「……ルナ、俺は……」
「うん、ルナはちゃんと分かってるよ、おにーさん」
どこまでも、眼前の
「馬鹿な事言ってないで帰るぞ、ルナ!」
何時でも殺せた。何度だって殺す機会はあった。タクトよりも、何倍も容易くその命を奪うことが出来た
魂さえも、斬り払う事だって
それでも、やはり
刀を鞘に収め、踵を返してそう返す
「うん、そうだよおにーさん」
その声に、嬉しそうに儚い少女は頷いて
「だから、もう馬鹿な事は止めよう?」
「かはっ……」
眼前で、事態を見守っていた少年が……風山絆が、血飛沫をあげた
「……え」
俺の手には、しっかりと勇者武器たる刀が握られていて。その刃は、主君たるべき狩猟具の勇者の血を湛え、赤く煌めいていて
「だっておにーさんは、ルナの大事なおにーさんだから
そんな危険な人達、早く片付けてね」
表情も、口調も、何一つ変えず
何時も通りのペースで、ルナは言う
「いきなり、何……を」
その声を聞いたと思った時、俺の手は刀を振るい、グラスの扇と競り合っていた
「ルナぁっ!」
「そんなに怒らないで、こわいよおにーさん
ルナはただ、おにーさんに護って貰ってるだけ。昔みたいに」
「っ!」
地面を蹴って飛び下がり、グラスと距離を取る
絆は気になるが、今それをどうこうしている余裕はない。寧ろ、恐らくだが……今の俺は、近づいちゃいけない
「ルナ、お前……」
「うん。それがルナの力。神様から与えて貰った奇跡
おにーさんが、ルナをまもってくれるの」
事も無げに、いや、寧ろ嬉しそうに、少女は残酷な言葉を呟く
「俺限定の、操作能力……」
「俺じゃないよ、
あと、ルナおにーさんを操作なんてしてないよ。ルナは、おにーさんにまもってって言ってるだけ
その醜い勇者さんを殺そうとしたのは、ルナを護ろうとしたおにーさんの意志」
「ネズミ、アナタは!」
自由意思と聞き、グラスが吠える
そういうことか!
ルナの転生者能力は、瑠奈を護りたかった俺の想いの増幅。父親を殺してでも、仇を討ちたかったあの日の想いの再現。瑠奈を傷付け、殺しうる奴等へ、我を忘れた怒りを呼び覚まして攻撃して貰う力
「ったく、ふざけた力だ」
「それが、そうでも無いんだよ、さぁぁぁん!」
随分と空気に徹していた星追が迫る
だが、流石にそんなもの、避けられない道理はな
「何っ!?」
突如、その軽薄な姿が加速した
雷鳴を纏い、瞬時に俺の横へと現れて……
「ファスト・ブリッツクリークⅦ!」
「『セブンリーグ』!」
魔法による瞬間転移
だが、それに追い付ける足は奴の靴にもあって
「くふっ!」
脇腹に一発
「その、力は……」
俺と同じく髪が蒼白く輝き、元々跳ねたそれが逆立ちかけた血色の眼を前に、呟く
「ルナの力は本来お前に作用するものじゃねぇのさゴミ息子
御門讃に護って貰う力?そんなもの女神様の力にあるかよ。限定的に過ぎるし無意味だったはずだ。護ってくれる人を、
つまり……オレはあの時てめぇに殺されたおとーさんであり、あの時オレを殺したあの雷を纏うおにーさん」
唇を吊り上げ、雷を纏い、男は告げる
「だからそれは、お前じゃなくて御門讃のものだろう?」
「ぐがっ!」
抵抗など無意味。持っていた勇者の刀が弾かれ、奴へと飛んでいく
「そう。これで良いんだ」
飛んできた刀を左の手に握り、うんうんと奴は頷く
「ルナぁっ!」
「ダメだよおにーさん。混乱が治るまで危険だよ?」
悪意無く、敵意無く。ただただ、少女はそれを良しとして
「これでオレは、
単なる御門讃が、勝てるわけねぇだろうがよぉ!どぅーゆーあんだーすたん?」
怒りに染まった血色の眼で。けれども、その身に怒りは無く
「おらぁっ!『真空波』」
「っ!風山!」
振るわれる刀、吹き荒れる風
空間を薙ぐスキルの発動に、咄嗟に狙われたこの世界唯一の四聖を庇い
