パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

135 / 149
虐められっ子

「……いきなりだな」

 ってか、今何が起こったんだ?突然絆の奴が吹っ飛んだようにも見えたが

 

 「ってか良いのかよ、突然攻撃されたってのに」

 車輪を回し、力を巡らす。世界に満ちる微弱な雷……所謂静電気って奴を反応させる訳だ。それが何者であれ、基本的にはこの場の何処かに隠れていれば其処に微かな電気の流れがあるはずなのだ。だから、その反応を見れば突然絆を襲った何者かの居場所は……

 居場所は……

 

 だ、誰も居ねぇなオイ!?

 いや可笑しくないか?ならば誰が攻撃したってんだ?

 突然絆にダメージが行った。それは確かだ。つまり、誰かが絆を攻撃したのも確か。誰かが攻撃しなければ、あんな事にはならない……はずだ

 

 だから居なければ可笑しい。不可視かもしれないが、何かが居なければ……

 そうして、辺りを見回して

 「今だ!」

 意識が逸れたのを待っていたのだろう。タクトの手の中にある鞭が振るわれ、更に絆を襲う

 受けた絆の体から光が放たれ、タクトの手に収まった。その姿は……

 弓矢だな。確かに狩りと言えば古来は弓矢によるものだし、狩猟具ってそんなものなのかもしれない。何かあいつが持ってるとき釣竿の姿してたけど

 「ってタクトォ!やりやがっ」

 「罠抜け!」

 ちっ!拘束解除スキルか!

 突然足が空を切る。踏みつけていたタクトの姿が掻き消えたのだ

 その姿は一瞬にして少し離れた場所にあって

 

 いや、花畑だから緊張感薄れるなこれ。弓を此方に構える幼い少年を見ても、回りが流石に牧歌的過ぎる

 「死ぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇっ!」

 憤怒の形相でちっさな腕で不釣り合いに大きい弓を必死に引き、構えるタクト。本来勇者武器が不釣り合いな大きさになることはないはずなんだが、パクっただけなせいでサイズが絆基準なんだろうな。マジで引きにくそう

 「……ネズミ!」

 「良いよ、レン。なにもしなくて」

 咄嗟に手にした剣を振るって対抗しようとするレンを手で制する

 タクトとは転生者同士、俺が何とかするべき問題だからな。教えてやらなきゃな、現実って奴を

 

 だからだ。一歩も動かず、タクトを見る

 って暇だなオイ。オイタクト、もっと発動の早いスキルを選べよ、お前がスキル撃ってくるの待つの暇なんだが

 絆は少しだけ困ったように、グラスは……って何で呆れ顔してんだ。あと扇スキルの支援は要らないから仕舞っててくれ

 そして、体感1分くらい(たぶん実際は数秒)の後、漸く弓弦を引ききったタクトが勝ち誇ったように唇を動かす

 「うぉぉぉぉぉっ!」

 うわ、凄く腕がぷるぷるしてる。力足りないんだろうな

 「心臓貫(しんぞうぬき)!」

 そして放たれるのはスキルの矢

 それを俺は何もせず右肩で受ける

 ってタクト?大丈夫かお前、心臓だ何だ言ってた癖にノーコンじゃねぇか。もっと良く狙えよ

 

 「勝った!驕ったなネズミ!」

 喜色満面、顔を輝かせて言うタクト

 「……は?」

 「狩猟具の毒矢……即死スキルを撃った。貴様は死ぬんだよ

 驕りから避けもせず致死の矢を受けたその行為でなぁ!」

 あ、そういうことか。ってかあのスキル即死技だったのか知らなかった

 

 で、もうそろそろ茶番劇は終わりで良いか?

 「なあタクト、最後に一つ良いか?」

 大丈夫なのかと見てくるレンに気にすんなと尻尾で答え、一歩タクトに近寄る

 ってか本来の持ち主が慌ててない時点で何となく分かると思ったんだけどな、そこらはやはり転生者か。だから勇者武器を複数持ってた方が強いとか勘違い甚だしい事も思って収集しだすんだろう。正直複数持ってても良いこと殆ど無いのにな

 

 「命乞いか?最期の台詞くらい……」

 「盾に攻撃能力はない」

 「いきなり盾を言い出して、狂ったか?」

 「盾で殴る、ブーメランとして投げる、鎖を付けて振り回す。幾らでも本来盾で敵を殺す手段はある

 だというのに、勇者の盾に基本的に攻撃性能はない。それは、盾が他人を守る力の概念であるからだ。だからこそ、守るものであり他人を傷付けるものではないという概念を持つ勇者の盾は攻撃能力を持たない。何れだけ硬かろうが、普通殴れば死ぬ硬度と重量だろうが。同質量の盾で一般人が殴れば殺せるバルーンすらも、盾の勇者は殺せない」

 「せめて何か分かることを言って死ね!」

 「つまりだな

 それと全く同じことだ。人でないものを狩る武器の概念である狩猟具は……」

 一息に距離を詰める

 その行動だけで、途中で矢は抜け落ちる。ってかそもそも刺さってすらいなかったからなアレ。触れてただけ

 「そもそも人に対してはどんな攻撃も意味を為さない」

 「ゑ!?」

 「……だからな

 その狩猟具では、生まれたての赤子一人殺せないって言ってんだよ」

 弓を手に呆然と立ち尽くすタクトの右手を掴んで締め上げる

 「あいだだだだだだっ!」

 小型化……ってか肉体が子供のホムンクルスっぽいので持ち上げると簡単に足が地面に付かなくなる

 ということで手首を掴んで持ち上げて、縄を投げる前のようにくるくると回す

 「お、わっ!うぇっぷ!」

 うん、案外楽し……って汚っ!吐くなよお前さぁきったねぇなぁ。もうちょっとでかかる所だったじゃないか

 

 「……で、タクト?お前本当にその狩猟具、要るか?

