パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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迸る金雷

「「……てめぇぇぇっ!」」

 吠える俺の叫びと奴の声が重なる

 

 「死に晒せよ、クソ息子ぉぉぉぉっ!」

 「ぐっ!」

 雷撃を纏った蹴り。槌で受け止めようとも、それは受けきれずに

 「おわっ」

 どうするか決めかねとりあえずといったようにルナを動かさないように剣を構えて威嚇していたレンを巻き込み、地面に転がる

 

 「ったく、なっさけねぇなぁ、さぁん?

 それでもおとーさんを殺したゴミかよぉ?弱くなったんじゃねぇの?」

 ……煩い

 その通りだ

 ああ、俺は弱い。てめぇを殺せないほどに

 

 蒼白い稲妻の走る髪を輝かせ、その男は悠然と歩みを進める

 「『スターダス……』」

 「黙れオナホール」

 雷鳴一閃。睨み付けただけで迸る稲妻に撃たれ、扇の勇者はその場に立っていられずに崩れ落ちる

 

 ってか、俺よりも覚醒段階高くないか?あの時、眼前のクソ親父の前世を消し飛ばした時ならばまだしも、今の俺って睨んだだけで雷撃とか撃てないぞ?ルナ?ちょっとお兄ちゃんの能力盛ってないか?

 「ダメだよ、おにーさん

 自分の体は労らないと、ルナも怒るよ?」

 「うる、せぇ……」

 視界が歪むなか、レンに手を借りつつ立ち上がる

 

 「なあ、本当に大丈夫なのか」

 「……大丈夫に見えるか?」

 少しだけ、余裕ぶって

 本当はそんなもの、欠片もなくて

 

 眼前の敵はタクトではない。恐らくだが、レベルとしてはタクトより二回りは低いだろう。あって150といったところか

 だが、奴は別の意味でもタクトではない。実質持っている中から1つしか使えていない癖に6つ持っているから6倍強いと思い込んでいたバカじゃあない

 確かに奴は3つの勇者武器そして一つの異能力を同時に扱う存在だ。ついでに言えば、刀は良く分からんが、靴に関しては間違いなく向こうの武器の強化方法がある程度実践されていると見て間違いない。実質正規一人、パチモノ二人+復讐の雷霆のフュージョン体と言って良い

 言ってみれば、原作でタクトと対峙した時の尚文三人分……は言いすぎだろうが、それくらいと見て良い

 勝てるか?バカ言うな、勝てるなら神獣の巣にわざわざ戻り俺に殺されに来た神獣ケツアルカトルに対して防戦一方、吹き飛ばされて絆のところに送ってもらうだけとかそんな情けないネズミ面を晒してるはずないだろ

 現状奴の強さは神獣と同程度。初見のケツアルカトル、或いは神ラフの前に現れたケートスくらいと言って良い。自分達の世界の神であるが故に加減して襲ってくる霊亀や鳳凰、或いは俺に殺されに来ていた巣での白蛇より上

 

 ったく、情けねぇ……

 「なぁ、そろそろ殺して良いだろ、ルナ?

 こいつ」

 靴によって音もなく、気配すらまともに感じる前に俺の前に来ていたクソ親父に蹴り飛ばされ、地面に転がる

 「っ!ネズミを……」

 「っせぇ!犯すぞ、そこの

 いや、貧相な体してるが、悪くねぇじゃねぇか」

 抵抗にレンは剣を振るが、意味なんてない。向こうは勇者3人分だ。抵抗なんて無駄で

 「あぐっ!」

 振った剣は、圧倒的なステータス差によって、首筋に当たったままその首の皮一枚に止められていて

 雷撃によって痺れた手がその軽い剣を取り落としたところを抱き締められ、苦しげな声をあげる

 

 その姿が、怯えた顔が。世界を、人を、全てを恐れたような、その瞳が

 ……何時の日か、引きこもった瑠奈を思い出させ

 

 「情けねぇ……」

 あの日誓った思いが、暴れだす

 「おにーさん?」

 不思議そうな目で、どこまでも俺に敵意を向けない、それゆえに残酷な転生者の白い少女が俺を見上げる

 「俺が……俺が!」

 「ったく、邪魔だっての!」

 レンの体を抱きすくめながら、鬱陶しげに刀を振るって衝撃波を飛ばしてくる

 だが、それは流石に避けられない事はなくて

 

 「貴様を、倒す!!倒さなきゃ、なんねぇんだ!」

 視界の端の車輪が歪む

 未だあの日に至らず、けれども、キールの未来を奪ったと知ったあの時、確かに届いた金雷が、俺を焼く

 

 「ったくよぉ!無駄だってのが、何時までも分からねぇ奴だなぁ、バカ息子ぉ!」

 自分を焼かない雷を纏い、奴は吠える。それは、如何なるリスクも追わず、そこに現出する力。ただ御門讃であると保証されること

 狡いとは思う。チートだとも

 だが!

 

 そんな復讐(なげき)の無い雷が、赦せない心無き怒りが!胸を、体を、己の総てを!焦がさないような誓いが!

 覚醒(しんじつ)に、届くわけがねぇだろうがぁぁぁっ!

 「……な、に」

 手にした槌が弾かれるように手元から離れ、何処かへ消える

 視界の端に走る稲妻の縁。懐かしい、身を焼く後悔と怒りの血の味

 「……返せ」

 奴の眼前に立ち、その腕を締め上げる

 「てめぇのものではない全てを吐き出して、0に還れ」

 まずは抱きすくめたレン。そして……

 「『セブンリーグ』!」

 瞬時、掴んだ腕は消え、靴のちからでもって奴は遠くに姿を現す

 だが、構わない。良いさ、別に

 「ちっ、何だよバカ息子ぉ!