「『キャスリング』」
俺が使ったこともあるスキル、四聖と入れ替わるソレをもって、庇いに入ったその位置に、奴の姿が現れ
「『残念だったな間抜けぇっ!』」
「トォォォル・ハンマァァァァッ!」
持ち出してきた最後の一本、稲妻を放つ手鎚を引き抜いて放る
「効かねぇんだよ馬鹿がぁぁっ!」
だが、そもそも俺自身持って雷が来ても普通に耐えれるし、という事で持ち出してきた武器。同じく雷鳴を……俺と同じ復讐の雷霆を纏うクソ親父には通らない
「んなこと、知ってるんだよ!」
だが、奴は御門讃であって、俺じゃない。あの雷があるが故に効かないなんて、頭では分かっていても思わず迎撃の構えを取る。俺ならば効かないと切り捨てて突き進む場所で立ち止まる
欲しかったのは、ただその一瞬
「っらぁっ!」
駆け抜け、尻尾でまだまだ使うはずの撥ね飛ばされた女神乃剣を回収。どうしていいか分からず、敵でも味方でもない転生者の眼前にまで走り
「悪いな、借りるぞ。永遠にな」
奪えない鞭はもう放っておいて、一回死んだタクトが手放さなかった三つの勇者武器のうち、まだ残る一つへと手を伸ばす
捕った!
「何をするか知らねぇが、無駄なんだよぉ!単なる親不孝がぁっ!」
「無駄じゃねぇよ、クソ親父」
最後の一つ、鎚を手に
っておい、逃げんな。いや分かっちゃいたんだが暴れんなお前!
「ふん。別の武器を奪おうが、この俺が御門讃なんだよぉ!
刀を奪った……いや、一時的に
だが、俺の手を逃れようとする鎚に変化はない
当たり前だ。こいつは俺を勇者として欠片も認めていない。原作で言えば、槍の勇者のやり直しって呼ばれていたループ世界において、明らかな転生者が抜けた!やってた時の状態そのもの。逃げ出せないが抵抗している状態
御門讃のものではない(寧ろ刀が俺のもの判定受けてたのがマジかよ感ある)勇者武器に、御門讃のものを返せと言おうが何一つ意味はない!
抵抗が激しく強化は不能
だがスキルは撃てる!充分すぎる!
「『大震撃』!」
大地を鎚で叩き、揺らす
局所的な地震を起こすスキル。大地を揺らし
「うわっ!」
バランスを崩すのはタクトくらい。レンとグラスは、あ、レン側はギリギリバランス取れてるくらいか。ルナの奴は……恐らく、魔法だろう。地面から数cm浮かんでいて無効化していて
「効くわけねぇんだよ!」
雷を纏い、空を駆ける奴に効果はやはり無い。実際俺にもそうやって無効化されるだろう
だが、それが目的。てめぇは必ず、空に居る!
「リベレイション・ボルテック・コイルⅡ!」
放つのは一つの魔法
地面の下に雷を放ち、磁力を纏わせる!
そうだ。だから空を飛ばせた。この瞬間に地上に居なかったもの全ては……磁力を持つ大地という巨大な磁石に引かれ、墜落する!てめぇが勇者武器を持つならば、それは鋼。逃れられると思うな!
「だから甘いんだよこのクソがぁ!」
だが、そんなもの普通の理屈
奴は地面へと転移してそれを無効化し、俺へと迫る
「『バスターホォォムラン』!」
だが、そこまでは想定内
もう一発、スキルで迎え……
「成程、てめぇの使う魔法はこうか!
リベレイション・ブリッツクリーク!」
「がっ!」
電撃戦。その名のままに俺の手首が切り裂かれ、背後に奴が出現する
「リベレイション・スカイウォーク!」
「リベレイション・スカイウォーク?」
空へと足を踏み出すも、完全に動きは同じ。いや、ステータスの分向こうが速いか!向こうの方が詠唱遅かったくせに良くやる!
「らぁっ!」
「っ!」
抵抗はしない。飛び起きるためにわざと蹴りを食らい、地面へと落とされて
「おらおらおら!てめぇまだ何かあんだろ?
見せてくれよぉ!オレが最新最強の御門讃である為によぉ!」
何かが、キレた