パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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魔竜と絆

「っ……」

 絶句する金髪ショタ……じゃないな、顔立ちだけは良いんだが、中身が腐ってるから金髪クソガキのタクトは置いておいて、話を進める

 

 「風山絆。俺は確かに御門讃だ。だがネズミさんという事で頼む

 でだ。話を戻すが、何でドラゴンなんて育てなきゃいけないって説得されたんだよ」

 「そうですキズナ。貴方はドラゴンがそんなに好きではないでしょうに」

 「うんまあ、そうなんだけど」

 ん?どうしてだろうな。男の子って大抵好きだろ、ドラゴン

 

 「ん?何で嫌いな訳?」 

 「まあ、昔は良かったんだけど……

 実は、波の前から召喚されていたんだ。魔竜を、倒すために」

 魔竜、ね

 「ああ、成程。家の世界における竜帝みたいなアレか。似かよってるなー、ま、融合するには似てなきゃ無理か」

 地球系世界とこの世界……仮に盾系列としよう。そんな異物二つを融合させようとしてもまあ無理だろ、常識的に考えて。だが、ファンタジーな世界同士なら案外簡単に融合出来るんだろう、知らんけど

 「うん。凄く大変で、そこからあんまりドラゴンは見たくない……って、グラスには言っていたんだけど」

 「けど?」

 「魔竜の力が必要になった」

 ……ほう

 

 「残りの守護獣は全部倒されちゃったんだよね?」

 「キョウが向こうの守護獣を何とかして奪えないか、それで結界を張れないかと向かいましたが……」

 「オイ」

 半眼で突っ込む

 

 「何度かスルーしてきたが、いい加減言わせろ

 それは、俺達の世界の守護獣解き放って操り大虐殺するって意味じゃないのか?」

 「……そう、なります」

 「最後の手段に近いんだけど、ね……」

 バツの悪そうな二人

 「よし風山、一発殴らせろ

 

 安心しろ。痛みは無い。感じるような時間は与えないから、大人しく消し飛べ」

 「いや、殺しは駄目だろ」

 レンに手を握られて止められる

 

 「気にするな、本気じゃない。ネズミさんジョークって奴だ

 どうせ、いざとなればフィトリアが止める」

 にしても、武器握ったこと無いとかじゃなかろうに、結構柔らかいなこいつの手

 いやどうでも良いや

 

 「でだ。恐らく失敗するその計画はまあ置いておくとしよう。フィトリアの存在を知らなければガチギレしてたと思うが、あいつが居るからきっと大丈夫だろうし」

 大丈夫だよなフィトリア?

 世界が違うのでノイズの酷いコール・フィトリアだが、まっかせてー!と聞こえた気がするので信じよう

 天木錬が行方不明、樹は多分原作通り霊亀を倒して一気に教化!なんて思わないだろうし、元康は牢屋だ。原作通りに三勇者が霊亀を解放する事は恐らく無い。錬?お前は全然見かけてなかったけど大丈夫だよな?お前原作ゲームでは弱かったからって解放しに行ったりしないよな?この世界はゲームじゃないぞ?

 

 「で、魔竜が必要になった……てのは、最後の切り札として、か」

 「最後の守護の獣。不滅の魔竜。暴れまわったがゆえに勇者によって滅っせられ、眠りについた伝説の巨竜」

 「……最近まで生きてたなら何とかなるか

 ちなみに、こっちのは復活不能だぞ」

 「おや」

 「太古の昔にバラバラにされてな。今は大きな欠片の一つを転生者の親玉が死蔵してて、残りの大きな欠片がこのタクトのドラゴンが食ってる。どう足掻いても現状守護獣としての正規降臨は不可能だ」

 ……有り得た世界では降臨して結界を張ったこともあるらしいけれども、あれ結果的に守護獣としての役目を果たしただけであって、守護獣として出てきた訳ではない。狂乱してタクトの居ない世界滅ぶべし!と滅ぼす気で向かってきた結果、世界の2/3を殺して条件達成し、それでも止まらず討伐された後、2/3が守護獣によって殺されたから結界が完成したぞと後付けで丸く収まっただけ。この世界でもそれは同じだ

 原作霊亀も、原作鳳凰も、人を殺しに行ったのは守護獣としての役目を果たすため。人々を殺し、その魂でもって神を遮断する結界を張るためだ。だからあいつらは、世界の2/3を殺した時点で止まる。その時点で生き残った者に対して何もしてこないし、その後でならば何なら自分を殺して素材を得ようとする者達に大人しく体をむしられるだろう

 だが、応竜……竜帝は違う。止めを刺さない限り、世界が滅びるまできっと止まることはないだろう。本来解けないはずの応竜の封印を強引に解くとは、それだけの止まらない激情が必要なのだ

 

 「バラバラに……」

 「何でも、フィロリアルっていう馬車を引く鳥の女王が、応竜としての存在を保てない程に引き裂いたらしい」

 「そ、そうなんだ……」

 あ、絆が引いていらっしゃる

 「そちらの守護獣にはそんな存在が」

 「いや、勇者」

 「勇者が守護獣を……いや、止めようか」

 遠い目をして言う絆。グラスの奴も頷いている

 

