パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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前世の因縁

「……ん?何これ」

 ふと気が付く。タクトの奴がじっと此方を見ていることに

 

 あ、眼逸らした

 面白いなこいつ。此方から見るだけで逃げるが、見てないと此方をずっと見てる

 変な奴。まるで恋する乙女……って気持ち悪いな、自分の事ながらその発想はどうなんだ。そもそもタクトに好かれるはずもなく、万が一こいつが実は全部引き剥がされてズタボロにされたいが故にあんな事していた救いようの無いド変態であってボコボコにしたから気に入られたとしたら……こっちから願い下げだそんなもん

 ってか、リファナ以外正直ノーサンキューで

 

 ってかそもそもタクトは男……か?ん?

 いや、何か違和感があるんだよなタクト。ハーレム築くような奴が男じゃない訳がないだろ!と言われれば当然その通り、その通りなはずなんだが……何だろうこの違和感は

 ってか、こいつどうなんだ?って思うような所がいくつかある。ちょっと男に対して頑なな所とかな。いや、普通に考えてさ?周囲に女の子しか居ないってマジで精神疲れないか?少なくとも俺は嫌だ

 ルロロナ村時代の俺も幼馴染が三人とも女なんだが、キールはぶっちゃけ同性の友人枠だというか……。一番気楽で、何でも話せたのはキールだ。ぶっちゃけ、キールが居なければロクに二人と仲良くなれなかっただろうなと思う。いや、リファナを好きにならないとか、キールのが好きとかそんなんじゃないが、キールとが一番気負わなくて済んだから、キール通して話せるようにって話

 

 ……俺のせいで、もうあいつは何も話せないんだが

 

 閑話休題。それは絶対に片時も忘れてはいけない事だが、今の考察には少なくとも無関係だ

 そうだろう。正直な話、ハーレムだ何だ言っても男を徹底的に排除するのは違うと思う。自分の女に他の男の影があって欲しくない?そんな信用されてないのかよあいつらって話だ

 御門讃時代にだってそんなにハーレムものの小説なんて読んだことはないんだが、それでもだ。男友達の一人すら居ないハーレム主人公は作品の世界観的に男が極端に少ないとかそんな作品でもなければ居なかったと言いきれる。いや、ほぼ出てこない作品はあったが、ヒロインの一人が男のフリしてた時妙に積極的という感じで多分同性の友達が本気で居て欲しかったんだろうなって感じだったからそこは良い。要る要らないで言えば要る側なんだしな。それに何より、原作の尚文だってそうだろう。女に囲まれまくっていて、それでもそれを良しとしてはいなかった

 ってか、元康の例のが正しいな。原作(本来の世界)、或いはこの世界の序盤の彼は正にハーレム系主人公って感じだった。だが、自分以外NPCか何かかと思ってるようなその時期ですら、尚文は兎も角残り二人の勇者とはそんな悪い関係ではなかったはずだ。寧ろ、仲間意識とか色々とあったはず

 だのに、タクトは違う。男というだけで、最初から敵対心を剥き出しにしている。女には何か最初は甘そうなのにな。ってか、恐らくタクトハーレムの中にだってクソ転生者とか混じってるはずだが見逃している。けれども男は友達になれるかもしれない、仲間になれるかもしれない。そんな全てを通り越して、最初から敵視している

 それはハーレムの夢に取り憑かれたというより……寧ろ、男性恐怖症とでも言うべきではなかろうか

 

 それが引っ掛かるのだ。いや、男でも男性恐怖症は居ないとは言わないが……。ゲイのおっさん数人に囲まれて一昼夜尻を滅茶苦茶にされたら男だって大半は男性恐怖症になるだろ普通。いや、人間不信まで行くかもな

 あとは、ふと変な記述を思い出したのだ。ですぞ元康の話、『槍の勇者のやり直し』……有り得た可能性の世界において。タクトの顔だけ良く分からないとか

 あの元康、案外人の顔しっかり分かっている。ですぞフィーロたんですぞフィロリアル様フィーロたんですぞフィーロたんですぞで狂いきってるように見えて、案外冷静

 そんな奴が、たった一人だけ上手く認識できないという。それは変じゃないか?

 いや、此処に他にもロクに認識出来ない奴等……女が居るじゃないか。だとすれば、タクトが実は女だとすれば辻褄があう

 何か豚っぽい。いや、()だ。だが、タクトは男のはず。だが豚だ。そんな筈がない。なのに豚に見える。その視覚と脳内の齟齬がタクトの顔を認識できないという事態を産み出していたんじゃないのか?

 あとは、盾の勇者の成り上がりにおいて。盾かよ要らねぇとか散々言いながら、タクトは実質初登場のあの時、まずは尚文から狙った

 それがそもそも絶対に可笑しい。尚文に個人的な何かが無いならば、タクトの性格上まともに使えないし使えるとも思っていない盾から狙うなんてあり得ない。盾に攻撃力ねぇぞと言うだけで他の狙いに行ったこの世界での行動からそれは分かる。ぶっちゃけ、あいつ防御軽視してるから盾欲しがらない

 盾を脅威と思っていた……はずもない。俺が最初に遭遇した時と同じで、レベル差があって沢山の勇者武器がある自分が負けるはずがない、そう思っていたはずだ

 盾?防御?無意味に決まってる。そんな認識で、まず盾を狙うとか普通のタクトらしさが欠片もない。では、何故盾からなんだ?

