」
……でも何だろうな、殺しちゃいけない気がする。いや、この世界に来るまではそんな感覚全く無かったんだが。何故だろうか、こいつを此処で殺しちゃいけないような……で、殺す一撃が上手く撃てないのだ。ま、しばくだけなら全く問題ないんで遠慮無くぶっ飛ばすが
「……とまあ、タクトは五月蝿いだけのおまけなんで置いておいてくれ。置物みたいなもんだ」
「というか、所持者?ってことは、新しい刀の勇者ってこと?」
「いや、こいつは俺が持ってるだけで、別に刀の勇者でも何でもないぞ俺
何なら……ほら」
ぽいっと所有権ごと一旦刀を放り投げ、背中の女神乃剣を抜いてみせる
「……えっ」
「いや、単純に持ってるだけなんで別の武器だって持てるぞ」
「……グラス、これ、何?」
これとは失礼な勇者だなオイ。助けに来てやったってのに
「……何でしょう。扇はとりあえず味方と言っている……気はするのですが」
「まあ、扇持った転生者をぶっ殺したら何か懐かれた感じだろうな」
「な、懐くものなのか……」
口をあんぐりと空けてレンが呟くのが、妙に耳に残った
いやなつくぞ?そうでなければ何でクソナイフが暫く俺の所に居たんだよ、本気で逃げようとしたら逃げられたぞアレ
「ってか、転生者なんですよね?」
「そうだが?」
「なら!」
お、絆の奴がドラゴンを頭に乗せて釣竿を取り出した
まあ別に良いので放っておこう。止める気もない
「狩猟具の勇者が命ずる!眷属器よ!繋がる次元の眷属器よ!我が呼び声に応じ、愚かなる力の束縛を解き、目覚めよ!」
ま、来るわな。どうせ使われるだほうと思ったから最初から明かしてった訳で、許容範囲内
俺の手の刀を手放してやると光となって離れ、タクトからも一個浮き上がる……って一個かよしぶといなおい
「おい、隠し持つな、吐き出せよタクト」
タクトの腹を蹴りあげて一発
「ぐはぁっ!」
その体から微かにもう1つ光が浮き上がる。マジでしぶといなおい。どんだけ強い力で捕らえてるんだよこれ
「汝等から眷属の資格を……」
だが、その言葉は……
「うっ!」
胸元に走る一閃、服を切り裂かれ、微かに走る朱に唸り
「ぐっ!」
何かに絞められたように苦しげに喉元をおさえ
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
なんだと思わず俺が睨んだ瞬間に体内から迸る電流によって中断された
『ギィ!?』
「な、何が……」
頭上のドラゴンが五月蝿く鳴く中、よろよろと身を起こす絆
「……マジで何だろうな」
正直俺にも全く分からん
「キズナ!」
グラスが支えるが、大分ダメージいってるみたいだな。いや、何が起こったんだ本気で
何時しか、視界の端の車輪は勝手に回っていて。静かに向こうの勇者を見下ろす
「……こ、これは……まさか……」
「知っているのですかキズナ!」
「……信じるよ、君達を」
その質問には答えず、少年勇者は静かにそう告げた
……いや、何で?
因みに絆を襲ったのは、正規勇者相手に眷属の資格を剥奪しに行った事によるふざけんな俺の/私の/我が勇者がニセモノな訳ねーだろボケェ!という勇者武器によるカウンターです。殺す気はありませんが痛い目にあいたくなければ二度と資格剥奪なんて言うんじゃねえぞ、ぺっ、って奴ですね