パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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ルナのおにーさん

「……ルナ、俺は……」

 「うん、ルナはちゃんと分かってるよ、おにーさん」

 どこまでも、眼前の転生者(いもうと)は優しく笑って

 

 「馬鹿な事言ってないで帰るぞ、ルナ!」

 何時でも殺せた。何度だって殺す機会はあった。タクトよりも、何倍も容易くその命を奪うことが出来た

 魂さえも、斬り払う事だって

 

 それでも、やはりネズミさん(御門讃)最愛の妹(御門瑠奈)は殺せなくて

 刀を鞘に収め、踵を返してそう返す

 「うん、そうだよおにーさん」

 その声に、嬉しそうに儚い少女は頷いて

 「だから、もう馬鹿な事は止めよう?」

 「かはっ……」

 眼前で、事態を見守っていた少年が……風山絆が、血飛沫をあげた

 

 「……え」

 俺の手には、しっかりと勇者武器たる刀が握られていて。その刃は、主君たるべき狩猟具の勇者の血を湛え、赤く煌めいていて

 「だっておにーさんは、ルナの大事なおにーさんだから

 そんな危険な人達、早く片付けてね」

 表情も、口調も、何一つ変えず

 何時も通りのペースで、ルナは言う

 「いきなり、何……を」

 その声を聞いたと思った時、俺の手は刀を振るい、グラスの扇と競り合っていた

 

 「ルナぁっ!」

 「そんなに怒らないで、こわいよおにーさん

 ルナはただ、おにーさんに護って貰ってるだけ。昔みたいに」

 「っ!」

 地面を蹴って飛び下がり、グラスと距離を取る

 絆は気になるが、今それをどうこうしている余裕はない。寧ろ、恐らくだが……今の俺は、近づいちゃいけない 

  

 「ルナ、お前……」

 「うん。それがルナの力。神様から与えて貰った奇跡

 おにーさんが、ルナをまもってくれるの」

 事も無げに、いや、寧ろ嬉しそうに、少女は残酷な言葉を呟く

 

 「俺限定の、操作能力……」

 「俺じゃないよ、御門讚(おにーさん)限定

 あと、ルナおにーさんを操作なんてしてないよ。ルナは、おにーさんにまもってって言ってるだけ

 その醜い勇者さんを殺そうとしたのは、ルナを護ろうとしたおにーさんの意志」

 「ネズミ、アナタは!」

 自由意思と聞き、グラスが吠える

 

 そういうことか!

 ルナの転生者能力は、瑠奈を護りたかった俺の想いの増幅。父親を殺してでも、仇を討ちたかったあの日の想いの再現。瑠奈を傷付け、殺しうる奴等へ、我を忘れた怒りを呼び覚まして攻撃して貰う力

 「ったく、ふざけた力だ」

 「それが、そうでも無いんだよ、さぁぁぁん!」

 随分と空気に徹していた星追が迫る

 だが、流石にそんなもの、避けられない道理はな

 「何っ!?」

 突如、その軽薄な姿が加速した

 雷鳴を纏い、瞬時に俺の横へと現れて……

 「ファスト・ブリッツクリークⅦ!」

 「『セブンリーグ』!」

 魔法による瞬間転移

 だが、それに追い付ける足は奴の靴にもあって

 「くふっ!」

 脇腹に一発

 

 「その、力は……」

 俺と同じく髪が蒼白く輝き、元々跳ねたそれが逆立ちかけた血色の眼を前に、呟く

 「ルナの力は本来お前に作用するものじゃねぇのさゴミ息子

 御門讃に護って貰う力?そんなもの女神様の力にあるかよ。限定的に過ぎるし無意味だったはずだ。護ってくれる人を、御門讃(おにーさん)にする。それがこの力だ

 つまり……オレはあの時てめぇに殺されたおとーさんであり、あの時オレを殺したあの雷を纏うおにーさん」

 唇を吊り上げ、雷を纏い、男は告げる

 

 「だからそれは、お前じゃなくて御門讃のものだろう?」

 「ぐがっ!」

 抵抗など無意味。持っていた勇者の刀が弾かれ、奴へと飛んでいく

 

 「そう。これで良いんだ」

 飛んできた刀を左の手に握り、うんうんと奴は頷く

 「ルナぁっ!」

 「ダメだよおにーさん。混乱が治るまで危険だよ?」

 悪意無く、敵意無く。ただただ、少女はそれを良しとして

 

 「これでオレは、御門讃(刀の担い手)で、御門星追(鎌の転生者)で、天笠零路(靴の勇者)な訳だ

 

 単なる御門讃が、勝てるわけねぇだろうがよぉ!どぅーゆーあんだーすたん?」

 怒りに染まった血色の眼で。けれども、その身に怒りは無く

 嘲りの表情(セオ・カイザーフィールド)であり、怒りの姿(みかどさん)。その矛盾を孕んだまま、男は俺に刀を突き付け……

 