 尚文を恐れていたからじゃないのか?あの中で、強姦したとかそういった女の敵みたいな噂が流れていたのは尚文だけだ。だからタクトは最初に女の敵を無力化したくてわざわざ本人的には要りもしない盾から狙った……ってのは考えすぎだろうか

 

 ってマジでどうでも良いな!タクトが万が一実は女で強姦被害者か何かで男性恐怖症から女しか寄せ付けなかったとして、だから何だよ。それが俺のやることに何か関係あんのか

 俺はタクトでもですぞになる前の元康でも何でもない。女だろうが、リファナの……ひいてはこの世界の敵となるなら死ね。それだけだ。世界の太陽であることを、俺は瑠奈と約束したのだから

 男女も種族も地位も無関係。女神様だろうがタクト様だろうが神獣神様だろうが尚文様だろうがネズミ様だろうが敵なら死ね。マジで無駄な考察した、とっとと忘れよ

 

 「何か、考え事?」

 「いや?レンが同名の剣の勇者だったらなーって方がまだ建設的な無駄な事」

 聞いてくるレンに頭を切り替え、改めて眼前の勇者に向き直る

 

 「で、何でこんなところでドラゴンをのんびり育ててるんだお前」

 「えっと、話すとこっちもちょっと長くなるんだけど……」

 「いえキズナ、話してください」

 グラスに言われ、素直に此方の世界唯一の四聖勇者は口を開いた

 

 その内容は……要約すると、世界を救うにはドラゴンが必要なんです!と請われてドラゴンを育成し出した、という事だった

 「いや怪しめよ」

 「転生者から安全な場所となると……って事を言われてね」

 あはは、と楽観的に笑う狩猟具の勇者

 「んなもの全部返り討ちだ!って……言えたら苦労しないわな」

 狩猟具に攻撃性能が無さすぎる

 「っていうか、それを苦もなく言えるほど、相手は甘くないよ」

 「……こっちの世界の最強転生者様なら今此処で借りてきた猫ってかネズミに睨まれたタクトやってるけどな」

 「それは…向こうの戦力の問題かな

 こっちには、3人しか勇者が残ってないのに対して、そちらの世界は……」

 「四聖で4、馬車が過去の波からの継続で1、杖が半分見放されてて0.5、残りが転生者二人に持ち主無し4なんで合計5.5だな。いや、タクトのパクってた奴を一個、元の武器取られてるらしいこっちの勇者に送ったんでそれを含めて良いなら6.5。そっちに含めるなら5.5だ」

 「つまり、8.5と3。差が大きすぎるよ。いや、7.5と4って言っても良いかもだけど」

 オイこら。俺と恐らくタクトを含めるんじゃあない。いや、何でか味方扱いしてくれる分には良いんだが

 

 「それに、そっちはそれだけ勇者が多いから、転生者達だってそんな怖くないでしょ?」

 「パクってくるくらいだな。それもタクトの奴が集めた上でボコボコにされてくれたんでそんな隠し持たれてないし」

 「ええ。そこは危険です。それが一人に集めてくれていれば楽なのですが」

 実際取られた事がある勇者が言ってらっしゃる。やっぱり説得力が違うな

 

 「でも、この世界の転生者はとても危険で」

 「そ、そんなに危険なのか」

 少しの怯えを含め、レンが聞く

 「勇者……様の武器を奪うよりも?」

 「うん。危険だよ

 彼等は……カイザーフィールドは」 

 「カイザーフィールドぉ?」

 嫌な名前だなーオイ

 

 因にだが、転生者って何か妙な符合がある事が多い。例えば俺がぶっ殺した投擲具持ち転生者のユータ・レールヴァッツだが、あいつの転生前の名前は小野寺裕太か何かだったと思う。眼前でちらちらしているタクトも、転生前の名前はなんちゃらタクトのはずだ。柘兎なのか拓人なのか巧斗なのか知らんが、って最初だけは無いな。自意識過剰な正義の味方でもあるまいし、男に兎って名前を付ける毒親そうは居ないだろ。それだけで兎野郎って苛めになりえるぞ

 つまり、転生者は、何人もの転移者によってそれっぽい名前が割とありふれたこの世界において、元々の名前に縁ある名前の子供として転生することが多いのだ。その割に俺はミカドでもサンでもカイザーフィールドでも無かった訳だが

 

 「なあ、グラスに風山

 一つ聞きたいんだが……その厄介な奴って……」

 「うん。奪った勇者武器を振り回す危険そのもので」

 「んな当たり前のことを聞きたいんじゃなくて

 そいつ、セーオとか何とかいう名前じゃないのか?」

 「……何故、それを」

 ぽつり、とグラスが呟く

 「え?何で知ってるの」

 「……マジ、か」

 「ええ、冷酷兄妹の兄の方。ラルクベルクに二度と治らない傷を追わせた最悪の転生者」

 「リョウって司令塔のもと、刀の勇者さんとかを殺した悪魔。その名前が」

 「「セオ・カイザーフィールド」」

 「セオ、星追

 御門星追(セオ・カイザーフィールド)

 そうだとも。俺が女神によって転生したならば。俺すらも女神に眼をつけられるならば。普通に性能の高い異能力を持ち、俺を更に煮込んだようなクソ煮込みな性格をしたあいつが……親父が転生者として眼を付けられてない筈がない

 こっちの世界に居やがったか、瑠奈の仇。クソ親父が!

 

 「……知り合い、なのか?」

 「知り合いというか、恐らく、父親だ

 前世の、だけどな」

 そんな俺の言葉を、うわぁという表情で知り合いらしき二人の勇者が見ていた


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