パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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覚醒の剣

「……はぁぁぁぁぁぁぁっ!」 

 腕を構え、奴は吠える

 スパークが迸り、マントがその人体から発せられる力を持つオーラによってはためく

 

 だが、奴はそれを使わないだろう。此方が黄金の雷を纏う以上、同じ復讐の雷霆では勝負を仕掛けてこないはずだ

 ならば、放つは靴か鎌か……

 意識を二つに集中し、剣を正眼に構え

 

 「我が裁きにてその愚かなる罪人は行く

 その地の名は阿鼻。あらゆる罪総てより重き父母・阿羅漢(聖者)殺害。罪を犯せし者よ。中劫のこの世総ての責め苦をもって、汝が犯した罪の重さを悔いよ

 鉄の海で我が嘆きをもって産まれし鉤に魂を抉られ、貫く棘に子に殺された父の地獄の底より深く重い悲しみを思い知るが良い!」

 故に、反応が遅れた

 ……カーススキル!?

 いや、だが聞き覚えがない

 だからこそ、何をもって対処すれば良いか分からず

 「ただその前にぶっ殺す!」

 「……ダメだよ、おにーさん。死にたくないよね?」

 それは、敵である、敵だと思わなければならない妹からの忠告。聞く道理はなく

 けれども、ただ、奴のカースの完成を待つ

 「『八獄・無間!無彼岸常受苦悩処(むひがんじょうじゅくのうしょ)』」

 

 ……ん?

 ちょっと待て!俺関係なく無いか!?

 「ふざけてんじゃねぇぇぇっ!」

 赤黒い泥が塗られたように視界が赤黒く染まっていく。これが地獄、良く分からないカーススキルの効果か!

 だが待て!本気で待て!てめぇが言った地獄ってマザーファッカーが落ちる地獄じゃねぇか!愛娘レイパーのてめぇが落ちろクソ親父ぃぃぃぃっ!

 

 煮えたぎる鉄の中に、その体は放り込まれる

 ただひたすらに眼を閉じて、周囲の熱さに焼ける自身を感じとる。鉄の海に煮込まれ、溶けていくだろう己を

 熱い。だが、そもそもだ!雷の方が、余程熱い!精々1500度だか何だかの鉄の海、父にすら裏切られ、一人総てに絶望して命を絶ったあの日の瑠奈の感じた世界の方が、何倍も苦しかったはずだ!

 嘆きは要らない、叫びも無用、迫る俺のヘソから魂を狙う鉤爪など、何するものか!俺は瑠奈の太陽(サン)!俺を焼くならば、6000度(太陽温度)くらい越えてから言え!

 「……あの日、母の人生を凌辱した車を、俺は止められなかった。止められたはずの雷は、この身に眠っていた筈なのに」

 ああ、だからかと思う。母の人生の凌辱を止めなかった。それは母の凌辱に手を貸したも同じ。故に俺はこの地獄に落ちる。母を犯した者が落ちるというカースの地獄に

 

 考えてみれば、当然かもしれない

 

 ……だが

 「……ならば、てめぇも落ちろ、クソ親父!」

 雷轟一喝

 黄金の雷が迸り、世界そのものを打ち砕く。俺のヘソを抉ろうとしていた鉤爪も、周囲の液状の鉄の海も、そして空間そのものすらも雷にひび割れ、色を喪って砕け散る

 

 「……地獄に落ちるのは、てめぇだ」

 「バカな……カースだぞ、カース……

 こんな、簡単に!」

 特に代価を支払ったとも見えぬ男が、呆然と呟く

 にしても相変わらず、非正規勇者……という名の転生者ってクソだな。本来は勇者による裁きだからか、多少性能は落ちる代わりにあいつらカースの代償を何一つ払いやがらねぇ!俺はしっかり……いや割と踏み倒してるが払ってもいるってのにな!

 だけどな!

 「てめぇのカースには何もない

 怒りも!傲慢な独占欲も!欠片もねぇ!

 そんな見せかけの激情に!この怒りが!負けるわけねぇだろうが!」

 「っざけんなよこのクソボケチート野郎がぁぁぁぁぁぁっ!」

 「神のチートに手を出したボケが、ほざくな!」

 「おにーさんも、同じだよね?」

 ……うんまあ、俺も同じく転生者なんで、止めてくれないかなルナ

 

 「……次は何だ」

 花畑はもうない

 あるのは、凸凹の荒野。迸る雷が砕いた、かつて楽園とも呼べたろう大地の残骸

 その地を踏み締め、細かな段差に相手が躓かないかなどの皮算用をしつつ、剣を構える

 

 勇者武器は使えない。所有権を得れば、御門讃のものだからと盗られるのもそうだが、何となく思うのだ

 金雷と併用できない、と

 いや何でだよと言われたら……真面目に何でだろうな?黄金の雷霆だろうと、勇者武器と相反するものではないだろうに

 ……万が一、俺とヘリオスが同一であったりすれば、金雷=神の力であり、勇者とは敵……って考えも成り立たなくはないが、だとしても何か可笑しい

 

 いや、考えても……無意味か!