 まだまだ隠し事あるんじゃねぇか!全部吐き出せよぉ!」

 「……レン、無事か」

 掛けられる荒い声をガン無視

 

 「ってか、まだまだ先があるなんてよぉ!」

 金雷。覚醒に近い雷撃すらも、それが御門讃の力であると言うならばコピーする。何故ならば、奴こそ御門讃。ルナがそう言っているのだから

 ……だが、コピーしているのはあくまでも力のみ

 クソ親父の姿が黄金の雷を纏ったものへと変わり

 「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 そして、膝から崩れ落ちた

 

 「て、てめぇ……」

 よろよろと立ち上がろうとする奴の手から、ふっと刀、そして鎌が飛び上がる

 「……何を、しやがった」

 「……何一つ」

 「おにーさんは何にもしてないよ、お兄様?」

 「なん……だと……」

 初めて走る動揺

 その隙を見逃さず、手を伸ばす

 刀を確保しなおし、即座に所有権を手離す

 「野郎、返せ!」

 「悪いな、こいつは御門讃のものじゃない。御門讃のものでないものは、盗れないだろう?」

 「親不孝の、クソがぁぁぁっ!」

 そして、金雷と化し、再び地面に倒れ伏す

 ひょっとして転生してもバカは治らなかったのか、この親父

 

 「てめぇぇぇっ」

 「何をやっている、とっとと総て吐き出せ、クソ親父」

 頬から、腕から、奴に傷つけられた総てから金雷を発しながら、静かに呟く

 

 「復讐の雷霆。それは己を焼く雷。それだけだ。単なる自滅なんだよ、クソ親父」

 「……がはっ」

 金雷を纏ったまま、動けなくなった男が血を吐き出す

 「……どんなズル、してやがる!讃!」

 「……ズル?そんなものはない

 怒りの雷は常に俺を焼いている。赦すものか、と」

 「……ネズ、ミ」

 「ああ、そうだ。許さねぇ。赦す訳がねぇ

 瑠奈を護れなかったゴミを!リファナを護れないかもしれないアホを!

 零路を、(はじめ)ちゃんを!大切な皆を苦しめるモノに気がつかなかった……救えたはずだ!気が付けたはずだ!

 だのに!!救えなかった、御門讃(おれ)を!俺は!赦した事なんてたった一瞬もねぇんだよ!」

 「……てめぇ!?気でも狂ってんのか!」

 「狂ってねぇよ

 俺を焼く雷は俺への怒り。そんなもの、常にこの全身を焼いている。そんなものが、皆の受けた苦しみの1割も痛いものか

 だが、てめぇは御門讃であって、俺じゃない。心を、体を、己への怒りで焼かれ慣れてない。それだけの話だ」

 ……流石に金雷は結構辛いな。血液が全部針にでもなったかのように血管が痛み、体の各所の血管が皮膚ごと破裂し、血を吹き出しては雷に変わって行く

 だがそんなもの、痛くはあっても痛みじゃない

 

 「やっぱり狂ってるんだよ、おかしいんだよ、お前はぁぁっ!」

 「……だから、俺は」

 迸る黄金の雷轟、大地を砕き光へと還す光柱

 「リファナを、リファナが大好きな世界を、皆を!」

 思うまま、言葉が溢れる

 知らないこと。知っていること。だがそれは総て、俺を焼く絶望

 「また護れないかもしれない弱さを!また何時の日か、危機にあれば、それを救えばロマンスもと願うエゴを!助けてという声に伸ばした手が届かない光速(おそ)さを!護りきれないようなマルス()を、赦さねぇ!」

 地面がひび割れ、安全で何もないはずの世界が崩れ行く

 「それが、俺だ!

 御門星追!ルナ・カイザーフィールド!メディア・ピデス・マーキナー!パラストラ・D・ミルギア!

 俺は、お前らを……」

 ……だが、言えたのは其処までで

 

 「ぐっ、がぁぁっ!」

 割れるように痛む頭

 ……別世界では神による転生プロテクトは無意味って言ったの、間違ってた……のか?

 いや、違う

 「……ダメだよ、おにーさん

 おにーさんは、ルナを捨てられないよ?ルナ以外は、言ってもいいけど」

 ……っ、と自嘲する

 

 簡単な話、か

 瑠奈を護りたい御門讃の思いと、ルナを倒さなきゃいけない決意をしようとした俺の乖離が、復讐の雷を呼び覚まし、瑠奈の敵を焼いた。つまり、自滅

 

 「……なっさけねぇ……」

 揺らいだのは一瞬

 だが、その合間に奴は立ち直っていて

 金の光はなく。蒼白い雷に戻れば、小狡いことに奴にはダメージがない。まあ、俺はあの段階でもダメージ入ってるんだが。ってか、そも第一段階で眼が血色に染まる事自体、眼の辺りで雷が走って血管切れて充血してるだけというな……

 怒りで真っ赤に染まる眼は割とかっこ良くてお気に入りだったりするが、原理としては夢も何もない単なるダメージなのだ、あれ

 

 お茶らけた心境でもって、乖離をリセット。金雷を一度消し、身を焼く稲妻を何時もくらいの出力、ぶっちゃけダメージはあるが自然回復で完全無視してる辺り(傷が焼けて火傷になるお陰で早く治って有難いくらいのノリ)まで一度戻し……

 

 「ったく、調子狂わせやがってよぉ」

 俺は女神乃剣を抜き、眼前の刀だけは取り戻したが未だ二つの武器を抱く悪夢と、改めて対峙した


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