 因にだが……その気になれば、俺はお前の持ってる中から鞭以外になら強引に変えさせられるぞ?

 果たして、何時か俺を殺すだ要ってるが、狩猟具で俺に勝てると思ってんのか?」

 回すのをやめてグロッキーな転生者様に聞いてみる

 「薄汚い獣人が、人なも」

 「そう心から信じれば狩猟具は俺に効くかもしれないが……」

 どうなんだろうな。少なくともメルロマルクのゴミどもは亜人を人間だと認めてないし、そういう人間が狩猟具を万が一持てば亜人にも効く可能性はあるが……

 ってタクトには無理だろ

 「で?お前それお前を慕う……」

 あ、とっさに名前でてこない。原作でも割と沢山名前出てきたし、完全には誰が誰か覚えてられなかったんだよなー

 「トゥリナ相手に言えんのか?

 てめぇは人じゃない、ゴミだってな」

 とりあえず覚えてた狐の名前出しておこう。ってか、いっそアトラでも良かったな。ネリシェンとかのアオタツも考えてみれば亜人だ。龍になって俺に惨敗した印象が強すぎてドラゴン枠に入れてたけど人だわあいつ

 「……ぐっ」

 完全論破。タクトの手から弓が離れ、釣りざおの姿に戻りながら絆の元へ戻る

 

 「……はい、とりあえず調教一段落付いたし、話に戻るか」

 「……何と言うか、凄い性格してるね……」

 何だよ絆、遠い目して

 「控え目に言って酷い性格してますね。これが勇者とは……」

 「いや転生者だが?」

 間違えるなグラス。俺は勇者なんかじゃねぇよ

 

 「……ところで」

 少ししたところで、絆の奴がそう言葉を振ってくる

 「君は転生者なんだよね?」

 「このタクトもな」

 「なら、力って正義だと思う?」

 何だよいきなり

 力が正義か?そんなもの、俺が俺だった頃から答えは決まっている

 「力が正義な訳はないが、正義とは力だ」

 「つまり?」

 「強ければ正しい訳がない。ならば、俺は……かつて世界の殆ど全てよりも正しかった事になる。ついでに、神が世界を侵略するのも正しいことにな。そんなもの正義だって言うなら勇者の真似事なんぞやってない。だが……

 力の無いものは正義足り得ない。俺達が最後に挑むべき存在は力があるから正義だと嘯く神だ。どんな正論も届きはしない。ペンは剣を止められない。ならば、どんな正しくとも正義ではない。ただ、それを間違いだと咎める力あってこそどんなものも正義足り得る」

 「不思議な答えだね」

 「そんなものか?」

 「転生者はみんな、力があるから自分は正義だって言うよ」

 何だそりゃ

 「……うん。だから変なんだよ」

 「元から俺はそうだぞ?」

 ……ちょっと全能感強すぎた気はするけどな、昔は

 

 「……そんな君は、何で神と戦うの?転生者なのに」

 「俺は転生者だ。御門讃だ

 ……でもな、俺は同時にあの世界で生きてきたネズミさんでもあるんだよ。そのネズミさんとしての心が叫ぶんだ。リファナを……リファナの生きる世界を俺は守りたい、ってな。そりゃ生きてるんだ、大切な相手くらい出来る。それだけだろ」

 凡百の転生者と差があるとしたらそこ……じゃねぇな普通に考えて。女神がロクなものじゃないと読んだあの小説で知ってるからこんな行動が取れるだけだ

 「……タクト?お前は何だ?何故そんなに力を求める?」

 じゃあ同じ転生者のタクトはどうなんだろう。ふと思ってそう聞いてみる

 「力があれば、皆が俺を認めてくれる!蔑んだり、傷付けたりしてこない」

 ……これが、最強の転生者の本音か

 生来あんな俺様じゃなかったんだろう。ってか、前世は虐められっことかだったのかもしれない。あの軽薄なものは、弱い自分を覆い隠す鎧みたいなもので

 よし、なら俺のやりかたは合ってるな。トラウマ刺激して俺には勝てないと怯えさせとこう

 

 「……なら、一個で良いんじゃない?」

 「……強くならないと、全部奪われる。エリーみたいに」

 何か素直に答えるな今のタクト

 「ん?俺はお前の幼馴染にはなにもしてないぞ?」

 「……昔飼ってた……犬」

 あ、前世でエリーって犬飼ってたのか。そっちか

 「……泳げないのに、川に投げ込まれて……止められなかった

 ……力がないから、何も、出来なかった……」

 ……こいつにも色々あるんだろうな

 

 だがリファナの敵になるなら死ね

 

 「……だから、強くならなきゃいけないんだ。全ての勇者武器を手に入れ、誰にも負けなくなって!

 もう何も奪われないために。だから、だから……

 お前は、お前はっ!皆を傷付け、殺し、苦しめるお前はっ!死ぃぃぃっ!ね……」

 「……これ以上言ったら魂まで殺すぞ、てめぇ」

 睨み付ける俺に、その幼い少年は拳を下ろして黙りこくった

 まるで、虐めの主犯に出会った虐められっこのように

 そんな光景を、生暖かい目で残り三人が見ていた




注意:原作タクトに前世は虐められっ子だったとかそんな設定はありません、オリジナルです
まあ、この作品では仮にもライバル枠でメインヒロインなので…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。