 

 覚醒しない女神乃剣を振りかぶり

 「はい、そこまでだよ、おにーさん」

 ……総てが止まる

 「ったく、遊びが過ぎるんだよルナ!」

 護るべきものに止まれと云われた体は動かず

 意識すらも、連続性が無く

 気が付いたときには、その首に回し蹴りが当たっていて

 「かふっ……!」

 「ネズミ!」

 防御は不能

 ただ、吹き飛ぶ

 

 「……手も足も出ないか?出せないよなぁ」

 ……その通りだ

 何処まで行っても、俺は御門讃なのだ。ネズミさんであっても

 御門讃は御門瑠奈を護るもの。瑠奈に止まれと言われれば、黄金の雷も鳴りを潜めるしかない。復讐の『雷霆』(アヴェンジブースト)、迸る護れぬ自身を赦せぬ黄金の轟きは、しかし護るべき者へ向けるものではない

 御門讃に、俺に、御門瑠奈は殺せない

 ただそのたった一つの事実を、どれだけ敵だと思おうが、覆せない真実を突きつけられるだけで、何一つ動けない

 

 「……っと、抵抗すんじゃねぇぞ、さぁん」

 「ルナの前で無茶しちゃダメだよ、おにーさん」

 「ぁ、がぐっ!」

 口すらも、金縛りにあったかのように重い

 魔法など、唱えるべくもなく

 遊ばれていたと理解する。当たり前だ。御門瑠奈に、御門讃が勝てる道理なんて最初から無いのだから。戦う相手じゃない、護る相手だ。あの日護れなかった光だ。殺せるわけ、無いだろう

 

 「……さぁて、さんざんおとーさんを苦しめてくれたじゃねぇか。さっきので切り札は終わりか?」

 首筋に当たる冷たい鎌の感触

 普段ならば逃げるだろう。だが、動けない。瑠奈が楽しそうに笑うだけで、足が止められる

 「お兄様、おにーさんは殺しちゃダメだよ」

 「る、なぁぁっ」

 声すらも、上手く形にならず

 総てを吹き飛ばし立て直そうとする雷鳴は動かず。力をある程度制御してあげると付けられた視界の端の車輪は沈黙する

 「ったくよぉ」

 銅像となった俺から離れ、軽薄な男は別へ向かう

 何とか支えあって立ち上がった、この世界の勇者達のもとへ

 てか、何でそんな煤けてる訳?

 あ、雷が噴出して出来た地割れに巻き込まれた……って俺のせいかよ!道理でロクに絡んでこないと思った

 

 「……っ!」

 動け、ねぇ……

 「ネズミ!大丈夫か!」

 そんな声をあげ、剣を地面から拾い上げてレンが駆けて……いや、地面デコボコ過ぎて歩いて来るが

 「戦士さん、ルナを護ってね」

 なんて、転生者の少女が声をかけるや、何処かから取り出した服が……ロングコートが独りでに浮かび上がり、袖に同じく何処かから取り出した剣(ネズ目利き的にみて普通の剣だ。レンが今持ってるのよりは下の、一般的な戦士が持つような)の柄を巻き付け、勝手に戦いだすと対応を余儀なくされる

 ってか、ちょいキツいな。足場が悪くとも、空飛んでるロングコートには関係がないが、レンは体重の掛け方が難しいのか、避けるも受けるもキツそうだ

 

 「ぐふっ!」 

 「キズナ!」

 向こうは、もう終わる

 鎌で扇を止めている間に、勇者の靴が、本来共に戦うべき四聖を蹴り抜く

 勇者の数では2vs1に見えるが、狩猟具は人間に何一つ意味はなく、奴は勇者武器を複数扱っている

 「終わりだな」

 足蹴にした少年勇者の頭に、その輝く靴を乗せて、男は言う

 けれども、ルナに笑かけられた俺は、動けなくて

 

 「武器を差し出せば、命だけは助けてやろうか?」

 「……断る!」

 「ま、要らねぇし許す気なんてなかったがよ」

 その足が、狩猟具の勇者の頭を床に落ちた潰れトマトに変えようと下ろされる、その刹那

 

 「……縁も所縁も無くて

 それでも、戦う。命をかけて……」

 ぽつり、と。レンが呟く

 「多くの勇者が、そうしてきたんだな。ただ、選ばれたから」

 「……護りたい、ものが……あった、から……」

 掠れた声で、何とか言葉を返す

 

 「アーハン?何イッてんの、こいつ」

 興味を引かれたのか、動きが止まる

 「……優しくしてくれた人達がいた。勇者様だからと、何も言わないでくれた人達がいた」

 「……レン?」

 「ネズミ。僕も同じだった。多くのものを喪って。また喪うのが怖くて、ずっと逃げていた」

 すっと、目を臥せる

 そしてまた、レンは目を見開き、手にしていた剣を、ゆっくりと地面に突き刺して

 

 「でも、分かったんだ

 一人だけ、逃げ続けてなんていられない。多くの人が、逃げていないのに!」

 「……なんだぁ?決意だけか」

 「……僕はもう逃げない!だから、来い!」

 そして少女は、空へと手を伸ばす

 

 その瞬間

 空間を切り裂いて、一本の剣が、偽・フレイの剣の姿をした輝きを放つ剣が、レンの手へと飛び込んできて……

 パキン、と音を立て、まだまだ時間があったはずの黄色い砂時計が、バグったように割れて消える

 同時、歪む世界

 視界の端に乱舞する、『四聖勇者の別世界への渡航は禁止されています。介入を強制終了します』の条文

 

 「……信じるよ、ネズミ!

 『神撃の剣Ⅲ』!『セカンドブレード』!『神撃の剣Ⅱ』!」

 「っ!なにぃっ!?」

 レン……お前錬だったのか……っておい待て!?お前剣の勇者天木錬なの!?マジで!?女だったのあいつ!?


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