 「……良く分からないが、その勇者の味方であるはずの守護獣?を殺してしまったのか?」

 と、ぽつりと聞くレン

 おい、空気を読んでくれ

 

 「魔竜はそのうち復活するし、散々好き勝手してて被害も大きいし、他の守護の獣が居るからって事でまだ良かったんだけど……」

 「ええ。二体は転生者によって葬られましたが……」

 「まさかあれが、守護の獣の一体だったなんてね……」

 ああ、ついうっかり

 

 原作尚文達も失伝からか守護の獣を霊亀、鳳凰とぶっ倒してるからな……。まあ、あいつらが本来世界を守る側だという伝承を削り取って人を殺す脅威の部分の話だけ後世に残した悪魔と転生者が一枚上手だと誉めるしかない

 

 「いやでも仕方ないよね!靴の勇者も居たんだし!」

 「此方の伝承が消失してたのが悪いとはいえ、まさかあの忌まわしき大妖怪が守護の獣だったとは」

 「妖怪かぁ……」

 此方の守護の獣って方角の守護獣って感じで日本でも語られる奴らに近い姿だからまだ分かりやすいが、化け狐とかなら敵かと思うわなそりゃ……。人化して狐耳美少女になるならば味方認定ワンチャンあるかってところか

 ま、神たるラフタリアに言われたことによると神獣ってのも滅んだ世界の守護獣だったらしいし、白蛇姿の守護獣やら鯨姿の守護獣が居るなら妖怪姿も居るわなそりゃ

 

 「で?その靴の勇者ってのは?」

 「皆を、逃がすために転生者達に向かっていって……」

 妙に申し訳なさそうに頭を下げて言ってくる狩猟具の勇者

 いや、別に俺に謝られても……

 

 「レイジの喪失は痛手ですが、キズナが謝る必要は何も」

 ……レイジ?零路?

 「風山?靴の勇者って天笠零路って名前か?」

 こくり、と頷かれる

 

 「……御免。聖武器の勇者が死んじゃいけない。元の世界では死んでるようなものな俺が引き受けるって、一人で……」

 「……あいつ、らしいよ」

 お前なんだな、零路。クソ親父達に俺が自殺しても可笑しくないようにというお膳立ての為だけに足を轢かれた、俺の親友

 何だよ、二度と走れない怪我して、折角勇者に選ばれた事で多分また走れるようになってさ

 

 それなのに、見ず知らずの世界の皆の為に命を懸けられるなんて……俺よりよっぽどイケメンでモテたお前らしいよ

 ああ。分かってるよ零路。最初から分かってるんだ。補強されただけ

 

 (御門讃)だって、お前の友達なんだから

 

 「で、守護の獣が他全滅しちゃったから、慌てて魔竜をとっとと蘇らせないと!って話に」

 「うん。タマモって、あの妖怪の守護獣を管理してた一族の末裔の女の子に言われて」

 「騙りを疑わなかったのか」

 「昔あの獣が封印されていた場所です。ここなら転生者も手が出せません。波にも向かえませんけど、これしか手は無いんです!って言われたら……ね」

 「ですね」

 頷くなよグラス

 

 「で、魔竜の為にドラゴンを一から育てだした……」

 不意に、脳裏に響く警鐘

 音ではない。光でもない

 ただ、直感だ。来る、という。それは、雷の如く……

 

 「レン!避けろ!」

 言いつつ、自身は空へ

 

 何事かと思いながらも、咄嗟に皆が散る

 その囲みの中、花畑のド真ん中に隕石が落ちる

 

 ケツアルカトルに吹き飛ばされてきた俺達を遥かに越える威力で、花だけでなく辺りの土すらも大きく巻き上げてカーテンとして、巨大な何かが撃ち込まれた

 

 「……やーっと見つけたぜぇ、きーずなくぅーん?」

 軽薄そうな笑みを顔に張り付けた一人の少年

 身なりは異様に良い。流れる水のようにはためくマントに目が行くが、それ以外も白を基調とし、金の刺繍が目に眩しい高級品。そしてそれに相応しい深く整った顔立ち

 だが、似合わない意地悪い薄ら笑いが全てを台無しにし、服が浮いているようにも思わせる

 その手には、巨大な鎌。足先の靴は、竜の甲殻か何かで出来ているのか貴族らしい服とは裏腹の、魔物鎧の冒険者っぽいもの

 

 だが、そんな全てがどうでも良い

 この声音だ。忘れるはずもない

 忘れたくとも、忘れられない

 「狙ったものを射抜く力。それは、障害すら越える

 世界すら、越えるか」

 「ったく、使いきってから30日、長かったぜぇ、よーやく会えたんだ。玩具になって死んでってくれよぉ、きーずなくん

 お前の顔立ちなら、ワンチャン男色行けるかもって言っておいたが、尻はしっかり洗って待ってたよなぁ?」

 くつくつと嗤う、その少年

 今の俺より年上で。でも外見は年下なその男……セオ・カイザーフィールドは、ただ、其処に立っていた


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