 「おらぁっ!『真空波』」

 「っ!風山!」

 振るわれる刀、吹き荒れる風

 空間を薙ぐスキルの発動に、咄嗟に狙われたこの世界唯一の四聖を庇い

 「『キャスリング』」

 俺が使ったこともあるスキル、四聖と入れ替わるソレをもって、庇いに入ったその位置に、奴の姿が現れ

 

 「『残念だったな間抜けぇっ!』」

 「トォォォル・ハンマァァァァッ!」

 持ち出してきた最後の一本、稲妻を放つ手鎚を引き抜いて放る

 「効かねぇんだよ馬鹿がぁぁっ!」

 だが、そもそも俺自身持って雷が来ても普通に耐えれるし、という事で持ち出してきた武器。同じく雷鳴を……俺と同じ復讐の雷霆を纏うクソ親父には通らない

 「んなこと、知ってるんだよ!」

 だが、奴は御門讃であって、俺じゃない。あの雷があるが故に効かないなんて、頭では分かっていても思わず迎撃の構えを取る。俺ならば効かないと切り捨てて突き進む場所で立ち止まる

 欲しかったのは、ただその一瞬

 

 「っらぁっ!」

 駆け抜け、尻尾でまだまだ使うはずの撥ね飛ばされた女神乃剣を回収。どうしていいか分からず、敵でも味方でもない転生者の眼前にまで走り

 「悪いな、借りるぞ。永遠にな」

 奪えない鞭はもう放っておいて、一回死んだタクトが手放さなかった三つの勇者武器のうち、まだ残る一つへと手を伸ばす

 

 捕った!

 「何をするか知らねぇが、無駄なんだよぉ!単なる親不孝がぁっ!」

 「無駄じゃねぇよ、クソ親父」

 最後の一つ、鎚を手に

 っておい、逃げんな。いや分かっちゃいたんだが暴れんなお前!

 「ふん。別の武器を奪おうが、この俺が御門讃なんだよぉ!此方(こっち)来いよぉっ!」

 刀を奪った……いや、一時的に(御門讃)に手を貸していたが故に、セオ(御門讃扱い)の手に戻した力

 だが、俺の手を逃れようとする鎚に変化はない

 当たり前だ。こいつは俺を勇者として欠片も認めていない。原作で言えば、槍の勇者のやり直しって呼ばれていたループ世界において、明らかな転生者が抜けた!やってた時の状態そのもの。逃げ出せないが抵抗している状態

 御門讃のものではない(寧ろ刀が俺のもの判定受けてたのがマジかよ感ある)勇者武器に、御門讃のものを返せと言おうが何一つ意味はない! 

 

 抵抗が激しく強化は不能

 だがスキルは撃てる!充分すぎる!

 「『大震撃』!」

 大地を鎚で叩き、揺らす

 局所的な地震を起こすスキル。大地を揺らし

 「うわっ!」

 バランスを崩すのはタクトくらい。レンとグラスは、あ、レン側はギリギリバランス取れてるくらいか。ルナの奴は……恐らく、魔法だろう。地面から数cm浮かんでいて無効化していて

 「効くわけねぇんだよ!」

 雷を纏い、空を駆ける奴に効果はやはり無い。実際俺にもそうやって無効化されるだろう

 だが、それが目的。てめぇは必ず、空に居る!

 「リベレイション・ボルテック・コイルⅡ!」

 放つのは一つの魔法

 地面の下に雷を放ち、磁力を纏わせる!

 そうだ。だから空を飛ばせた。この瞬間に地上に居なかったもの全ては……磁力を持つ大地という巨大な磁石に引かれ、墜落する!てめぇが勇者武器を持つならば、それは鋼。逃れられると思うな!

 「だから甘いんだよこのクソがぁ!」

 だが、そんなもの普通の理屈

 奴は地面へと転移してそれを無効化し、俺へと迫る

 「『バスターホォォムラン』!」

 だが、そこまでは想定内

 もう一発、スキルで迎え……

 「成程、てめぇの使う魔法はこうか!

 リベレイション・ブリッツクリーク!」

 「がっ!」

 電撃戦。その名のままに俺の手首が切り裂かれ、背後に奴が出現する

 

 「リベレイション・スカイウォーク!」

 「リベレイション・スカイウォーク?」

 空へと足を踏み出すも、完全に動きは同じ。いや、ステータスの分向こうが速いか!向こうの方が詠唱遅かったくせに良くやる!

 「らぁっ!」

 「っ!」

 抵抗はしない。飛び起きるためにわざと蹴りを食らい、地面へと落とされて

 

 「おらおらおら!てめぇまだ何かあんだろ?

 見せてくれよぉ!オレが最新最強の御門讃である為によぉ!」

 何かが、キレた


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